トランプ&ポンペイオの中国批判発言(環球時報社説)

2020.05.05.

昨夕(5月4日)のBS1のニュースを何気なく見ていて驚愕しました。トランプ大統領が、新コロナ・ウィルスの発生源は武漢の研究所だと述べたこと、そしてポンペイオ国務長官も同じ発言を行ったことを淡々と報じていたのです。確かに、トランプとポンペイオは盛んにこの種発言を繰り返しています。
しかし、WHOや世界的に権威がある科学誌『ネイチャー』をはじめとして、名だたる専門家、研究機関が異口同音にトランプ等の発言を否定していること(ウィルスの発生源は自然界であると指摘していること)、また、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズをはじめとするアメリカの主要メディアが、トランプ以下の発言は大統領選挙目当て(新コロナ・ウィルスを軽く見て初動が遅れ、その後も対策が後手に回っており、トランプの最大のウリだった経済もペシャンコになって、世論調査でバイデンの後塵を拝するに至っていることをばん回するために、中国を攻撃のターゲットに選んで選挙民の関心をそらそうとしている)であることを暴いている点については、まったく口をつぐんだ「淡々さ」なのです。
アメリカの雑誌『ポリティコ』は、大統領選挙に向けた共和党ブレーンによる選挙指南書の存在を明らかにし、その要諦は「トランプをかばう議論はせず、もっぱら中国たたきに専念するように」ということだと紹介しました。トランプ、ポンペイオは正にこの指南書と同じラインで突っ走っているのです。BS1ニュースの「淡々さ」は巨悪の隠れ蓑になっているのでした。
私はBS1のニュースは、その淡々さの故にイライラ感に襲われることがなく、これまで比較的安心して見てきました。しかし、「淡々さ」がこのような偏向報道を生む事実を目の当たりにして、改めて愕然とした次第です。もっとも、「何を今更」と感じる方もおられるかもしれませんが。
同時に、トランプやポンペイオが平然とウソをつくことは今や、日本を含め、世界の公知の事実になっているにもかかわらず、こと中国にかかわる問題となると、上記のようなニュース報道が相変わらず出回るというのは、中国に対する偏見の根深さ(トランプのウソも中国に関しては通用してしまう恐ろしさ)を物語っているものだとも思い知らされた次第です。その点は中国も認識を深めつつあります。
トランプ、ポンペイオの執拗な攻撃発言に対して、中国のメディアは総力を挙げて立ち向かっています。環球時報社説も例外ではありません。しかし、4月27日及び28日付けで連続掲載の社説は、世界特に西側のメディアがアメリカによって牛耳られ、支配されている状況が続く限り、中国がどんなにシャカリキに頑張っても世論戦に勝てる見込みはないとして、「中国人は、心穏やかに、確信と忍耐心を持とう」(27日)、「焦る必要はない、時間は我々の側にある(我々の味方だ)」(28日)という言葉で結んでいるのが印象的です。中国側の問題意識の所在を垣間見ることもできる内容ですので、両社説の大要を紹介します。

<4月27日付け「中米ウィルス懸隔 フェイク・ニュースを圧倒するだろう」>
 トランプ政権の中国に対する「失敗をなすりつける」大作戦戦略は、西側世論を対中攻撃に引き込んで、中国の国際世論環境を悪化させている。こういう状況下で、中国人は感情を落ち着かせる必要がある。我々のウィルスとの戦いが成功であることは間違いなく、米欧で多くの死者が出てしまったことが中国の責任でないことも確かなことであり、これらの事実をひっくり返すことはできっこない。
 ウィルスとの戦いは持久戦であり、中米の対応における歴然たる違いはまだほんの始まりに過ぎない。今後については、中国はますます安定に向かい、物事を秩序だって進めることになるだろう。アメリカについては、内輪げんかをしながら、中国に濡れ衣を着せ続けようとするのであれば、どうぞお勝手に、である。事実の重みは今後ますます重さを増し、最終的には、ワシントンがばらまいてきた大嘘を圧倒するだろう。
 アメリカの医学界の専門家は、今年の冬あるいはこの秋からアメリカに第二波のピークが来ると予測している。第二波はグローバルな挑戦であり、アメリカは激甚災害地域となるだろうが、中国はそうならないだろう。中国は武漢での暴発という教訓をくみ取っており、経済は回復しつつあるが、ウィルスとの戦いに気を緩めるということはまったくあり得ない。中国各地で構築された対ウィルス・システムは新たに出現する伝染の連鎖に即刻対処する能力を持っている。たとえ局地的に感染が広がったとしても、我々には今やこれに対応するのに十分な経験を持っている。
 アメリカはどうやらまったく反対の見本のようだ。アメリカは経済ストップに中国より多くの時間を費やしてきたのに対ウィルスの効果はまだごく限られたものであるし、中国のようなウィルス・コントロールはまったくできていない。ウィルスが何らかの奇跡によって突然消え去るということでもない限り、アメリカの現在のやり方を以てしては短期間の内に「感染ゼロ」を実現することはまったく不可能だ。
 中国の黒竜江省で最近クラスターが発生し、全国の注目するところとなったが、このことは正にウィルスとの戦いという心構えが深く人心にしみ通っていることを示している。アメリカはどうかといえば、感染が多くなっても少なくなっても曖昧模糊としたままである。アメリカは今日に至るもまだ「感染ゼロ」に向けて全力を傾ける能力を備えるに至っていないし、第二波に有効に備えるための備えができているとも見えない。
 ワクチン及び特効薬の研究開発は困難を極めるプロセスであり、かくも深刻な事態を前にしては、仮にワクチン等ができたとしてもその効果は限られている。「集団免疫」はまったく非現実的であり、WHOは病気から回復したものが第二次感染に対して免疫力を持つか否かについて、目下のところ証拠はないと述べている。したがって最低限来春までは、ウィルスとの戦いは社会の組織能力にかかるところが大であり、コミュニティ・レベルにおけるウィルスに対する基礎的文化によって決まるのであって、この点ではアメリカは明確に欠陥があるし、今日に至ってもウィルスの戦いで所要の調整もできていない。
 中国が経済回復とウィルス対策とを最大限に適合させ続けさえすれば、生産再開とウィルス対策との間で右往左往し、ますます状況が惨めになるアメリカは、ウィルスに関して中国を非難する世論動員力を次第に失っていくだろう。トランプ政権は死亡者が10万~20万になると予想していたが、その後5~6万人と楽観的な数字を示すようになった。ところが現在の死者数はすでに5.4万人を超えており、秋にもう一度感染の大爆発でもあるならば、中国に濡れ衣を着せようとするアメリカの世論説得力はますます大変なチャレンジに直面するだろう。
 アメリカ政府は生命をなんとも思っておらず、頭の中にあるのは選挙だけで、とにかく中国をスケープ・ゴートにしようとしている。しかし中国は、ウィルスを断固抑え込み、経済活動の回復率を高める固い決意であり、その決意の固さは盤石のごときものがある。もちろん、このプロセスの中では多くの国際的な変化が起こるだろう。ウィルス爆発以来の事態の動きは完全に人々の予想を裏切ってきている。中国が本当にしっかりやっていけば、アメリカは間違いなく中国をスケープ・ゴートに仕上げようとシャカリキにかかってくるだろうが、我々が世論のパラダイムを転換させるチャンスは多くなっていくだろう。しかも、いかなる国家をとっても、その世論上のイメージというものは最終的には作り出していくものであって、でまかせの発言や作り事によって作り出すことはできないものだ。中国人は、心穏やかに、確信と忍耐心を持とう。
<4月28日付け「中国真っ黒塗りつぶしの4つの政治的心理的原動力」>
 ワシントンが開始し、西側一部世論が呼応している中国非難の大波は、一体何が原因なのだろうか。我々は、4つの原動力が働いているとみている。
 第一、共和党政権は、選挙に勝つため、自分のウィルス対策の失敗を中国に押しつける切迫した政治上の必要があること。
 第二、アメリカは中国を戦略的な競争相手と見なしており、この点では超党派の「共通認識」があること。今回のウィルス問題における中国の危機処理能力と工業生産能力はアメリカの政治エスタブリッシュメント全体の危機感をさらに増幅した。中国をさらに強くさせるわけにはいかない、中国に対する面倒をもっと増やす、世界的に中国に対する憎しみを大いにあおり立てる、以上のことがアメリカ以下の西側エスタブリッシュメントの間でできあがりつつある共感であり、暗黙の了解なのだ。
 第三、人情としての嫉妬。中国のウィルスの状況が米欧同様の状態であり、西側と「苦楽をともにする」状況にあったならば、彼らの気持ちはもっと安らかだっただろう。ところがひとり中国のみが突出し、経済は同じように停滞したが、中国は根本から好転に向かっているのに、米欧はほんの少し改善したに過ぎない。こんな時、中国が「ウィルスの源だ」と罵り、中国は数字を偽っていると言いつのることにより、西側の心理は安らぐわけで、受けが良いというわけだ。
 第四、何事かがあると「野次馬」根性が出るということ。各国はウィルスで苦境にあり、人々の恨みは募っている。アメリカは中国がうまくやっていることに対して率先して罵り、しかも「中国に賠償させる」という現実味がない状況まで作り出している。これを見た連中が一緒になって騒ぎ立て、あるいは賠償請求の仲間入りすることで中国から何かをせしめようとすることは、「有益無害」と考えられている。
 中国人は次のことを見て取る必要がある。このような面倒事を招くというのは我々の意志によってはいかんともしがたく、根本的には、我が国の国際世論環境が悪化したのはアメリカが先頭になって起こしたものであり、これは中国が成長し、大きくなったことの代価であるということだ。大国になるに当たっては、大国になる前の戦略的圧力にさらされないというあののんびり感を犠牲にする必要がある。我々がうまくやればやるほど、アメリカ及びその同盟国からの攻撃はますます増える可能性があるのであって、我々としては泰然自若としてこれを受け入れるしかない。
 我々はこれまでアメリカ及び西側の態度を重視しすぎてきた。これからは、彼らに攻撃されるということを常態としてこれに適応しなければならず、しかもその際には、彼らの攻撃と我々の成績及び問題との間の関係を正確に整理して明確にすることができるようにならなければならない。彼らが大々的に我々を非難したらたちどころに反省し、やり方を調整するという必要はないのであり、彼らが攻撃してくるということそのものが我々のやっていることの正しさを証明している、そういう意識を強く持つべきである。
 中国を罵る以上の4つの原動力は消し去りようがない。中国の成長がアメリカに不安感を抱かせるような規模にまでなるということは、我々が百年にわたって夢見てきたことだ。我々に必要なのは実現した状況に心を安んじるということである。我々は本当に大人になったのであり、来たるべき雨風を毅然と受け止めるしかないのだ。
 大人になったことに慣れれば、それで大丈夫だ。アメリカが今後我々にきれい事を言うことはあり得ず、あるのは非難また非難だろう。アメリカの回りにはオーストラリアのような取り巻きもいる。彼らが何をしようとも我々にはなんともない。中国としては自分のことを精一杯やることであり、アメリカに従いもせず、本気になって対抗するということもせず、自らの問題は自分で真剣に正すだけであって、アメリカが非難するかどうかとは関係ない。ひたすら前進するというのが我々の唯一の目標だ。
 アメリカと西側の世論の能力は我々よりは強大だ。我々は当分の間はかなわない。しかし、中国が持続的に発展し、自らのことをますますうまくやるようになれば、そのことが世論のパラダイムを次第に変えていくだろう。焦る必要はない、時間は我々の側にある(我々の味方だ)。