中国で再び新型コロナ・ウィルス感染者が急増傾向(第三波)にあるさなかの11月10日、20回党大会後初となる中国共産党中央政治局常務委員会が開催され、これまで新型コロナの予防管理の指針となっていた「第9版予防管理方案」(以下「第9版」)に対する「改善」版という位置づけの「20条措置」が打ち出されました(コロナ感染者が出ていない地域では引き続き第9版によって対処する)。その趣旨は、私なりの表現でまとめるとすれば、「動態ゼロ」の大方針は堅持しつつ、新たに費用対効果の視点を取り入れて「贅肉部分」をそぎ落とす形で予防管理の効率性を向上するとともに、経済民生との両立性を高め、また、これまでの厳しい予防管理による生活への影響を和らげることで人々の不満解消にもつなげることにある、と言えると思います。
 以上の私なりの理解について、会議の内容を伝えた公式報道は、①「人口大国で、弱者が多く、地域発展にばらつきがあり、医療資源が総体的に不足している」国情のもとで、「動態ゼロ」の総方針を貫徹し、「コロナ予防管理と経済社会発展を効率的に統括する」ことで「コロナの経済社会発展に対する影響を最大限に減らす」必要性を強調、②具体的には、「(今回の流行原因である)コロナ・ウィルスの感染が速い特徴に対応」し、「戦線拡大と時間消耗を回避」し、「重点地域のコロナ撲滅戦を集中的に行う」ことで「拡大と蔓延を速やかに押さえ込み、正常な生産生活秩序を迅速に回復する」ことを強調、③予防管理に関しては、「防疫工作の効率を高め、コロナのリスクに関する分析の精度を高め、予防管理措置の改善を図る」、と表現しています。
 同日、国務院は20条措置の内容を明らかにしました。その主な内容は以下のとおりです。

○濃厚接触者の管理措置:「7日間の集中隔離+3日間の在宅観察」→「5日間の集中隔離+3日間の在宅隔離」。PCR検査に関しては、集中隔離期間は第1日、第2日、第3日及び第5日に各1回、在宅隔離期間は第1日及び第3日に各1回行う。
○第二次濃厚接触者:濃厚接触者に対する判断の的確化を図ることで、第二次濃厚接触者のカテゴリーを廃止。
○高リスク地区居住者で他地区にいた者:「7日間の集中隔離」→「7日間の在宅隔離」。PCR検査に関しては、第1日、第3日、第5日及び第7日に各1回行う。
○リスク地区:「高・中・低」→「高・低」。高リスク地区:ブロック・ビルを単位とする(原則)。低リスク地区:高リスク地区所在の県(市・区)。高リスク地区において5日間連続で新規感染者が現れない場合は低リスク地区に引き下げ。
○感染者未発生地区:第9版に従う。
○到着便サーキットブレーカー制度:取り消し。搭乗要件:搭乗前48時間以内のPCR検査陰性証明2回を1回に。
○入国者隔離期間:「7日間の集中隔離+3日間の在宅健康観察」→「5日集中隔離+3日在宅隔離」。
○医療資源建設強化。
 私が気になったのは、10月下旬以後にコロナ感染者数がうなぎ登りで増えているなかで20条措置が発表されたことです。具体的には、10月10日に2089人(発症者と無症状者の合計数)と小さなピークを迎えた以後いったん小康状態を保ちましたが、10月24日に再び1000人台の大台(1080人)を記録した後はほぼ一貫して増え続け、10月30日には2699人(8月18日の2678人の記録を更新)、11月6日には5496人(5月5日の4628人の記録を更新)、翌7日には7475人、8日には8176人、10日には1万人台(10535人)、15日には2万人台(20059人)へと一貫して増え続けました。15日から22日までは2万人台で推移してきましたが、24日の発表によると、前日23日の新規感染者数はついに3万人台の大台に乗せ、31573人(発症者3927人+無症状感染者27646人)となりました。ちなみに、中国におけるこれまで(第二波)の1日当たりの最高記録は4月15日の24680人でしたから、現在の状況はこれまでで最悪です。しかも今回の際立った特徴は、新規感染者数が1日で1000人を超す省市が10以上となっており、以前には可能だった他省市からの応援で集中殲滅戦を行うことがもはや不可能な状態になっていることです。
 20条措置の中でも社会的に大きな関心を呼んでいるのは、「中リスク地区」、「第二次濃厚接触者」というカテゴリーを廃止したこと、集中隔離及び在宅隔離の期間が短縮されたことなどです。これらの点について、11月18日付けの人民日報掲載の「資源利用を高め、防疫管理の効率を高める(20条措置問答)」(中国語原題:"充分利用资源 提高防控效率(优化防控二十条措施问答)")がまとまった説明を行っています。これは、国家疾病管理局の常継楽副局長の説明です。なお、中リスク地区の廃止理由については、同地区での陽性検出率が10万分の3であるという説明もあります(11月12日の国家衛生健康委員会・米鋒報道官発言)。
(問) 濃厚接触者について、「7日間の集中隔離+3日間の在宅健康観測」を「5日間の集中隔離+3日間の在宅隔離」に調整した理由如何。
(答) 隔離期間を「5日+3日」とする改善は段階的なプロセスを経たものだ。「新型コロナ・ウィルス予防管理方案」は第1版から第9版までを経て今回の改善版(20条措置)と来ている。元々は「14日」だったが、次の段階には「14日+7日」となり、さらに「7日+3日」を経て、今回の「5日+3日」となった。集中隔離期間が2日少なくなったことで、約30%の隔離資源を節約することができる。同時に、オミクロン株の潜伏最長期間は8日であるので、今回「5日+3日」を採用した。
(問) 第二次濃厚接触者を検査対象から外した理由は?
(答) これまでのデータ解析結果により、第二次濃厚接触者の陽性検出率が極めて低いことが分かったからだ。陽性検出率はおおむね10万分の3.1、すなわち10万人に約3人だ。濃厚接触者に対する陽性判定及び管理を適時に行うことで、第二次濃厚接触者の陽性率を低めることが可能だ。また、この措置によってサービス保障に要する資源を大幅に節約できる。公共政策に関しては、マイナス度を比較権衡して軽い方をとることが求められるのであり、第二次濃厚接触者について検査対象にしないこととした。
(問)  高リスク地区居住者で他地区にいた者に関する「7日集中隔離」を「7日在宅隔離」に変更した理由は?
(答) これまでのデータ解析結果によれば、その陽性検出率はおおむね10万分の4.9であるが、リスク地区指定後7日以内にすべて検出されている。今回の改定は主に対象の管理が容易であることを考慮した、集中隔離資源を節約する趣旨だ。
(問) 閉ループ管理作業を終えた高リスク・ポスト従業者の「7日集中隔離」を「7日在宅健康観察」に変更した理由は?
(答) これも実践及びデータ解析結果に基づくものだ。これらの従業者に関しては、閉ループ管理を厳格に実行する限り陽性率は極めて低く、10万分の1.6に過ぎない。したがって、5日在宅健康観察に調整できる。
(問) これらの調整は防疫管理の緩和ではないのか?
(答) これらの調整にはすべて根拠があり、防疫管理の緩和ではなく、レベル・アップだ。廃止すべきものは廃止するべきであり、現有資源の最適利用によって防疫管理効率を向上させ、コロナ防疫管理と経済社会発展のよりよい両立を図ることができる。
 ちなみに、「在宅隔離」と「在宅健康観察」の区分については、11月23日付けの人民日報WSに載ったWeChat公開アカウントで次のように説明されています。
○「在宅隔離」
(適用対象者) 濃厚接触者で特定区分に属する者;集中隔離解除後の濃厚接触者及び入国者;高リスク地区居住者で他地区にいた者;集中隔離及び医学観察を行うことができない者
(同居者) 外出禁止
(外出制限) 禁止
(居住場所) 相対的独立維持;物品受け渡し用の非接触空間設置
○「在宅健康観察」
(適用対象)  閉ループ管理作業を終えた高リスク・ポスト従業者;退院した感染者;在宅健康観察が必要と判断された者
(同居者) 濃厚接触を避けることを条件に可
(外出制限) 必要以外に外出しないこと
(居住場所) なるべく相対的独立を維持することに努める
 私は素人ながら中国の「動態ゼロ」方針は、新型コロナ・ウィルスという感染しやすい特徴を持つ伝染病に対する「正解」と評価してきました。感染を抑え込むためにはできるだけ手厚いチェック体制を講じることが不可欠であり、そういう意味で第二次濃厚接触者までPCR検査及び隔離の対象とする徹底した対策をとってきたことが、中国におけるコロナ抑え込みの最大の成功要因であると思います。そう考える私の目からすると、限られた資源の有効利用という必要は分かりますが、陽性検出率に基づいて第二次接触者及び中リスク地区のカテゴリーをなくし、高リスク・ポスト従業者の「7日集中隔離」を「7日在宅健康観察」に変更するなどとする、今回の20条措置に対しては危うさを感じてしまいます。例えば、第二次濃厚接触者からの陽性検出率は10万分の3.1で極めて低いといいますが、今感染が急速に広がっている広州、重慶、北京などは1000万人以上の人口を抱えていますから、1000万人では310人という数字になります。もちろん、第二次濃厚接触者が1000万人単位にまで膨れ上がることはあり得ないでしょうが、これまでのチェック体制下では捕捉していた感染者を一定数にせよ野放しにすることになることは否めないのではないでしょうか。
 いずれにせよ、20条措置が正解かどうかは、今回の流行(第三波)を押さえ込むことに成功するか否かによって客観的に回答が出ることになります。引き続き中国の取り組みをフォローしていくつもりです。