バイデン政権は「ルールに基づく国際秩序」(Rules-Based International Order 以下「RBIO」)を盛んに唱えるようになりましたが、その目的は、アメリカが率いる西側が第二次大戦後一貫して仕切ってきた国際秩序のあり方に対して、中国とロシアが正面から「挑戦している」という認識のもと、中ロ両国の西側に対する挑戦をRBIO破りと決めつけることにより、今後もアメリカ以下の西側が国際的指導権を確保することにあります。
 RBIOという用語が西側文件に頻繁に現れるようになったのは2014年以後であるというオーストラリア人学者の分析があります。2014年はウクライナに政変が起こって親西側政権が登場し、ロシア系住民が多いクリミアが「ロシアへの併合」を求める住民投票で勝利したのを受けて、ロシアがロシアに編入した年です。アメリカ以下の西側はこれをRBIOに対する違反としてロシアを厳しく批判しました。ロシアがこれに猛反発したことは公知の事実です。
 また、2021年1月に就任したバイデン政権のブリンケン国務長官とサリヴァン大統領補佐官は4月にアンカレッジで中国の楊潔篪対外弁公室主任と王毅外交部長と会談しました。この会談でアメリカ側が設定した主テーマは、新疆、香港、台湾等に対する中国政府の弾圧がRBIOの根幹に触れると断定して、RBIO遵守(=アメリカ主導の国際秩序に従うこと)を要求することにありました。中国は、このアメリカのアプローチに猛然と反発し、西側のRBIOではなく、国連及び国際法に基づく国際秩序を対置させました。こうして、アンカレッジ会談は国際秩序の中身はどのようであるべきか、そして、その秩序を主導するのは誰であるべきか、という争点を明確にすることとなりました。
 今回の講座では、まず、「ルールに基づく国際秩序」(RBIO)という用語が用いられるようになった国際政治的脈絡を確認し、そのルーツが優れて米西側のものであることを確認します。次に、バイデン政権が中ロ両国を狙い撃ちして多用するRBIOの主張には多くの問題点があることを、当の西側の専門家の文章によりながら明らかにします。その後、中ロ叩きの本心をRBIO違反という主張に置き換えて国際的支持を集めようとする西側の主張に対して、多くの途上諸国が同調しない事実及びその原因を、G20外相会議に出席したEUのボレル上級代表のブログ発言と国際秩序について研究している専門家の文章によって確認します。
 その上で、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環として西側諸国が行った在外ロシア資産凍結問題を取り上げます。特に私が注目しているのは、米西側が凍結資産を「没収」し、それをウクライナ復興建設の資金に振り向けるという、とんでもない話が持ち上がっていることです。財産権の不可侵は、米西側が最重視する自由権の中でももっとも核心をなすものです。それを米西側がいとも軽々と破ってしまおうという議論がまともに行われているというのは、西側がよって立つ資本主義の根幹をも揺るがしかねない事態です。国際秩序どころか、秩序そのものの屋台骨を突き崩しかねない類いの話なのです。私は、米西側は本当に病んでいるとすら思います。この提案はウクライナ当局者から持ち出されたようですが、これだけでもウクライナ・ゼレンスキー政権の資質を疑うに十分なものがあります。ロシアが猛然とかみついていることは当然です。しかも、財産権の不可侵という本質的原理に即して米西側を批判しています。このことをラブロフ外相とロシア外務省のザハロワ報道官の発言で紹介します。
 以上のお話のまとめとして、RBIOを隠れ蓑として中ロ両国との対決に狂奔するバイデン政権を生み出したアメリカ政治に根本的、本質的な劣悪化が進んでいるのではないかという問題を取り上げます。折良く、中国の専門家による納得のいく分析に出会いましたので、その文章の中身を紹介します。もう一つのまとめとして、世界が今直面している諸問題、諸困難の元凶はバイデン政権にあるという私の判断を、IMF等5専門機関首脳の共同声明を紹介しながらお話ししようと思います。
 私が今回のお話で皆さんに考えていただきたいのは、日本国内では「中ロ=悪」「米西側=善」が暗黙の大前提となって国際問題を見るのが当たり前になっていますが、本当にそれでいいのか、ということです。「米西側の世論=世界の世論」と私たちは思ってしまっていますが、世界の大多数派を占める途上諸国は、米西側より中ロ両国の方に軍配を上げているのです。そのことを認識すれば、アメリカの言うままに動くことしか眼中にない岸田政権、自民党政治を安易に支持していていいのか、という問題意識にもつながると思います。
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バイデン政権の「ルールに基づく国際秩序(RBIO)」