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許してはいけない安倍政権の暴走
-対韓制裁について考える-

2019.07.14.

今朝(7月14日)の朝日新聞の「(社説余滴)「報復」で解決に向かうのか」(箱田哲也-国際社説担当-)がたまたま目にとまり(私は朝日新聞社説にはうんざりすることが最近は多く、素通りが多い)、特に以下のくだりには「やっぱりそうか」と暗然とした気持ちになりました。

 今日の事態は韓国政府の無策が招いた。だが、日本の新聞なので足元の問題を記そう。
 昨年秋、徴用工裁判で日本企業に賠償を命じる判決が確定した後、政府は省庁別に対抗策を検討させた。
 多くの案の中で、ことの深刻さを伝えるには手荒なまねをせざるをえないとの判断から、対韓強硬派の政治家らが推していた今回の措置を決めた。
 政府内で「対抗措置ではない」と主張できる理論武装を重ね、G20サミットの閉会を待って発表した。(中略)
 押し続ければ相手を変えられるとの幻想は、圧力路線の転換を余儀なくされた北朝鮮政策に重なる。
 まして最近の日本では、問題の解決より韓国を苦しめることが目的であるかのような言説も飛び交う。だが過去の問題のために未来の可能性を摘む権利は日韓どちらの政府にもない。
 日本政府の意見公募では政府案支持が圧倒的だそうだが、本当に解決につながるのか。問題の根は深い。
 韓国への措置に関わる、ある日本政府当局者は「本当はこんなことをすべきでない」と漏らす。その言葉には隣国へのいらだちと同時に、あえて悪手を指すことへのためらいがにじむ。
 「今日の事態は韓国政府の無策が招いた」「過去の問題のために未来の可能性を摘む権利は日韓どちらの政府にもない」とする箱田氏の認識そのものに致命的な問題があること(徴用工問題、「従軍慰安婦」問題は1965年の日韓基本条約及び請求権協定で解決済みだとする安倍政権の立場及びこれに異を唱えない朝日新聞以下の日本の主要メディアの追随姿勢)についてはこのコラムで何度も指摘してきたので繰り返しません(7月6日付コラム参照)。
箱田氏が指摘する事実関係が正しいとすれば(「社説余滴」と断ってはいますが、社説欄でここまではっきり書いているのですから正しいのでしょう)、①今回の安倍政権の韓国に対する行動は、徴用工判決に対して「押し続ければ相手を変えられる」という発想に基づき「手荒なまねをせざるをえないとの判断」がまずあって「対韓強硬派の政治家らが推していた今回の措置を決めた」、つまり「手荒な対抗措置を講じる」という結論が先にあった、その上で②「「対抗措置ではない」と主張できる理論武装」をする、つまり、WTOが例外措置を認める「安全保障上の考慮」(しかも韓国を「悪者」に仕立て上げるために、朝鮮への横流しとか、サリンとかの放言までして、安倍政権の言説の「正しさ」を国民に信じ込ませる)とかの後付けの屁理屈を編み出した、ということです。しかも③「省庁別に対抗策を検討させた」上での今回の措置ということは、経済産業省以下の政官一体の悪巧みであるわけです。「両学園」問題その他で安倍政権が官僚機構を自家薬籠中にしていることは夙に証明済みですが、今回も正にそのとおりで、財務省(「両学園」問題)から経産省(対韓報復)に安倍政権の「使い小僧」が変わったに過ぎません。安倍政権による日本政治の腐敗・堕落・反動の極致をまざまざと示して余りありません。
付け加えると、7月12日に行われた日韓事務レベルの話し合いにおいて、経産省は倉庫のような粗末な部屋を用意して冷淡を極める対応をしたようです。今回の日韓間の紛争についてむしろ文在寅政権の対応を批判することに重点を置いている朝鮮日報(韓国における産経新聞?)ですら、社説(2019/07/13 09:20)において「普段海外からの訪問者を迎えるときには「おもてなし」を前面に出す日本で、実務担当者クラスの人間が自らの判断でこのように失礼な対応をするとは考えられない。上からの指示に従い徹底して計算された冷遇だ。日本は最近、安倍首相はもちろん、官僚や自民党などが一致して韓国を攻撃している」と指摘しました。
 中国は今回の安倍政権の暴走ぶりを注目していますが、本格的な論評はまだ出ていません。しかし、人民網-人民日報海外版(7月13日09:01)の記事が紹介している中国社会科学院日本研究所主任の呂耀東及び清華大学国際研究院教授の劉江永の以下の発言は的を射ています。呂耀東は歴史問題の角度から、劉江永は国際関係の角度からそれぞれ安倍政権の問題を本質的に摘発しているというべきでしょう。
 劉江永は「日本がアメリカに類する一国主義の制裁措置をとること」について言及していますが、私に言わせれば、トランプ大統領の場合は商売人感覚に徹した個人的なドライさが特徴であるのに対して、安倍首相の場合は歴史問題をあくまで頬被り・隠蔽しようとする陰湿さが特徴であるという大きな違いがあります。ただし、トランプ大統領が国際法をなんとも思わずに勝手放題をするスタイルを貫くのを見て、安倍首相が「それなら俺も」と真似る卑しい心根になった可能性はあります。
それに安倍首相も、自分の気に入らなければ国際法・国際約束・国際ルールを破ることに何ら痛痒を感じない人間であることについてはいくつも前例があります。小泉政権の副官房長官時代には、5人の拉致被害者の「一時帰国」という朝鮮との約束を破って、彼らをそのまま日本に定住させるのに主要な役割を果たしたことは今も私の記憶に新しいところです。最近の例としては、「国際秩序と約束自体の重要性という日本政府の主張そのものに対して疑問を感じざるをえない。日本政府は昨年12月、「1988年に中断した商業捕鯨を2019年7月に再開し、国際捕鯨条約から脱退する」と発表した。日本政府は、鯨資源が回復傾向にあり、捕鯨は日本の長い文化だとする、国際的な流れに反する脱退理由を挙げた。今年4月には、福島を含む周辺8県の水産物輸入禁止と関連して、韓国と争った世界貿易機関(WTO)訴訟の控訴審で敗れ、WTOが紛争解決機能を果たせずにいると主張し始めた。日本政府は、国際秩序と国際法、約束自体の重要性を機会があるたびに主張してきたが、結果が不利に出るとすぐに態度が変わった」(ハンギョレ東京特派員・チョ・ギウォンの指摘)という指摘があります。
(呂耀東)
 韓国の人々が真に望んでいるのは日本政府の心からの反省だ。文在寅が大統領になってから、韓国政府は2018年に日韓合意(朴槿恵政権が安倍政権と締結)に基づく「慰安婦」基金を解散した。日本はこれを非常に不満としてきた。
 韓国政府が考えている当面の困難打開策は、一つはWTOへの提訴、もう一つは制裁品目の国内生産のための投資だが、日韓間の長期にわたる紛争を根本的に解決するためには歴史問題に向き合う必要があり、しかもその歴史に関する矛盾は極めて解決が難しい。韓国の人々は、日本は今日に至るまで朝鮮半島における植民地統治時代に犯した犯罪について完全に認めたことがないと認識しており、日本が歴史を正視し、心から反省し、真心を込めてかつ公に謝罪し、賠償要求を満足させることを要求している。
(劉江永)
 文在寅政権は南北両朝鮮間の対立を解消し、朝鮮半島に平和メカニズムを作ることを主張している。この主張は安倍政権の狙いとは異なっており、そのために安倍政権は韓国に圧力をかけ、韓国が朝鮮に対して強硬な政策をとることを要求している。このように双方の主張が異なることから、双方の対立は日を追って明らかになってきた。
 韓日の紛争がエスカレートすれば、東アジア地域の協力開放のための環境が損なわれる。韓日関係の不和は、東北アジア地域における中日韓自由貿易協定の推進をも困難に陥らせる。日本がアメリカに類する一国主義の制裁措置をとることは、間違いなく東アジア諸国の二国間及び多国間の貿易交流ルールを破壊することになる。このことはまた日本の国際的イメージを損なうことになる。

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