台湾の蔡英文(総統)は10月28日、CNNのインタビューに答え、訓練を目的とする米軍が台湾にいることをはじめて明言しました。これは米中コミュニケでアメリカが中国に対して行ったコミットメントに明确に違反するものであり、10月29日付の環球時報社説は、「米軍が台湾に駐留できないことがレッド・ラインであることは米台がはっきり認識していることだ」、「米軍が台湾に駐留していることはすなわちボトム・ラインを破ったということであり、台湾海峡戦争を引き起こすもっとも危険な指標の一つである」と断じました。さらに11月3日付の環球時報社説は、中国政府は民進党当局に対する警告の言辞を強めつつ平和統一をなお強調しているが、大陸世論は「打つべし」とする声一色になりつつあることを指摘しています。
 私が11月3日付の環球時報社説に特に注目したのは、激高の度を強める国内世論を強く意識して、戦争の主動権は完全に大陸側にあり、大陸は自らにとってもっとも有利なタイミングでカードを切ることができるのであるから、政府・党中央を信頼して判断を委ねようと、国内世論に冷静な対応を呼びかけていることです。この社説に「すごみ」を感じるのは、米台の「腹の底」(台湾当局は戦争になる事態を背負いきれるはずがなく、内心ビクビクで大陸に対する挑発を重ねている;アメリカも大陸と雌雄を決する戦争に至らない範囲で動こうとしている)を完全に読み切っていること、分かりやすくいえば、"米台はお釈迦様(大陸)の掌の上で暴れる孫悟空"に過ぎないことを国内世論に納得させることに力点を置いていることです。従来「勇ましい主張」の先陣を切ってきた(?)環球時報社説が国内世論にブレーキをかける論調を示したことは、それだけ国内の「主戦論」が無視できないレベルに近づきつつあることを示唆するものだと思われます。
 また、党及び国務院の台湾弁公室の下にある中国台湾網も11月2日付で郭大路署名文章を掲載しましたが、ここでは、「民進党当局が私利に駆られて2300万人の台湾同胞を「反中台独」の戦車に縛り付けようとしている」として、台湾同胞が平和と統一のために立ち上がることを呼びかけました。言ってみれば、環球時報は大陸人民に向け、また、中国台湾網は台湾人民に向けて自覚ある行動を促しているわけです。蔡英文当局及びバイデン政権の、「中国が戦争を仕掛けてくるはずはない」という希望的自己暗示に基づく危険きわまる言動のエスカレーションに歯止めをかけないと、事態はとんでもない方向に向かって突き進んでいくという中国の深刻な危機感・警戒感をひしひしと感じます。
 11月3日環球時報社説と11月2日中国台湾網・郭大路署名文章の要旨は以下のとおりです。ちなみに、郭大路は中国台湾網の代表的論客です。

<環球時報社説「台湾海峡の戦争と平和 メインスイッチは大陸の掌中にあり」>
 台湾海峡情勢の高度な緊張は中米台の三者の複雑な絡み合いによるものであるために不確実性が突出し、誤断が極めて簡単に生まれやすく、ますます関心とスペキュレーションを集めることになっている。台湾海峡戦争が切迫しつつあるかどうか、三者の一定の言動が戦争準備と関係があるかどうかをめぐって、憶測と議論がますます増えつつある。中国大陸においてそうであり、台米においてはさらにそうだ。
 大陸の当局は、一方で不断に民進党当局に対する警告の言辞を強化しつつ、もう一方では引き続き平和統一の旗を高く掲げているが、民間では「打つべし」とする声一色になりつつある。アメリカでは解放軍が数年中に台湾を攻撃するとする声がひっきりなしに唱えられ、民進党当局は慌てふためき、混乱しており、「最後まで戦う」と叫んだり、「蔡英文総統の任期中には何も起こらない」と言い立てたりしている。
 今もっとも危険なことは、台湾海峡地域における政治衝突が絶え間なく激化し、緩和する気配を見届けることができないことである。大陸と民進党当局とは統一と「独立」という根本的対立であり、アメリカと中国大陸とは戦略的敵意が不断にエスカレートしている。政治的矛盾は調和不可能であり、誤断に基づく戦争が最終的に免れない、とする予測が中米台のいずれにおいても高まっている。
 台湾とアメリカにとってもっとも重要なのは冷静と理性であり、強がりと目先の動きに引きずられて自らを政治的誤断、袋小路に追い込まないことだ。
米台が増長する所以は短期的な政治的利益のためであるほかに、国家全体の発展のため、また、戦略的考慮故に、大陸は台湾に武力行使するはずはない、と勝手に思い込んでいることに原因がある。しかし、「台独」路線の終点は間違いなく戦争であり、彼らは大陸のレッド・ラインの周りでタイト・ロープさながらに振る舞っているが、一見大胆至極に見えるけれども実際はビクビクなのだ。
 アメリカが台湾問題を利用するのは中国の台頭をなんとしてでも牽制しようという意図によるものだが、そうする上での彼らの限界線は、台湾海峡戦争を触発せず、自らを中国大陸との生死をかけた戦いに巻き込まないことにある。台湾海峡情勢がエスカレートするに従い、アメリカは避けようともがいても戦争という嵐のただ中に巻き込まれることが避けられなくなるという心配に駆られるに至っている。
 中国大陸にとってもっとも重要なことは定力を保つことだ。原則と統一目標推進というリズムを崩さず、中国全体の国家利益にとってもっとも有利な統一方式とタイミングを正確に判断し、台米が発出する複雑なシグナルや振る舞いに乱されず、彼らに引きずられないことだ。なぜならば、大陸は台湾海峡問題を処理する総合力が急速に成長しており、戦略上の主動権と台湾海峡問題をいかに解決するかの最終的決定権は我が掌中にあるからだ。
 民進党当局はしきりに挑発するが、彼らの最終目標は戦争回避であり、彼らの様々な小手先細工は政権延命のためであり、目的とするところは、島内の支持を固め、中国に対する国際的圧力を動員することによって自分を守ることにある。アメリカの様々な手口は、台湾カードの戦略的効果を高めるという目的のためであり、そのために、一方ではこのカードを極力利用しつつ、他方ではこのカードが自らの落とし穴にならないように懸命になっている。中国大陸の軍事圧力が強まれば強まるほど、アメリカとしては世論及び外交上の闘いに向かい、台湾海峡で中国大陸と正面衝突することを避けようとすることになる。
 台湾海峡の緊張した情勢は多くの誤断を誘発する要素を生み出すが、中国大陸が主動権を握っており、「成算我にあり」なのであって、台米より全局を見通す能力は高い。つまり、中国大陸はどうすれば我が方にもっとも有利であるかに基づいてカードを切ることができる。我々にとって必要なことは、政府を信じ、党中央を信じることであり、中国が軽はずみに戦争をおっぱじめることはないが、情勢がそこまで至った時は必ず戦いに勝利を収めることは間違いないところである。
<郭大路「台湾の前途 両岸統一・民族復興の一筋のみ」>
 G20サミット期間中、王毅外交部長は記者の質問に答え、「台湾の未来に関しては、大陸と統一を実現する以外の前途はない」と述べた。また王毅は、台湾には、中国の一部であるという以外の国際法的な地位はないとも述べた。王毅のこの発言は、台湾島内の「台湾の未来はどこにあるのか」という関心話題に答えたものである。
 大陸は最大限の誠意と努力で平和統一に努力しており、積極的に「一国二制」を模索している。ところが民進党当局は、外部勢力とつるんで両岸対立を作り出し、2300万の台湾住民を「反中謀独」の戦車に縛り付けようとしており、台湾を危険な奈落に推し進めようとしている。民進党当局こそが両岸の平和と安定を破壊する最大の脅威であり、台湾海峡情勢におけるリスクの源である。
 台湾問題が生み出されたのは民族が弱く乱れていたことによるものであり、民族復興に伴って必ず解決されるものである。今日の中国は50年前の中国ではなく、いかなる国家の打撃と圧力をも恐れることはない。王毅が述べたとおり、アメリカは50年前にも一つの中国原則を阻止することができなかったのであり、21世紀の今日においてはなおさら勝手に振る舞うことはできない。仮に一意弧行するのであれば、必ずや代価を支払うことになるだろう。
 自己の利益を優先させるアメリカにとって、台湾は何時でも放り投げることができるコマにしか過ぎない。民進党当局が弄ぶ政治的手練手管は、本当に島内住民の利益と福祉のためなのか、それとも自分たちの私利私欲のためなのか、台湾同胞は自ら判断できるものと信じる。
 我々は、すべての台湾同胞が、自らの眼球を大切にするように平和を大切に思い、人生の幸福を追求するように統一を追求し、祖国の平和統一という正義の事業に積極的に参与することを心から希望している。