6月1日-4日の韓国ハンギョレ日本語WSは、イ・ジェフン統一外交チーム先任記者による朝鮮労働党規約「改正」にかかわる注目すべき論考を立て続けに発表しました。6月1日の「金正恩の「平壌時間」と「我が国家第一主義」、永久分断を夢見るのか」と題する論考では規約「改正」に直接の言及はありませんが、「我が国第一主義」が「2017年11月、「労働新聞」の社説と正論に初めて登場した」とし、その後の経緯を踏まえた上で、「金正恩朝鮮労働党総書記(対外的には国務委員長)は2021年1月5日、労働党第8回大会の演説で、「我が国家第一主義の時代」を公式に宣言した」と指摘しています。
 イ・ジェフンは同日の「北朝鮮、「南朝鮮革命統一論」を削除…韓国の保安法存廃論争にも新たな局面」と題する論考では「北朝鮮が韓国を「革命対象」と明示した朝鮮労働党規約の「北主導革命統一論」関連の文言を、今年1月の党大会で削除していたことが明らかになった」と指摘し、同じく同日の「北朝鮮 ナンバー2の「第1書記」ポスト新設=金正恩氏最側近が就任か」と題する論考も「対北朝鮮消息筋によると、北朝鮮は1月に朝鮮労働党の第8回党大会で党規約を改正し、「党中央委員会全員会議は(中略)第1書記、書記を選挙する」との内容を追加した」と踏み込みました。さらに6月2日の「北朝鮮、後継構図を念頭に「金正恩代理人」新設」と題する論考では、「北朝鮮が今年1月の朝鮮労働党第8回大会で改正した党規約に、事実上の"潜在的後継者"と言える「朝鮮労働党総書記の代理人」条項を新たに設けたことが確認された」と述べるに至りました。私がさらに驚いたのは、同じ日の「新しい朝鮮労働党規約から金日成・金正日・金正恩の名前が消えた」と題する論考で、「1月9日の朝鮮労働党第8回大会で改正された新たな党規約には、金日成や金正日の個人名が一度も登場せず、序文では朝鮮労働党が主語になった内容が増えた」という指摘及びそれが持つ政治的含意に関するイ・ジェフンの分析でした。
 以上の一連の論考の締めとも位置づけられるのが、6月3日の「韓国の元統一部長官「北朝鮮の党規約改正で"金正恩党"完成」…朝日関係への影響は?」と題する記事です。すなわち、「朝鮮労働党研究において韓国国内の最高権威者であるイ・ジョンソク元統一部長官は、今年1月の労働党第8回大会での党規約改正と関連し、政治、南に対する戦略、統治、経済などあらゆる領域で「"金正恩党"の完成の意味を持つ重要な変化があった」と述べた」というのです。容易に想像できるのは、イ・ジェフンはイ・ジョンソクから一連の論考を明らかにしたということです。
 私のような門外漢にとってはすべてが驚天動地の内容です。イ・ジェフンが紹介し、イ・ジョンソンが確認した「○指導の源泉(金日成・金正日主義→金正恩本人)○政治方式(先軍政治→人民大衆第一主義)○南に対する戦略(南朝鮮革命論→一国(北朝鮮)革命論)○統一関連言説(我が民族第一主義→我が国家第一主義)○経済管理方式(代案の事業体系→社会主義企業責任管理制(2019年4月改正憲法を反映)」の諸点が事実であるとすれば、朝鮮内政のみならず南北関係にも重要な戦略的変化の可能性を示唆するものです。
さらに、今回行われたとされる党規約改正では対日関係においても注目される変化が起こっている可能性があります。イ・ジェフンの論考には含まれていませんが、イ・ジョンソンは「従来の党規約の「日本軍国主義の再侵略策動を押しつぶし」という文言が新たな規約から削除された事は、「朝日関係において肯定的なシグナルとして働く可能性がある」と指摘しているのです。
 私は事実関係を確認するすべを持ちませんが、ハンギョレが中途半端ないい加減な報道を行うとは考えにくいことです。長くなりますが紹介するゆえんです。

<[ニュース分析]金正恩の「平壌時間」と「我が国家第一主義」、永久分断を夢見るのか>
登録:2021-06-01 08:42 修正:2021-06-01 10:10
 光復・解放70周年の2015年8月15日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は標準時間をこれまでより30分遅らせ、「平壌時間」と称した。世紀をまたぐ分断のなかでも"同じ時間"を生きていた南と北の時空間が分かれた。
 公式説明は以下のようなものだった。「日本帝国主義者らは標準時間まで奪う犯罪行為を強行した。日帝の百年の罪悪を決算し… 金日成(キム・イルソン)同志と金正日(キム・ジョンイル)同志の不滅の尊名によって輝く白頭山大国の尊厳と威容を永遠に…」(最高人民会議常任委政令第599号、2015年8月5日決議、8月7日発表)
 平壌時間の制定は「日帝の残滓の清算」措置という発表だ。理解できないでもないが、苦しい言い訳だと言わざるを得ない。「社会主義朝鮮の始祖」(金日成主席)と「万古絶世の愛国者」(金正日総書記)の時代にも、北朝鮮は日本と同じ標準時間を使ってきた。二人の「永遠の首領」の抗日意志を問題視するのでなければ、「平壌時間」の制定に「日帝による百年の罪悪の決算」を持ち出すのは説得力に欠ける。
 実際、その影響は、これといった交流のない朝日の間ではなく、南北の間で現れた。南北が共に働いていた開城(ケソン)工業団地では平壌時間の制定後、初勤務日の2015年8月17日(月)に南側人員の境界の出入りや勤務時間の調整など、様々な混乱が後を絶たなかった。当時、朴槿恵(パク・クネ)政権は「北朝鮮が一方的に標準時の変更を発表したことは遺憾」であり、「南北間の異質性がさらに深まることが懸念される」という統一部報道官論評を発表した。しばらくの間、「午後3時の南北会談、なぜ3時30分に開かれたのか」などの皮肉めいた記事が相次いだ。
 平壌時間は993日で歴史の彼方に消えた。2018年4月27日の板門店首脳会談で金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が平壌時間を従来の標準時間に戻すと約束した後、「平壌時間を現在の時間より30分早い時間」に修正し、「主体107(2018)年5月5日から適用する」という「最高人民会議常任委政令第2232号」(2018年4月30日)が発表された。  「労働新聞」は2018年4月30日付の1面記事で、従来の標準時間に戻ったいきさつをこのように報じた。「最高指導者(金正恩)同志は首脳会談の場所に平壌時間とソウル時間を示す時計がそれぞれかかっているのを見て、非常に胸を痛めたとし、北と南の時間から先に統一しようとおっしゃった。 …北と南が一つになるということは、このように互いに異なり、分かれていることを一つに統合していく過程だとし、民族の和解と団結の初の実行措置として、現在朝鮮半島に存在する二つの時間を統一することから始めるという決意を示した」
 金正恩委員長の標準時間の復元措置は「民族の和解団結」と「統一」の意志の表現と主張したのだ。しかし、「朝鮮半島に二つの時間」を作ったのは、ほかでもない金委員長自身だ。
 「平壌時間」は一時の騒ぎではない。そもそも、なぜ金委員長は2015年に標準時間を30分遅らせたのか?この問いの"答え"を見つける過程は、金委員長が構想する朝鮮半島の未来を見極める糸口になるだろう。
 2015年は光復・解放70周年であり、「朝鮮民主主義人民共和国のすべての活動」を「領導」する「朝鮮労働党」(社会主義憲法第11条)創建70周年である。もしかすると、平壌時間を制定した真の理由は「日帝による百年の罪悪の決算」より「偉大なる金日成同志と金正日同志の不滅の尊名によって輝く白頭山大国の尊厳と威容を永遠に」という文言に込められているのかもしれない。南北の著しい国力の差により、北朝鮮主導の統一の現実性がほとんどないという内外の評価を前提とすると、「白頭山大国を永遠に」は統一よりも、北朝鮮が長い間激しく非難してきた「二つの朝鮮」の並立を見据えたということなのかもしれない。
 金正恩朝鮮労働党総書記(対外的には国務委員長)は2021年1月5日、労働党第8回大会の演説で、「我が国家第一主義の時代」を公式に宣言した。金正恩委員長の「我が国家第一主義時代」とは、「国家の尊厳と地位を高めるための決死の闘争の結果として誕生した自尊と繁栄の新時代」だ。
 金正恩委員長の「我が国家第一主義」は金正日総書記の「我が民族第一主義」と劇的な対照を成す。「民族」を「国家」に置き換えたのが重要だ。 民族至上主義に近い北朝鮮の歴史で「国家」を前面に出したのは金日成・金正日時代にはなかった金正恩時代の特徴だ。
 「我が国第一主義」は2017年11月、「労働新聞」の社説と正論に初めて登場した。「自力更生は朝鮮革命の本性」とし「主体鉄」(鉄生産にコークスの代わりに無煙炭と褐炭を使用)と「炭素ハナ化学工業」(石炭化学で石油化学を代替)を強調した「労働新聞」の正論(2017年11月20日2面)が最初で、「国家核武力の完成宣言」の根拠である大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15型」の発射実験を「朝鮮人民の大勝利」とした「労働新聞」1面の社説(2017年11月30日付)が二番目だ。金正恩委員長にとって「自尊」と「繁栄」は「我が国家第一主義時代」の二大軸だが、「核武力」は自尊の基盤であり、主体鉄と炭素ハナ化学工業は主体型・自力更生式繁栄の動力だ。主体鉄と炭素ハナ化学工業は、国連などの高強度制裁により原油、コークスなどの輸入が難しい状況で、自力更生で対処するということだが、専門家の間では「高コストの過度な国産化推進で経済的な非効率性が高く、南北経済協力の標準化の障害要因」(イ・ジョンソク元統一部長官)という懸念の声もあがっている。
 その後、特に言及はなかったが、「我が国家第一主義」の信念化を強調した金正恩委員長の2019年の新年の辞をきっかけに「我が国家第一主義を高く掲げ、社会主義強国の建設を力強く推し進めよう」などという文(2019年1月21日付「労働新聞」1面の社説)が相次いだ。金委員長がドナルド・トランプ米大統領との2回目の首脳会談を控え、「制裁緩和」と対外関係改善の夢に浮かれていた時だ。
 金正恩委員長の「我が国家第一主義」は金正日総書記の「我が民族第一主義」と比較すると、連続と断絶の側面を持っている。「民族」を「国家」に置き換えたのは明白な断絶だ。「民族」には南側も含まれるが、「国家」において、南側は対象外になっている。「我が国家第一主義」は南北の分離を公然と主張しているわけだ。「労働新聞」が「社会主義強国の建設に合わせた国風の確立」を強調し、「国旗や国章、愛国歌を神聖に取り扱うべきだ」と繰り返し注文したのもこのためだ。2020年10月10日の労働党創建75周年記念軍事パレードでは、党の公式行事では初めて「藍紅色共和国旗」の掲揚式が金日成広場で行われた。党(労働党)が国家(朝鮮民主主義人民共和国)を建て、国家のあらゆる活動を「領導」する党・国家体制という自己認識からして、党創建日の国旗掲揚式は明らかに「意味深長なイベント」(韓国政府高官)だ。
 993日間の「平壌時間」と「我が国家第一主義」の強化傾向を重ねてみると、金正恩委員長が夢見る未来の朝鮮半島の青写真が浮かび上がってくる。 金日成主席が長い間敵視してきた「ツーコリア(Two Korea)」の志向だ。これは南北共存の国際的基盤である国連加盟の趣旨に沿った肯定的変化である一方、「統一志向の特殊関係」を約束した南北基本合意書の精神に照らし合わせると「分断の永久化」を示す危険なウィンカーと言える。
 ただし、北朝鮮の「ツーコリア」の志向は金正恩時代だけの現象ではない。2015年の「平壌時間」に先立ち、金日成主席の生誕1912年を基点とした「主体年号」の制定が1997年にあった。金正日総書記の「我が民族第一主義」の「我が民族」とは「金日成民族」(1994年10月16日、『金正日選集18』)であり「偉大なる首領に仕え、偉大な党の指導を受け、偉大な主体思想を指導思想とし、最も優越した社会主義制度に生きる」人々だ(1989年12月28日、『金正日選集13』)。その「我が民族」に南側5400万市民が「私も入れて」と手を挙げる理由はない。「我が首領第一主義」(「労働新聞」2021年4月1日付1面付け論説)であり「金日成・金正日朝鮮第一主義」(「労働新聞」2019年1月21日1面付け社説)を謳った金正恩委員長の「我が国家第一主義」と金正日総書記の「我が民族第一主義」は南北の分離並立、すなわち「ツーコリア」を目指すという点で、根本的には連続したものと言える。
 「近づくにはあまりにも遠いあなた」になろうとする北朝鮮とともに、長い対立と敵対を捨て共存と繁栄を花咲かせ、平和と統一の広い海に進むためには、配慮に富んだ思慮深い戦略的な悩みが切に求められる時だ。
<【独自】北朝鮮、「南朝鮮革命統一論」を削除…韓国の保安法存廃論争にも新たな局面>
登録:2021-06-01 08:57 修正:2021-06-01 10:02
 北朝鮮が韓国を「革命対象」と明示した朝鮮労働党規約の「北主導革命統一論」関連の文言を、今年1月の党大会で削除していたことが明らかになった。
 本紙が5月31日に朝鮮労働党の新しい規約の序文を確認したところ、「朝鮮労働党の当面の目的」として提示していた「全国的な範囲で民族解放民主主義革命の課業を遂行」という文言が削除されていた。朝鮮労働党の新しい規約は、今年開かれた「第8回党大会」5日目の1月9日に修正・採択された内容だ。
 これは、金日成主席が1945年12月17日に「民主基地論」(北は南朝鮮革命と朝鮮半島共産化の前進基地という理論)を提唱して以来、80年近く維持してきた「北主導革命統一論」の事実上の廃棄であり、南北関係の認識の枠組みが根本的に変化したことを意味する。また、労働党規約の「北主導革命統一論」の文言が、韓国では北朝鮮を「反国家団体」とみなす国家保安法存置論の核心的根拠として引用されてきた事情を考えると、韓国社会の国家保安法存廃論争にも重大な影響を及ぼしうる状況変化でもある。
 北朝鮮は新しい党規約を採択し、「朝鮮労働党の当面の目的」を「全国的な範囲で民族解放民主主義革命の課業を遂行」から「全国的な範囲で社会の自主的かつ民主的な発展の実現」に変えただけでなく、「北主導革命統一論」を意味する既存の規約の多くを削除・代替・調整した。
 既存の労働党規約の序文の「朝鮮労働党は、社会の民主化と生存の権利のための南朝鮮人民の闘争を積極的に支持・応援」するという文言がなくなり、「民族の共同繁栄を成し遂げる」という内容が新たに盛り込まれた。労働党規約の本文の「党員の義務」(4条)で「祖国統一を早めるために積極的に闘争しなければならない」という文言は、代替表現なしに削除された。
 労働党規約は、韓国の憲法と同様、絶対的な権威を持つ最上位の規範だ。党が国家を作った「党・国家体制」と自らを認識してきた北朝鮮は、憲法第11条で「朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮労働党の指導の下ですべての活動を進める」と規定し、労働党規約には「人民政権(政府機関)は党と人民大衆を結びつける最も包括的な引伝帯(動力を伝えるベルトの意)」とし、「人民政権が党の指導の下で活動する」と明示している。
 金正恩(キム・ジョンウン)総書記を首班とする朝鮮労働党が「北主導革命統一論」を事実上廃棄した措置の意味は、大きく三つに分けることができる。
 第一に、1990年代初めの「非対称脱冷戦」(韓中・韓ソ国交正常化、朝米・朝日敵視持続)以降、時間が経つにつれて広がる南と北の国力の差により「北主導統一」どころか「体制生存」の模索に集中するしかない状況を念頭に置いた「現実」と「統治イデオロギー」の格差を解消する措置だ。これまでも、北朝鮮は「金正恩後継構図」を初めて公式化した第3次労働党代表者会(2010年9月28日)で、以前の党規約の「南朝鮮で植民地統治清算」という文言を削除し、「民族解放人民民主主義革命」から「人民」を削除し、「南朝鮮革命論」の急進性を緩和するなど、現実とイデオロギーの格差を慎重に狭めてきた。
 特にこのような動きは、金正恩労働党総書記兼国務委員長が2012年の政権獲得後から模索し続けてきた「二つの朝鮮」(Two Korea)志向という朝鮮半島の未来像を、労働党規約という最上位規範に公式に反映し始めたことを意味する。これまで、金正恩総書記は南北間の標準時刻に30分の時差をつける「平壌時間」(2015年8月15日~2018年5月4日)制定による「時空間の分断」の試みや、金日成・金正日の「永遠の両首領」という「民族」言説を「国家」言説に置き換えた「わが国家第一主義時代」の宣言などで、「統一」よりも「国家アイデンティティ」の強化に集中してきた。
 第二に、1991年の南北の国連同時・分離加盟と南北基本合意書の採択、5回の首脳会談などの現実を反映した「共存」への方向転換だ。第一の理由と相接するこのような方向転換は、北朝鮮が今後「統一」よりも「共存」を模索する方向へと対南政策の重心を移す傾向を強化するという展望を生んでいる。
 第三に、北側の労働党規約の「革命統一論」の廃棄が、韓国社会の国家保安法存廃論争に「変化要因」として作用する可能性だ。2000年6月、金正日(キム・ジョンイル)国防委員長は金大中(キム・デジュン)大統領との初の南北首脳会談の際、「国家保安法は一体どうして廃棄しないのですか。我々も南側が提起する昔の党規約と綱領を新しい党大会で改正したいと思います。こうしてお互い一つずつ新しいものに変えていかなければなりません」と述べた。さらに、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領と金正日国防委員長は2007年10月の首脳会談で「南と北は南北関係を相互尊重と信頼関係によって確固たるものに転換させ… 統一志向的に発展させていくために、それぞれ法律的・制度的装置を整備していくことにした」(「10・4首脳宣言」2条)と約束した。これは相手を認めず敵対視する代表的な法と制度である労働党規約と国家保安法の改善・廃棄を念頭に置いた合意だ。
 一方、北朝鮮は「在韓米軍撤退」の主張に関する労働党規約の文言は今回も削除しなかった。「南朝鮮から米帝の侵略武力を追い出して」という既存の文句を「南朝鮮から米帝の侵略武力を撤去させて」に置き換えた。また、「あらゆる外国勢力の支配と干渉を終わらせ、日本軍国主義の再侵略策動をつぶし」という既存の文言を「南朝鮮に対する米国の政治・軍事的支配を終局的に清算し、あらゆる外国勢力の干渉を徹底的に排撃し」に変えた。
<【独自】北朝鮮、後継構図を念頭に「金正恩代理人」新設>
登録:2021-06-02 06:41 修正:2021-06-02 09:05
 北朝鮮が今年1月の朝鮮労働党第8回大会で改正した党規約に、事実上の"潜在的後継者"と言える「朝鮮労働党総書記の代理人」条項を新たに設けたことが確認された。
 1日、本紙の取材によると、朝鮮労働党の新規約は従来の規約にはなかった「党中央委員会第1書記は朝鮮労働党総書記の代理人だ」という文言が新たに加えられた。労働党第8回大会5日目の1月9日に修正・採択された新たな党規約は、労働党中央委員会関連規定の第26条に「党中央委員会は党中央委第1書記、書記を選挙する」という内容と共に、「労働党総書記代理人」規定を新設した。
 「朝鮮民主主義人民共和国のすべての活動を指導する」(北朝鮮憲法第11条)朝鮮労働党のトップである労働党総書記は「白頭血統の3大継承者」である金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長だ。今回新たに作られた「労働党総書記代理人」条項は、ナンバー2を超え、事実上"潜在的後継者"を念頭に置いた条項と見られる。これに先立ち、労働党中央委の機関紙「労働新聞」は1月10日付の2面で改正された労働党規約の内容について報じたが、「党中央委第1書記」を新設したという事実には全く触れなかった。当然、これまでこの肩書きで公に呼ばれた人物もいない。
 労働党総書記の代理人と規定された「党中央委第1書記」は、約70年に及ぶ朝鮮労働党の歴史において前例のないものだ。ただし、金正日(キム・ジョンイル)総書記死去直後の2012年4月11日に開かれた「労働党第4回代表者会」で、金総書記を「永遠な総書記」に推戴し、金正恩現総書記を「労働党第1書記」に推戴したことがある。しかし、これは2016年5月に開かれた第7回党大会の時まで一時的に存在したものだった。推戴の形で任命された当時の「労働党第1書記」と今回新設された選出職の「労働党中央委第1書記」は、さまざまな意味で含意が異なる。
 北朝鮮が「党中央委第1書記=党総書記代理人」制度を設けたにもかかわらず、これまで発表していない事実をどう見るべきか。二つの可能性が考えられる。
 第一に、事実上"潜在的後継者"指名制度とみられるこの条項を、将来を見据えた"予備条項"として設けた可能性だ。この場合、統治制度の安定性を確保するためと見ることができる。第二に、特定人物を「党中央委第1書記」に選出しておきながら、わざと公開していない可能性もある。しかし36歳という金正恩総書記(1984年1月8日生まれ)の年齢や、父親の金正日時代とは異なりできるだけ多くの事項を公開する金正恩時代の"公開主義"の傾向などから、現在としては前者である可能性が高いとみられる。
党第1書記で統治の安全性確保図る…白頭血統でない第3人物の可能性は低い
 ならば、代理人条項は具体的にだれを念頭に置いているのだろうか。2018年2月初め、平昌(ピョンチャン)冬季五輪の際、金総書記の特使として文在寅(ムン・ジェイン)大統領に会って以来、対南・対米など国政の様々な分野で"代理人"の役割を果してきたキム・ヨジョン労働党中央委員会副部長である可能性が高い。
 キム・ヨジョン副部長は公開された公式の肩書に囚われず、権力の中枢で公開的に活動してきた唯一の「白頭血統」だ。白頭血統とは「社会主義朝鮮の始祖」であり、「永遠な首領」と呼ばれる金日成(キム・イルソン)主席から金正日総書記、金正恩総書記につながる家系を指す北朝鮮の用語だ。キム・ヨジョン副部長は2018年以降、特に対外政策分野で金総書記の"代理人"の役割を果たしてきたため、韓国や米国、日本などはキム副部長を「金正恩へとつながる最も正確で速い道」(韓国政府高官)とみている。
 北朝鮮もキム・ヨジョン副部長が"特別な地位"にあることを公然と宣伝してきた。昨年6月、キム・ヨジョン副部長が主導した「対北朝鮮ビラ事態」が代表的だ。キム副部長の「対北朝鮮ビラ非難談話」(6月4日)以降、北朝鮮各地で「決起大会」が相次ぎ、「各界の反響」が「労働新聞」で数日にわたり大々的に報道された。また、キム副部長が「対南事業を総括」し「指示を下した」という内容の統一戦線部報道官談話が「人民の必読メディア」である「労働新聞」2面トップ記事(6月6日付)で掲載された。北朝鮮で特定の人物の談話以後、「決起大会」や「各界の反響」、「指示」などが続くのは特別な事情がない限り、最高指導者に限られる。
 一部では、前回の第8回大会で急浮上したチョ・ヨンウォン党中央委政治局常務委員兼中央軍事委員が「第1書記」に選出された可能性も取り上げられている。2月に開かれた党中央委第2回全員会議で「党中央委と政府の幹部たちを辛らつに批判した」という「労働新聞」の報道(2月11日付)と、3月の第1回市・郡党責任書記講習で「党中央の唯一の指導体系をさらに徹底的に立てることについて」を講義した事実などが、こうした推定の根拠に挙げられる。チョ・ヨンウォン常務委員が事実上"北朝鮮のナンバー2"であり、"金正恩総書記の秘書室長"の役割を果たしていると見られているのだ。
 しかし、労働党を長く研究してきた複数の専門家は、「北朝鮮で最高指導者の代理人はナンバー2というより、白頭血統だけに許された(潜在的)後継者と見るべきだ」と指摘する。これと関連し、これまで北朝鮮に存在した"第1"が付く肩書の歴史は示唆するところがある。金日成主席死去後に限ると、1990~2000年代の「国防委員会第1副委員長」(チョ・ミョンロク)、現在の「国務委員会第1副委員長」(チェ・リョンヘ)などが"権力序列第2位"に当たる。白頭血統でない彼らには"第1"と共に必ず"副"が付けられてきた。"副"の字がついていない肩書は、「白頭血統の3代継承者」である金正恩に付けられた「党第1書記」と「国防委員会第1委員長」(2012年4月13日)の事例が唯一だ。
<【独自】新しい朝鮮労働党規約から金日成・金正日・金正恩の名前が消えた>
登録:2021-06-02 06:39 修正:2021-06-02 10:24
 1月9日の朝鮮労働党第8回大会で改正された新たな党規約には、金日成(キム・イルソン)や金正日(キム・ジョンイル)の個人名が一度も登場せず、序文では朝鮮労働党が主語になった内容が増えた。"個人による統治"から"党中心の制度による統治"へと重心が移動していることを示すものとみられる。
 「朝鮮労働党は偉大なる金日成-金正日主義党だ」で始まる党規約は、5年前の第7回党大会で採択(2016年5月9日)された党規約の冒頭と同じだ。しかし、その次の部分は明確に異なる。これまでの党規約では、「偉大なる金日成同志は」と「偉大なる金正恩同志は」で始まる内容が続く一方、今回改正された規約では、「金日成・金正日主義」で始まる2文目を除き、7文目まで主語がすべて「朝鮮労働党」だ。党規約の総論に当たる序文の前半の主語が金日成・金正日から朝鮮労働党に替わったのだ。第8回党大会以降、金正恩(キム・ジョンウン)労働党総書記時代の統治基調が、"個人"から"システム"へと重心を移す流れを加速化させるという宣言とみられる。
 従来の党規約の2文目は「偉大なる金日成同志は朝鮮労働党の創建者であり、永遠な首領だ」だった。そして「偉大なる金日成同志は」で始まる文の2つの段落がさらに続く。5文目は「偉大なる金正日同志は朝鮮労働党の象徴であり首班である」であり、「偉大なる金正日同志は」で始まる文の2つの段落が続く。
 しかし、今回の新たな党規約は2文目に「金日成・金正日主義」は「主体思想に基づいて完全に体系化された革命と建設の百科全書であり、人民大衆の自主性を実現するための実践闘争の中で、その真理性と生活力が検証された革命的で科学的な思想」という概念規定を新たに追加し、「朝鮮労働党は」で始まる文がその後に続く。
 今回と5年前の新・旧党規約における「金日成」「金正日」「金正恩」3人の最高指導者の名前の登場回数や方式から見ても、非常に意味深長かつ確実な変化を捉えられる。新たな党規約には「偉大なる金日成-金正日主義」や「社会全体の金日成-金正日主義化」という内容(合わせて10回)を除いては一度も金日成・金正日が個別に言及されていない。新たな党規約では、金日成・金正日を"人"ではなく、"思想"(金日成-金正日主義)として取り上げているということだ。金日成が44回、金正日が40回登場した以前の党規約とは明らかに異なる。
 「敬愛する最高指導者」と呼ばれる現職の最高指導者、金正恩労働党総書記の名前は、新たな党規約で一度も明記されていない。以前の党規約では、金正恩総書記を言及した回数が15回だった。「党員は偉大なる金日成同志と金正日同志を永遠の主体の太陽として高く崇め、敬愛する金正恩同志の領導を忠誠をもって仕えていかなければならない」という以前の党規約の「党員の義務」条項(第4条1項)は、新しい党規約において「党員は党中央の領導に絶えず忠実でなければならない」に替わった。「偉大なる金日成同志と金正日同志は…人民の慈愛に満ちた親である」などといった文も削除された。
 しかし、新しい党規約で"人"としての金日成、金正日、金正恩の名前の削除が「金日成-金正日主義」の格下げを意味するわけではない。新しい党規約は「金日成-金正日主義」を「革命と建設の永遠の旗印」だと規定した。「朝鮮労働党が革命と建設を指導する上で指導的指針」という従来の党規約規定より、むしろその意味が強化された。
 変化の核心は"人治"から"党中心の制度による統治"への重心移動だ。金正恩総書記は「首領の神格化」を警戒する発言と政策を示してきた。「首領の革命活動と風貌を神秘化すれば、真実が見えなくなる」という「第2回全国党初級宣伝員大会の参加者に送った書簡」(2019年3月6日)や「簡単に観光地を提供して得をしようとした前任者たちの誤った政策」を批判し、金正日総書記の"遺訓事業"である金剛山観光地区の南側施設物の撤去を指示(「労働新聞」2019年10月23日付1面)した事例がある。以前の党規約に15回登場した「首領」という表現が、新しい規約では8回に減り、一度も明記されたことのない「党中央」という表現が新しい規約には16回も登場するという変化も、このような脈絡から理解できる。
 党大会と道・市・郡党代表会、党細胞書記大会、初級党初期大会を「5年に1度ずつ召集」するよう明文化し、「労働党総書記の委任によって党中央委政治局常務委員会委員は政治局会議を主宰することができる」という条項(28条)を新設したことなども、「党中心の制度による統治の強化」に向けた布石と言える。
<韓国の元統一部長官「北朝鮮の党規約改正で"金正恩党"完成」…朝日関係への影響は?>
登録:2021-06-03 06:08 修正:2021-06-03 08:39
 朝鮮労働党研究において韓国国内の最高権威者であるイ・ジョンソク元統一部長官は、今年1月の労働党第8回大会での党規約改正と関連し、政治、南に対する戦略、統治、経済などあらゆる領域で「"金正恩(キム・ジョンウン)党"の完成の意味を持つ重要な変化があった」と述べた。
 イ元長官(世宗研究所首席研究委員)は2日、統一部担当記者らとのテレビ電話懇談会で「今回の党規約改正で"金正恩党"が完成した」とし、重要な変化を分野別に指摘した。
 例えば、指導の源泉(金日成・金正日主義→金正恩本人)▽政治方式(先軍政治→人民大衆第一主義)▽南に対する戦略(南朝鮮革命論→一国(北朝鮮)革命論)▽統一関連言説(我が民族第一主義→我が国家第一主義)▽経済管理方式(代案の事業体系→社会主義企業責任管理制(2019年4月改正憲法を反映)などを挙げた。
 イ元長官は、労働党第8回大会で採択した新しい規約の主な変化を4つに分けて指摘した。
 第一に「対韓国革命路線および統一関連言説の衰退」である。イ元長官は「党規約の序文の『民族解放民主主義革命』の削除は、単なる文献上の変化を越え、北朝鮮の南に対する戦略の変化をめぐるこれまでの韓国国内の論争に終止符を打つ意味がある」と評価した。同時に「今回の改正は"社会主義北朝鮮"という国家性を強調する『わが国家第一主義』と通じるものがあり、一国主義傾向の深化を意味する」と付け加えた。
 第二に、「先軍政治の消滅と新たな政治方式としての人民大衆第一主義の宣言」である。イ元長官は「新たな党規約から先軍政治を削除し、社会主義基本政治方式として採択された『人民大衆第一主義政治』は、経済建設総力集中路線の根拠」だと説明した。
 第三に、「首領体制の安定性のための制度的措置として(党中央委)第1書記の新設」である。イ元長官は「最高指導者の身の安全と関連した非常事態などを念頭においた首領体制の安全性を確保するための措置」だとし、「ここで代理人は、後継者と後継者までのつなぎの人物までを含む概念とみられる」と述べた。さらに「北朝鮮体制の特性上、最高指導者の代理人は基本的に白頭血統(金日成の直系)に限られる」とし、「キム・ヨジョン労働党中央委員会副部長が有事の際に第1書記に登用される可能性がある」と見通した。
 第四に、「金正恩党の完成と労働党の正統マルクス主義党への部分的な回帰傾向」である。イ元長官は「新たな規約は金日成(キム・イルソン)・金正日(キム・ジョンイル)主義の拘束力を弱め、労働党の最終目的を『社会全体の金日成・金正日主義化』から『共産主義社会の建設』に変えた」と述べた。
 一方、イ元長官は従来の党規約の「日本軍国主義の再侵略策動を押しつぶし」という文言が新たな規約から削除された事は、「朝日関係において肯定的なシグナルとして働く可能性がある」と指摘した。