北京、大連、新疆で続いた新コロナ・ウィルスの集団感染ですが、中国は徹底した取り組みによって完全に断ち切りました。中国の取り組みの徹底ぶりには、日本の中途半端を極める取り組みとの落差が大きすぎて驚かされます。しかし、国内感染者ゼロを実現した中国だからこそ、本格的な経済活動再開が可能となっていることは間違いのない事実です。「コロナ対策と経済対策の両立」を図る日本を含む西側諸国の不徹底な取り組みとの差は歴然としています。中国の取り組みが如何に徹底しているかについて、日本ではあまり紹介されていないと思われるので、私が知り得た事例をいくつか紹介しようと思います。
 日本の状況を見ていると、「コロナを撲滅するのは不可能だ」という諦めが中央政府から国民の末端レベルまで覆っているような気がしてなりません。2021年夏には東京オリンピックを開催するなどと言いながら、すべては「ワクチン待ち」(今のもっとも楽観的な見通しでも、早くて来年夏頃ですから、オリンピック開催など「夢のまた夢」)で、積極的なコロナ撲滅作戦など思いもよらぬ政権・東京都なのです。中国は2022年2月の北京冬季オリンピック開催の準備を着々と進めています。これも、国内感染ゼロという実績・自信のなせる技です(もちろん、世界レベルで感染が押さえ込めなければ、開催不可能になる確率は大きい)。私が不思議でならないのは、何を目指そうとしているのかがまったく見えない日本・日本社会の問題意識の中途半端さであり、しかもそのことが「当たり前」のこととして受け入れられる雰囲気ができあがってしまっていることです。中国の徹底した取り組みを紹介するのは、「日本はこれで本当にいいのか」という私の問題意識を皆さんにも共有していただきたいと思うからです。
<北京市「重症医学54321」計画>
 北京市では2月に、重篤患者を治療するために「重症救治」チームが編成され、「19+N」人からなる専門家グループと「一線救治」チームが編成されました。「19」とは、コロナ初期から長期にわたって診療に立ち会ってきた12の医院及び中医薬大学の19人の専門家、「N」とは、患者の病状に即して臨時に診療に立ち会うことを要請される専門家を指します。
防疫コントロールの「常態化」に伴い、それまでの経験の総括の上で、北京市医院管理センターは、「資源集中、分層設計、優勢互補、精準施教」の原則に従い、北京市の専門家を集中して「重症医学54321」計画を実施することを決めました。すなわち、重症医学の5つの技術的難点に即して、4つの市属医院を育成訓練基地に指定し、各医院のために業務の根幹となる3名の医師と3名の看護者を育成訓練し、全員一人一人がすべての基地医院を2ヶ月間輪転し、統一基準に基づいて、1つの高水準の重症医学人材グループを随時派遣できるようにするというものです。(9月1日付け光明日報記事)
 中国では盛んに「人命至上」が言われます。北京市の以上の取り組みは、「人命至上」が単なるスローガンではなく、北京市のコロナ対策の根幹に座っていることを如実に示すものです。日本にはこうした取り組みが存在するとは、私は寡聞にして知りません。
<低温物流システム・コロナ対策>
 中国交通運輸部は9月1日、「低温物流システム・コロナ防疫コントロールに関する通知」を発出して、「外防輸入、内防反弾」及び「人物併防」を強化して、低温物流システムからの感染を徹底して防止することを打ち出しました。これは、北京と大連における集団感染が低温物流システムを感染源となっていたことに即した対策です。通知は、当該物流システムの第一線で働く人員の感染リスクを防ぐことを求めています。全員がマスク、手袋などを着用し、就業前後の体温測定、条件があるところではPCR検査を行うことを要求しています。また、国際冷凍コンテナ、船舶、車両に対する管理、消毒の強化、輸送に当たるコンテナ車両について積載前のコンテナに対する消毒、国境地点での防疫徹底等によって国外からのコロナ流入をシャットアウトすることを要求します。さらに検疫証明も厳格化し、産地証明のない冷凍品目は輸入禁止としています。さらにまた、輸入冷凍食品に対するサンプル調査、PCR検査、通関検査等についても保健、税関、市場監督者等に一連の要求を行っています。(9月1日新華社)
<直行北京フライト便についての規則>
 9月3日から北京直行国際旅客フライト便を漸次復活することに基づき、北京市は一連のルールを決定し、発表しました。試験運行段階として、一日当たりの入境者人数を制限すること(1000人前後)、航空機着陸ターミナル地点をT3-Dだけとし、旅客は全員同地点でPCR検査を含めた入境手続きを行い、専用車両で指定観察点(すべて5号環状線外)に送り、14日間の集中医学観察を行い、2回PCR検査を行うこと、滞在先では原則シングル(夫妻及び児童などは例外を認める)。また、PCR検査で陽性と判定されたもの、発熱症状や呼吸器症状があるもの及びその濃厚接触者は指定医院(地壇病院)に送ること、集中医学観察対象者については14日間の観察を経てPCR検査が陰性なものは北京の滞在先でさらに7日間の健康観察を受けることなど、詳しい規定が設けられています。(9月3日付け北京青年報)
<「新型コロナ・ウィルス防疫コントロール方案(第7版)」>
 9月15日に国家衛生健康委員会は「新型コロナ・ウィルス防疫コントロール方案(第7版)」を公表しました。新しく盛り込まれた主な内容は以下のとおりです。
○病原学及び流行病学特徴方面:感染主要経路は引き続き呼吸器飛沫感染及び濃厚接触としつつ、特定条件下ではウィルスに汚染された物品との接触による感染及びウィルスに汚染された環境にさらされての接触感染またはエアロゾル感染を加えました。これは、北京と大連の集団感染を受けたものです。
○国外からの輸入防疫コントロール方面:入境人員は入境地点で税関によるPCR検査を受けた後、7日間の集中隔離及び自費負担のPCR検査(集中隔離医学観察場所での滞在5日目)並びに隔離期間が満了する14日後に自費負担のPCR検査。これは、中国における感染者は今や国外からの入境者のみであることに即した措置です。(9月15日新華網)
<雲南省瑞麗>
 9月14日、雲南省衛生健康委員会は、瑞麗市で発生した感染発病者2人を発表。2人ともミャンマー籍の密入国者。9月15日の発表では、濃厚接触者201人で全員集中隔離、そのうちPCR検査を受けたもの190人の全員が陰性。
 15日、市の主城区住民全員に対してPCR検査を開始。256の検査箇所で6万人の検査実施。17日15時30分時点でPCR検査95362人全員の陰性確認。18日15時時点では、225819人がPCR検査陰性。
 9月21日22時、瑞麗市住民全員のPCR検査を実施し、全員の陰性を確認。それに伴い住民の隔離措置解除。結局、密入国者2人を除き、濃厚接触者を含め全員の陰性を確認。住民全員を対象にPCR検査を実施したことがポイントです。
<(参考)香港>
香港では7月5日に2人の感染者を確認しました。これは6月13日以来の感染例報告でした。その後感染例は増え続け、7月20日の段階で561例が報告されました。感染者総数は7月5日の1268例から20日には1958例に増加しました。香港の検査能力は限られていること、また、今回の感染拡大は無症状感染者によるものが多いことから、より徹底した対策の必要が指摘されました(7月19日中国新聞網)。今回の感染拡大の原因の一つとして、いわゆる「民主派」の違法集会が挙げられました(7月20日新華社)。対策として中央政府の支援を要請する声が上がりました(7月25日中国新聞網)。この動きに対しては、香港の看護師会及び医師団体が内地の救援を求めることに反対する声明を発表します(7月25日環球時報)。このように、香港のコロナ対策については政治的要素も加わって一筋縄ではいかないことが窺われました。
 7月27日、林鄭月娥長官は中央政府に対して検査能力強化への協力援助を要請し、国務院香港マカオ弁公室スポークスマンは「すべての必要な支援を提供する」とする談話を発表しました。ちなみに、29日の段階で、香港では8日間連続で感染発病者が100人/日を越えました。(新華網)
 7月29日、中国疫学の最高権威である鐘南山は、香港では希望に応じた検査ということかもしれないが、感染力が特に強い無症状感染者を見つけ出すことが重要なので、全員検査することが必要だ、とする見解を述べました。彼は、人口7~800万人の香港なので、全員検査は難しいことではないとも述べました。(新華網)
 7月31日、国務院香港マカオ弁公室は、内地の検査人員を香港に派遣して大規模なPCR検査の実施支援を行うと発表します。これに対して、香港医療界からは異論が噴出したようです(環球時報)。8月1日の広東省からの支援隊派遣を皮切りに、中国各地から陸続と派遣されました(武漢、広西、福建等総計575人)。8月7日、林鄭月娥長官は、香港市民全員に自己負担なしで一人1回のPCR検査を行うと発表しました。この時点での検査数は137000人で、54例の陽性が発見されました(1人/2500人)。8月21日、林鄭月娥長官は、9月1日から2週間の予定で検査を行う計画を発表します。しかし、検査を進んで受けようとする市民の出足は鈍く、9月14日終了時点で検査登録者は178.3万人に留まりました。率直に言って、感染事例をゼロにするという当初の目標からは程遠い結果に終わりました。9月15日以後も香港市民の感染例が報告され続けています。
 要するに、中国本土におけるような全員検査が行われれば、無症状感染者を徹底的に洗い出すことができ、感染ゼロを実現する条件が生まれます。しかし、香港の場合、政治的に複雑な事情があり、しかも香港医師会、看護師界が抵抗を示すとなると、ことはスムーズに運ばないことが露わになります。