12月22日付の人民日報海外版(6面)は、日本批判の2篇の署名文章を掲載しました。中国共産党機関紙である人民日報としては、岸田政権成立以来ではじめてのことです。一つは人民日報記者・李嘉宝署名文章「日本に求められる隣国との処し方」(中国語:"日本该想清楚如何与邻国相处(观象台)")、もう一つは同じく同紙記者・厳瑜署名文章「警戒すべき日本の頻繁な対中挑発」(中国語:"日本频频对华挑衅值得警惕(环球热点)")です。李嘉宝署名文章には岸田政権に対する名指しはありませんが、厳瑜署名文章は、「最近、日本は意図的に中国問題を取り上げており、対中挑発の意図は明らかだ。岸田文雄は自民党総裁選挙期間中に、「中国に対処すること」は当選後の「主要任務だ」と述べた。首相当選後、岸田は果たせるかな「中国カード」を持ち出した」と指摘して、岸田首相(政権)批判を前面に押し出しています。そして、中国社会科学院日本研究所の孟暁旭研究員及び中国メディア大学国際関係研究所の揚勉教授の発言を紹介する形で、①対日挑発的意味合いが強烈なのは「台湾独立」勢力に対するテコ入れで、中日間の基本合意に対する深刻な違反である、②日本の背信棄義の行為は中日関係に影響せざるを得ない、③過去の侵略の歴史に対する反省がない日本が外部の脅威を宣伝しながら対外軍事力行使を重視しているのは地域の安全のリスクを高める、などと指摘しています。
 12月28日付の中国網は、中央党校国際戦略研究院の于海龍助理研究員署名文章「岸田政権の台湾問題逆行政策の意図」(中国語:"岸田政府在对台事务上采取倒退政策意欲何为?")を掲載し、台湾問題に集中して岸田政権の政策を難詰しています。中国網は国務院新聞弁公室領導下にある「国家重点ニュースWS」(自己紹介)ですし、于海龍の所属する中央党校は党直属です。上記人民日報掲載文章とともに、中国が岸田政権に対する批判姿勢を強めており、岸田政権に対するより強い警告を出すに至ったと判断するべきです。私はこれまでもコラムでたびたび岸田政権の対中政策を警告してきましたが、中国の「形勢観望」の余地はますます狭まっていることが岸田政権に届くことを期待してまたもとりあげることとしました。
 私は中国側報道ではじめて知ったのですが、最近外務省は「台湾調整官」(調整官は課長クラス)のポストを新設したとのことで、于海龍はこの事実を取り上げ、「岸田政権の一連の逆行的動きは中日関係及び東アジア秩序に暗い影を落としている」という書き出しで、要旨次のように論じています。

<岸田政権の台湾政策における新しい特徴>
 岸田政権は、中国の急速な台頭及び中米対立が強まる国際情勢に直面して、政治、経済、国際システム・メカニズム等の分野で台湾に対する支持の度合いを強め、台湾政策で一連の新しい特徴を示している。
 第一、日米「台湾支援連合」の流れが強まっていること。岸田政権成立後、日台交流強化と同時に、台湾問題に対する関心を一段と強め、日米による「台湾支援連合」を追求する流れが強まっている。このことは、安倍晋三、高市早苗等の極右勢力の台湾問題関連発言にも現れているが、日米外相会談等の政府ハイ・レベル対話における台湾問題に関する関心表明にも具現されている。
 第二、日台経済貿易協力のレベル・アップ。自民党と台湾民進党は第2回「外務防衛2+2」会議開催を積極的に計画している。日台双方の経済貿易協力の質的向上は協力内容を高め、岸田文雄等は台湾のCPTTP加入をたびたび公然と支持している。日台経済貿易協力は岸田政権が推進するもとでレベルを高め、政治、安保の面でも台湾を援助するための重要な基礎を提供している。
 第三、世論的支持の強化。岸田政権による世論面での台湾支持は、2つの面で行われている。一つは、日本国内メディア及び政府関係者による台湾問題に関する関心と追跡報道である。例えば、西側諸国の議員の台湾訪問や台湾との「断交」国に対する大きな関心であり、このことは日本国内における台湾問題に対する意識を高め、国内世論が「台湾独立勢力」に対して同情あるいは支持するようにリードしている。もう一つは、西側諸国の国際的発言力を利用する動きである。すなわち、台湾のいわゆる「民主体制」を賞賛し、台湾の国際組織加入を支持しつつ、同時に「中国脅威論」を大々的に宣伝し、中国の東海(東シナ海)等での軍事訓練を「台湾有事」の兆候であると見なし、国際的に台湾を積極的に応援している。
<岸田政権の台湾政策の根源にあるもの>
 岸田政権が台湾問題で取っている逆行的な政策・措置は、中日関係の発展と東アジア地域の平和と安定に対する重大な挑戦であり、中国としてはこれを重視し、国家主権と領土保全を擁護するべきである。岸田政権の台湾政策の根源にある要素は次の3点である。
 第一、日本国内の親台勢力の強まり。日本の保守勢力の間ではもともと親台傾向が強いが、前回の衆議院総選挙後はさらにこの傾向が明確になっている。安倍晋三は最大派閥・清和会のボスとなり、安倍派の岸信夫、高市早苗等は自民党内あるいは内閣で要職に就き、岸田政権に対する影響力を強めた。岸田政権は政権の安定性を図るために親台勢力の要求に応じ、台湾問題に対する関心度を強めることで党内親台勢力及び親台的な国民の支持を獲得しようとしている。
 第二、中国台頭を掣肘し、中国統一プロセスを遅らせること。2010年に中国のGDPが日本を越えてから、日本の政府は一貫して冷戦思考で問題を眺めるようになった。すなわち、中国大陸が両岸を統一すれば、中国が釣魚島(尖閣)及び東海(東シナ海)地域における優位性を強め、中日間の構造的矛盾は増え続けるとして、中国の平和的台頭に対抗する措置を取っている。岸田政権は安倍政権、菅政権の対中政策を継承し、台湾問題で「小細工」を盛んに弄し、そうすることで中国の注意力を散らし、中国の統一プロセスを遅らせようとしている。同時に、中米競争の中で台湾問題の重要性が高まっていることに鑑み、岸田政権は台湾問題に力を入れることで日米同盟の協力を打ち固めようとしている。
 第三に、シー・レーンの安定確保。日本はエネルギー及び資源が不足しており、石油、鉄鉱石などの資源における対外依存が高く、その輸入は主に海に頼っている。台湾は東海と南海の交叉点にあり、日本が中東、東南アジア、太平洋等からエネルギー・資源を輸入する上での重要な通り道であって、戦略的重要性が大きい。シー・レーンの安定確保は日本の海洋政策の重要目標である。両岸統一の時間及び流れが中国大陸に有利になるにつれ、岸田政権としては中国の台湾に対するプレゼンスと影響力の増大が日本の資源的安全保障に悪影響を及ぼすことを恐れている。そのため、岸田政権としては台湾問題に対する介入を強め、両岸統一プロセスを遅らせたいのである。