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ハメネイ師の安倍首相に対する発言(最高指導者庁WS)

2019.07.08.

7月3日付のイランの最高指導者庁WS(英語版)は、ハメネイ師が安倍首相と会見した際の発言を掲載しました。これは、2018年10月6日以来実に約10ヶ月ぶりの更新でした。この更新を契機に、同WSは再びハメネイ師の発言を載せるようになりましたが、安倍首相に対する同氏の発言を更新再開の冒頭としてわざわざ載せたということは、安倍首相との会見が重要だったということではなく、安倍首相がトランプ大統領のメッセージを伝えるためにイランを訪問したのであり、ハメネイ師としてはトランプ政権を相手にしないという断固とした姿勢を対外的に明確にする格好の機会であるととらえたためだと思われます。ハメネイ師が安倍首相に対して行った発言についてはすでに6月15日付のコラムで紹介しました。トランプ大統領のメッセージ対するハメネイ師の発言内容については格段大きな違いはありません。しかし、最高指導者庁WSがわざわざしかも10ヶ月以上更新していなかったのに、安倍首相との会見について記事を掲載したという事実にも鑑み、その全文を訳出して紹介しておきます。若干憶測を付け加えるならば、ハメネイ師としては、自分が述べたことが安倍首相からトランプ大統領に対して正確に伝達されないことを懸念して、自分が述べたことを正確に公表する必要があると判断したのかもしれません。
 ハメネイ師の発言内容には興味深い点がいくつかあります。一つは、日本を友人と考えていると言いつつ、「若干の不満はある」と指摘したことです。すぐに思い浮かぶのは、トランプ政権が対イラン制裁を強化し、イランの石油輸出をゼロにする措置をとったのに対して、日本がそれにしたがって輸入をストップしたことに対するイランの不満です。
もう一つは最後の次のくだりです。「ハメネイ師は、日本首相がなぜアメリカ人はほかの国々に対して自分たちの信念や見解を常に押しつけたがるのだろうかと発言したのに対して、あなたがその事実を認識していることは良いことだ、そしてあなたはアメリカ人が自分たちの見解を押しつけるのは際限がないということを知っておくべきだ、と述べた。」トランプにゴマをすることに徹底している安倍首相がハメネイ師にこのような発言をするとはやや意外ですが、ゴマをすることが習い性になっている安倍首相は、徹底してアメリカに批判的なハメネイ師にも思わずおもねる気持ちになったということでしょうか。あるいは、思わず本音がポロッと飛び出したのでしょうか。いずれにせよ、なんという事大主義で、卑屈な人間なのでしょうか。

2019年6月23日の日本首相との会見 ハメネイ師:我々はアメリカと交渉しない
 日本首相の安倍晋三氏は2019年6月13日にイスラム革命指導者のハメネイ師と会見した。
 この会見でハメネイ師は、イランはアメリカとは交渉しないと強調し、私はトランプが人間としてメッセージを交換するにふさわしい相手とは考えていない、我々はアメリカとは交渉しないと述べた。
 日本の首相はこの会見で革命指導者に対して「私はアメリカ大統領からのメッセージをあなたに差し上げたい」と述べた。ハメネイ師はアメリカが不誠実で信用できないことを指摘し、次のように論じた。「私はあなたの誠実さと善意とを疑ってはいない。しかし、あなたがアメリカ大統領について述べたことに関しては、私はトランプが人間としてメッセージを交換するにふさわしい相手とは考えておらず、彼に対する答はないし、将来も彼に応答することはない。」
 ハメネイ師は次のように付け加えた。「私が言うことは日本の首相との話の一部ということだ。なぜならば、我々は日本を我々の友人と考えているからだ。もっとも若干の不満はあるが。」
 「アメリカはイランの政権交代を追求していない」というトランプの日本の首相に対する発言を引用して、最高指導者は次のように強調した。「我々のアメリカとの間の問題は政権交代に関することではない。なぜならば、仮に彼らがそのことを追求しようとしても、そのことを達成することはできないからだ。過去40年間、歴代大統領はイランを破壊しようとして失敗した。トランプが政権交代を求めていないというのはウソだ。というのは、できるのであればそうするだろうから。しかし、彼はそうすることができないのだ。」
 イランと核問題について交渉したいというアメリカの要求に関する日本の首相の発言を取り上げて、ハメネイ師は次のように主張した。「イランイスラム共和国はアメリカ及び欧州-いわゆるP5+1-と5,6年交渉して協定に達した。しかしアメリカは協定を無視し、破った。合意されたすべてのことを放り投げる国家ともう一度交渉することを許すような常識があるだろうか。」
 アメリカはイランが核兵器を作ることを阻止する決意だということに関する日本の首相の発言を引用した上で、ハメネイ師は次のように述べた。「我々は核兵器には反対であり、核兵器製造を禁止する宗教的ファトワ(命令)を出している。しかし、仮に我々が核兵器を製造しようとする場合、アメリカは何もできず、アメリカが許さないということは障害にならないということを知るべきだ。」
 核兵器を貯蔵することは不当なことだと主張しつつ、ハメネイ師は次のように述べた。「いかなる国が核兵器を持つべきか持つべきではないかについてアメリカが発言できる権限はいささかもない。なぜならば、アメリカは数千の核兵器を持っているからだ。」
 アメリカはイランと本気で交渉する用意があるという日本の首相の発言に言及して、ハメネイ師は安倍氏に次のように述べた。「我々はそんなことをまったく信じない。なぜならば、真正な話し合いということはトランプのような輩からは来ないからだ。」
 革命指導者は「正直及び真心はアメリカの当局者にあっては極めてまれなものだ」と強調した。最高指導者は次のように続けた。「米大統領は数日前にあなたと会って、イランを含めて話を持った。ところが日本から戻った後、彼は直ちにイランの石油化学産業に対する新たな制裁を科した。これが正直なメッセージか。このことが、彼は正直な話し合いをしたいということを示しているか。」
 イスラム革命の指導者はJCPOA締結に至ったアメリカとの交渉プロセスに言及して次のように主張した。「核合意の後、JCPOAをすぐさま破ったのはオバマ氏だった。その彼もイランとの直接の話し合いを要求し、同じく仲介者を送ってきた。」
 ハメネイ師は次のように付け加えた。「これが我々の経験であり、我々はそうしたことを繰り返すことはないことを安倍氏に保証する。」
 トランプが「アメリカと交渉すればイランの発展に資するだろう」と述べたことを日本の首相が伝えたことに言及して、最高指導者は「神のご加護のもと、アメリカと交渉せず、制裁があるにもかかわらず、我々は発展するだろう」と強調した。
 革命指導者は、日本とイランイスラム共和国との関係を拡大したいという日本の首相の提案を歓迎し、彼に次のように諭した。「日本はアジアで重要な国だ。日本がイランとの関係を拡大したいのであるならば、その誠意を証明するべきだ。いくつかの重要な国々が関心を示しているように。」
 アメリカがイラン国民に示してきた40年間の敵意とその敵意が続いていることに言及して、最高指導者は次のように述べた。「我々の問題がアメリカとの交渉で解決されるとは考えていないし、圧力のもとでの交渉を受け入れるような自由な国家はないだろう。」
 ハメネイ師は、日本首相がなぜアメリカ人はほかの国々に対して自分たちの信念や見解を常に押しつけたがるのだろうかと発言したのに対して、あなたがその事実を認識していることは良いことだ、そしてあなたはアメリカ人が自分たちの見解を押しつけるのは際限がないということを知っておくべきだ、と述べた。