福島第一原発事故による放射性汚染問題については、昨年(2020年)3月11日のコラムでグリーン・ピース・ジャパンの報告書を紹介したことがありますが、今回、日本政府が汚染水の海洋放出を決定したことに対しては、海洋放出の危険性を否定する菅政権の「強弁」に対して様々な問題点指摘が行われるとともに、韓国、中国、朝鮮、ロシア、フィリピン、太平洋島嶼フォーラムなどから反対・懸念が表明され、国際原子力機関(IAEA)も調査団派遣の意向を表明するなど、国際的関心が高まっています。
私は門外漢で自らの判断を示す能力はありませんが、国外の関心の高まりにもかかわらず、国内では、福島県、漁業関係者、環境団体などによる批判はあっても、国内的に関心が共有されるには至っていない状況があることに対しては重大な懸念を抱かざるを得ません。国内世論の関心が「低調」である原因としてはマス・メディアの報道姿勢に大きな原因があると思います。その一つは、福島第一原発からの放射能漏れ及び今回の汚染水海洋放出に対する批判を「風評被害」とレッテルを貼ることにより、危険性を指摘する発言があたかも「根拠がない主張である」と批判的に描き出す姿勢です。もう一つは、関連するのですが、福島県及び近隣諸県の農水産物の安全性を強調する政府のキャンペーンを忖度する権力に迎合する姿勢です。
後者について指摘しなければならないのは、例えば、後で紹介するハンギョレの記事に出てくる「日本の厚生労働省が昨年の日本全域の農畜水産物13万9731件のセシウム(CS-134、CS-137)の数値を検査した結果を分析した資料」(浅井注:ネットで検索したところ、厚生労働省が昨年12月24日付けで、「食品中の放射性物質の調査結果(令和2年2~3月調査分)」を報道機関に対して出しています)においても、福島県を含む8県の農水産物のセシウム検出率が日本国内の他地域に比べてはるかに高いという指摘があることです。この資料を報道機関に紹介する前文において、厚労省は「調査の結果、食品中の放射性セシウムから、人が1年間に受ける放射線量は、0.0005~0.0014ミリシーベルト/年と推定され、これは現行基準値の設定根拠である年間上限線量1ミリシーベルト/年の0.1%程度であり、極めて小さいことが確かめられました」としていますが、同時に、「参考: 東京電力福島第一原発の事故に由来して、食品中の放射性物質から長期的に受ける線量の大半は、放射性セシウムによるものとされています」とも付記しています。こういう発表の仕方も不明朗であり、日本政府の「安全性強調」をそのまま鵜呑みすることはできないと素人ながらに思います。
 むしろ日本のマス・メディアに求めたいのは、政府(大本営)発表をそのまま垂れ流すのではなく、韓国の環境団体の検証のように、独自の立場で政府資料を読み込む努力であり、その結果を読者に知らせる努力です。また、福島県等の農水産業者に関しては、農水産物に放射能汚染の危険性がある限り、十分な補償を講じて生活権を保障するのが本筋であることを銘記し、政府に対して毅然とした報道姿勢を堅持するべきであると思います。
 以下では、汚染水海洋放出の危険性に関する報道及び関係国の立場表明について紹介します。

1.汚染水海洋放出の危険性

○3月18日付けハンギョレ・日本語WS記事(「福島含む8県の水産物の9.2%からセシウム…検出率は他地域の11倍」)

 「韓国政府が輸入を禁止している日本の福島県を含む8県の水産物の9.2%から、放射性物質であるセシウムが検出されたことが分かった。これは日本国内の他地域の11倍にのぼる数値だ。環境団体は、「福島一帯の水産物輸入を求める日本政府の要求を、韓国政府は受け入れてはならない」と強調した。
 環境運動連合と市民放射能監視センターは17日、ソウル鍾路区(チョンノグ)の環境運動連合エンジュの木ホールで記者会見を開き、「2020年日本産農畜水産物の放射能汚染の実態分析報告書」を公開した。これは、日本の厚生労働省が昨年の日本全域の農畜水産物13万9731件のセシウム(CS-134、CS-137)の数値を検査した結果を分析した資料だ。
 この報告書によると、福島県を含む8県のセシウム検出率は、それ以外の地域より11倍高い。福島、千葉、茨城、栃木、群馬、宮城、岩手、青森の各県で水産物1万582件を検査した結果、全体の9.2%に当たる987件からセシウムが検出された。他地域では全494件中、セシウムが検出されたのは0.8%に当たる4件。特に群馬県のイワナは、404件中65.3%に当たる264件から、日本政府の流通許容基準値である1キログラム当たり100ベクレルを上回る140ベクレル/キログラムのセシウムが検出された。千葉県のスズキも、200件中54件(27%)からセシウムが検出され、最大値は83ベクレル/キログラムだった。福島県のヤマメは383件中169件(44.1%)からセシウムが検出された。最大値は76ベクレル/キログラム。千葉県のウナギは94件中15件(16%)からセシウムが検出され、最大値は63ベクレル/キログラム。水産物の輸入禁止対象でない地域では、埼玉県のフナ属が2件中1件から7.3ベクレル/キログラム、ナマズが7件中1件から5.8ベクレル/キログラムのセシウムが検出された。
 福島県とその周辺地域の農畜産物、野生動物、加工食品もセシウム検出率が他地域より顕著に高かった。セシウム検出率は福島県を含む8県の農産物が18%、その他の地域が12%だった。宮城県のコウタケからは、基準値の17倍の1キロ当たり1700ベクレルのセシウムが検出された。野生動物のセシウム検出率は、福島県を含む8県は51.2%、その他の地域は10.6%。福島県のイノシシからは、基準値の50倍の1キロ当たり5000ベクレルが検出された。環境運動連合エネルギー気候局のアン・ジェフン局長は、これについて「最上位の捕食者であるイノシシのセシウム数値が高いのは、周辺環境そのものが放射能に汚染されているということを示す」と説明した。
 さらに、昨年のセシウム検査件数は2019年に比べて37%ほどに減少したものの、検出率に大きな差はなかった。母集団を増やせば、より多くの食品からセシウムが検出されうる、との推論も可能だ。このため、福島一帯の食品の安全性は改善されていないというのが環境団体の主張だ。アン局長は「総検査件数は2019年の37万6696件から、昨年は13万9731件へと大きく減っているが、検出件数は2019年が6946件、昨年が5001件で、大きくは減っていない」とし「水産物では、セシウム検出率が小幅に上昇している」と説明した。
 このため環境諸団体は、韓国は福島を含む8県の農水産物の輸入禁止措置を解除すべきだと主張する日本政府の要求を批判し、輸入禁止措置を維持すべきだと強調した。11日、日本の茂木敏充外相は東日本大震災10年を迎えて発表した談話で「震災後10年を経てもなお日本産食品の輸入を規制する国や地域があることは大変残念」とし「科学的根拠に基づき、一日も早い規制撤廃を実現すべく、全力を尽くす」と述べ、物議を醸した。韓国政府は、2011年3月と2013年9月に福島周辺地域の水産物に対する輸入禁止などの臨時特別措置を取り、この措置が現在まで維持されている。」
○4月14日付け中国中央テレビ局WS報道
清華大学環境学院王毅教授:「日本政府が公表した放射性物質・トリチウム以外の物質はあるのかないのか、特にα放射性核種がカギであり、そのデータは正確に明らかにされなければならない。しかし、日本が明らかにしたデータは透明性が十分ではなく、利害関係国すべてと緊密な意思疎通が必要だ。また、トリチウムの濃度はまだ高すぎる。海洋に放出すれば希釈され、放射性は低まるだろうが、日本の最善策としては30年から50年貯蔵し、その後で放出する方が安全だろう。また、過去10年間の貯水量が137万立方メートルであるとするメディア報道に基づけば、さらに10年間貯蔵しても増えるのは137万立方メートル以下のはずであり、日本には十分な貯蔵能力がある。したがって、現在やろうとしていることは無責任極まりない。」
○4月14日付け解放軍報所掲の徐永智(中国現代国際関係研究院東北アジア研究所)署名文章
 「日本政府のやり方・立場は1990年代に起こった類似事件における日本の態度及び核事故後の国際社会に対するコミットに完全に背くものであり、典型的な二重基準だ。
 1993年にロシアは日本海に1000トン以上の核汚染水を流したことがあるが、その放射能は福島の汚染水の1/10だった。当時、日本政府は「国民の放射能に対する敏感」を理由に「海洋に低放射性汚染物を排出すること」に猛烈に反対し、G7各国と連合してロシアに処分撤回を強力に迫った。類似の行為が再び起こることを防止するため、日本はほかの国々と共にロンドン・ダンピング条約1996年議定書を成立させた。この議定書は、「廃棄物が生み出す影響との確実な因果関係がないとしても、危害をもたらす疑いがある限り、その物質を海洋に投棄することを禁止すべきである」と規定する。ところが今日、日本が自慢した上記事件については都合よく忘れられている。
 2011年の福島第一原発事故の後、日本政府は上記ダンピング条約の締約国会議で国際社会に対し、「海洋に流れ出す放射性物質を最小限度に抑える」方法を研究することを約束した。しかるに東京電力は事実を隠蔽してきており、汚染水に関する事実関係は解明されるべき状況にある。」
○4月14日付けハンギョレ・日本語WS記事「米国、日本の汚染水海洋放出決定を支持…国際基準の"抜け道"が浮き彫りに」
 「国際安全基準に合致するという米国の発表(浅井注:後述参照)は事実だが、実情は国際社会の基準が曖昧すぎるという指摘もある。日本はこうした"抜け道"を積極的に利用しているわけだ。
 三重水素(トリチウム)は人体内に入ると被ばくを起こす可能性があるが、浄化設備では除去できない。しかし、国際的に共通の排出基準がなく、国ごとに基準が異なる。米国と韓国がそれぞれ1リットル当たり放射線量3万7000ベクレル(放射性物質の1秒当たり崩壊回数の単位)と4万ベクレルを基準にしている一方、日本は6万ベクレルで、比較的高い。日本は今回、海水を混ぜてトリチウムの放射線量を基準より40分の1(1500ベクレル)未満に薄めて放流すると発表した。薄めたところで、海に流れ込むトリチウムの総量は変わらないが、総量に対する最小限の国際基準すらない。現在、日本がタンクの中に保管している汚染水125万トンのトリチウムの放射能総量は、約860兆ベクレルと推定される。汚染水は福島第一原発の廃炉を進める30~40年間発生し続ける予定であるため、放射線量もさらに増えることになる。トリチウムは水産物などを通じて人体に入り、有機結合型トリチウムに変った場合、内部被ばくの恐れもあるなど、人体や環境に及ぼす影響がまだ明らかになっていないため、より厳しい管理が必要だ。
 福島第一原発の汚染水の中に国際社会が禁止している人体に致命的な放射性物質が含まれていることも論議を呼んでいる。 放射性物質基準も国ごとに異なるが、猛毒性発がん物質のストロンチウム90に対する日本の排出基準は1リットル当たり30ベクレル。福島第一原発の汚染水の中には1リットル当たり平均3355ベクレルのストロンチウム90が含まれており、基準値を110倍以上上回っている。平均ではない最大検出量では2万倍だ。ヨード129の平均濃度も9.36ベクレルで排出基準(9Bq/L)を上回る。セシウム137の数値は、汚染水全体の平均濃度(5.02ベクレル)で見れば基準値(90ベクレル)を下回っているものの、最大値(829ベクレル)は基準値より9倍高い。東京電力は、浄化を通じて放射性物質を基準値以下に下げた後に放出する計画だと明らかにしたが、正確な内容は公開していない。」
○4月14日付けハンギョレ・日本語WS所掲[社説]「福島原発放射能汚染水の一方的な放出、容認できない」
 「韓国政府はク・ユンチョル国務調整室長の主宰で、外交部、海洋水産部、原子力安全委員会など関係省庁の次官緊急会議を開き、日本政府の福島からの汚染水の放出決定に強い遺憾の意を表明した。最も大きな懸念点は汚染水の安全性だ。日本政府は、汚染水を浄化すれば主な放射性物質が基準値未満に減り、問題はないと主張する。米国国務省も「国際安全基準に合致する」とし、日本の汚染水放出の決定を支持した。
 しかし、国際原子力機関(IAEA)の安全基準などの国際基準は、極めて粗雑で曖昧だという問題がある。例えば、浄化装置で除去できないトリチウム(三重水素)を排出する際に適用される国際共通基準はなく、各国が自ら判断して決めることになっている。福島で事故を起こした原発のように、汚染水を長期間かつ大規模に放出する特殊な場合にも、自国の安全基準を適用することが妥当なのか疑問だ。
 放出した汚染水が環境に及ぼす影響を正確に把握するために、海洋汚染物質の拡散についてのシミュレーションを行うには、具体的な放出量や放出時期、期間などが分からなければならないが、日本が基本的な情報を提供しないため、韓国政府は正確な分析を行えずにいる。このような状況で「問題ない」とする日本の主張を、どうして受け入れることができるだろうか。
 「人権と健康権」などを管轄する国連の特別報告者5人は先月11日の声明で「汚染水の太平洋への放出は、受け入れ可能な解決策ではない」と批判した。日本国民からの意見公募でも約70%が海洋放出に反対した。それでも日本政府は費用が安い「海洋放出」を初めから決めておき、他の方法をまともに考慮せず決定を強行したという批判も出ている。」
○4月15日付け環球時報所掲の劉丹(上海交通大学凱原法学院副研究員)署名文章
 「国連海洋法条約第192条は「いずれの国も、海洋環境を保護し及び保全する義務を有する。」と定める。同条約第12部「海洋環境の保護及び保全」では、海洋環境を汚染する物質の投棄、他国及びその環境に損害を与える行為・活動等の行為を禁止しており、日本の汚染水海洋投棄が条約違反であることは疑いがない。
 日本の汚染水海洋排出が国際法上の「ダンピング」に当たるか否かは断定できないとしても、1994年原子力安全条約及び1996年議定書の規定をも踏まえれば、当該行為は国際法違反である疑いがある。また、今回の福島のケースは国際的に新しいものであるが、リスク予防原則、慎重原則、国外環境に損害を与えない原則、国際協力原則などの国際慣習法の基本原則に抵触する疑いがある。以上の諸原則に関しては、「テレル・スメルター」、「ライン・クロライド」、「モックス・ファクトリー」等の国際判例で確認されている。」

2.関係国の立場表明

○アメリカ
4月12日、プライス報道官は声明で「日本政府は国際原子力機関(IAEA)と緊密に協力し、放射性物質の監視、復元、廃棄物処理、廃炉などを含む福島原発事故の後続処理を決定した」と明らかにしました。続いて「米国は日本政府が福島原発に貯蔵された処理水の管理に関連していくつかの決定を検討したと把握している」とし「特殊で難しいこの状況で日本はいくつかの選択と効果を確認し、透明に決定し、国際的に受け入れられる核安全基準に従う接近法を選択したとみられる」と評価しました。さらに「我々は日本政府がこうした接近法の効果を監督しながら、引き続き協力と意思疎通をしていくことを期待する」と述べました。ブリンケン国務長官は「放出決定に対する努力の透明性に感謝する」とツイートしました(4月13日付け韓国・中央日報日本語WS)。
 しかし、以上のアメリカの立場表明に対しては、今回の放出発表が菅首相訪米直前に行われたことも踏まえた、日米合作の演出であるという批判が中国のみならず韓国からも上がっています。また、中韓両国は、アメリカ自身が福島県等からの輸入を禁止している事実を指摘して、アメリカの今回の立場表明は完全な二重基準と指摘しています。
 4月15日付けのハンギョレ・日本語WSの記事「日本の原発汚染水放流決定"に肩入れした米国、福島農水産物を10年間輸入禁止」は次のように述べます。

 「米国が日本政府による福島第一原発の放射性物質汚染水の海洋放流決定を支持したが、当の米国は福島事故直後の2011年3月から現在まで10年にわたり事故現場付近で生産される農水産物の輸入を禁止していることが明らかになった。
 15日、米食品医薬品局(FDA)のホームページを見ると、食品医薬品局は放射能汚染を理由に日本産製品の輸入を禁止する輸入禁止令 99-33(Import Alert 99-33)を発令した状態だ。
 この禁止令は、福島原発事故直後の2011年3月に出され、3月4日にも継続更新された。日本政府の汚染水放流決定が下される40日余り前だ。
 禁止令は、具体的に輸入禁止地域と農水産物100種あまりを規定している。禁止地域は福島をはじめ青森、千葉、群馬、茨城など14カ所に達し、地域ごとに禁止製品が具体的に列挙されている。牛乳、野菜、キノコ、牛肉などの農産物をはじめ、サケやウナギなどの水産物が含まれている。禁止令には、日本政府がこの間に取った農水産物の流通禁止と解除措置が具体的に盛り込まれているが、クロソイ、タラ、貝などが含まれている。
 米食品医薬品局は禁止令で「物理的検査をせずに福島などの(特定製品を)留置できる」と明らかにした。食品医薬品局の輸入禁止令は「食品・医薬品・化粧品法」に基づくもので、これに該当する製品の場合には検査をせずに留置されたり輸入が拒絶されうる。
 食品医薬品局は「これらの製品が米国の消費者に健康上の危険を招かないよう日本政府と持続的に協力する方針」としつつ「放射能汚染による公衆保健上のリスクを監視し続けるものであり、適切な時期に輸入禁止令を解除するだろう」と明らかにした。」
○中国
中国外交部の趙立堅報道官は4月14日及び15日の定例記者会見で次のように述べました。
(4月14日)
 「3つの問題を提起するので、日本側の回答を希望する。
 第一、国内外の疑問及び不安を真剣に聞いているか。日本の与党議員の中にも、汚染水は長期保存するべきで、放出しておしまいということであるべきでなく、現在決定するのは慎重さを欠くと発言するものもいる。日本漁業協会の声明は「絶対に受け入れられない」と述べている。東京、福島では多くの抗議デモがあった。
 中国、韓国、ロシア、EUのほか、311の環境団体が断固反対を表明している。グリーン・ピース・ジャパンは、保存する技術も条件もあるのに放出を選択したのは生態環境を無視し、完全に正義に反すると述べている。
 第二、日本の行動は国際法に合致しているか。日本は先例があるというが、日本は国連海洋法条約締約国であり、条約の関係規定を知っているはずだ。条約に基づけば、各国はすべての必要な措置を取って、管轄または支配範囲内の事件・活動による汚染を主権的権利行使地域外に拡大させないようにするべきである。しかし、日本の汚染水放出は国境をまたいだ影響を引き起こさざるを得ない。同条約及び原子力安全条約、原子力事故早期通知に関する条約等に基づけば、日本は通知、協議、予防措置、情報透明化など様々な国際的義務を負っている。日本はこれらの義務を担っているか。
 日本の決定はアメリカの「許可」を得たとするものもいる。しかし、アメリカの「許可」イコール国際社会の承認ではない。アメリカは明らかにダブル・スタンダードだ。
 第三、日本の海洋放出は国際スタンダードに合致しているか。IAEA専門家グループの評価報告は、トリチウム以外にほかの放射性物質も含まれていると明确に指摘している。東京電力によれば、62種類の放射性物質が含まれている。その中にはストロンチウム90が基準超過で含まれている。メディア報道によれば、カナダ西海岸のサケからはセシウム134放射性元素が検出された。ハワイ海域の放射性物質含有量レベルは以前の2倍である。これらの事実は福島の核汚染がすでに北米地域まで広がっていることを示している。
 海洋は日本のゴミ箱ではなく、太平洋は日本の下水道ではない。日本の汚染水処理のツケを全世界に回すべきではない。日本の関係者の中には「飲んでも問題ない」と言うものもいるそうだが、その人には飲んでから発言してほしい。日本では水俣病の殷鑑遠からず、被害者の傷もまったく癒えていない。日本は歴史の悲劇を忘れるべきではなく、ましてやとぼけるべきではない。日本がハッキリと責任を認め、科学的態度を堅持し、国際義務を履行し、国際社会、周辺諸国及び日本国民の深刻な懸念に対してあるべき答を出すことを強く促す。日本は処理問題を見直し、関係諸国及びIAEAと十分に協議するべきであり、協議達成以前に勝手に海洋放出してはならない。中国はさらに反応する権利を保留する。」
(4月15日)
 「昨14日、中韓海洋事務対話協力メカニズム第1回会議を行った。双方は、日本が国際機関及び周辺国と十分な協議を行うべきこと、関係国及び国際機関の参加という基礎の上で福島汚染水問題を慎重に処理するべきことを促した。これは中韓共同の立場だ。日本が一方的に汚染水の海洋放出を決めるのは、負担とコストを外に転嫁するものであり、国際社会特にアジア近隣の安全上の利益を顧みないものであって、極めて利己的だ。日本の近隣国及び利害関係者として、中韓両国が自国民の身体的健康と国際海洋環境を守るため、日本の無責任なやり方に対して厳重な関心と強烈な不満を表明するのは至極当然なことである。
 日本は汚染水放出が安全だというが、根拠とするのは一方的なデータによるものであって、まったく説得力がない。東電のデータ改ざん及び隠匿に関する暴露、証言、報道は少ないというのか。国際機関等第三者の参画、評価、監督がないデータは本当に信憑性があるのか。ドイツ海洋科学研究機構はつとに、福島沿岸の海流は世界でも早く、放出から57日以内に放射性物質が太平洋の大半の地域に拡散し、10年後には世界中にまん延すると指摘している。日本は他国の指摘が「科学的根拠に基づかない」と非難する資格があるというのか。
 日本は、アメリカの「感謝」を得たからといって安心してはならない。アメリカは一方で「いいね」とつぶやきながら、他方では日本の米、魚類などの輸入を禁止している。アメリカ食品医薬品管理局は、放射能及び核汚染関連の公共衛生問題を理由にして、日本の管制対象品目に対する監督を強化している。アメリカのこういった対応に対して、日本はどう解釈するというのか。」
 さらに4月15日、中国外交部の呉江浩部長助理は垂大使を招致し、日本政府の決定に対し厳重な申し入れを行いました。中国外交部WSによれば、次のように発言したといいます。
 「日本の決定は海洋環境を考慮しないものであり、国際公共健康安全及び周辺諸国人民の切実な利益を顧みないものであり、国際法及び国際ルールに違反する疑いがあり、現代文明国家のなすことではない。中国はこれに強烈な不満と断固たる反対を表明する。
 中国は、日本が自らの責任を認識し、科学的態度を堅持し、国際義務を履行することを強く促す。第一、汚染水処理問題を見直し、海洋に放出するという間違った決定を取り消すこと。第二、国際機関の枠組みのもと、中国専門家を含む連合技術工作グループを設置し、汚染水処理問題が厳格な国際評価、査察、監督を受けることを確保すること。第三、利害関係国及び国際機関との協議が達成される以前に勝手に海洋放出を開始しないこと。中国は国際社会と共に、事態の発展を注視し、さらに反応する権利を留保する。」
○韓国
 4月14日付けのハンギョレ日本語WSは、次のように報道しました。
 「韓国政府は13日、日本政府が福島第一原発の汚染水の海洋放出を決定したことについて、相星孝一駐韓日本大使を外交通商部に呼び、強く抗議した。
 外交部のチェ・ジョンムン第2次官は13日午後2時、ソウル鍾路区(チョンノグ)の政府ソウル庁舎の外交部に相星大使を呼んで、20分間会談した。外交部によると、この席でチェ次官は「今回の決定への韓国国民の反対の立場を伝え、韓国国民の健康と環境に及ぼす潜在的な脅威について深い憂慮を表した」という。外交部はまた、チェ次官が相星大使に、汚染水処理に関するあらゆる情報の提供▽国際社会が受け入れ可能な関連環境基準の順守▽国際社会の参加を通じた客観的な検証の必要性を強調するなど、韓国側の立場を記した口述書を渡したことを公表した。」
 文在寅大統領自身、4月14日に相星大使の信任状捧呈式直後に行った歓談で「この言葉を申し上げないわけにはいかない」とし「日本の原発汚染水海洋放流決定に対して地理的に最も近く海を共有した韓国の懸念が非常に大きい」と述べました。あわせて文大統領は「韓国政府と国民の懸念をよくご存知だと思うので、本国に十分伝えてほしい」と話しました(4月14日付け中央日報日本語WS)。
 また同日付の聯合ニュースは以下のとおり報じました。
 「文大統領は同日午前、青瓦台の内部会議で日本の海洋放出決定を巡り、国際海洋法裁判所に対し、暫定措置の要請や提訴する案を積極的に検討するよう指示したという。
 青瓦台の高官によると、暫定措置は国際海洋法裁判所が最終判断を下すまで日本が海洋に放出しないようにする一種の仮処分申請を意味する。同高官は「国際海洋法裁判所は紛争当事者の利益を補塡するため、または海洋環境に対する重大な損傷を防ぐため、暫定措置を命令できる」と説明。「きょうから法務秘書官室が具体的な検討を始める」と述べた。
 米国と国際原子力機関(IAEA)が海洋放出に肯定的な反応を示したとの報道に関しては「他国の立場について言及することは適切ではない」とした上で、「韓国政府はさまざまな対応手段を検討している。国際海洋法裁判所への提訴もその一つ」と述べた。」
 同日、韓国原子力安全委員会も日本当局に徹底した審査を要請する書簡を送りました。聯合ニュースの報道は次のとおりです。
 「韓国の原子力安全委員会は14日、日本政府が前日に東京電力福島第1原子力発電所の処理済み汚染水を海洋放出する方針を決めたことを受け、日本の原子力規制委員会に客観的かつ独立した審査を求める書簡を送ったと発表した。
 書簡では、海洋放出方針の決定に対する韓国国民の憂慮を伝えた。その上で、東京電力の処分計画を審査する際に国際基準に合致しているかどうかを客観的、独立的に判断し、処分の実行プロセスを徹底してモニタリングして結果を迅速かつ透明に共有してほしいと求めた。
 原子力安全委員会は今月半ば以降、国民に向けた情報公開を強化する予定だ。これまで報告書で年1回公開していた韓国周辺海域の海水の放射能分析結果について、地点ごとの分析が完了し次第、同委員会ホームページに掲載する。
 同委員会は2011年に福島第1原発事故が起きて以降、韓国周辺の海水の放射能モニタリングを強化してきた。放射性物質のトリチウム(三重水素)の調査地点を昨年に22カ所から32カ所に拡大し、日本側から海水が流入する主なルート上にある6カ所の調査回数を年1回から4回に増やした。沿岸と港湾のモニタリングを担う海洋水産部も昨年、調査地点を7カ所増やして39カ所とした。
 同委員会は国際原子力機関(IAEA)による調査や検証への韓国人専門家の参加を図るなど、国際社会と共に汚染水処理の全プロセスに対する徹底した検証に取り組む方針だ。」
 この日には以下の動きもありました(ハンギョレ日本語WS)。
 「韓国政府が日本の福島第一原発の放射性物質汚染水の海洋放出決定に対し、強い遺憾の意を示した。そして、「韓国国民の安全のために必要なすべての措置を取る」と明らかにした。
 政府は同日、ク・ユンチョル国務調整室長の主宰で、外交部、海洋水産部、原子力安全委員会など関係省庁次官による緊急会議を開き、日本政府の放射能汚染水の海洋放出決定に対する立場を明らかにした。
 ク・ユンチョル室長は「政府は日本の福島原発汚染水の処理過程全般に対する透明な情報公開と検証を強く求める」とし、「今回の決定に対する韓国国民の反対を日本政府に明確に伝える」と述べた。特に政府は国民の安全のための具体的な措置を日本に強く要求する一方、国際原子力機関(IAEA)など国際社会にも汚染の程度について客観的な検証を要請する予定だ。
 さらに「国際的な検証または韓国の科学的なモニタリングを通して被害が発生した場合、賠償や中止要求など断固たる措置を取る」とし、「モニタリングや国際社会の検証を通してデータを集めた後、(国際海洋法裁判所への提訴についても)判断できるだろう」と明らかにした。輸入食品の放射能検査や原産地をめぐる取り締まりは徹底的に行うものの、国際海洋法裁判所に提訴するかどうかはより慎重に判断するという意味だ。」
○朝鮮
 4月15日付けの朝鮮中央通信は、「人類の生存を脅かす許せない犯罪」と題する論評を発表して日本を厳しく批判しました。内容は次のとおりです。
 「日本が世界的な悪性伝染病の事態で苦痛をなめる人類に新しい大災難をもたらそうとしている。
去る13日、日本政府は国際社会の強い反対にもかかわらず福島原子力発電所の事故によって生じた多量の高濃度放射能汚染水を海へ放出することを決めた。
これは、日本の破廉恥さと白昼強盗さながらの本性を見せるもう一つの克明な実例として人類の健康と安全、生態環境を重大に脅かす許せない犯罪である。
問題の放射能汚染水は、2011年に福島を強打した特大型の地震と津波によって原子力発電所が連鎖爆発を起こしながら生じたもので、その中には危険な放射性物質であるトリチウムとセシウム、ストロンチウムなどが許容基準値をはるかに超えて含まれているという。
これまで日本政府は、毎日生じる多量の汚染水をタンクに保管してきたが、その貯蔵能力が限界に至るにつれて放射能汚染水を海に放出する意図をほのめかしてきた。
国際社会の強い反対に直面して今まで決断を下せずにいた日本政府が、今になって海洋放流を公式に決定し、危険な放射能汚染水を浄化工程を経た清潔な「処理水」に宣伝しているのである。
もし、日本政府が放射性廃棄物と呼ばれる汚染水をあくまでも放流する場合、その中に入っているおびただしい量の危険物質は世界的に海流が速い福島沿岸で数十日内に太平洋の大部分の水域に流れることになる。
これは、人類共同の富である青い海の生態環境を破壊するばかりでなく、沿岸地域人民の健康と生存に甚だしい危険を招くようになる。
特に、日本と海を隔てているわが国にとって日本の放射能汚染水の放流は、人民の生命安全に関連する重大な問題だと言わざるを得ない。
日本の行為は、自分一人の利益のためなら人類を脅かし、全地球の生態環境を破壊する張本人、希世の破廉恥漢としての本性を再び赤裸々にさらけ出した。
日本は、憤激したわが人民の対日憤怒心をはっきり知って海洋放流の決定を直ちに撤回すべきである。」
○太平洋諸国
 4月14日付けの新華社スヴァ(フィジー首都)電は、太平洋諸国フォーラムが同日、日本政府の汚染水海洋放出に深刻な懸念を表明し、日本政府に計画の再考を促す、秘書長名の声明を発表しました。同フォーラムは1971年に成立、メンバー国はオーストラリア、ニュージーランド、フィジー、パプア・ニューギニア、ヴァヌアツ等であり、事務局はスヴァにおかれています。同フォーラムは1985年署名のラロトンガ条約(南太平洋非核地帯条約)を発案したことで知られています。
○ロシア
 4月13日のタス通信モスクワ電は、ロシア外務省のザハロヴァ報道官が同日声明を出して述べた内容を次のように紹介しました。
 「我々は本件に重大な関心を表明するとともに、日本があるべき透明性を証明し、関係諸国に対し、放射能の危険を生じる可能性がある行動について通報することを期待する。今回の放出計画のすべての事項に関するより詳細な説明を待っている。
 我々は、東京がこの重大な問題に当然あるべき真剣さでアプローチし、海洋環境に対する消極的インパクトを最小限にする必要な措置を取り、他国の漁業などの経済活動に困難を生み出さないことを希望する。
 この問題に関して日本が提供した公的情報は不十分である。特に、太平洋地域にかかわる環境リスクの評価が日本政府の決定には含まれていない。」
○IAEA
 4月14日、IAEAのグロッシ事務局長は中国メディアの取材に対して次のように発言しました(新華社ウィーン電)。
 「グロッシは、中国、韓国等日本の近隣諸国を含む国際社会の関心に留意しており、この関心に厳粛に対処すると述べた。彼は、IAEAは「正確かつ透明」な方法で日本と協力し、日本が汚染水を海洋に放出する前、期間中及び後に、専門的な監督及び観測を行い、放出が環境に被害を引き起こさないことを確保すると述べた。
 グロッシは13日にIAEAのWSにおいて声明を出し、IAEAが日本の放出計画の安全性、透明性を観察及び審査する準備を行っていると述べた。
 声明は、核の安全は国家の責任であり、汚染水管理という問題をいかに解決するかは日本政府が決定するべきであると述べる。グロッシは、「汚染水の管理は、安全で透明な方法で処置処理した汚染水を含め、すべての利害関係者の参加を得ることが、原発の退役活動の持続可能性にとって極めて重要である」と述べている。
 グロッシは、12日に王群常駐代表と会見した際、IAEAは関係国の関心に留意しており、この問題がグローバルな関心を集めていることも理解しており、公正、客観、科学的な方法でIAEAの評価及び監督を積極的に行い、そのプロセスにおいては、利害関係諸国との意思疎通を強化したいと表明した。」
○フィリピン
 4月15日、フィリピン大統領府報道官は定例記者会見の席上で次のように発言しました(新華社マニラ電)。
 「地球は一つの生態システムであり、各国は互いに関連しており、環境を汚染するものは代価を払うべきである。すべての国家がこれらの原則を遵守することを呼びかける。」