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文在寅の使命感と自負

2019.02.22.

2月21日付のハンギョレ日本語WSは、19日に行われた文在寅トランプ電話会談について、イ・ジェフン先任記者署名文章「文大統領、"トランプ持ち上げ"で南北経済協力事業の道を開く」を掲載しています(韓国語原文は20日付)。私が2月21日のコラムの柱書で記したことと同じ分析内容で我が意を得たりなのでまず紹介します。

[ニュース分析]文大統領、"トランプ持ち上げ"で南北経済協力事業の道を開く
 文在寅大統領が19日夜に行ったドナルド・トランプ米大統領との35分間の通話は、2回目の朝米首脳会談の成功だけでなく、会談後の南北経済協力の加速化まで視野に入れている。
 大統領府の発表文によれば、文大統領は次の3点に力を入れた。一つめに「トランプ持ち上げ」、二つめにトランプ大統領が金正恩国務委員長との談判で非核化の相応の措置として活用する贈り物に南北経済協力事業を入れること、三つめに2回目の朝米首脳会談を契機に南北経済協力に対する「制裁免除を勝ち取ること」。南北経済協力事業を第2回朝米首脳会談の核心構成要素にして、会談の成功基盤を拡充すると同時に、3大経済協力事業(鉄道・道路の連結および現代化、開城(ケソン)工業団地、金剛山(クムガンサン)観光)を実行する道を開くという布石だ。大統領府の高位関係者は20日、「トランプ大統領の選択権を拡充すると同時に、南北経済協力に対する文大統領の考えを話したと見れば良い」と話した。
 文大統領はまず、国内政治的に守勢に追い込まれたトランプ大統領の"気力持ち上げ"に力を注いだ。文大統領は「北朝鮮との難しい交渉をここまで引っ張ってくることができたのは、トランプ大統領の指導力と確固たる意志のおかげ」だとしながら「南北関係で成し遂げた大きな進展もトランプ大統領の強い支持のおかげ」だと持ち上げた。自分を低めて相手を高める特有の"謙そんモード"だ。
 その後に本当に言いたいことを話した。「南北間の鉄道・道路連結から南北経済協力事業まで、トランプ大統領が要求するならばその役割を一手に引き受ける覚悟はできており、それが米国の負担を減らせる道だ」。文大統領が「北朝鮮の非核化措置を牽引するための相応の措置として、韓国の役割を活用してほしい」として出した提案だ。内容的には、南北経済協力事業を非核化の牽引カードとして使い、結果的にこの事業にかけられている"制裁のくびき"を解除してほしいという要請だ。ただし「制裁緩和」という表現は慎重に避けた。金剛山観光・開城工業団地事業を名指しで論じなかった点も同じ脈絡だ。「費用は私たちが引き受ける」というメッセージも含まれている。「北朝鮮に数十億ドルを与えた以前の轍を踏まない」というトランプ大統領の断言(15日のホワイトハウス会見)を念頭に置き、彼が2回目の朝米首脳会談強行に批判的な国内世論をなだめる"カード"を渡したわけだ。南北経済協力は、どのみち韓国が負うのであり追加負担のようなものもない。「金をかけずに人心を得る」ということだ。
 特に注目すべき点は、大統領府が「南北鉄道・道路の連結」を意識的に、それも先頭に明示したという事実だ。この事業に対する文大統領の強い意志がにじみ出ている。国連決議2375号(2017年9月11日採択)は、18条で「非商業的で利潤を創出しない公共インフラ事業」は「事案別に(対北朝鮮制裁)委員会の承認」を前提に可能だと明らかにしている。昨年12月26日に着工式はしたが、本工事には乗り出せなかった鉄道・道路の連結および現代化事業がこれに該当する。対北朝鮮制裁の専門家であるキム・グァンギル弁護士(法務法人 地平)は「国連決議2375号18条により、制裁委員会が公共インフラ合作会社の設立を承認すれば、鉄道建設などに必要な機資材の輸出入禁止も例外として認定する包括的承認が可能」だと話した。
 重要なのはトランプ大統領の反応だが、キム・ウィギョム大統領府報道官は「トランプ大統領の反応は肯定的だった」と20日のブリーフィングで伝えた。
 トランプを「持ち上げる」点では文在寅大統領と安倍首相とは一見同じに見えます。しかし、新天皇と最初に会う外国首脳としてトランプの5月訪日を画策する安倍首相の醜悪なまでのトランプに対するへつらいと、支離滅裂のトランプを何とか朝鮮半島の平和と安定の実現の大軌道の上に乗せていくための戦略的判断としてトランプを持ち上げる文在寅大統領の「ヨイショ」との間には雲泥の差があります。
 私はまだ稀に外でお話しすることがあります。その際、常に忘れずに指摘するのは次のことです。勇猛果敢の金正恩、剛毅木訥の文在寅、そして猪突猛進のトランプという偶然の組み合わせがあって初めて昨年からの朝鮮半島情勢の急進展が可能になった。しかし、猪突猛進のトランプは支離滅裂なトランプでもある。今後の朝鮮半島情勢の展望は、勇猛果敢の金正恩、剛毅木訥の文在寅、深謀遠慮の習近平そして沈着冷静なプーチンが支離滅裂なトランプを制御することができるかどうかによって左右されるだろう(頑迷固陋の安倍晋三は蚊帳の外)。
 従来の朝鮮半島情勢は朝中ロ対韓米日の構図で動いてきました。しかし今や、南北中ロ対米(日)という本質的転換が起こりつつあります。すごいと思うのは、文在寅大統領の慧眼は、そういう構図の転換をひた隠し、あくまで韓米同盟の枠組みを尊重することによってアメリカ・トランプ政権を善導しようとしているところにあると思います。
ところで、私が今回特に指摘したいのは、文在寅大統領の南北関係打開にかける強い意欲(というより使命感)そしてそれを裏付ける自負についてです。実は、2月10日付の環球時報社説「ハノイでの米朝サミット 世界は実質的ブレークスルーを期待する」も、「韓国はこのところかつてない努力を行っている。このことは朝米が交渉によって問題を解決するための有利な雰囲気作りを作り出している」と指摘していました。中国も文在寅の積極的な動きを高く評価していることが分かる指摘なので、私も強く記憶に残っているのです。
 そういう文在寅の意欲・使命感・自負を私が強く印象づけられたのは、2月11日に彼が大統領府で開かれた首席補佐官会議で述べた発言でした。文在寅は、第2回米朝首脳会談が「私たちにとって特に重要なことは、南北関係を一次元さらに高く発展させる決定的機会になりうるという点」だと指摘し、「分断後初めて迎えたこの機会を生かすことが、戦争の危険から完全に抜け出し、平和が経済を実現する私たちの未来を育てることだ。南と北は、戦争のない平和の時代を超え、平和が経済の新たな成長動力になる平和経済の時代を一緒に開いていくべきだ」、「私たちに切実な意志と努力があったので、他の人々が夢のように感じた構想を今まで一つ一つ実現することができた」、「政府はその過程で、南北間対話と疎通のチャンネルを常に開いておき、韓米間の共助を緊密にしてきた。今後も政府は今までしてきたように、切実な心情で、しかし落ち着いて、私たちの役割を尽くすだろう」、「今、朝鮮半島で起きている世界史的大転換において、私たちが最も重要な当事者であることを考え、国民が、そして政界でも大きく気持ちを一つにするようお願いする」と述べたのです。「今、朝鮮半島で起きている世界史的大転換において、私たちが最も重要な当事者である」という言葉ほど彼の決意の強さ・使命感の高みを物語るものはありません。
 以上の文在寅の発言は、2月12日付のハンギョレ日本語WSに掲載されたものです(韓国語原文は11日付)。改めて紹介しておきます。
文大統領「2回目の朝米会談は朝鮮半島平和の重大な転換点になるだろう」
 文在寅(ムン・ジェイン)大統領が11日、半月先に迫った2回目の朝米首脳会談(27~28日、ベトナム・ハノイ)に関し「朝鮮半島を敵対と紛争の冷戦時代から平和と繁栄の根拠地に変える歴史的会談になることを期待する」と話した。
 文大統領はこの日、大統領府で開かれた首席補佐官会議を主宰した席で「2回目の朝米首脳会談の日程が確定した。昨年から始まった朝鮮半島平和プロセスの一大進展だ」とし、このように述べた。彼は「私たちには平和と繁栄の朝鮮半島時代がいっそう近づいた」と期待感を表した。
 文大統領は「まだ朝鮮半島の非核化と平和プロセスが果たしてうまくいくのかという疑問が少なくないのが現実だ。また、敵対と紛争の時代が続くことを願うような勢力も少なくない」とし、「しかし、南北米の首脳が揺らぐことなくその道を歩んで行きつつあるのは、歴史が進まなければならない方向に対する強い信頼があるためだ。特に、前例のない果敢な外交的努力で70年に及ぶ深い不信の海を渡っている米国と北朝鮮の二人の指導者の決断に敬意を表わす」と明らかにした。
 彼は「初の朝米首脳会談は、それ自体だけでも世界史に明確な道しるべを残した歴史的偉業」だと評価した後、「2回目の会談はそこからさらに一歩進んで、すでに大きな原則に合意した朝鮮半島の完全な非核化、新しい朝米関係、朝鮮半島の平和体制をより具体的かつ顕著に進展させる重大な転換点になるだろうと期待する」と語った。
 文大統領は、2回目の朝米首脳会談の後、朝鮮半島平和プロセスと経済協力がいっそう速度を上げるだろうと見通した。彼は「私たちにとって特に重要なことは、南北関係を一次元さらに高く発展させる決定的機会になりうるという点」だとし、「分断後初めて迎えたこの機会を生かすことが、戦争の危険から完全に抜け出し、平和が経済を実現する私たちの未来を育てることだ。南と北は、戦争のない平和の時代を超え、平和が経済の新たな成長動力になる平和経済の時代を一緒に開いていくべきだ」と強調した。
 文大統領は、政府の持続的な努力を強調し、国内世論の支持を頼んだ。彼は「私たちは今、わずか1年前でも想像できなかった変化の中心にいることは、決して偶然でなく、平和が正しい道であり、私たちの意志がその道と出会ったために可能なことだった」とし、「私たちに切実な意志と努力があったので、他の人々が夢のように感じた構想を今まで一つ一つ実現することができた」と話した。彼は「政府はその過程で、南北間対話と疎通のチャンネルを常に開いておき、韓米間の共助を緊密にしてきた。今後も政府は今までしてきたように、切実な心情で、しかし落ち着いて、私たちの役割を尽くすだろう」と述べた。
 さらに「国民も政府の努力と共にし、力になって下さるよう願う」と述べ「今、朝鮮半島で起きている世界史的大転換において、私たちが最も重要な当事者であることを考え、国民が、そして政界でも大きく気持ちを一つにするようお願いする」と話した。