(脱パワー・ポリティックスの国際秩序形成を目指す動き)
6月24日に中国の習近平主席がオンラインで主催した「グローバル発展ハイ・レベル対話会」(中国語:'全球发展高层对话会')には、アルジェリア、アルゼンチン、エジプト、インドネシア、イラン、カザクスタン、ロシア、セネガル、南アフリカ、ウズベキスタン、ブラジル計11ヵ国の大統領と、カンボジア、エチオピア、フィジー、インド、マレイシア、及びタイ計6ヵ国の首相が出席し、「新時代グローバル発展パートナーシップ及び2030年持続可能発展アジェンダ」を主題として意見を交換しました。習近平は「質の高いパートナーシップを構築し、グローバル発展の新時代を共創しよう」と題するスピーチを行い、ウィン・ウィンの脱パワー・ポリティックスの立場を前面に押し出し、①発展促進の国際的コンセンサス形成、②発展に有利な国際環境造出、③グローバル発展の原動力育成、④グローバル発展パートナーシップ構築、を呼びかけました。「発展に有利な国際環境造出」を呼びかけた際には、「保護主義は自縄自縛、「小さな仲間作り」は孤立するだけ、制裁は自他共に傷つける、ディカップリングは失敗あるのみ」と述べて、アメリカを強く牽制しました。
(パワー・ポリティックスの国際秩序固守を目指す動き)
 6月29日にスペインで行われたNATO首脳会議で採択された「2022年新戦略概念」は、アメリカ主導のゼロ・サムのパワー・ポリティックスの立場を全面的に展開し、「世界は挑戦され、先が読めない」、「我々が直面する脅威はグローバルで関連し合っている」、「権威主義が我々の利益、価値及び民主的生活を脅かしている」という基本判断の下、「ロシアはもっとも重大で直接的な脅威」、「中国の野心と強圧的政策は我々の利益、安全、価値に挑戦している」、「ルールに基づく国際秩序を損なおうとする中ロ戦略パートナーシップは我々の価値と利益に反する」として、2010年戦略概念では「戦略的パートナーシップ」の相手としていたロシアを再び冷戦当時の「最大の脅威」に戻すと共に、中国を新たに「系統的挑戦」(the systemic challenges)と位置づけました。また、「インド太平洋は欧州大西洋の安全に直接影響がある」として、「地域を越えた挑戦及び共通の安全上の利益に取り組むためにインド太平洋の新旧のパートナーとの対話と協力を強化する」と述べました。日本の岸田首相をはじめとする韓国大統領、オーストラリア及びニュージーランドの首相がNATO拡大首脳会議に出席したのはこの脈絡のもとにおけるものであることは改めて言うまでもありません。
 日本国内では、岸田首相がNATO首脳会議に出席したことを咎める声も起こらず、日本がNATOとの軍事協力を推進し、NATO並みに防衛費をGDP比2%以上にすることに対して疑問視する声もありません。ウクライナを軍事侵攻したプーチン・ロシアを糾弾し、ウクライナと絡めて「台湾有事」を喧伝し、習近平・中国を「脅威」視する官主導の「世論」が支配する日本の危険極まる状況を如実に物語っています。
 しかし、米ソ対立・東西冷戦の産物であるNATOが、ソ連崩壊後はアメリカの世界一極支配の軍事手段として衣替えし、その時々の必要に応じて「戦略概念」を更新しつつ拡大(5回に及ぶ東方拡大。スエーデンとフィンランドの加盟が実現すれば6回目の東方拡大となる)と「軍事的実績」を積み重ねてきた歴史を振り返ってみるならば、岸田政権の対NATOのめり込みが如何に危険な「勇み足」であることが直ちに分かるはずです。NATOの「軍事的実績」としては、1999年に国連安保理を迂回して「人道主義」と銘打って行ったユーゴスラビア空爆を皮切りに、アフガニスタン戦争、イラク戦争、リビア戦争等々が直ちに思い浮かびます。
 NATOの2022年新戦略概念を主導したアメリカは6月29日から8月4日までの日程で、26ヵ国、38隻の艦船、4隻の潜水艦、約170機の航空機、2.5万人以上の人員が参加する環太平洋合同軍事演習(リムパック)を開始しています。NATO諸国はもちろん、今回のNATO首脳会議に参加した日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、QUADを構成しているインド、南シナ海にかかわるブルネイ、インドネシア、マレイシア、フィリピン、シンガポールも参加しています。中国側報道では、日本が軽空母に衣替えした出雲(F-35B離発着可能)を参加させていることに注目しています。今回の訓練では、人道救援等を目的とする20ヵ国以上が参加する大規模訓練のほか、規模は小さいけれども中国に狙いを定めた訓練も行われるといいます。中国側報道では、日本、韓国、オーストラリア等がアメリカと一緒になって中国を仮想的と見なす訓練(上陸作戦やミサイル、対潜水艦、掃海任務などの訓練)を行うことに注目しています。
(平和憲法に引導を引き渡す最後の一線を越える参議院選挙?)
 参議院選挙の投票日まであと一週間になりました。各種世論調査によれば、改憲支持の政党が2/3以上の議席を占める結果予想ばかりです。私自身は、湾岸危機・戦争を契機とした「軍事的国際貢献論」が世論の多数派となっていった1990年代から、「平和憲法危うし」と警鐘を乱打してきました。多勢に無勢で今に至ってしまったことは残念無念という思いでいっぱいです。
 しかし、最近、あるところでお話ししたときに述べたことですが、「神風」が吹く可能性を最後の一瞬まで諦めるべきではないと思います。蒙古軍来襲の時の神風に相当する今日の「神風」とは、内憂外患が雲霞のごとく押し寄せて今や息も絶え絶えの老超大国・アメリカが自ら転ける可能性が日増しに現実味を帯びていることです。冒頭に紹介したように、習近平・中国が主催した「グローバル発展ハイ・レベル対話会」の出席者はAALAを網羅しています。相互依存の不可逆的進行、地球規模の諸問題の山積という21世紀を特徴付ける国際情勢は20世紀的パワー・ポリティックスの「歴史の屑箱行き」を必然としています。習近平が繰り返し提唱する「人類運命共同体」は、好む好まないとにかかわらず、21世紀国際秩序の方向性を示しています。
 したがって、私たちに求められていることは、参議院選挙の結果で一喜一憂しない、いい意味の「ふてぶてしさ」だと思います。もちろん、万が一に改憲派が2/3を占めない結果になったときは美酒に酔いしれてもよろしい。しかし、大方の予想通りの結果になったとしても、また、それで勢いづいた改憲派が9条改憲を強行したとしても、それで「万事休す」ということではないということです。私たちは、「歴史が自らの歩みを誤ることはあり得ない」という弁証法的真実を拳々服膺して21世紀的「神風」が吹くのを信じて、愚直に9条を取り戻す道を歩むのみです。大黒柱(アメリカ)が転ければぼろ屋(自民党政治)も転けます。少なくとも、「太平の眠りを覚ます蒸気船」のたとえよろしく、いかに「お上」に従うことに慣れきった我が「世論」もさすがに長い眠りからは覚めるでしょう。幸いにして、ウィン・ウィンの脱パワー・ポリティックス国際秩序がその時は私たちの目の前に現れているでしょうから、9条を現実の政治に活かす内外条件も満たされているということになります。
今日で齢81才になってしまった私は残念ながらその時を見届けることはできないと覚悟しています。しかし、護憲派の未来が明るいことは確言できます。ということで、とりあえずは、7月10日の投票日まで、皆さんのご奮闘を心から期待しています。