「中国的民主」とは何か

2020.05.02.

4月29日の学習時報(中央党校機関紙)WSは、「党の大衆組織のリーダーシップによる郷村協商ガヴァナンス」と題する文章を掲載しました。この文章は、農村における協商民主の現状と問題点を指摘したものです。なお、中国語の「協商」とは「協議」、「話し合い」という意味です。
 中国の「協商民主」は、「選挙民主」とともに「中国的民主(デモクラシー)」を構成する要素とされているものです。「中国的民主=選挙民主+協商民主」ということになります。私はかねてから、このコラムで「協商民主」について紹介したいと考えてきました。
「中国には民主主義はない」というのが日本を含む西側の受け止めです。しかし私は、中国は中国なりの「民主(デモクラシー)」、すなわち「中国的民主」を真剣に模索し、試行錯誤をしていると受け止めています。「中国的民主」を優れて「中国的」なものとしているのが「協商民主」です。冒頭の学習時報所掲文章は、もっとも基層レベルである郷のさらに基層にある自然村における協商民主の実情を報告しているものです。
 ちなみに、中国の行政区分は、中央(国家)-省(自治区、直轄市)-市(地区、自治州、盟)-県(区、旗、県級市)-郷(鎮、街道)です。選挙法に基づき、県及び郷の人民代表大会(日本でいう議会)の代表(日本でいう議員)は、直接選挙で選出されることになっています。行政機関の郷・鎮以上のレベルの指導者は郷・鎮の人民代表大会による間接選挙で選出されることになっています。この文章が取り上げている直接選挙で選ばれる村民委員会は「村民の自治組織」という位置づけであり、行政機関ではありません。
 なお、「協商民主」が何ものであるかの説明なしでこの文章だけを紹介するのは、「手抜き」になります。そこで、かねてから紹介したいと思っていた、「協商民主」に関する詳しい説明を行っている文献も取り上げることにしました。昨年(2019年)9月20日付けの人民日報に掲載された、教育部習近平新時代中国特色社会主義思想研究中心「協商民主:人類政治文明における中国の智慧」です。まず、この文献のさわり部分を訳出して紹介することで、「協商民主」とは何ものであるかについての説明とします。その上で、学習時報の文章を訳出紹介する形をとろうと思います。
 1と2の関係については、1(3)の第4段落が取り上げている「基層協商」が一般的説明で、2はその今日的問題点を扱っていることになります。

1.「協商民主」とは何か
(1) 協商民主の展開
 2007年に国務院新聞弁公室が発表した「中国政党制度」白書は、「選挙民主と協商民主との結合が中国社会主義民主の一大特徴である」と指摘した。18回党大会は、「社会主義協商民主制度を健全にする」と提起、2015年に中共中央は「社会主義協商民主建設に関する意見」を発表、19回党大会は、「社会主義協商民主の重要な役割を発揮させる。問題があればよく相談し、みんなの問題はみんなで相談する。これが人民民主の真の意義である」と提起した。
(2) 協商民主と中国の国情
 協商民主はなにゆえに中国大地で生まれ、育つことができたか。そのカギは、協商民主が我が国の文化伝統にマッチし、我が国の国情に適合していて、どっしりとした文化的、理論的及び実践的基礎を備えているからである。
 民主制度は実践の中で形成されるものであるが、理論的な支えと導きも必要である。社会主義協商民主は、マルクス主義民主理論、党の大衆路線及び統一戦線の理論などの理論的指導の下で段階的に形成され、発展してきたものである。
マルクス主義民主理論は、人民の当家作主を重視し、人民が選挙権を有するだけではなく、国家を管理する平等の権利をも有することを強調する。党の大衆路線は、すべては大衆のためであること、すべては大衆に依拠すること、大衆の中から来て大衆の中に入っていくこと、党の正しい主張を大衆の自覚的行動に変えること、を強調する。統一戦線は、中国共産党と、各党派、各団体、各民族、各界人士との団結合作、協商共事し、共同の目標を実現するために奮闘することを強調する。
社会主義協商民主は、マルクス主義民主理論の生き生きとした実践であり、中国共産党の大衆路線の政治領域における重要な具現であり、中国共産党の統一戦線の柔軟な運用である。習近平は次のように指摘している。「社会主義協商民主は、中身が備わったものであるべきであって外見的なものではなく、全方位的であるべきであって局限的・片面的ではなく、全国のあらゆるレベルで行うべきであってあるレベルだけに限らない。」
(3) 協商民主の中国的独自性・独創性
 協商民主は、中国社会主義民主政治における、独特、独有、独到の民主形態である。独特の文化的伝統、歴史的命運、現実的国情により、社会主義協商民主は独特の形態と内容を備えている。
 政治協商会議における協商は我が国特有の協商民主形態である。人民政治協商会議はもっとも広範な愛国統一戦線組織であり、中国共産党が領導する多党合作及び政治協商の重要な機構であり、中国の国情に適合した、中国の特色ある重要な制度的アレンジメントであり、協商民主の重要なチャンネル及び協商専門機構である。中国共産党の領導のもとで、人民政治協商会議に参加する各党派団体、各族各界人士は団結と民主という二大主題にかかわって、政治協商、民主監督、参政議政という職能を担い、国家大政方針及び地方的重要事項、並びに経済、政治、文化及び社会生活中の重要問題に関して、政策决定前及び政策実行過程において広範に協商し、共通認識を凝集する。
 中国共産党が領導する多党合作協商制度は独特の特色を持った政党制度である。中国の政党制度は一党制でもないし、多党制でもなく、中国共産党が領導する多党合作及び政治協商の制度である。この政党制度は、共産党が領導し多党派は合作する、そして共産党が執政し多党派は参政することを基本的特徴としており、長期共存、肝胆相照、栄辱与共を堅持し、中国の土壌から生まれ育ってきた新しいタイプの政党制度である。政党協商は、中国共産党と各民主党派が共同の政治目標に基づき、会議協商、約談協商、書面協商などの形式を通じて、党及び国家の重大方針政策及び重要事項に関して、政策决定前及び政策実施過程中に協商を行う。
 基層協商は、中国の特色ある社会主義民主政治の重要な要素である。改革開放以来、我が国の基層においては大量の協商民主の実践が沸き起こった。人民大衆の利益にかかわる大量の政策及び工作は主に基層レベルで発生する。人民大衆の実際の困難及び問題をより良く解決し、基層の矛盾・紛争を適時に解消するため、改革開放以来、我が国は村(居)民会議、村(居)民代表会議、村(居)民議事会、村(居)民理事会、懇談会などの基層協商民主形式を模索し、設立してきた。これらの基層協商は、人民大衆が協商に直接参与し、民主的権利を直接行使し、法律に基づいて自らが管理、サービス、発展を進める主要な形式であり、民主監督を実行する主要なチャンネルである。
(4)不断に顕彰される社会主義協商民主の独特な優位性
 民主を実現する形式は豊富多彩であり、ステレオタイプに拘泥することはできない。世界には、どこにもぴったり当てはまるような模範的モデルは存在しない。いかなる民主が適合しているかは、一国のガヴァナンスにおける実際の効果を以て判断するべきである。我が国の社会主義協商民主は、人民民主の重要な形式として独特の優位性を示し、巨大な優越性を顕彰している。
 協商民主は、広範な人民が確かな民主的権利を享有することを可能にしている。政治参与は公民が民主的権利を行使する重要な手段であり、選挙民主と協商民主は公民が政治参与するための二つの重要な手段である。
選挙は重要な民主的権利である。しかし、選挙には周期性があり、選挙投票時にこの民主的権利を行使することができるのみであって、公民の政治参与には時間的制限がある。習近平は次のように指摘している。人民が民主的権利を享有しているかどうかは、選挙時に人民が投票する権利を有するか否かを見る必要があり、日常政治生活の中で持続的に参与する権利を有するか否かも見る必要がある。すなわち、人民が民主的に選挙する権利を有するか否かを見る必要があり、人民が民主決定、民主管理、民主監督を行う権利を有するか否かをも見る必要がある。我が国は、人民民主を実行し、人民の当家作主を保証しており、選挙外でもさらに、人民内部の各方面で広範な協商を行うことを求めている。協商民主は、公民が公共事務の討論、協商、管理に参与することを強調し、公民の政治参与のチャンネルを広げ、民主の形式を豊富にし、民主の内実を深化させ、民主の品質を高めることにより、人民の当家作主の権利を効果的に保障している。
 協商民主は有効な国家ガヴァナンス方式である。国家ガヴァナンスは公共政策の科学化と民主化を内在的に要求する。協商民主は、公民の公開討論、理性協商を強調している。協商民主は、社会各方面の意見、願望及び要求を系統的、総合的に反映し、人々の声を広く聞き入れ、人々の智慧を広く集め、政策決定における情况不明及び独りよがりの弊害を有効に克服し、公共政策決定により多くの情報とより全面的な視覚を提供することに資する。協商民主はまた、公共権力に対して有効な監督を行い、公共政策決定がセクト化、私利化することを防止し、公共政策決定の科学化と民主化を促進し、国家ガヴァナンスの有効性を向上するのにも資する。
 協商民主は、矛盾衝突を解消し、社会の和諧安定を促進する面で独特の優位性を有する。協商民主は、人々が有効な意思疎通を行い、充分に交流し、意見を交換することを強調し、最大公約数を追求し、最大のコンセンサスを凝集し、より合理的、より十全な解決プランを形成することを強調する。これは、各方面の意見と利益を充分に考慮するウィン・ウィンであり、矛盾衝突を解消し、社会の和諧と安定を促進することに有利である。
新たな歴史条件の下、社会構造と利益のパラダイムは深刻に変化し、新たな社会階層は不断に勃興し、思想は日増しに多様化している。改革発展安定のさまざまな任務を完成するためには、協商民主を継続的に発展、改善し、手続きが合理的で、プロセスが完璧な協商民主システムを構築する必要があり、我が国に根を下ろし、源があり、生命力があるこの民主形式が巨大な優位性と旺盛な生命力を不断に顕彰するようにしていく必要がある。
2.郷村協商ガヴァナンス
 農村の基層党組織の大衆組織力を高めることは、農村の基層党組織の政治的優位性を郷村協商民主の発展の優位性に転換させ、農村ガヴァナンスの活力を不断に刺激し、共建共治共享という郷村ガヴァナンスの新たなパラダイムを作り出し、郷村ガヴァナンスの現代化を推進する。
<郷村ガヴァナンスにおける基層民主の役割>
 1980年代以後、家庭生産請負責任制を実行するプロセスの中で、村民委員会という組織形態を創立したことにより、我が国農村基層レベルの大衆的自治組織は強大な生命力を発揮し、実践の中で不断に発展し、生長することとなった。村民自治は我が国基層民主の実践における新たな創造であり、人民大衆の参与への積極性を引き出すことに資し、民主選挙、民主管理、民主決定、民主監督という基層民主実践スタイルを徐々に形成してきた。
数十年の実践を経て、村民自治は郷村ガヴァナンスの重要な組織制度となり、農村大衆の民主参与意識を引き起こし、基層民主選挙は民心に深く入り込み、郷村社会の秩序的運営を推進することに重要な役割を発揮してきた。しかし、村民自治の実践の中で、「選挙重視」及び「ガヴァナンス軽視」によって民主的選挙と民主的ガヴァナンスとの間の「ちぐはぐ」が生まれた。
つまり、民主選挙の価値だけが突出して広範な村民に受け入れられ、民主管理、民主決定及び民主監督の進展が緩やかになったのだ。その結果、「両委」(党支部委員会と村民委員会)のスタッフは民主的手続きに従って厳格に選挙で選出され、民意を反映し、民智を集中することになったが、多くの村におけるその後のガヴァナンスは必ずしも人々の期待に添うものとはなっていない。具体的には、ガヴァナンスはお役所的になり、村民の参与は単一化され、村務監督の形式化が突出するなど、多くの村におけるガヴァナンスは活力に欠けるものとなっている。
郷村社会が伝統型から現代型に転換するに従い、伝統的な顔なじみ社会共同体は分解しはじめ、村民の「個人化」「原子化」が進み始め、農村の基層ガヴァナンスはかつてない挑戦に直面している。このことは、郷村ガヴァナンスにおける基層民主の役割をさらに発揮させなければならなくしている。
<郷村自治の活力をかき立てるメカニズムとしての協商民主>
 18回党大会以来、人々は社会主義協商民主の優越性を徐々に認識し、また、農村基層民主は大いに発展して、村民自治に新たな発展の活力を注入した。選挙民主と異なり、協商民主では対話を中心とすることが強調される。多元的な利益主体は、平等な対話の基礎の上で、自己の主張を述べて他人を説得し、あるいは他人の観点を傾聴して、科学的合理的な手続きを運用するプロセスの中で公共的利益の最大化を不断に実現していく。つまり、協商民主は多様性、臨機応変性、全行程性、常態性という特徴を備えており、多種多様な形を通じて弾力的に協商を展開することができる。このような民主協商が村の日常的ガヴァナンスに一貫することは、民主管理、民主決定、民主監督のための最善の組織実践形態であり、村民自治の活力を効果的に引き出すことができる。
 まず、協商民主は多様性と柔軟性を備えており、村民自治の実践の中で、村民は公共的問題の性質、関係する利益の範囲、活動地点及び人々の要求等に基づき、柔軟で多様な協商形式を採用し、基層ガヴァナンスの効率を高めることができる。また、協商民主は選挙民主とは異なり、問題の軽重緩急、公共事務の管理・決定の必要性に応じて、臨機応変に協商手続きを起動し、協商を村民自治の全プロセスの中に貫徹させ、民主的参与と基層自治常態化を実現し、村民の持続的な協商インタラクションの中で村の各要素の内在的連携を強化し、自治の活力を引き出すことによって農村コミュニティを再建することができる。
<郷村協商民主の生命線としての党の大衆組織力>
 党が農村を管理することは、長期にわたって我が国農村工作の重要な経験であり、原則である。したがって、農村基層協商民主を推進する上では、基層党組織の役割を十分に発揮し、実践の中で組織力向上を重点として、基層党組織の建設を強化し、郷村協商ガヴァナンスに対して堅固な組織的保証を提供する必要がある。具体的には、
 第一、組織力を統率することにより、郷村協商民主を巧みにチェックする。
 第二、大衆に服務することを信条として、郷村協商民主の合法性と団結力を増強する。
 第三、組織システムの創新をカギとして、郷村協商ガヴァナンスの組織的担い手を再建する。
 第四、幹部隊伍の建設を柱として、党員幹部の協商ガヴァナンス能力を向上する。