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日韓紛争と南北関係
-朝鮮中央通信報道の整理-

2019.08.22.

最近、日韓の現在の紛争・対立に対する朝鮮の立場に関して、私が常々注目している中国の李敦球と韓国・ハンギョレのイ・ジェフンの分析に注目しました。8月15日付のハンギョレ日本語版WSに掲載されたイ・ジェフン署名文章「金正恩、日本をバッシングしながらも"反日協力"はしないツートラック戦略」は次のように分析しています。「安倍政権の行動を激しく非難するものの、南北当局レベルの協力は推進しない「金正恩流の二重軌道(ツートラック)戦略」だ」という最後の文章にイ・ジェフンの見方が凝縮されています。

 "金正恩の選択"を推測する糸口は北朝鮮メディアの報道にある。労働党中央委員会機関紙で最高権威の"必読メディア"である「労働新聞」と、代表的な対外メディアである「朝鮮中央通信」は連日、安倍政権の行動を批判し、不買運動など韓国社会の動向を詳細に報じている。「労働新聞」は7月10日付で、安倍政権の「輸出規制措置」を北朝鮮メディアでは初めて取り上げており、「わが民族は千年宿敵の日本の罪悪を必ず千百倍に清算していくだろう」として攻撃を始めた。安倍政権の意図に対する分析は「朝鮮中央通信」の論評(7月19日付)によくまとめられている。第一に「朝鮮半島の平和気流の破壊」と「軍国主義の野望の実現に有利な政治環境作り」、第二に「南朝鮮(韓国)経済への打撃」と「親日賦役派勢力の政権創出の道を開くこと」、第三に「主人(米国)を刺激し、朝鮮半島問題で排除された自分(日本)の利益を重視してもらおうという打算」、第四に「右翼勢力の結束、憲法改正など宿望(長年の願い)の実現」などだ。そして「日本は謝罪し、賠償しなければならず、それなしには絶対に平壌行きの切符を手にすることはできない」と強調した。
 強硬な対日姿勢といえる。ただし、注目すべき部分がある。北朝鮮は外務省報道官の談話やインタビューなど、同問題と関連した当局レベルの公式見解を出していない。北朝鮮は韓国に当局レベルの協力も提案しなかった。要するに、韓日の対立局面で金委員長の立ち場は"行為者"ではなく、"論評者"に近い。安倍政権の行動を激しく非難するものの、南北当局レベルの協力は推進しない「金正恩流の二重軌道(ツートラック)戦略」だ。
 李敦球も「日韓貿易戦争」に強い関心を示し、「韓日貿易戦:東北アジア地縁政治変型における陣痛」(7月17日付中国青年報。7月24日付で再録)及び「経済の範疇を超えた韓日紛争の影響」(8月14日付同報)で分析を加えています。前者では、文在寅政権登場後の日韓関係の変化について次のように分析しています。
 韓日貿易戦争の実質は政治闘争そして外交戦略上の力比べの延長である。韓日の矛盾が今全面的に爆発したのは決して偶然ではない。2017年に文在寅が政権について以来、朝韓関係改善、半島情勢の顕著な緩和、それと同時の韓日関係の急速な冷却があり、‥特に「従軍慰安婦」、日本企業の強制徴用工等の歴史問題が一貫して韓日関係の正常な発展を妨げてきた‥。(中略)
 朝韓関係と朝米関係は目下不断に改善しており、半島情勢もさらに緩和しつつあって、各国は半島核問題の解決に努力すると同時に、冷戦の残している束縛から半島が早く抜け出し、停戦体制を平和体制に転換させるべく努力しているところだ。この歴史的変化は東北アジアにおける地縁政治の構造及び秩序を打破し、特定国(注:アメリカ)の地縁政治上の利益に衝撃を与え、東北アジアの地縁政治の陣痛を引き起こしている。現在の韓日の矛盾の集中的爆発はこの地縁政治の陣痛の具体的表れの一つであり、短期間でこの陣痛がおさまるのはおそらく困難である。東北アジアの地縁的再構成が完成し、東北アジア経済共同体及び運命共同体が実現するときにのみ、東北アジア地域はよりよい形での融合が進み、より和諧的な発展に向かうことができるだろう。
 以上の分析の上で、8月14日の文章では韓日貿易戦争に対する朝鮮の立場に言及しています。イ・ジェフンとは異なり、李敦球は「朝鮮は旗幟鮮明に韓国を支持している」として以下の判断を示しました。
 韓日貿易戦争が始まってから、朝鮮は旗幟鮮明に韓国を支持している。7月19日、朝鮮中央通信は日本の韓国に対する輸出規制措置は完全に不法であり、韓国を害し、自らを利するものだと批判した。7月28日付の労働新聞署名文章は、「今回日本がとった輸出規制措置は経済的に韓国を飲み込み、最終的にこれを新植民地に変えようとする凶悪無比の侵略的行動だ」と述べた。(中略)日本と朝鮮半島の地縁構造上の矛盾は余すところなく暴露され、東北アジアの地縁政治秩序が今まさに歴史的な本来の姿に戻ろうとしているのかもしれない。
 ただし李敦球は8月15日付の「朝鮮が新型ミサイル発射で韓国に警告した理由如何」で、朝韓関係の改善と和解が順風満帆ではなく、アメリカによる掣肘及び国連安保理関連決議による制約を受けるなど、非常に大きい制約を受けていることを指摘し、南北関係が必ずしも順調ではないという認識も示しています。
 朝鮮が今回(7月25日)新型ミサイルの発射実験を行ったことは朝韓関係、朝米関係及び半島情勢に大きな衝撃を及ぼすものではないというのが一般的な見方だ。多くの事実が証明するとおり、金正恩と文在寅は朝韓関係の改善及び発展を願っている。しかし、朝韓関係の改善及び和解の道筋は順風満帆ではあり得ず、直面する阻止力はあまりにも大きい。例えば、文在寅は朝鮮との経済協力及び交流を進め、朝韓の鉄道及び道路を修復、開通したいと思っているが、アメリカの掣肘及び安保理関連決議の制約を受けて、成果は非常に限られている。
 朝韓が双方の関係を改善しようとすることがなにゆえにかくも困難なのか。根本の原因及び出口はどこにあるのか。根本の原因は冷戦メカニズムが朝韓の和解プロセスを束縛していることにある。新たな平和メカニズムを樹立するまでは米韓同盟関係が動揺することはなく、米韓合同軍事演習は毎年続くに違いなく、軍事演習の目標及び仮想敵は半島の北側になることは当然だ。したがって、朝韓関係を改善し、半島情勢を緩和する根本的な出口は、冷戦が残しているメカニズムによる半島に対する束縛を速やかに解放し、1953年の停戦協定及び米韓同盟条約を速やかに廃止し、朝韓関係改善と発展にとっての障害を除去することにある。
 前置きが長くなりました。私の関心も、今回の日韓関係の悪化に対する朝鮮の立場が那辺にあるのかにあります。今回、イ・ジェフンと李敦球の分析が以上のように異なっていることに刺激を受け、朝鮮中央通信の本年初以来の報道に当たって検証する必要があると感じました。結論から言えば、日韓対立に関する朝鮮の立場に関してはイ・ジェフンの分析が正しいということです。
 朝鮮中央通信が日本の対韓輸出規制に関して最初に報道したのは7月11日付の「南朝鮮大学生たちが日本の輸出規制措置に抗議して闘争」と題する記事でした(私が整理した限りでは、イ・ジェフンが言及している7月10日付の労働新聞の文章は朝鮮中央通信では紹介していません)。そして、7月18日付の「日本は被告席にある」、翌19日付の「政治的利をむさぼろうとうる日本の不当な輸出規制措置」(イ・ジェフンと李敦球がともに取り上げた文章)及び「日本の未来は過去清算にある」と、同通信は立て続けに3本の論評を発表しました。その後同通信は、7月25日付の「反帝民戦中央委 反日・反保守闘争へ呼びかける檄文を発表」、7月27日付の「南朝鮮で反日闘争を広範に展開」、7月28日付の「「労働新聞」 再侵略野望を実現しようと狂奔する日本を糾弾」(李敦球が言及しているもの)を紹介しています。また、7月31日付の同通信は、韓国が日本に対抗する措置の一環で検討している日韓「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)廃止(または同協定に基づく日本に対する情報提供中止)問題を取り上げ、「戦争協定は早急に破棄されなければならない」と題する論評でその廃棄を主張しています。その後も、8月6日付の「南朝鮮の各地で日本の相次ぐ経済制裁措置に抗議する闘争を展開」、15日付の「朝鮮人強制連行被害者、遺族協会代弁人、日本の罪科を絶対に忘れられない」といった報道が続いています。これらの報道に一貫しているのは、「韓日の対立局面で金委員長の立ち場は"行為者"ではなく、"論評者"に近い」(イ・ジェフン)姿勢です。李敦球が指摘するような「旗幟鮮明な韓国支持」ではありません。
 私は、本年初からの北南関係に関する朝鮮中央通信の報道(残念なことは同通信が紹介する労働新聞及び民主朝鮮の文章はごく簡単な要約であることです)を読み返して、公式報道の中に朝鮮から韓国に対する様々なメッセージが込められていることに気づかされました。こうしたメッセージを文在寅政権が適時に受け止め、これに真摯に対応してきたならば、現在のような事態(文在寅政権に対する朝鮮の突き放した姿勢)を避けることは可能だったのではないかと思います。現在の日韓対立に関する朝鮮の立場に即していえば、文在寅政権に対して厳しい見方を強めつつあった朝鮮が文在寅政権に「肩入れ」することはあり得ないことも分かるわけです。
 金正恩委員長の「新年の辞」が発表された直後(1月3日付)の労働新聞署名入り論評「北南関係は朝米関係の付属物になるわけにはいかない」は、文在寅政権に対する極めて重要なメッセージが込められていたことに改めて気づかされます。文章全体は北南関係の前進を妨げようとするアメリカに対する批判なのですが、そういう妨害、干渉をはねのけて文在寅政権が行動することを促す次の指摘は、トランプ政権の顔色をうかがいながら行動する文在寅政権に対する強い警戒と警告であったことが分かります。
 ‥北南関係と朝米関係の政治地形を変えた朝鮮半島の巨大な地殻変動と共に昨年の一年間に北南間に想像もできなかった驚くべき変化が起こったことだけは事実であるが、突きつめて見れば形式はあるが内容はなく、音は大げさであるが実践はないというふうにほとんど足踏みと沈滞状態に置かれているのがまさに、北南関係である(強調は浅井。以下同じ)‥。(中略)
 ‥今こそ、わが民族がこの機嫌、あの機嫌を取りながらぐずぐずし、後ろを振り返る時ではなく、いっそう果敢に北南関係の発展のために加速で駆けるべき時刻であり、われわれが手を取り合って駆けていく時、朝米関係もついて来るようになっているということは昨年が示した経験、教訓である‥。(中略)
 北南関係は北南関係であり、朝米関係はあくまでも朝米関係である。
北南関係は決して、朝米関係の付属物になるわけにはいかない
 1月5日付の朝鮮中央通信は、「朝鮮半島を恒久的かつ強固な平和地帯にするという意志」と題する文章で、金正恩委員長の新年の辞における「北南間の軍事的敵対関係を根源的に清算し、朝鮮半島を恒久的かつ強固な平和地帯にする」ことに関する声明には多国間協議の推進及び米韓合同軍事演習の中断が含まれると、次のように早くも指摘していました。
 最高指導者金正恩党委員長は、2019年の新年の辞で北南間の軍事的敵対関係を根源的に清算し、朝鮮半島を恒久的かつ強固な平和地帯にすることについて宣明した。
これには、北と南がすでに合意を見たとおりに、対峙地域における軍事的敵対関係の解消を地上と空中、海上など朝鮮半島全域に広げるための実践的措置を積極的に講じ、朝鮮半島の現在の停戦体系を平和体制に転換するための多者協商も積極的に推進して、恒久的な平和保障の土台を実質的に築くことに関する内容が含まれている。(中略)
朝鮮半島の平和を実現する道には米国と南朝鮮当局との合同軍事演習の中断と平和体制構築など、解決すべき問題が依然として残っている。
続く1月7日付の朝鮮中央通信は、「同胞の団結した力で民族繁栄の大路を開いていくべきだ」と題する文章で、北と南が外部の圧力を「粉砕」して前進するべきだと次のように主張しました(1月14日付労働新聞署名入り論説「北南宣言の履行に積極的に立ち上がるべきだ」も同旨)。
 北と南は今後も、固く手を取り合って同胞の団結した力で外部のあらゆる制裁と圧迫、挑戦と試練を断固と粉砕し、北南関係の前進をより加速化していかなければならない
北と南が志と力を合わせれば、この世に恐ろしいものもなく、不可能なこともない。
 1月15日付の「外部勢力の干渉と介入を絶対に許してはならない」と題する朝鮮中央通信の記事も、題名が示すとおり、「分裂の悲劇に終止符を打ち、国の統一と限りない繁栄を成し遂げる道で外部勢力の干渉と介入を断固と排撃し、民族自主の旗印をより高く掲げて前進しなければならない」と訴えました(1月24日付の労働新聞の書名入り論説も同じ主張)。ここで留意しておく必要があるのは、1月29日付の「全民族が志を合わせ、知恵を集めるべきだ」と題する朝鮮中央通信の記事です。ここでは「わずか一年間に過去の数年、数十年間も成し遂げられなかった驚くべき出来事的成果を収めることができたのは、北南両首脳の確固たる北南関係改善の意志とその志を体して民族の構成員みんなが歴史的な北南宣言を貫徹するためにねばり強く闘ってきた結果である」と指摘しており、この段階では文在寅大統領に対する肯定的評価がまだ維持されていることが分かります。
 しかし、韓国国防部が「2019―2023国防中期計画」を発表(1月11日)したことに対して、2月6日付の労働新聞は署名入り論評で「南朝鮮軍部の行為は朝鮮半島の恒久的かつ強固な平和を望む全同胞の志向と念願に対する挑戦であり、わが朝鮮に対する露骨な挑発である」と主張しました。翌2月7日付の民主朝鮮も同じく署名入り論評で「南朝鮮軍部は、時代の流れに逆行する武力増強策動がもたらす破局的結果について熟考し、分別のある行動を取る方がよかろう」と警告しました。そして2月8日付の朝鮮中央通信の「二重的振る舞いは許されない」と題する論評も「南朝鮮軍当局」に対して同旨の警告を行いました。さらに2月25日付の労働新聞の署名入り論評は、米第7艦隊の旗艦「ブルーリッジ」の釜山寄港に言及して、「南朝鮮での武力増強と戦争演習は意味ある第一歩を踏み出した朝米関係と北南関係改善の流れに背ちする危険な動きだと言わざるを得ない」と断言し、次のように強調しました。
 対話と戦争演習、平和と軍事的敵対行為、関係改善と軍事的圧迫は決して両立しない。
北南関係、朝米関係をむやみに扱うなら、重大な結果を招きかねない。
せっかくもたらされた朝鮮半島の平和局面が、相手に反対する軍事的敵対行為によって水泡に帰した過去を想起してみる必要がある。
危険な軍事的動きが招く悪結果について熟考し、分別のある行動を取るべきであろう。
 3月4日に米韓合同軍事演習が開始されたことに対して、3月7日付の「南朝鮮と米国が朝鮮半島の平和に逆行する新しい合同軍事演習を開始」と題する朝鮮中央通信の記事は、「南朝鮮軍当局と米国の尋常でない動きは、敵対関係の解消と軍事的緊張緩和を確約した朝米共同声明と北南宣言に対する乱暴な違反であり、朝鮮半島の平和と安定を願う全同胞と国際社会の志向と念願に対する正面切っての挑戦である」とさらに踏み込んだ批判を行いました。確認しておく必要があるのは、この段階までの朝鮮の批判の対象は「韓国軍部」であったことです。
 しかし、韓国がF35Aステルス戦闘機を清州空軍基地に配備したこと(3月30日)に対して、4月13日付の朝鮮中央通信論評「戦争装備搬入は同族に対する露骨な否定、威嚇・恐喝」は激しく反発し、批判の対象を「南朝鮮当局」(文在寅政権)としました。論評は、F35導入計画は朴槿恵政権が始めたものであることを指摘した上で、「ステルス戦闘機まで引き入れている現当局の行動が先制打撃を唱えて同族対決に狂奔していた朴槿恵「政権」時代と果たして何が異なるかと問わざるを得ない」と断じ、この「現実は、南朝鮮当局が表では和解の手を差し出し、裏では相変わらず軍事的対決の刃を研いでいることを明白に実証している」と踏み込み、「南朝鮮当局は、自分らの慎重でない行為がどんな破局的結果をもたらすかについて正しく知って、自粛する方がよかろう」と強く警告しました。
 しかし、文在寅政権が以上の警告を深刻に受け止めた気配はなく、4月22日から米韓連合空中訓練を開始しました。これに対して、朝鮮労働党の対外関係機関である祖国平和統一委員会は4月25日にスポークスマン談話を発表して、板門店宣言及び平壌宣言に対する「公然たる挑戦」、軍事分野の合意に対する「露骨な違反行為」であると糾弾、「南朝鮮当局の背信行為はわれわれをして大きな失望をかき立てる」と指摘した上で、「それ相応のわが軍隊の対応も不可避なものになりうる」と朝鮮の軍事的対抗措置の可能性を明らかにしました(4月27日付の朝鮮中央通信論評「防御ではなく、侵略戦争演習だ」も同旨)。この明々白々の警告にも文在寅政権が反応した形跡はなく、その結果、5月5日付の朝鮮中央通信が報道したように、金正恩委員長が「朝鮮東海上で行われた最前線・東部前線防御部隊の火力打撃訓練を指導」することとなります。
 以上に明らかなとおり、朝鮮の度重なる、しかも次第に重みを加える警告があったにもかかわらず、文在寅政権は適切に対応せず、米韓共同の軍事行動があたかもルーティンのように行われたことに対して、金正恩委員長は軍事的対抗措置に踏み切ったわけです。ところが米日韓は例によって朝鮮の「軍事的挑発」とあげつらう批判を行ったことは周知の事実です。これに対して朝鮮外務省スポークスマンは5月8日に反論し、さらに「(朝鮮の)自衛権を否定しようとするなら、われわれも彼らも願わない方向へわれわれを進ませる結果を招きかねない」とさらなる軍事的対抗措置に進むことを予告しました。
 その後、5月25日付の朝鮮中央通信論評「対決の腹黒い下心をきれいに払拭すべきだ」、6月7日付の労働新聞署名入り論評など、文在寅政権に対する批判が続きました。その上で6月27日、朝鮮外務省のクォン・ジョングン米国担当局長の朝米対話に関する朝鮮の立場を明らかにした談話が発表されました。ここで注目されるのは以下のくだりです。これは、米朝対話の仲介者として行動しようとする文在寅大統領に対して三行半をたたきつけたに等しいものです。「南朝鮮当局」と「南朝鮮当局者」を使い分けしているように、「南朝鮮当局者」とは文在寅大統領を指すことは明らかです。
 これに関連して自分らが朝米関係を「仲介」するかのように世論化しながら人気を上げてみようとする南朝鮮当局者らにも一言言いたい。
今、南朝鮮当局者らは自分らも一役買って何か大きなことをやっているかのように振る舞いながら自分の位置を探してみようと北南間にも相変わらず多様なルートを通じてなんらかの対話が行われているかのように世論を流している。
朝米対話の当事者は文字通りわれわれと米国であり、朝米敵対関係の発生根源からみても南朝鮮当局が干渉する問題ではない。
周知のように、朝米関係はわが国務委員会委員長同志と米大統領間の親交に基づいて進んでいる。
われわれが米国に連絡することがあれば朝米間に以前から稼働している連絡ルートを利用すればよいことであり、協商を行っても朝米が直接対座して行うようになるのだから、南朝鮮当局を通じることは全くないであろう。
南朝鮮当局者らが今、北南間にも何か多様な交流と水下の対話が行われているかのように宣伝しているが、そのようなことは一つもない。
南朝鮮当局は、内部のことから正しく処理する方がよかろう。
 ところがその後も米韓共同の軍事行動が重ねられ、6月28日付の朝鮮中央通信論評「百害あって一利なしの妄動は直ちに中止すべきだ」、7月11日付の朝鮮外務省米国研究所政策研究室長による「米国から戦闘機を納入しようとする南朝鮮当局」に対する批判が続きます。そして7月26日付の朝鮮中央通信は、前日(7月25日)に金正恩委員長が「新型戦術誘導兵器の威力示威射撃を策定、指導した」ことを報道しました。そして金正恩委員長が次のように語ったことを紹介しました。強調部分が文在寅大統領に対する金正恩委員長の直々の「アドバイス」であることは明白です。
同行した幹部と国防科学部門の指導幹部に朝鮮半島南方のやかましい情勢について説明し、最近、南朝鮮軍部好戦勢力が自分らの命脈をかけて必死に引き込んでいる最新武装装備は、隠せない攻撃型兵器であり、その目的自体も弁解する余地がなく隠せないものであると述べ、わが国家の安全に無視できない脅威となるそれらを必要であると思う初期に無力化させて使って捨てたくず鉄に作るための威力ある物理的手段の不断の開発と実戦配備のための試験は、わが国家の安全保障において急務的な必須の事業であり、当為的な活動になると語った。
南朝鮮の当局者らが世界の人々の前では「平和の握手」を演出して共同宣言や合意書のような文書をいじり、振り返っては最新攻撃型兵器の搬入と合同軍事演習の強行のような変なことをする二重的振る舞いを見せていると述べ、われわれはやむをえず南方に存在するわが国家安全の潜在的、直接的脅威を取り除くための超強力兵器システムを力強く開発していかなければならないと語った。…
敬愛する最高指導者は、南朝鮮の当局者が事態の発展展望の危険性を適時に悟り、最新兵器の搬入や軍事演習のような自滅的行為を中断して一日も早く昨年の4月と9月のような正しい姿勢を取り戻すことを願うというアドバイスを南に向かって今日の威力示威射撃ニュースと共に送ると述べた。
いくら気に障っても、南朝鮮の当局者は今日の平壌発の警告を無視してしまうミスを犯してはならないであろう
 さらに8月8日付の朝鮮中央通信は、祖国平和統一委員会による同日付の「真相公開状」を発表し、「南朝鮮当局者」が「板門店宣言に署名した時から半月もならない昨年5月11日、「国防改革」討論会なる場で「南北関係が良好になったとしても、不特定で多様な脅威に対応するためには強力な国防力が必要である」と力説し、武力増強に総力を傾けることを指示した」ことも指摘、文在寅大統領に対する金正恩委員長の警戒感が終始一貫したものであることを示唆しています。また、朝鮮外務省のクォン・ジョングン米国担当局長は、南朝鮮当局が合同軍事演習の名称を初期の「同盟19-2」の代わりに、「後半期韓米連合指揮所訓練」に変えて11日から本格的な訓練に入ると発表したことで11日、それを糾弾する談話を発表し、米朝対話が進むとしても、南北対話はおろか、接触自体が難しいとまで述べました。
 以上、長々と朝鮮中央通信の報道を紹介しました。以上の作業を行うまでの私は、南北関係さらには金正恩・文在寅関係に関する李敦球の楽観的見方を共有していました。しかし、以上の作業の結果を踏まえるとき、そのような楽観的見方を維持することは難しいと思います。
 もう一つ加えるとすれば、8月15日の韓国・光復節における文在寅大統領の南北関係に関わる以下の発言から窺えるのは、同大統領の危機感の希薄さということです(もちろん、物事が急転直下するということは常にあり得ることです。8月16日付のタス通信は、ロシア外務省のモルグロフ次官が訪朝して朝鮮外務省の崔善姫第一次官と協議した後に声明を出したことを伝えるとともに、ロシア外務省が「双方は、朝鮮半島における三国間プロジェクトを含めた現実的協力を強化する共同の努力を続ける決意を確認した」と付け加えたと紹介しています。「三国間プロジェクト」とはロシア、朝鮮及び韓国のプロジェクトを指すわけで、朝鮮が韓国との将来的協力の可能性まで閉ざしているわけではないことが分かります)。
 南北と米国は、この1年8ヶ月間、対話の局面を続けました。最近北韓による数回の懸念すべき行動にもかかわらず対話ムードが揺らいでいないことこそ、政府が進めてきた韓半島平和プロセスの大きな成果であります。一度の北韓の挑発により韓半島が揺さぶられたこれまでの状況とは大きく様変わりしています。 依然として対立を煽る勢力が国内外に少なからず存在しますが、わが国民の平和への切実な願望に支えられ、ここまで辿り着くことができました。
 今年6月末の板門店会談以降、第3回北米首脳会談に向けた北米間の実務者交渉が模索されています。おそらくこれは、韓半島の非核化と平和構築に向けた全過程における最も重大な山場になると思います。南・北・米の三国が、北米の実務者交渉の早期開催に力を集中しなければならない時期です。
 不満なところがあるとしても、対話ムードを壊したり、壁を立てて対話を妨げたりするのは決して望ましくありません。不満があるならば、それも対話の場で問題を提起し、議論すべきであります。国民の皆様にも、対話の最後の山を乗り切ることができるよう、ご声援のほど、よろしくお願いいたします。
 この危機を乗り越えれば韓半島の非核化がより一層近付き、南北関係も大きく前進するはずです。経済協力が加速し、平和経済が始まれば、いずれ自ずと統一は目の前の現実になると思います。

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