4月25日のタス通信社ニュー・デリー電は、インドにおける新コロナ・ウィルス感染者数が349691人、死者数は2767人を記録したこと、インドでは4月15日以来毎日感染者が20万人を超えていること、過去4日間では314835人(21日)→332730人(22日。新華社は332921人としている)→346786人(23日)→349691人(24日)とうなぎ登りであることなどを紹介し、今のペースが続くと5月には50万人台に達するという専門家の見通しを伝えました。インドにおける感染者数の急増ぶりは、1万人から30万人以上になるのに2ヶ月かからなかった(アメリカのピーク時を上回るスピード)ことに示されているといいます。同じ日の新華社WSは、首都ニュー・デリーでは16061床の酸素吸入器付きのベッド、2877床の重症患者用ベッド、1450台の酸素吸入器が毎日不足するという政府の見通しを伝えました。
同日のイラン放送WSは、モディ首相が「第一波の抑え込みに成功したときは自信があり、意気軒昂だったが、今回の嵐は国中を震撼させた」とラジオ演説の中で述べたことを伝えるとともに、モディ政権が警戒を緩め、大規模な宗教及び政治の集会を認めたことが今回の第4波を招いたという批判がインド国内で起こっていることを紹介しています。また、4月25日付け(WS掲載は前日の24日)環球時報社説は、インドの公共衛生システム及び社会の基層レベルの組織能力が弱いことから、インドが自力で今回の危機的状況を打開することは難しく、国際社会が支援する必要があると指摘しました。
 皮肉を極めることは、米日印豪4カ国(いわゆるクアッド)首脳テレビ会談では、中国の「ワクチン外交」に対抗するため、米日豪の資源・資金力とインドのワクチン生産能力を活かして途上国に対するワクチン外交を展開することを打ち出したのに、今回のインドの危機に際して、インドがワクチン生産に必要な原料の提供をアメリカに要請したのに対して、バイデン政権はこれを拒否したことです。国務省のプライス報道官は「アメリカの最重要事項はアメリカ人が免疫を獲得することだ」と述べ、インド、南アフリカ等がワクチンにかかわる特許の保護を一時的に解除することを呼びかけたことに対しても、バイデン政権は拒否する姿勢をとっているといいます。
 中国外交部の汪文斌報道官は4月22日の定例記者会見で、インドのコロナ情勢が極めて厳しいことに対するコメントを求められ、「コロナは全人類共同の敵であり、国際社会は団結一致で行動して抗疫に当たる必要がある。中国はインドの厳しい状況及び防疫医療物資が不足していることに留意しており、インドに対して必要な支持と援助を提供したいと思っている」と述べました。翌23日の定例記者会見では、この支援についてインド側と意思疎通を行っているかという記者の質問に対して、趙立堅報道官は、「中国政府及び人民はインド政府及び人民の抗疫活動を断固支持しており、インドの必要に即して支持・協力を行いたいと思っており、現在インド側と意思疎通を行っている」と述べました。
 ただし、中印両国の相手側に対する国民感情は決して単純ではないようです。中国側の以上の意思表示に対して、『タイムズ・オブ・インディア』紙は「中国は援助の用意があると意思表示しているが、インドは他の国から酸素(の輸入)を考えている」と題する記事を載せたといい、これに対して中国国内からは、「インドが公共衛生問題にまでイデオロギーを引きずるならば勝手にしろ」という突き放した声が上がっているといいます(24日付けの新華網)。
 4月24日付けの環球時報社説は、インド側に中国に対するこだわりの感情があるのと同じように、中国側にもインドに対するこだわりがあることを率直に認めた上で、上記外交部報道官の見解が中国の主流の態度だと指摘し、「中印双方がこれまでの軋轢をひとまず脇に置いて、緊急に必要とされている抗疫協力を達成することができるかどうかは双方にとっての試練だ」と述べた上で、次のように述べました。

 「一国の対外関係の本質は如何にあるべきか。国家の安全の内容及びその順序は如何にあるべきか。これは考えるに値することだ。今日、国際関係においては地縁政治(的考慮)が圧倒的地位を占めているが、このことは今日の世界が直面している実際の挑戦・課題とは完全にずれている。コロナはこのずれの深刻さを赤裸々に明らかにしており、人類社会は実事求是でこの困難から抜け出す能力が求められている。中印が共同してこの方向に向かって積極に模索する一歩を踏み出せるかどうか、人々は刮目して注目している。」
 また、4月25日付けの環球時報社説は、コロナ対策におけるバイデン政権の「アメリカ第一主義」の利己主義を痛烈に批判しています。この利己主義がもっとも表面化したのはインドにおけるコロナのまん延に際しての、以上に紹介したバイデン政権のインドに対する冷淡を極めた対応だったと指摘した上で、社説はバイデン政権を次のように論難しています。アメリカの集中砲火を浴びている中国のやりきれない気持ちの発露の部分は割り引いて考える必要がありますが、3月16日及び4月4日のコラムで述べたように、バイデン政権のなりふり構わぬ「アメリカ第一主義」はトランプ政権のそれと負けず劣らずのレベルであることを肝に銘ずる必要があると強調するこの社説の「バイデン政権」観は正鵠を射ていると思います。
 「これまでのところ、アメリカは世界の抗疫活動に対してほとんどなんの貢献も行っていない。世界の最先進国でありながら、抗疫面では一敗地にまみれた。マスク、呼吸器など昨年世界的に不足した物資については、アメリカはクレージーなまでの輸入国だった。
 アメリカ優先は乱暴な原則だが、アメリカでは超党派の行動指針になっている。トランプ政権はそう動き、そう口にした。バイデン政権は「口にしないで動く」部類だ。このような利己主義は今やアメリカ式民主体制下の「正論」になっている。
 世界はアメリカの勝手気ままを許しておくことはできない。アメリカがワクチンを一定の比率で途上国と分け合うことを拒否するのであれば、世界は声を合わせてこれを非難すべきであり、ワシントンが頭を上げられないほどに罵り倒すべきである。ところが今日に至るまで、ワシントンは傲慢にも世界の道徳的リーダー然としており、中国とロシアがワクチンを世界と分け合っているのを「ワクチン外交」と非難している。完全に黒白が逆転させられている始末だ。
 アメリカが増長する原因は各国の国家安全保障観に対するアメリカのミスリードとその乗っ取りによるものだ。本来であれば、世界は平和と発展の時代にあるのだが、アメリカのエスタブリッシュメントは地縁政治的安全に対する各国の不安感をあおり立てることに成功している。そして、地縁政治における資源ではアメリカがダントツである。ここ数年における各国の安全に対する最大の衝撃はコロナであるのに、多くの国々は地縁政治に迷い込んでアメリカに羽交い締めにされ、コロナをめぐるアメリカの乱行悪事の限りを許してしまっている。  インドはこうしたアメリカの犠牲者だ。インド経済はコロナ以前からあまり調子がよくなかったが、インドの対中関係はアメリカの布石の深刻な影響を受け、インドのワクチンの対外援助も中国に狙いを定めることとなった。ところが、インドは突如として世界のコロナの震源地となってしまい、単独では対応しきれないのに、アメリカの支持は来ず中国の支持も「素直には受け取れない」という窮地に陥っている。
 以上を要するに、アメリカは近年世界全体に災いをもたらし、経済、安全から抗疫に至る振る舞いは到底責任ある大国とは言えず、ましてや「世界のリーダー」を自称するなどとんでもないことだ。ところがアメリカは、いかなるときも「道徳高地」に立って号令を発し続けなければ気が済まないのだ。世界全部がアメリカのわがままを許してしまってきたと言うほかなく、これは、インドなどを含めた我々の「自業自得」と言わざるを得ない。」