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朝鮮の改正憲法

2019.07.13.

7月12日付のハンギョレ日本語WSは、イ・ジェフン先任記者署名文章「北朝鮮、「金正恩流の経済改革」を憲法に盛り込む」で、4月11日の朝鮮最高人民会議14期第1回会議で行われた憲法改正の主要改正点に関する解説記事を掲載しました。それによると、朝鮮の対外宣伝メディア「我が国」が11日に改正憲法全文を公開したということで、これまでの憲法条文と比較して主要改正点を解説したものだそうです。日本語での改正憲法全文が朝総連からいずれ明らかにされると思いますが、とりあえずイ・ジェフン署名文章をそのまま紹介します。経済管理方式の「大安事業体系」から「社会主義企業責任管理制」への変更(第33条)、国務委員長(第100条)と最高人民会議常任委員長(第116条。これまでの第117条)との関係性、序文の「政治思想強国、核保有国、無敵の軍事強国」という表現は修正なく維持したことから米朝交渉の結果如何でさらに修正される可能性があるなど、とても興味深い内容です。

北朝鮮、「金正恩流の経済改革」を憲法に盛り込む
 北朝鮮が、4月に改正した憲法で党優位の伝統的な経済管理方式である「大安(テアン)の事業体系」を削除し、生産現場の自主性を高め「市場経済の要素」を取り入れた「社会主義企業責任管理制」を新たに明示したという事実が後れて確認された。「改革的要素」が強化された「金正恩(キム・ジョンウン)流の経済方式」が憲法的基盤を設けた。同時に改正憲法に国務委員長が「国家を代表」するという表現を追加したことも確認された。金正恩国務委員長が「国家首班」であることを憲法条項に明文化し、公式化したということだ。今回の改憲は、4月11日の最高人民会議14期第1回会議で行われたが、これまで全文は外部に公開されていなかった。
 北側の対外宣伝メディア「わが国」が11日に公開した改正「社会主義憲法」全文(全部で171条)によると、第33条で「国家は経済管理で社会主義企業責任管理制を実施し、原価、価格、収益性といった経済的空間を正しく利用するようにする」とされている。これは従来の憲法の「国家は経済管理において大安の事業体系の要求に応じて独立採算制を実施し、原価、価格、収益性といった経済的空間を正しく利用するようにする」という部分の代替条項だ。その中核となるのは「国家経済管理方式」を「大安の事業体系」から「社会主義企業責任管理制」に変えたことだ。さらに、改正憲法は経済管理運営で「内閣の役割を決定的に高める」(33条)という表現を新たに追加した。
 「大安の事業体系」は、故金日成(キム・イルソン)主席が1961年12月、大安の電気工場(南浦市の大安区域)を現地指導して指示したもので、工場管理・運営の最終権限と責任を「工場の党委員会」が行使する経済管理方式だ。「計画の一元化・具体化」原則とともに、北朝鮮の「党優位の集団主義」経済管理方式の二大軸だ。
 一方、「社会主義企業責任管理制」は金委員長が2011年12月の政権初日から強調してきており、2016年5月、朝鮮労働党第7回党大会で「我々式の経済管理方法」の下位カテゴリーとして初めて公式化された。「市場」を「計画と制度内」に引き入れたのが核心となるが、例えば各企業所は国家が下達した生産計画さえ満たせば、需要に合わせて商品を作り、市場に売り出して「自己収入」を上げることができる。改正憲法は32条では「実利を保障する原則を確固として堅持する」という表現を新たに追加し、個別の経済主体らが自主的に持続可能性の確保に乗り出せる憲法的根拠を設けた。金委員長がとりわけ強調してきた「全国民科学技術人材化」も40条に新たに明示された。対外貿易で「信用を守り、貿易構造を改善し」(36条)という文言も追加された。
 北朝鮮の経済専門家のヤン・ムンス北韓大学院大学教授は、「憲法で大安の事業体系を削除し、そこに社会主義企業責任管理制を明示したというのは、象徴的であれ実質的であれ非常に大きな変化」だとし、「金委員長が制裁の長期持続のなかでも経済政策において改革的基調を維持・強化するという意味」だと解釈した。
 さらに、改正憲法100条は「朝鮮民主主義人民共和国の国務委員会委員長は、国家を代表する朝鮮民主主義人民共和国の最高領導者だ」とされている。旧憲法100条の「国務委員会委員長は、朝鮮民主主義人民共和国の最高領導者だ」と比較すると「国家を代表する」という言葉が追加された。「国務委員長=国家首班」という意味だ。
 ただし、新たに直した憲法(116条)でも従来の憲法(117条)の「最高人民会議常任委員会委員長は、国家を代表し他国の使者の信任状、召喚状を受け取る」という条項をそのままにした。改正憲法によると、「国家を代表」する職責が国務委員長と最高人民会議常任委員長の二人というわけだ。金正恩国務委員長が名実ともに国家首班だとすれば、崔竜海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長は儀典的な外交など限られた領域でのみ「象徴的国家首班」の役割をする現実を憲法条項にも反映したということだ。
 改正憲法は序文で、従来の憲法の序文の「先軍政治」「先軍思想」という表現は削除したが、「政治思想強国、核保有国、無敵の軍事強国」という表現は修正なく維持した。
 元高官の関係者は「今回の改正憲法は過渡期の憲法」だとし、「米国と交渉が最終決着すれば、金正恩委員長が念頭に置く完成された国家の形が憲法において姿を現わすだろう」と話した。
イ・ジェフン先任記者