中国人権研究会は4月9日、「アメリカの対外侵略戦争が引き越した深刻な人道主義災禍」と題する文章(以下「報告」)を発表しました。同会は1993年1月に成立した中国最大の人権問題の学術団体であり、国連経済社会理事会にも名を連ねるNGOです。この報告は、バイデン政権が、新彊で「ジェノサイド」が行われている、香港で人権弾圧が行われている等激しい中国非難を行ってきたことに対する正面からの反論であり、アメリカに他国の人権批判を行う資格はゼロであることを、史実を明らかにすることで論証することを意図して発表されたものです。私のコラムを読んでくださっている方から、この報告をコラムで紹介することを推薦するメールをいただきました。私もコラムで取り上げる候補には入れていたのですが、踏ん切りがつかずにそのままになっていました。この方からメールをいただいた機会に読み返してみて、やはり紹介するべきだと思い立ちました。
 もう一つ皆さんに紹介しようと思い立ったきっかけがありますので紹介します。5月12日、米英独の国連大使が主催し、日本でも影響力を持つ国際NGOである「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」、「アムネスティ・インタナショナル」等が参加して、国連を会場として、中国の新疆における「弾圧」を糾弾する会合が開催されました。同じ日、アメリカのブリンケン国務長官は再び、「中国が新疆でジェノサイドを行っている」「新疆全体が強制収容所になっている」などと中国を激しく批判し、国務省も同日、「2020年国際宗教自由報告」を発表して中国批判を重ねました。まさに「手段を択ばない」中国攻撃であり、バイデン政権は「もはや狂っている」としか思えません。私が同じく許せないのは、そんなバイデン政権に同調する「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」と「アムネスティ・インタナショナル」の見識です。この会合に参加したのはわずか20か国前後、イスラム国家で参加したのはトルコだけであり、国連の人権担当高官も出席しなかったといいます(13日付環球時報社説)。両INGOがまともな常識・判断力を備えているのであれば、「狂」のアメリカに同調することなどありえないはずです。
 私はこれまでもコラムでバイデン政権の対中「狂」の本質はトランプ政権のそれと何ら変わらないという判断を示してきました。しかし、トランプ・ポンペイオの「狂」ははなはだ見やすいのですが、「ソフト」「理性的」な装いを醸し出すバイデン・ブリンケンの「狂」はなかなか見えにくいのです。しかも、明らかに「異質」なトランプ・ポンペイオに辟易させられてきた者にとって、バイデン・ブリンケンは「歓迎するべき同質」の存在という先入主が入ってしまうので、余計に厄介です。そういう先入主を清算し、アメリカという国家及びその支配者の危険な本質を理解するうえで、この報告は一読の価値があると思います。なお、報告は「一 第二次大戦後にアメリカが発動した主要な侵略戦争」「二 アメリカが発動した戦争のひどい結果」「三 人道主義の危機はアメリカの覇権思考に源がある」「付属一 第二次大戦以後のアメリカの対外侵略戦争による一般人死傷等状況」「付属二 第二次大戦以後のアメリカの侵略戦争及び対外干渉一覧表」から構成されていますが、以下では冒頭の紹介部分と一だけを翻訳紹介します。

 アメリカは一貫して自らを「丘の上の街」とみなし、「天賦の人権」を支持し、「天から与えられた使命」を担っているとし、「人道主義的干渉」の旗印を掲げて外に向かって武力を行使してきた。1776年の独立以来の240年以上の歴史の中で、アメリカが戦争に参与しなかった時間は20年足らずである。不完全な統計によれば、第二次大戦終了の1945年から2001年までに、世界153の地域で248回の武力衝突が起こったが、アメリカが発動したのが201回、約81%を占める。アメリカが発動した多くの侵略戦争は単独の行動であり、中には同盟友好国の反対に遭遇したものもある。これらの戦争においては多数の軍人の生命が奪われただけではなく、深刻を極める一般人の死傷及び財産の損失を生み出し、驚くべき人道主義災禍を導いた。アメリカの利己主義と偽善はこれらの対外鑑賞行動を通じて余すところなくあらわになった。

一 第二次大戦後にアメリカが発動した主要な侵略戦争

1.朝鮮戦争

20世紀50年代初に発生した朝鮮戦争は、時間は短かったものの異常に血なまぐさく、300万人以上の一般人が死亡し、加えて300万人以上が難民となった。朝鮮側の統計によれば、戦争は約8700の工場、5000の学校、1000の医院、60万の家庭を破壊し、18歳以下の児童200万人が戦争によって孤児となった。韓国側の損失は412.3億元、当時の公定レートで69億米ドルに上った。戦争期間中に韓国側は60万の住居、46.9%の鉄道、1656の道路、1453の橋が破壊された。それに加え、戦争によって引き起こされた南北分断によって大量の家族離散が引き起こされた。韓国統一部に登記された離散家族を持つ韓国人は約13万人、その中の7.5万人はすでに亡くなっている。アメリカの雑誌『ディプロマット(外交官)』WSの2020年6月25日の報道によれば、2019年11月現在の韓国離散家族の平均年齢は81歳で、1998年以来に再会を申請した133370名中の60%以上がすでに亡くなっており、ほとんどのものは離散以後親族と面会したことがない。

2.ヴェトナム戦争

20世紀の50年代から70年代にかけて起こったヴェトナム戦争は第二次大戦後に起こった戦争の中で一番長くかつ残酷を極める戦争だった。ヴェトナム政府の統計によると、北越兵約110万人、南越兵約30万人が命を落とし、200万人にも及ぶ一般人が戦争で死亡しており、その中には「ヴェトコン撃滅」の名の下で米軍によって計画的に虐殺されたものが含まれる。米軍がヴェトナム、カンボジア、ラオスで投下した爆弾の数量は第二次大戦中に戦争双方が投下した爆弾の3倍を超える。推計によると、ヴェトナムには今もなお少なくとも35万トンの爆発性のある爆弾と地雷が未処理であり、現在の処理速度では今後なお300年かけてやっと処理が終わるとされている。『ハフィントンポスト』WSの2012年12月3日付報道は、1975年に戦争が正式に終了してから戦争による遺留弾薬によって約42000人が命を落としたというヴェトナム政府統計数値を伝えている。このほか、米軍はヴェトナムで2000万ガロン(約7571万リットル)の枯葉剤を散布し、これによって約40万のヴェトナム人が死亡し、約200万人が枯葉剤が原因のがんその他の疾病にかかっている。10数年続いた戦争によって300万人以上の難民が外に逃れ、海を渡ろうとする漂流中に多数の人々が亡くなった。調査対象の難民の92%が枯葉剤による疲労感を訴え、流産や出生異常を訴える者もいる。アメリカの公式データでも、ヴェトナムの20%の森林と20%のマングローブ地帯が枯葉剤によって失われた。

3.湾岸戦争

1991年、アメリカを盟主とする多国籍軍はイラクに出兵し、空爆で2500人~3500人の一般人が死亡し、9000の家屋が壊された。戦争終結後は、インフラ設備の破壊と医療・食料の不足によって約11.1万人の一般人が死亡した。UNICEFの推計によると、戦争及びそのあとの制裁によって約50万人の児童が命を落とした。戦争中に多国籍軍は意図的にイラクのインフラ施設を破壊し、大多数の発電所(92%の発電能力)、製油所(80%の生産能力)、石油化学コンビナート、電信センター(135の電話ネットワークを含む)、橋(100以上)、高速道路、鉄道、放送ステーション、セメント工場及びアルミ、紡織、電線、医薬品を生産する工場が破壊された。さらに湾岸戦争は深刻な環境汚染を生み出し、約6000万バレルの石油が砂漠に流れ出して約4000万トンの土壌が汚染された。また、2400万バレルの石油が油井からあふれ出し、246の「湖」を作り出した。油井の人為的発火によって生み出された煙と粉じんは953万平方キロの土地を汚染した。米軍は湾岸戦争で初めて劣化ウラン弾をも使用した。

4.コソボ戦争

1999年3月、アメリカが率いるNATO軍は「人道主義的災難を回避する」という名目を掲げ、公然と国連安保理を迂回して、ユーゴスラヴィアに対して連続78日に及ぶ空爆を行い、無辜の一般人2000名の生命を失わせ、6000人が負傷し、100万人近くが家を失い、200万人以上が生きる糧を失った。NATO軍はさらに意図的にユーゴスラビアのインフラ施設に対するピンポイント攻撃を行い、その抵抗心を阻喪させた。セルビアの学者の推計によると、空爆による経済的損失総額は約296億ドルである。空爆は、多数の橋、道路、鉄道及び25000戸の家屋、176か所の文化遺跡、69の学校、19の医院、20の保健センターに被害を与え、150万人の児童が通学できなくなった。このほか、NATO軍は少なくとも3.1万発の劣化ウラン弾を使用してがん及び白血病発生率が激増し、現地及び欧州全体の生態環境に対して長期にわたる影響を生み出した。

5.アフガニスタン戦争

2001年10月、アメリカはアフガニスタンに出兵し、アルカイダ及びタリバンを攻撃するとともに、多数の一般人の死傷を生み出した。権威ある統計がないためにアフガニスタン戦争による一般人の死傷数については確たる結論は出ていない。一般的には、2001年10月7日の米軍のアフガン侵攻以来、現地では一般人3万人以上が米軍によって命を落とし、負傷者は6万人を超え、約1100万人が難民になったとされている。2014年に米軍が撤退を宣言した後も、アフガニスタンは相変わらず激動の中にある。『ニューヨークタイムズ』WSの2019年7月30日の報道では、2019年上半期に米軍の爆弾による死亡者が363人確認されている(89人の児童を含む)。カブール大学者の学者の推計によると、アフガニスタン戦争による平均1日当たりの経済的損失は6000万ドル、死傷者は約250人とされる。

6.イラク戦争

2003年、アメリカは国際社会の普遍的反対を顧みず、ありもしない罪名を掲げてイラクに侵入して多数の一般人の犠牲を生み出した。正確な統計は得られないが、推計では20万から25万人とされ、そのうちで米軍による直接の死者は16000人以上である。これに加え、米軍は国際人道主義原則に深刻に違反して数多くの捕虜虐待事件を起こした。アメリカが2011年に撤兵を宣言した後も、戦争と襲撃は絶えることがない。アメリカを盟主とする多国籍軍はさらに大量の劣化ウラン弾、クラスター爆弾、白リン弾を使用し、しかも一般人の被害を減少するための何らの措置も講じていない。国連の推計によれば、イラクでは今日なお約2500万発の地雷その他の爆発する遺留物が残されている。これまでのところ、アメリカは遅々としてアフガニスタン及びイラクから撤兵するという公約を実現できていない。

7.シリア戦争

2017年以来、アメリカは「シリア政府による化学兵器使用阻止」を理由としてシリアに対する空爆を行ってきた。201年から2019年までにシリアで記録された一般人の戦争による死者数は33584人に達する。そのうち、米軍が指導する連合軍による空爆によって直接死亡したのが3833人で、その半数は婦女子である。アメリカの公共テレビネットワークの2018年11月9日の報道によると、アメリカがラッカに対して行ったいわゆる「史上もっとも精確な空爆」によって1600人の一般人が爆死した。FAOの2020年4月の調査によると、シリア人の約1/3が十分な食料がなく、87%が蓄えがない。世界医師組織の推計によれば、シリア戦争開始以来、約1.5万人の医師(全体の半数)が脱出出国し、650万人が国内難民となり、500万人が国外難民となった。
 以上のほか、アメリカは代理戦争支持、国内反乱、暗殺、武器弾薬供与、反政府武装勢力訓練等の直接、間接の手段により他国に対してしきりに干渉を行い、国家社会の安定と人々の安全に対して深刻な被害をもたらしている。この種のアメリカ政府による秘密裏の行動によって引き起こされた破壊と結果に関しては統計を取ることが難しい。