7月7日、ロシアの消費者安全ウオッチドッグのロスポトレブナツオール(Rospotrebnadzor)は、3月23日以来ストップしてきた国際航空定期便の再開相手国選定の3項目の基準を作成し、交通省と連邦空輸庁に対してこの基準に基づいて選定した第一次再開可能相手国13カ国のリストを送付しました(7月9日タス・モスクワ電)。7月4日のコラムで、EUの旅行制限解除対象国選定基準(①2020年6月15日現在のEU平均と比較して、過去14日間における新規感染者数及び10万人当たりの新規感染者数がEU平均を下回るか同等であること、②この期間における新規感染者数がそれ以前の14日間との比較で安定しているかまたは減少していること、③検査、調査、追跡、封じ込め、治療及び報告等の全体的なコロナ対応)を紹介しましたが、ロシアのウオッチドッグが示した基準はより科学的、客観的と言えます(下記参照)。
ちなみに、この基準で選ばれた13カ国は、イギリス、ハンガリー、ドイツ、デンマーク、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、フィンランド、ヴェトナム、中国、モンゴル、そしてスリランカでした。対象国は欧州とアジアだけです。欧州ではフランス、スペインが含まれていないことに気づきます。ただし、EUが旅行制限解除対象国としてあげた14カ国にはロシアは含まれていません。ロシアの欧州に対する積極的アプローチの一端が示されたということでしょうか。アジアの4カ国に関しては納得できます。ただし、PCR検査が限定的にしか行われていない日本が含まれないのは当然として、韓国が含まれていないことは若干意外でした。
7月10日、ロシアのゴリコヴァ副首相は、国際航空便を7月15日に再開することを検討していると述べるとともに、ウオッチドッグが示した3項目の判断基準の内容について次のように説明を加えました。ゴリコヴァは、この3つの指標については2週間毎に再チェックの対象になるとも明言しました。なお、タス通信は触れていませんが、7月11日の中国中央テレビ(CCTV)クライアントWSは、ゴリコヴァが相互主義に基づいて航空便を再開するとし、相手国と航空当局間で交渉することになると述べたことも伝えています。
第一、最寄り14日間の人口10万人当たりの感染者が平均40人以下であること。ゴリコヴァは、ロシアにおける感染者がおおむねこの数字であるとし、14日という数字は新コロナ・ウィルスの潜伏最長期間であることはよく知られている、とつけ加えました。
 第二、最寄り14日間の新コロナ・ウィルス感染の新規感染増加率が1%以下であること。この指標は感染の抑え込みが成功しているかどうかの目安であると思われます。
 第三、感染指数(新コロナ・ウィルス拡散率)が1%を超えないこと。ゴリコヴァは、この数字がロシア国内各地における制限・規制の緩和規準となっていることをつけ加えました。よく知られているように、1%以上であれば感染拡大傾向にあり、1%以下であれば感染が抑え込まれる傾向にあることを示す指標です。
 CCTV・WSによれば、ゴリコヴァはさらに、ロシアに入国するすべての外国人に、72時間以内に発行されたPCR検査陰性証明の提出を義務づけています。
 問題は、国際的なヒトの流れを促進することはコロナ感染拡大に直結する危険が極めて高いことです。中国の疫学問題の専門家である呉尊友が指摘していることですが、国内における感染を抑え込んだ中国にとってのこれからの最大の警戒要因は、感染陽性者が外国からコロナを持ち込む可能性です(中国では吉林省舒蘭等2カ所で当該事例発生済み)。
世界各国が中国のように徹底した感染者ゼロの実現を目指しているわけではありません。むしろ、失業者急増・経済不況に対処するためにも、各国がコロナ対策で妥協しつつ経済活動再開に追い込まれているのが実情です。ところが、それによって国内で再び感染拡大を引き起こすだけではなく、'経済活動再開→国境をまたぐヒトの流れの増大→感染の国際的拡大'を引き起こす可能性が極めて大です。
 懸念されるのは、コロナ対策自体各国の対応はバラバラですが、「国境再開」の取り組みについても、EUとロシアの基準設定の例に見られるとおり、国際的にバラバラであることです。感染力が異常に強いコロナを前にして「国境再開」に有効に対処する上では国際協力が不可欠です。
ところが、リーダーシップを発揮するべきアメリカは、トランプ政権の場当たり対応で完全に制御不能の事態に陥っており、しかも、WHOから一方的に脱退するなど国際協力に背を向ける始末です。世界No.1とNo.2の米中両国が協力すれば、国際的な取り組みも可能になるはずですし、それこそが今世界でもっとも切実に求められていることです。中国は一貫してそのことを提起しています。ところがトランプ政権は、新型コロナ・ウィルスを「中国ウィルス」「武漢ウィルス」「カンフー・ウィルス」などと呼び、自らの失政を棚投げして中国に責任をなすりつけることに全力を傾ける始末です。これほど世界的に絶望的な状況は第二次大戦後の世界ではじめてです。
7月12日付けの朝日新聞は、日本も出入国緩和に乗り出していることを取り上げる中で、「台湾からの入国緩和は自民党保守系議員らの要望」であると指摘し、安倍首相が「台湾を先行させてね」と指示したと報道しています。EUやロシアは曲がりなりにも緩和基準・指標を示しています。しかし、安倍政権は、そうした緩和基準・指標を示すことに頭をめぐらすことすらなく、日本的「政治優先」のご都合主義がありありです。国際政治も絶望的状況ですが、日本政治はそれに数倍も輪をかけて絶望的で、もはや手の施しようがない、といっても過言ではないでしょう。