12月23日の共同通信は、日本政府筋によるものとして、①日米両軍が台湾有事に際して南西諸島上の島に攻撃基地を作る合同作戦計画を作成した、②この計画は来る1月の日米「2+2」閣僚会合で作戦計画として承認される可能性がある、③攻撃基地の設置は、中台軍事紛争が日本の平和と安全を損なうと日本政府が判断する場合に行われる、④有事の最初の段階に米海兵隊が南西諸島の島嶼に一時的な攻撃基地を設け、自衛隊は海兵隊の輸送、弾薬及び燃料の提供の支援を担う、⑤約200の島嶼からなる南西諸島には基地の候補となり得る地域(サイト)が40カ所前後あるが、そのほとんどには住民が暮らしている(自衛隊駐屯地である奄美大島、宮古島、石垣島も候補地に含まれる)、⑥それらの合同作戦計画を作る提案は米インド太平洋司令部が自衛隊に提起した、等の内容を報道しました(以上は、共同通信記事を紹介したジャパン・タイムズによる)。
台湾海峡の緊張増大を背景に、この記事は内外のメディアが一斉に取り上げるところとなりました。ただしネットで検索してみましたが、国内メディアでこの記事を報じたのはジャパン・タイムズのほかは地方紙だけで、朝日新聞と赤旗しか購読していない私がこの記事の存在を最初に知ったのは中国メディアを通じてでした。
 翌24日の共同通信によれば、「沖縄県の玉城デニー知事は24日、防衛省で鬼木誠防衛副大臣と面会した際「台湾の有事で、再び攻撃の目標になることがあってはならないと危惧している。これ以上過剰な基地負担があってはならない」と述べた。沖縄戦を念頭に置いた発言とみられ、住民が戦闘に巻き込まれることに懸念を示した形だ。玉城氏は副大臣に対し、防衛省が計画に関しての詳細を明らかにするよう要求。「政府全体でアジア太平洋地域の緊張緩和と信頼の醸成をしっかりと努めてほしい」と語った」そうです。沖縄県知事としての発言が「沖縄住民の巻き込まれに対する懸念」に重点を置くのはそれなりに理解できます(沖縄県知事の発言として)が、中国側のかねてからの警告(日本がアメリカのお先棒を担ぐようなことがあれば、中国のミサイルは容赦なくその基地を叩き潰す)の深刻性に鑑みると、危機感が薄すぎるのではないかという批判は免れないでしょう。
 その点はさておき、急速に力をつけてきた中国の軍事力(特にミサイル戦力)の前に、台湾海峡有事の際に航空母艦を主力とする米海洋戦力はもはや太刀打ちできないという認識、もっと根本的にいえば、アメリカの伝統的なdeterrence by denial戦略はもはや中国には通用しないという認識は、アメリカ国内では今や広く認められるに至っています。中国軍の台湾侵攻意欲を阻喪させるdeterrenceとしては、日本列島から東南アジアに至る列島弧にミサイル戦力を張り巡らせる以外にないという主張が出てきている所以です。
 共同通信の上記報道はこうした「ミサイルにはミサイルで対抗する」という主張の延長線上にあると思われます。しかし、この主張がdeterrenceとして軍事的に意味を持ちうるためには対中ミサイル網を張り巡らせることが前提になります。したがって、共同通信が報道したとおりのことを日米が本気で考えているとはにわかには信じがたい、というのが私の率直な印象です。なぜならば、南西諸島のどこかの島(あるいは「数カ所」としても)にミサイル基地を設置するというような「生半可」な対応では、中国のミサイルに狙い撃ちされて「一巻の終わり」になるのは目に見えており、軍事的deterrenceにはなり得ません。先般来、安倍晋三氏が盛んに怪気炎を上げている台湾有事関連発言は、おそらくこうした日米の計画をも踏まえてなされているのでしょう。「日米が断固とした対応を示せば、中国はひるむに違いない」と思い込んでいるとしか考えられません。しかし、アメリカ自身が伝統的なdeterrence by denial戦略はもはや中国には通用しないことを認識するに至っている世の中なのです。安倍氏以下の「浮かれている」連中には、「中国をなめるのもほどほどにせい」と言いたくなります。本当に「歴史に学ばない」のにもほどがあるというものです。
 参考までに、12月22日付(ウェブ掲載は21日12時8分)の環球時報社説「ミサイル基地に名を借りた台湾海峡「布石」 日本の白昼夢」(中国語:"借导弹基地"布局"台海,这是日本的黄粱梦")は、石垣島へのミサイル基地建設問題を取り上げて、次のように述べていることを紹介しておきます。

 「(石垣島の前に)日本はすでに南西諸島の他の3つの島、すなわち、奄美大島、沖縄本島そして宮古島にミサイルを配備している。日本が「南西諸島武装化」を鳴り物入りで行っているのは、実際はアメリカがアジア太平洋で推進している「中国抑え込み戦略」の手伝いであり、自分がアメリカに次ぐ「インド太平洋副長官」気取りなのだろう。‥しかし、それは何の役にも立たない。もしも、日本がミサイルを発射する肝っ玉があるとしても、我々にはそのミサイル基地を完全に灰燼に帰せしめるだけの実力がある。
 日本の右翼勢力が火を弄ぶ心理状態に対しては、国際社会は大いに警戒するべきである。日本軍国主義はかつてアジアひいては世界の多くの国々に深刻な災難をもたらした。この12月7日はパール・ハーバー事件80周年の記念日だったが、100名近い日本の議員が14人のA級戦犯を合祀している靖国神社を参拝した。遺憾なことに、このような公然とした行動に対して、アメリカのエスタブリッシュメントは無関心なのか、あるいは日本から戦略的見返りを得ようとしたためなのか、見て見ぬ振りを決め込んだ。
 日本の政治屋連中は台湾海峡に手を突っ込む白昼夢に浮かれているばかりか、日本の民衆をも引きずり込もうとしている。しかし、石垣島のミサイル基地が彼らのその気を現実に変えることは不可能であるし、その夢は粉々に砕け散るガラスのくずに終わるだけだろう。事実は次のことを証明することになるだろう。つまり、中国の確固とした国家意志と強大な反撃能力と比較すれば、中国のミサイル基地に照準を合わせる企みは一撃で潰れ去る張り子の虎にすぎないということだ。」