「二つの大局」とは、習近平が提起した「中華民族の偉大な復興に関する戦略的全局」及び「百年間未だかつてなかった世界的な大変局」を指し、中国共産党が仕事を企画する際の基本的出発点をなすものです。中央党校国際戦略研究院の羅建波教授は、この「二つの大局」を把握することが理論的創新を推進し、現実問題を解決する上での重要な前提だと指摘した上で、この重要な戦略的好機の新しい変化の特徴を解明する文章を発表しました(10月30日付け学習時報WS)。この文章は、習近平中国が内外情勢をどのように認識しているかを理解することができる貴重なものだと思います。
 アメリカを筆頭とする西側諸国の習近平中国に対する見方は、「国内:権威主義」「対外:覇権主義」で片付けるステレオタイプのものばかりで、「他者感覚」を働かせて中国を内側から認識し、理解しようとするものはほとんどありません。10月25日のコラムで紹介したのは極めて例外的なものです。21世紀に入った国際社会は20世紀までとは本質的に変わろうとしており、21世紀に求められているのは脱パワー・ポリティックスのウィン・ウィン思考であるのに、西側諸国の対外関係に関する見方は相も変わらずパワー・ポリティックスのゼロ・サム思考に根っこまで深く染まったままです。
 ちなみに日本では、支配勢力・権力側の国際的発想は一貫してゼロ・サムの権力政治です。したがって、中国に対する見方も西側諸国と軌を一にしています。これに対して、戦後のいわゆる民主勢力(既成左翼勢力といわゆる市民派とを問わない)の国際的発想は反強権・反権力が基調であり、「大国」「強国」をおおっぴらに公言し、指向する習近平中国に対しては、やはり批判的・警戒的です。つまり、日本では、支配勢力・権力側と民主勢力とは対極に位置しているのですが、こと中国に関しては結果として同じ立場にあるということです。
 ただし、西側諸国のパワー・ポリティックスと日本の権力政治とは起源・本質において違いがあります。前者は17世紀以後の欧州国際政治(弱肉強食の国際関係)の産物です。しかし、後者は倫理意識及び政治意識の執拗低音(所属する集団に対する忠誠と「お上」に対する捧げもの-奉公-)に由来するものです。したがって、前者がドライであるのに対して後者はウェットです。ドイツ・ナチズムと日本・軍国主義の違いです。
 私は、西側諸国及び日本の支配勢力・権力側のステレオタイプの中国批判には「つける薬はない」と匙を投げています。しかし、日本の民主勢力の中国に対する否定的・批判的見方に関しては、習近平中国に対する根本的な認識・判断の誤りに基づくものであり、正確な認識・判断を得ることによって見方を改める可能性は十分にあると思っています。
 具体的には、中国・中国人における「大国」「強国」は歴史的な中国の体験(19世紀中葉から弱いが故に世界の底辺に突き落とされた民族的体験)を踏まえた、「侮られないためには大きくならなければならない・強くならなければならない」という事実認識としての「大国」「強国」です(羅建波文章の最後のくだり参照)。「中華民族の偉大な復興=強国」という自己定位は正にそれです。「大国主義」「覇権主義」という含意はないのです。しかし、日本の民主勢力における「大国」「強国」は「大国主義」「覇権主義」というマイナス評価が内在しています(私は、これも執拗低音の働きによるものだと思います)。だから、習近平が「大国」「強国」を口にすると、日本の民主勢力は「習近平は大国主義・覇権主義でけしからん」となってしまうのです。
 羅建波署名文章は、習近平中国の拠って立つ内外情勢に関する基本認識を明快に説き明かすものであり、習近平中国がいわゆる「覇権主義」「大国主義」とは無縁の次元に立って内外情勢を認識していることを明らかにしています。一人でも多くの人が習近平中国について正確な認識を持つことを期待して、大要を紹介します。

 「二つの大局」とは国内及び国際の発展の大勢に関する戦略的判断である。中国はどのように発展するか。世界はいかなる方向に向かっているのか。この二つは、我々が中国と世界を観察する中で答を出さなければならない主要問題である。「中華民族の偉大な復興の実現」とは、近代以来の中国の歴史的発展の主調を概括し、歴代の仁人志士が追求した偉大なドリームを描き出したものである。新しい時代の中国共産党が担っている歴史的使命とは、「二つの百年」という奮闘目標及び中華民族の偉大な復興の実現というチャイナ・ドリームの実現のためにたゆみなく努力するということである。「百年間未だかつてなかった世界的な大変局」という提起は、中国共産党が幅広い歴史的視野に基づいて世界の発展の大勢を把握し、世界的胸襟に基づいて人類社会の共同福祉を考えることができることを反映している。世界に目を向ける時、科学技術の革命的進歩、新興経済国や途上国の大量の台頭、経済のグローバル化、世界の多極化、文化の多様性、情報化の進展により、西側を中心とする国際秩序は今や歴史的な大変化を迎えている。
 「二つの大局」は新しい時代における中国と世界との関係に対する精緻な論述である。今日の中国は中国の中国であるだけではなく、世界の中国でもある。百年間未だかつてなかった世界的な大変局は、中華民族の偉大な復興の実現のための重要な外部的条件を創造し、中国が経済のグローバル化に参与し世界における影響力と発言力を向上するために重要な歴史的チャンスを提供している。中華民族の偉大な復興は、百年間未だかつてなかった世界的な大変局における重要な推進力であり、世界経済の発展、国際パラダイムの変化、さらには国際秩序の変革と改善に対する重要なエネルギーを提供している。習近平は、中国と世界との関係は深遠な変化の中にあり、中国と国際社会のインタラクションもまた空前に緊密となっており、中国の対世界依存、国際問題への参与は不断に深まり、世界の対中国依存及び対中国影響力も不断に深まっている、と指摘している。百年間未だかつてなかった世界的な大変局と中国の大きな発展は同步的に混じり合い、「中国における世界」と「世界における中国」は同步的に増大し、互いに照らし合っている。以上が新しい時代に中国の発展が直面している重要な時代的な背景である。
 「二つの大局」は中国発展の歴史の方位及び世界的座標軸に関する精確な位置づけである。今日における中国発展の歴史の方位及び中国と世界の関係を研究し、判断する上では、全面的かつ弁証法的に「三つのかつてなかったこと」と「二つの変化しないこと」を理解する必要がある。中国の特色ある社会主義は新しい時代に入っており、近代以来艱難を経た中華民族は、「立ち上がる」から「豊かになる」へ、そして「強くなる」へという偉大な飛躍を迎えている。我々は未だかつてないほどに世界の舞台の中心に近づき、未だかつてないほどに中華民族の偉大な復興の実現という目標に近づき、未だかつてないほどにこの目標を実現する能力と自信とを備えるに至っている。しかし同時に、中国は相変わらず、そして長期にわたって社会主義初級段階にあり続けるという基本的国情には変化はなく、中国が世界最大の途上国であるという国際的地位には変化がない、ということも見届ける必要がある。我々は戦略的自信を確固たるものにし、中華民族の偉大な復興及び中国の特色ある社会主義事業の光明ある前景を見届けるとともに、十分な戦略的定力及び戦略的忍耐心を保ち、大から強に至る発展プロセスは簡単でもないし順風満帆でもないということを冷静に認識する必要がある。
(重要な戦略的好機における新変化と新特徴を科学的に認識する)
 重要な戦略的好機は、政治的判断でもあれば科学的判断でもある。国内発展環境が深刻な変化を経験し、外部環境が複雑かつ深刻である背景のもと、習近平は中国の発展が引き続き重要な戦略的好機にあると繰り返し述べてきた。それは、国内の共通認識を固め、思想的に国内の改革及び発展に集中し、一貫して戦略的定力と戦略的忍耐心を維持し、終始変わらず発展を図ることに集中し、建設に集中するためである。この判断は、中国が位置する現在の内外環境における新形勢と新変化に基づくものであり、中国及び世界の発展の大勢に関する科学的な研究と判断に基づくものであり、中国が平和発展を着実に推進し、外部世界との関係を妥当に処理するという確信と能力に基づくものである。
 重要な戦略的好機の内因性、適応性及び柔軟性は顕著に増大している。中国が日増しに世界の舞台の中央に歩み寄るに従い、中国の世界的な影響力、感化力、形成力は不断に拡大し、中国は以前の「戦略的好機到来」「戦略的好機擁護」から「戦略的好機形成」への転換を実現している。戦略的好機を観察する中国の視野もまた、以前の「外から内へ」から「内外併挙」へと転換している。つまり、外部環境の変化の中国に対する影響を見届けるだけではなく、中国の発展の外部世界に対する影響をも見届け、中国の発展そのものが世界の発展及び国際秩序の変化を推進する最重要要素の一つであること、また、中国の外部環境を決定するもっとも重要な要素の一つであることを認識するに至っている。中国が不断に発展することがとりもなおさず中国が直面する最大の好機なのだ。
 重要な戦略的好機の発展の共享性及びリスクの伝導性も同時的に顕現している。グローバル化が深々と発展している今日、中国と世界との相互関連は日増しに増大し、相互の影響も不断に深まっている。中国の発展は世界の好機であり、世界の発展も中国の好機であり、中国と世界各国との発展及び利益の共享性は顕著に増大している。百年間未だかつてなかった世界的な大変局の本質は国際秩序の大いなる発展・変革・調整であり、国際的な権力、利益及びルール上の再配分再調整に及ぶことは必然である。そこでは当然に、矛盾、分岐及び闘争が充満し、困難、反復及び挫折を伴う可能性があり、そのために世界には多くの不確実で不安定な要素がもたらされる。新コロナ・ウィルスが世界的に大流行する背景のもとで、国際の経済、政治、安全、文化のパラダイムは深刻な変化が発生しつつあり、世界は激動の変革期に入っている。これからの一定期間、中国はさらに多くの逆風逆流の外部環境に直面するだろう。中国は一連の新たなリスクと挑戦に対して十分な準備を行わなければならない。
(重要な戦略的好機を主動的に形成し利用する)
 戦略的洞察力を開拓する。中国共産党はまずは中華民族の偉大な復興を実現するために奮闘するが、同時に人類のためにさらに大きな貢献を行う責任を担当する。「世界はどうなっているのか、我々はどうするのか」という時代的命題に対して、習近平は人類発展プロセスという立場に立ち、大国指導者の政治的気迫により、人類の歴史的発展の潮流及び中国の発展の必要に着眼し、人類運命共同体の構築を推進するというグランド・ビジョンを提起し、共同発展を実現するという中国のプランを世界に提供した。「チャイナ・ドリーム」が「ワールド・ドリーム」と手を携えるということは、中国人民が「二つの百年」という奮闘目標と中華民族の偉大な復興というチャイナ・ドリームを追求すると同時に、さらに積極的な世界的参与を通じて世界の平和と発展を推進することを表明するものであり、中国共産党が民族の復興に責任を尽くし、人類の進歩に役割を担うという歴史的使命を十二分に表している。
 戦略的定力を維持する。その中のもっとも重要なものは次の二つである。第一、仕事の重心を終始国内発展に置き、自らのことをうまく行うことを終始優先させる。そうすることは、国家の富強、民族の振興、人民の幸福を実現するための根本的な必要であり、中国共産党の初心及び使命の赴くところであり、しかも同時に中国が発展することによってのみ、世界の平和と発展のためにさらなる貢献を行うことができるからである。第二、改革開放の既定方針を終始堅持し、経済のグローバル化のプロセスを終始推進する。西側大国が中国との「ディカップリング」を行おうとすればするほど、中国は対外開放をますます拡大する。中国封じ込めを行おうとすればするほど、中国は「友達づきあい」をますます広めていく。保護主義と一国主義をやればやるほど、中国は多国間主義と世界的協力をますます堅持する。こうすることによってのみ、圧力を動力に変え、守勢を攻勢に変えることができる。
 戦略的自信を高める。この戦略的自信はまず、中国経済の不断の発展、科学技術創新の重要なブレークスルーの実現、文化建設の新成果獲得、全方位外交の進展によってもたらされ、これによって中国の世界的な影響力は不断に高められる。この戦略的自信はまた、中国の特色ある社会主義の不断の発展及び国家治理能力の不断の向上によってもたらされ、新時代の中国の道の啓発性、中国の理論の先進性、中国の制度の優越性、中国の文化の親近性はいやが上にも突出する。中国と世界が治国理政の経験交流を不断に深めることは、途上国が自主的発展の道を模索することに対してヒントを提供し、グローバルな発展問題の解決に新たな経験を貢献し、人類文明の多元的発展のために中国の智慧を提供することができ、かくして各国が手を携えて共同の発展と繁栄を実現することができる。
 戦略的企画を強化する。国内においては、党によるすべての工作に対する領導を堅持し、人民を中心にすることを堅持し、「五位一体」及び「4つの全面」によって改革及び発展のプロセスを全面的に推進することを統括して、国家治理システム及び治理能力の現代化を不断に推進する。国際的には、人類運命共同体の構築推進を導きとし、相互尊重、公平正義、合作共嬴の新型国際関係の構築を積極的に推進し、対話・不対抗とパートナー関係・不同盟のグローバルなパートナー関係のネットワークを建設し、「親・誠・恵・容」の理念によって周辺諸国との運命共同体を建設し、総体安定、均衡発展を目標とする新型大国関係を積極的に企画し、正しい義・理の観念によって途上国との団結協力を深め、「一帯一路」によって世界が互利共嬴共同発展を実現することを推進し、共商・共建・共享に基づいてグローバル・ガヴァナンスに深く関与することにより、世界平和の建設者、グローバルな発展の貢献者そして国際秩序の維持者になる必要がある。
 戦略的ボトム・ラインを堅持する。中国共産党は憂患の中で生まれ、憂患の中で成長し、憂患の中で壮大になった。中国共産党員の憂患意識は憂党、憂国、憂民の意識であり、これすなわち、党、国家及び民族に対する使命、責任及び担当である。現在、中国の発展の形勢は全体としては良好であるが、前途は順風満帆ではあり得ず、成績を挙げれば挙げるほど、ますます薄氷を踏む慎重さが必要であり、安きに居りて危うきを思う憂患が必要である。ボトム・ライン思考を堅持し、憂患意識を強化し、闘争精神を発揚し、闘争能力を強化して、何事につけても最悪に備えて準備し、困難に対する判断を十分にし、事前の対策を周到にし、「下支え」「最低保証」「基礎固め」を重視し、重大なリスクが現れないように努め、重大なリスクが現れた時には耐えて、やり過ごして、勝ち抜けるように努める必要がある。