8月16日出版の中国理論誌『求是』は、習近平が2015年11月23日に中央政治局集団学習で行った「現代中国マルクス主義政治経済学の新境地を不断に開拓する」と題するスピーチを発表しました。『求是』編集部はスピーチ発表の狙いを、「現在、新コロナ・ウィルスその他多くの要素の影響を受け、内外の経済情勢は厳しくかつ複雑であり、経済発展の将来性には不安定性と不確実性が増大しており、正確な経済発展の大政方針を選択し、制定することはますます容易ならざるものがある。この情勢のもと、このスピーチをさらに深く学習し、理解することは、全党全国が中国の特色ある社会主義経済思想を確固とものにし、危機の中に新たな契機を育みかつ変局の中に新たな局面を開拓して、我が国経済発展推進を指導し、全面的に小康社会を全面的に建設するという目標を予定どおりに実現し、社会主義現代化を全面的に建設するという国家の新たな道程を切り開く上で、重要な理論的及び現実的な意義を有する」と位置づけました。
 改革開放以後の中国の経済建設路線に関しては、①市場経済導入などを咎めて「社会主義」とは言えないとする批判(いわば古典的社会主義の立場)、②大国主義対外路線の中国はもはや社会主義とは縁もゆかりもないとする批判(日本共産党)がある一方、③中国共産党一党独裁を強調する全否定(ポンペイオ以下のアメリカ福音派狂信的イデオローグ)など、さまざまな批判的・否定的見方が存在します。しかし、これまでのコラムで指摘を重ねてきたように、私は「中国は大真面目で社会主義建設を模索し、その実現に向けて邁進している」と判断します。今回発表された習近平のスピーチはそういう私の判断が正しいことを確認できるものです。
 習近平はこのスピーチの冒頭で、以前の中央政治局集団学習において、史的唯物論及び弁証法唯物論について学習したことを指摘した上で、今回はマルクス主義政治経済学を学び直すことを通じて、経済発展法則に対する認識と理解を深め、中国経済発展を領導する能力とレベルを向上することが狙いであると説明しています。私は昨年(2019年)12月23日のコラム「中国共産党中央政治局集団学習」でこの集団学習について紹介しました。史的唯物論の学習は2013年12月3日の第18期の第11回、弁証法唯物論の学習は同第20回の2015年1月23日にそれぞれ行われたことが確認できます。今回のマルクス主義政治経済学の学習は同第28回に行われたこともすでに明らかにされていました。
 習近平の中国社会主義建設に関する理論的実践的認識を理解する上で好個の資料と判断しますので、大要を訳出して紹介します。ちなみに、私が習近平のこのスピーチの中で白眉をなすと感じ入ったのは市場経済と社会主義制度との関係性について述べた次のくだりでした。以下の訳出全文を読む気が起こらない方のために指摘させていただきます。
 「中国経済の発展が巨大な成功を収めたカギとなる要因は、我々が市場経済の長所を発揮させるとともに、社会主義制度の優位性をも発揮せしめてきたことにある。それは、中国共産党領導と社会主義制度という大前提のもとで市場経済を発展させることであり、いかなる時といえども「社会主義」という限定語を忘れてはならない、ということだ。社会主義市場経済というゆえんは、我々の制度上の優越性を堅持し、資本主義市場経済の欠陥を効果的に防止することにある。我々は弁証法を堅持し、社会主義基本制度と市場経済との結合に工夫を凝らし、双方の優位性をともに発揮させ、「効果的な市場」もあれば「有為な政府もある」ようにし、実践の中で、この経済学における世界的難題を解きほぐす努力を行っていくべきである。」(強調は浅井)

 マルクス主義政治経済学はマルクス主義の重要な構成要素であるとともに、我々がマルクス主義を堅持し、発展させる上での必修科目でもある。マルクスとエンゲルスは、唯物弁証法と史的唯物論の世界観及び方法論に基づき、歴史上の経済学特にイギリス古典政治経済学の思想的成果を批判的に継承し、人類の経済活動に対する研究を通じて、マルクス主義政治経済学を創立し、人類社会特に資本主義社会経済の運動法則を明らかにした。エンゲルスは、「(プロレタリア政党の)すべての理論は政治経済学の研究に由来する」と述べた。レーニンは、政治経済学をマルクス主義理論の「もっとも深く、全面的で、詳細な証明と運用である」と見なした。今日、経済学の理論は多種多様であるが、我々の政治経済学の根本はマルクス主義政治経済学のみであり、他のいかなる経済理論でもない。
 マルクス主義政治経済学はもはや古くさい、『資本論』は過去のものだ、という人もいる。こういう判断は独断であり、間違っている。過去に遡るまでもなく、国際金融危機について見れば、多くの資本主義国家の経済は低迷を続け、失業問題は深刻で、両極分化が激化し、社会矛盾は深まっている。事実が説明するとおり、生産の社会化と生産手段の私有との間の矛盾という資本主義固有の問題は依然として存在しており、現れ方及び特徴において変化があるにすぎない。国際金融危機発生以後、少なからぬ西側の学者が改めてマルクス主義政治経済学、『資本論』を研究し、資本主義の欠陥について振り返っている。昨年(2014年)、フランスの学者トーマス・ピケティが執筆した『21世紀資本』は国際学術界の広範な議論を引き起こした。彼の分析は主に分配領域からのものであり、より根本にある所有制の問題にはあまり触れていないが、導き出した結論は我々も深思熟考する価値がある。
 毛沢東は前後4回にわたって集中的に『資本論』を精読し、何度もソ連の『政治経済学教科書』を専門テーマとする精読会を主催し、「政治経済学の問題を研究することは大きな理論的、現実的意義がある」と強調した。毛沢東は新民主主義時期に新民主主義経済綱領を創造的に提起し、社会主義建設を探索する過程での中国経済発展に対する独創的な観点を提起した。それには、社会主義社会の基本矛盾に関する理論、農業を基礎とし工業を主導とする農業軽工業重工業の協調的発展等の重要観点の提起がある。これらはマルクス主義政治経済学に対する我が党の創造的発展をなすものである。
 11期3中全会以来、我が党はマルクス主義政治経済学の基本原理と改革開放という新たな実践とを結びつけ、マルクス主義政治経済学を不断に豊富にし、発展させてきた。1984年10月、鄧小平は「政治経済学の初稿を書くことは、マルクス主義基本原理と中国社会主義実践とを結合させた政治経済学(を書くこと)である」と述べた。30年以上の改革開放の不断の深まりに伴い、我々は現代中国マルクス主義政治経済学における多くの重要な理論的成果を収めてきた。例えば、社会主義の本質に関する理論、社会主義初級段階における基本的経済制度に関する理論、創新、協調、緑色(環境)、開放、共享的発展を樹立し、実行することに関する理論、社会主義市場経済を発展させ、市場配分において市場に決定的役割を担わせるとともに政府の役割をより良く発揮させることに関する理論、中国経済が新常態に入ることに関する理論、新しいタイプの工業化、情報化、都市化、農業現代化を相互協調的に推進することに関する理論、農民が請け負う土地が所有権、請負権、経営権の属性を具えることに関する理論、内外両市場、両資源を巧みに利用することに関する理論、社会の公平正義を促進し、人民全体が漸進的に共同富裕を実現することに関する理論、等々である。これらの理論的成果は、マルクス主義古典作者が語ったことはなく、改革開放前の我々も実践及び認識がなかったものであり、現代中国の国情と時代的特徴に適応した政治経済学であって、中国経済の発展実践を有力に指導してきたのみならず、マルクス主義政治経済学の新境地を開拓したものでもある。
 今日、情勢が複雑に変化する世界経済の荒波の中で、中国経済という巨船を巧みに操縦できるか否かは我が党にとっての重大な試練である。複雑極まる内外経済情勢を前にし、複雑多岐にわたる経済現象を前にして、マルクス主義政治経済学の基本原理と方法論を学習することは、我々が科学的な経済分析方法を掌握し、経済の運動過程を認識し、社会経済発展法則を把握し、社会主義市場経済を舵取りする能力を高め、中国経済発展の理論的実践的課題に的確に回答することに有利である。
 マルクス主義政治経済学を学習することは、中国経済発展の実践をより良く指導するためであり、そのためには、その基本原理と方法論を堅持するとともに、中国経済発展の実際と結びつけて不断に新しい理論的成果を作り出す必要がある。
 第一、人民を中心とする発展思想を堅持すること。発展は人民のためである。これこそはマルクス主義政治経済学の根本的立場である。マルクスとエンゲルスは、「プロレタリア運動は絶対多数の人民による、絶対多数の人民の利益を図る独立した運動である」と指摘した。鄧小平は、社会主義の本質は生産力を解放し、発展させ、搾取を消滅し、両極分化を除去し、最終的に共同富裕に到達することである、と指摘した。18期5中全回は、人民を中心とする発展思想を鮮明に提起し、人民の福祉を増進し、人の全面的発展を促進し、共同富裕に向かって穏歩前進することを経済発展の出発点及びスタンスとした。我々はこの点をいかなる時においても忘れることがあってはならず、経済工作を配置し、経済政策を制定し、経済発展を推進するときはこの根本的立場をしっかりと堅持する必要がある。
 第二、新しい発展理念を堅持すること。中国経済発展の環境、条件、任務、要求等各分野で生まれた新しい変化に即して、18期5中全回は創新、協調、緑色、開放、共享という発展理念を樹立し、堅持することを提起した。この5大発展理念は、内外の発展の経験教訓を深刻に総括し、内外発展の大勢を深く分析する基礎の上で提起したものであり、中国経済の発展法則に関する我が党の新しい認識を集中的に反映するものであり、マルクス主義政治経済学の多くの観点と相通ずるものである。例えば、マルクスとエンゲルスは未来社会について、「すべての人は人びとが作り出した福利を共同で享受する」、「人は直接的に自然の存在物である」、「自然史と人類史とは相互に制約しあう」という仮設を示した。同時に、この5大発展理念は我々が経済発展を推進する中で獲得した感性的認識を昇華したものでもあり、経済発展を推進する実践に対する理論的総括でもある。我々は新しい発展理念を堅持して中国経済の発展をリードし、推進し、経済発展の難題を不断に解きほぐし、経済発展の新局面を切り開いていく必要がある。
 第三、社会主義基本経済制度を堅持し、改善すること。マルクス主義政治経済学は、生産手段の所有制は生産関係の核心であり、社会の基本的性質及び発展方向を決定すると認識する。改革開放以来、我が党は正反両面の経験を総括し、社会主義初級段階における基本経済制度を確立した。この経済制度においては、公有制を主体とし、さまざまな所有制経済の共同発展を堅持することを強調し、公有制経済及び非公有制経済はともに社会主義市場経済の重要な構成部分であることを明確にしており、以上すべては中国経済社会発展の重要な基礎である。我々は、いささかも動揺することなく公有制経済を強固にし、発展させ、いささかも動揺することなく非公有制経済を激励、支持、リードするべきであり、さまざまな所有制がお互いに補い合い、促進し合い、共同で発展することを推進するべきである。同時に我々は、中国基本経済制度は中国の特色ある社会主義制度の重要な支柱であり、社会主義市場経済体制の根幹でもあって、公有制の主体的地位を動揺させることはできず、国有経済の主導的役割を動揺させることもできないことを明確にするべきである。これは、中国各族人民の共享発展の成果を保証する制度的保証であり、党の執政地位を強固にし、中国社会主義制度を堅持する重要な保証でもある。
 第四、社会主義の基本分配制度を堅持し、改善すること。マルクス主義政治経済学は、分配は生産によって決定されるとともに、生産に対して反作用もするのであり、「生産をもっともよく促進するのは、すべての社会成員が自己の能力を全面的に発展、保持及び発揮することができる分配方式である」。我々は、我が国の実際から出発し、労働に基づく分配を主体とし、さまざまな分配方式を併存させる分配制度を確立した。実践が証明するとおり、この制度は各方面の積極性を引き出すのに有利であり、効率と公平の有機的統一を実現するのにも有利である。さまざまな原因により、我が国の現在の收入分配の中にはいくつかの突出した問題がある。その主たるものは、収入格差の拡大、一次的分配における労働報酬の比重が低いこと、国民收入分配における住民収入の比重が低いことである。これらについて、我々は大いに重視し、住民収入が経済成長と同じステップで増加し、労働報酬が労働生産率向上と同じステップで高まるように努力し、体制メカニズムと具体的政策を不断に健全にし、国民收入の分配構造を調整し、都市及び農村の住民の収入を持続的に増加し、その収入格差を不断に縮小するようにするべきである。
 第五、社会主義市場経済改革の方向を堅持すること。社会主義条件下で市場経済を発展させることは我が党の偉大な創造である。中国経済の発展が巨大な成功を収めたカギとなる要因は、我々が市場経済の長所を発揮させるとともに、社会主義制度の優位性をも発揮せしめてきたことにある。それは、中国共産党領導と社会主義制度という大前提のもとで市場経済を発展させることであり、いかなる時といえども「社会主義」という限定語を忘れてはならない、ということだ。社会主義市場経済というゆえんは、我々の制度上の優越性を堅持し、資本主義市場経済の欠陥を効果的に防止することにある。我々は弁証法を堅持し、社会主義基本制度と市場経済との結合に工夫を凝らし、双方の優位性をともに発揮させ、「効果的な市場」もあれば「有為な政府もある」ようにし、実践の中で、この経済学における世界的難題を解きほぐす努力を行っていくべきである。
 第六、対外開放の基本国策を堅持すること。マルクス主義政治経済学は、人類社会は最終的に各民族の歴史から世界歴史に向かって歩む歴史であると認識する。今日、我が国と世界の関係は空前に緊密となっており、中国経済の世界経済に対する影響、世界経済の中国経済に対する影響はともに未だかつてないものとなっている。経済のグローバル化が深々と発展する条件のもと、我が国は鎖国して建設することは不可能であり、国内国外の両大局を巧みに統括し、国際国内両市場、両資源を巧みに利用するべきである。中国経済が世界経済に深々と溶け込んでいく趨勢に順応し、より高い次元の開放型経済を発展させ、グロ-バルな経済ガヴァナンスに積極的に参与し、国際経済が平等公正、合作共嬴に向かって発展することを促進するべきである。同時に、我々は中国の発展上の利益を断固として擁護し、さまざまなリスクを積極的に防止し、国家の経済安全保障を確保する必要がある。ここには多くの理論的実践的問題があり、立ち入って研究する必要がある。
 結論として、我々がマルクス主義政治経済学の基本原理と方法論を堅持することは、国外経済理論の合理的要素を排斥するものではない。金融、価格、通貨、市場、競争、貿易、為替、産業、企業、成長、管理等の分野における西側経済学の知識は、社会化されたマス・プロダクション及び市場経済一般法則を反映する一面があり、参考とする必要がある。同時に、国外特に西側経済学に対しては、枝葉を捨てて本質を取り、真偽を選別するべきであり、資本主義制度の属性と価値観念を反映する内容及び西側イデオロギー的色彩を持つ内容については機械的にコピーすることはできない。経済学は経済問題を研究するものではあるが、社会及び政治から遊離することはできない。我が経済学においてはマルクス主義政治経済学を論じるべきであり、それを脇に置くことはあってはならない。
 マルクス主義政治経済学が生命力を持つためには、時代とともに歩まなければならない。実践は理論の源である。世界経済と中国経済はともに多くの重大な課題に直面しており、科学的理論的な回答を出す必要がある。我々は中国の国情及び発展の実践に立脚し、世界経済及び中国経済が直面している新たな状況と問題を深く研究し、新しい特徴と法則を明らかにし、中国経済発展の実践における法則的成果を抽出して総括し、実践上の経験を昇華して系統化された経済学説となし、現代中国マルクス主義政治経済学の新境地を不断に開拓し、マルクスス主義政治経済学の創新と発展のために中国の智慧を貢献するべきである。