6月9日付けの新京報と中央テレビWS及びその前日(8日)の南方日報は、広州市で発生したインド型変異株による同市の集団感染問題についてまとまった報道を行いました。これまでコロナの抑え込みに成功してきたヴェトナム、カンボジアでも、インド型変異株を主な原因とする感染の急拡大に直面しています。これまで徹底した対策を講じることで数々の感染拡大を最小限に抑え込み、感染ゼロを実現してきた中国ですが、これまでのウィルスに比べて「潜伏期間が短い、感染力が強い、有毒負荷(中国語:'載毒量')が高い」という特徴を持つ(5月31日の広州市黎明副市長発言)インド型変異株に対する対応には手こずっている感じです。ただし、これまで中国が積み重ねてきたコロナ対策はインド型変異株に対しても基本的に有効であるという自信は微動もしていません。110人近い(6月7日現在)感染者を出したのは、武漢終息以後でははじめてですが、以上に紹介した3紙は広州市での抑え込みに当局が目安をつけつつあることを伝えています。私は毎日中国側報道をチェックしているのですが、広州市の状況についてこの3紙がまとまった形で報道しているのをまとめることで、コロナ感染問題に対する同市の取り組みを紹介しておこうと思い立ちました。日本の無対策ぶりを映し出す鏡だと思うからです。なお、広州市の所在する広東省では、同市のほかにも深圳市(イギリス型変異株による集団感染)、仏山市等でも集団感染が起こっていますが、ここ数日は感染例の報道もなく、事態は収束に向かっているとみられます。

1.主な事実関係

 広州市では5月21日に最初の感染例が報告されてから、6月7日までの19日間に108人の感染者が報告されています。このうち、発症者は98人(重症者は9人)、無症状感染者は10人です。広州市は6月7日までに全住民を対象としてCPR検査を行い、40人の感染者を割り出しました。特に、6月4日から全市11区で順次全住民を対象として行った検査によって10人の陽性者を発見しています。現在、すべての感染者(無症状を含む)は広州市第8人民医院で隔離治療を受けています。広州市衛生保健委員会は通知を出し、広州市のすべての医院を予約制にし、発熱がないものは予約の上でもよりの医院において、発熱症状がある者は予約の上で発熱外来受付医院において受診するように指示を行っています。また、広州市の15ある中高リスク地区(高リスク地区は2)は封鎖(ロックダウン)され、同地区内の各種公共文化旅遊スポットはすべて営業停止、映画館、劇場、カラオケ、ネット・サービスなどの密の営業スポットも暫時営業停止などの措置が取られています。封鎖地域に対する基本生活物資の供給についても様々な手段を講じています。

2.広州市の取り組みの効果

 広州市衛生保健委員会疾病対処課の李鉄鋼副課長は次のように述べています。
○これまでのところ、疫情は比較的局限されており、最近の新規感染者の出現はこれまでに発生した区域内に局限されている。このことは、これまでの防疫コントロール対策が効果を上げていることを物語る。
○PCR検査の陽性率は低いレベルにとどまっている。このことも、地域的な感染の伝播率が低いこと、広範囲な社会的感染の広がりは起こっていないことを証明する。
○したがって、これからは今回(6月4日以後)のPCR検査結果に基づいて重点実施・分類実施・精準管控により、全市的な取り組みと同時に、特に重点グループ、重点区域を対象にして迅速な感染者発見、迅速かつ果断な措置を行うことで、疫情を既知区域内に抑え込み、ほかの区域への広がりを効果的に抑え込むことが大事になる。

3.感染源調査

 李鉄鋼副課長は次のように紹介しています。
○我々はこれまでの陽性者についてDNA配列を調べてきた。その結果、陽性者すべての類似度は98%以上であった。このことは、すべての陽性者が同一感染チェーンに属することを意味する。
○ただし、感染源の特定までにはまだ厖大かつ詳細な調査が必要となる。

4.今後の感染ケース発生の可能性

 李鉄鋼副所長は次のように紹介しています。
○広州における疫情の特徴は比較的はっきりしており、感染者はこれまでに特定されたいくつかの重点区に局限されている。これまでに封鎖した地域居住の、足止めしている人々に対してこれからも行うPCR検査によってさらに陽性者が出ることはあり得るが、彼らはすべて監視範囲内であり、散発的事例が出ることは不可避である。しかし、これらの区域に対するコントロールは徹底しているので、ほかの区域に感染が広がるリスクは小さいだろう。
○6月4日以後に行われた全市対象の大検査により、1900万人の中から10人の陽性者を発見したが、陽性率全体としては想定範囲内の低さである。このことは広州市における感染率は非常に低いことを説明している。
○陽性検出者全員は荔湾区及び南沙区の重点対象地域在住である。このこともまた、我々の取ってきた対策の正確さを物語る。
○(何回もPCR検査をしているのに相変わらず陽性者が出るのはなぜかという質問に対して)ウィルスが体内に侵入してから検査によって発見されるまでには一定の時間を要する。その時間の長さは人によって様々であり、したがって、PCR検査を何回も行う必要がある。

5.物防+人防+技防

 5月31日に行われた広東省コロナ防疫コントロール領導小組専門家座談会の席上、広東省の李希書記は「物防+人防+技防」システムを構築する必要があると述べました。中共広東省委員会党校の意思決定諮問研究センターの趙超副主任は、6月8日の南方日報(広東省党委員会機関紙)で「「物防+人防+技防」 疫情コントロール保障システムの構築に向けて」と題する文章を発表してその内容を敷衍しました。「物防」とは防疫物資及び生活物資の動員調達の効率を高めること、「人防」とは抗疫にかかわる組織的・全民的動員メカニズム及び各組織間の協調メカニズムを指しています。これら二つについては、「物防」「人防」という表現の中国語表現の独特性は別として、内容的には常識的に理解できることです。しかし、「技防」に関する趙超の説明は中国のコロナ対策の先進性をよく物語っており、日本にはもっとも欠けている要素だと思いました。彼の発言を紹介するゆえんです。なお、私は専門用語にはまったく疎いので、以下の訳には多々間違いがあると思いますが、判読してください。
 コロナ対策においてはデジタル技術の役割が極めて大きい。濃厚接触者の精確な割り出し、追跡、掌握においても、ヘルスコードや動向情報の自動生成においても、もっとも重要な役割を発揮するのはデジタル技術だ。コロナの拡散まん延を抑え込む上で、健全な応急抗疫科学技術保障システムを構築し、新技術力を利用してカギとなるデータを高い効率でまとめることによって、応急物資を精確に投入し、追跡における敏感性と精緻化とを高める必要がある。具体的には以下の3点が重要である。
 健全な応急抗疫のデータ連係システムを構築すること。デジタル技術を利用して異なるシステム間の情報障壁をなくし、全省各市間の情報共有とコミュニケーションそしてコラボレーションを強化し、防疫コントロールのデータ情報の速やかな共有と効率的伝達を推進し、各市がクロスドメインの聯防聯控ネットワークを形成し、ステップ・バイ・ステップで業種、系統、部門をまたいだ応急抗疫共同メカニズムを形成する。応急抗疫共同システムをより所にして、ヒトの追跡、コロナの分析、応急資源の調達等の分野における効率的協働を実現する。
 健全な応急抗疫アラーム及び監測システムを構築すること。コロナのデータの収集、チェック、統計的分析及び更新のシステム化、オート化を実現し、応急抗疫を担う様々な当事者が情報を共有することを確保し、疫情の全プロセスの監測分析を実現し、「タテの病状報告+ヨコの情報共有」システムの形成を推進することにより、疫情に関するアラーム及び監測の向上を実現する。
 健全な応急抗疫のコミュニティ・デジタル化システムを構築する。スマート・コミュニティをより所にして、応急対応のためのグリッドベースのコミュニティ防疫システムを作り、応急防疫の「第一ネット」を構築する。スマート・コミュニティのインテリジェント機器とクラウド、コミュニティWeChatグループ等をより所にして、リアルタイムで疫情動態情報の更新、重要事項の連絡を行い、情報アシンメトリーが地域住民に引き起こす不必要なパニックを取り除く。スマート・コミュニティをより所にし、エレクトロニック・フェンスを利用して濃厚接触者の軌跡を正確に追跡し、データ的に随時警告し、疫情に関する死角、盲点のゼロ化を実現する。同時にやはりスマート・コミュニティをより所にし、より簡便かつより人のためになる公共サービス・システムを作り、主要業務のネット化を基本的に実現して、人々が外出しなくても物事を処理できるようにすることで、人員の流動を減らし、ウィルスの感染経路を遮断する。