1月19日付の環球時報は、中国における南シナ海問題の第一人者とも言える呉士存(中国南海研究員創設院長、中国-東南アジア南海研究センター理事会主席)署名文章「2022年南海:「穏」を先頭に」(中国語原題:"2022年南海作为继续"稳"字当先")を掲載しました。2022年の南海(南シナ海)情勢予測と中国の取るべき政策を包括的に論じたものです。中国が直面する諸問題を指摘し、それぞれの扱いの難しさについても率直に認めた上で、中国が取るべきアプローチとして「穏」(物事を荒立てない)を旨とするべきことを提唱しています。
「中国の主権(核心的利益)については譲ることはあり得ない、しかし、共同開発・協力開発によって現実的打開を図る」という中国の一貫した立場を確認しつつ、南海沿岸諸国の協力を通じて南海の平和と安定(長治久安)の実現を図るための当面及び中長期の具体策を提起しています。興味深い内容ですので、大要を訳出して紹介します。

 2021年の南海情勢は、中国とASEAN諸国共同の努力によってプラスの変化もあり、'局地的に不安定・全体的に安定'だった。2022年以後の情勢を展望する時、いくつかのマイナス的要素が存在し続けるだろう。中国についていえば、2022年以後も長期にわたって、南海の平和と安定を守り、中国・ASEAN全面的戦略パートナーシップが南海問題によって乱されないことを優先していくべきである。そのためには、中国は伝統的な安全保障能力の建設を強化すると同時に、この海域における中米軍事力の「支配」と「反支配」をめぐる争いが軍事衝突になることを可能な限り回避する必要がある。
 第一、アメリカ・ファクターに適切に対応し、海洋権益擁護力向上と危機管理ルール建設によって南海の平和と安定を確保する。現在中国が南海で直面する安全保障及び周辺安定擁護に係わるチャレンジについていえば、ハード・パワー建設は過去のいずれの時期と比較してもより緊迫し、より必要となっている。QUADとAUKUS、アメリカ・フィリピン・ヴェトナムの南海安全協力の新たな動きに対抗して、中国は海上力の建設を強化し、デタランスを高める必要がある。
 南海におけるトラブル・メーカーは今後もアメリカである。基地使用、前方展開、軍事演習、接近偵察、「航行の自由」行動などの伝統的手段に加え、アメリカは「無人化」「智能化」「空母化」「モジュール化」などの新パラダイムにおいても中国と海上力の争いを進めている。したがって、中国としては、ハード・パワー建設でアメリカ及びその同盟国の軍事的挑戦に対処すると同時に、アメリカとの間で結んだ、海上、空中及び水面下をカバーする、拘束力を持つ軍艦軍機遭遇ルールをも考慮して、南海で日増しに頻繁かつ密集する中米の軍事活動が海空の不測事件を引き起こすことを回避する必要がある。
 第二、中国・フィリピン関係の安定を守り、両国間で南海において起こりうる紛争をコントロールし、外への波及・連鎖を防止する必要がある。近年、両国が関係を調節して発展してきたのは、両国首脳が何度も会談して、「仲裁裁定」を前提としない形で南海問題を処理し、バイの協議で南海紛争を適切に処理することにした共通認識のたまものである。しかし最近では、フィリピンの大統領選挙候補者が「仲裁裁定」に言及し、ほかの政治家も事を荒立てる動きを示している。
 したがって、両国としては今後も引き続き、南海の紛争が両国関係発展の障害となることを防止するべく努力するべきである。相互信頼は協力の基礎であるが、協力なくしては相互の信頼を向上することは期しがたい。特に、中比間の南海問題は短時間では決定的な解決が難しいことに鑑みれば、海上協力を不断に深化させることこそが、相互信頼を高め、両国関係を強固にする賢明な策と言えるだろう。中比両国は、これまでの協力の基礎の上に協力の分野と範囲を拡大し、海上協力におけるさらなる進展ひいてはブレークスルーを追求することにより、相互信頼を増進し、互いの共同利益の紐帯をうち固めるべきである。
 第三、「硬軟結合」方式により、領有権主張国の石油・天然ガス単独開発を「共同開発」または「協力開発」に転換するように誘導ないし強制する。アメリカの南海政策の調整、限定された「南海行為準則」協議期間、「仲裁裁定」のマイナス的影響により、紛争地域で石油・天然ガスを開発しようとする領有権主張国の一方的な動きがあちこちで起こっている。国際エネルギー価格の高騰、石油・天然ガス開発で国内経済発展の要求を満足させたい願望、石油・天然ガス開発で既得権を確保し、海洋の主張を拡大させようとする狙い等の影響を受け、紛争区域における単独開発の動きは今後の南海情勢に影響を及ぼす主要な要素となるだろう。仮に管理及び処理を間違えると、中国と関係する領有権主張国との関係をひっくり返す「引き金」となる可能性もある。
 したがって、領有権主張国の一方的な権利侵犯行為を如何にして抑え、「ドミノ効果」の連鎖反応が起こることを如何にして防止するかは、南海の長治久安及び中国の南海権益擁護に係わってくる。筆者は、新思考、新モデルにより、非紛争区域における「協力開発」あるいは紛争区域における「共同開発」を通じて南海沿岸諸国の海洋エネルギーに対する硬直的主張を和らげることが、一方的開発行動に対処する上で今後相当長期にわたって有効な方法であると提案したい。
 第四、海洋運命共同体の建設を目標とし、「南海行為準則」協議の進捗を保つと同時に、ポスト「準則」時代の南海安全ルール及びメカニズムの建設に着眼する必要がある。中国とASEAN諸国は、「準則」問題について今のところ良好な意思疎通・協議の流れを維持しているが、アメリカのいわれのない干渉妨害、コロナの不確実性、関係国が「準則」に寄せる目標と要求の変化により、協議に参画する関係諸国の意欲はダウンしており、これらの要素によって「準則」協議の道筋は順風満帆とは言いがたくなっている。今日の南海地勢政治パラダイム、当事国の要求の変化、さらには米日英豪等の主要域外諸国の南海政策の変化にしたがい、中国としてはASEAN諸国と共同で「準則」協議に関する新たな時間表及びロード・マップを協議し、制定するべきである。
 「準則」協議はもとより重要だが、南海問題は「準則」誕生によって万事めでたしめでたしとなることは不可能である。海洋環境・資源の持続的発展、伝統的非伝統的分野の挑戦、紛争の最終的解決及び南海の長治久安等々の問題は、「準則」達成ですべて消え去るものではない。したがって、「準則」協議の穏歩前進を図ると同時に、ポスト「準則」時代の南海安全ルール・メカニズムの建設を前向きに着眼し、「海洋運命共同体」建設を総目標とすることにより、「南海環境保護条約」の協議締結及び区域安全システム構築を議事日程に載せ、そうすることを通じて、南海を真に「平和な海、友誼の海、協力の海」に建設していく提案を実現に移していくべきである。