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南北首脳会談エピソード(ハンギョレ)

2018.05.01

南北首脳会談の実現に向けて一貫して積極的な論調を発表してきたハンギョレは、首脳会談における金正恩委員長の発言、晩餐会の模様、さらには韓国市民(特にこれまで南北関係に冷淡な見方を取ってきた2~30歳代)の見方の変化などについて積極的に報道、紹介しています。そのうちのいくつかを紹介します(すべて4月30日付日本語版WSによる)。日本国内における朝鮮に対する見方・認識にも変化が生まれるのではないかと、期待を込めつつ判断しているのですが、韓国では確実にそうした変化が起こりつつあるようです。

金委員長「米国が終戦と不可侵約束すれば、核を持つ理由はない」
 北朝鮮の金正恩国務委員長が27日に開かれた南北首脳会談で、「米国が北朝鮮に対して生理的な抵抗感を持っているが、話し合ってみれば、私が南側や太平洋に向かって核を撃ったり、米国を狙ってそのようなことをする人ではないことが分かるだろう」とし、「これから頻繁に会って米国と信頼が築かれ、終戦と不可侵を約束されれば、果たして私たちが核を持って困難を強いられる理由があるだろうか」と述べたと、ユン・ヨンチャン大統領府国民疎通秘書官が29日、明らかにした。…
 金委員長は27日、板門店南側の平和の家で開かれた首脳会談で、文大統領に「北部の核実験場の閉鎖(廃棄)を5月中に実行し、これを国際社会に透明に公開するために、韓国と米国の専門家とジャーナリストらをまもなく北朝鮮に招待する」と述べたという。ユン首席は「文大統領は核実験場の閉鎖の公開という金委員長の方針を直ちに歓迎し、両首脳は、韓米の専門家とジャーナリストの受け入れの時期などについては、北朝鮮側の準備が整い次第、日程を協議することにした」と伝えた。さらに、「金委員長の核実験場の閉鎖および対外への公開方針の表明は、今後議論される北朝鮮の核の検証過程において先制的かつ積極的に臨むという意志を明らかにしたもの」だと評価した。
 金委員長が言及した北部の核実験場とは、2006年10月から昨年9月まで合わせて6回の核実験を行った咸鏡北道吉州郡豊渓里(プンゲリ)の核実験場を指す。豊渓里核実験場の閉鎖は今月20日、北朝鮮労働党中央委員会全員会議による決定だが、閉鎖場面の公開は南北が事前調整した首脳会談の議題には含まれなかったものだと、大統領府関係者は話した。
 金委員長はさらに、「朝鮮戦争のような痛ましい歴史は繰り返さない」と約束し、「同じ民族同士が血を流すことは二度とないようにすべきだ。決して武力使用をしないことを確言する」と述べたと、ユン首席は伝えた。これは今年3月初め、チョン・ウィヨン大統領府国家安保室長などの対北朝鮮特別使節団に「核兵器はもちろん、通常兵器を南側に向かって使用しない」と確約したもよりさらに踏み込んだ発言で、文大統領と合意した終戦宣言・平和協定の推進の意志を確認したものと言える。
 これに加えて、金委員長は「偶発的軍事衝突と戦争拡大の危険が問題だが、これを制度的に管理し、防止する実効的措置が必要だ」と述べたと、ユン首席は付け加えた。…
首脳会談"晩餐"ウラ話…「両首脳、酒の飲み干しに手を焼いただろう」
「板門店の照明をすべて消してしまった歓送公演、互いの信頼なしには不可能だったろう」
 27日、板門店南側地域の平和の家を舞台に繰り広げられた12時間の"ドラマ"の後日談が流れ始めた。大統領府関係者は29日、記者団と会い「板門店という所は、都会のまん中ではないので、灯りを消せば真っ暗だ。南と北、互いによく知らない人が交わった空間で、灯りをすべて消すということは難しかった。灯りが消えた時、胸がじんとなり、平和の家の前庭は南と北が一つになる雰囲気だった」と回想した。
 公演に先立って開かれた晩餐は、一言で言えば「一家親戚の宴会のようだった」と大統領府高位関係者は伝えた。文在寅大統領と金正恩北朝鮮国務委員長の公式随行員を含め、晩餐参席者が互いを紹介して酒を薦め合った。この関係者は「両首脳に酒杯が集まる雰囲気であり、そうした点を勘案して少しずつ注いだとは言え、文大統領も金委員長も(酒を)飲み干すのに手を焼いただろう」と話した。別の関係者は「どんな国賓晩餐より自由に話が交わされ、酒盃を合わせて酒を注ぎ合い、名乗り合った」として「金委員長は酒が強そうではなかったが、とても多く飲まれていたと思う。李雪主女史が飲んだかは見なかったが、金与正党中央委第1副部長は酒を飲んでいたと思う」と話した。
 晩餐会場で最も話題を生んだメニューは、やはり平壌冷麺だった。大統領府関係者は「韓国の平壌冷麺店が(首脳会談当日)盛況だったというニュースを伝えたところ(参席者が)喜んだ。それこそ爆笑が起こった」とその場の雰囲気を伝えた。この関係者は「汁冷麺(ムルネンミョン)と、混ぜ冷麺(ピビムネンミョン)らしい真っ赤な冷麺があった」として「真っ赤な混ぜ冷麺を大皿冷麺と呼ぶようだったが、正確な名称は分からない」と説明した。文在寅大統領夫妻と金正恩委員長夫妻の選択は汁冷麺だったという。
 南と北の晩餐文化の違いも紹介された。大統領府関係者は「私たちは(事前のシナリオにともなう)公開的公演の雰囲気だが、北側では余興が強調される晩餐が日常化されたという」と伝えた。南側が準備した公式的公演が終わった後には、約束されていなかったアドリブ公演が繰り広げられたという。北側の芸術団は「男は船、女は港」を歌手ユン・ドヒョンさんとともに歌い、歌手チョ・ヨンピルさんはヒョン・ソンウォル三池淵(サムジヨン)管弦楽団長を舞台に呼び「あの冬の喫茶店」を一緒に歌った。大統領府関係者は「歌手チョ・ヨンピルさんは、ヒョン団長と一緒に歌を歌い、『平壌(ピョンヤン)ではヒョン団長がキーを私に合わせてくれたので、今日は私がキーを合わせる』と言いました」と伝えた。ユン・ドヒョンさんは「雰囲気を盛り上げる」と言って、自身が持ってきたギターを演奏し「私は蝶」を歌ったという。
 晩餐会場で済州の小学生オ・ヨンジュン君が歌った「故郷の春」が予定外の曲だったことも公開された。大統領府関係者は「オ・ヨンジュン君は『風が吹く所』だけを歌う予定だったが、司会者が要請すると快く『故郷の春』を歌うと応じた。本当は雰囲気を損なうかと思って除いた曲だったが、李女史と金副部長、ヒョン・ソンウォル三池淵管弦楽団長たちが唱和した」という。李女史が「故郷の春」の一部を唱和する場面は、放送を通じて伝えられた。北側では"妖術"と呼ぶ"マジック公演"も繰り広げられた。晩餐参席者の話を総合すれば、このマジシャンは南側の参席者から5万ウォン紙幣(約5千円)を受け取ると、あっと言う間に1ドルコインに変え、お金の価値が違うと言うと再び5万ウォン札に変えて返したという。その後1ドルを自由自在に増やし10ドルに、その後は100ドルに変えて参席者を驚かせた。
 この日の晩餐のハイライトの一つは、チョコレートで作った殻を割ると、「朝鮮半島旗」が出てくるデザートだったという。大統領府関係者は「文大統領と金委員長が困難と差異を壊すという意味で、一緒に割るパフォーマンスがあり、続けて各テーブルでも小さな殻のデザートを割って、歓声を上げもした」と話した。"宴会場の余興"は予定時間をはるかに越えて終わった。午後6時30分に始まり2時間程度と予想していたが「あまりに和気あいあいとした雰囲気なので9時10分にようやく終えることができた」と当時の現場の状況を伝えた。
変わる20・30代「北朝鮮の地を踏んでヨーロッパ旅行に行きたい」
 11年ぶりに行われた「4・27南北首脳会談」で、朝鮮半島に平和の風が吹いている。「統一」に対する期待感を表す人たちも増えている。ふだん南北問題に大きな関心を示さなかった20~30代の若者層の間でも、変化の動きが少しずつ表れている。
 "20・30世代"は、文在寅大統領と北朝鮮の金正恩国務委員長の首脳会談を見守りながら、漠然としていた変化を実感したと口を揃えて言った。仁川に住むイ・ギョンソクさん(33)は29日、「南と北が分断されて久しいので文化の違いが大きいのではないかと思ったが、そうではなかった。特に金委員長については『独裁』、『不通』など偏見があったが、行動や言葉遣いを直接みるとやはり同胞、民族だという気がした」と話した。
 最近までは、20・30世代は他の年齢層に比べて統一に対して否定的な認識を持っている人が相対的に多いと表れていた。就業ポータルのインクルートなどが、1月24日から2月1日まで成人男女3763人を対象に南北統一の必要性について聞いたところ、20代と30代だけが統一の必要性に共感しない人の数の方が多かった。20代は36%、30代は40%が統一の必要性に共感しないと回答した。統一が必要だと答えた人は、それぞれ31%、32%に止まった。一方、10代以下は50%が、40代は49%が、50代以上は57%が統一が必要だと答えた。
 南北首脳会談は、統一に対する20・30世代の考えをどれだけ変えたのだろうか。ソウル氏恩平区(ウンピョング)に住む会社員のキム・スビンさん(33)は「以前までは統一というのは自分には実現可能性のない話だったが、今は『可能かもしれない』という気がする。10年ほど前に国土大長征をした時、江原道の高城(コソン)で終えたことがあるが、いつか北朝鮮の蓋馬(ケマ)高原まで行く姿を思い浮かべてみた」と話した。大学生のチョン・ミンソンさん(23)は「5歳の頃、1カ月間列車に乗ってヨーロッパを旅行したが、今回の首脳会談を見守りながら『飛行機に乗って行って列車旅行をするのではなく、韓国から列車に乗ってヨーロッパに行けるんだ』という事実に気がついた。板門店(パンムンジョム)宣言にも南北が鉄道をつなぐという言葉があって嬉しかった。北朝鮮の地を踏んでヨーロッパまで旅行をしたい」と話した。
 現在軍服務中のSさん(24)は、募兵制に対する期待感を示した。Sさんは「私はすでに軍服務をしているが、『私の息子は軍隊に行かなくてもいいのではないか』という気がした。今すぐ北朝鮮の話を全て信じることはできないが、首脳会談を見た後、私だけでなく他の軍人や友達の中にも統一と募兵制について肯定的な雰囲気が高まったことだけは事実」と付け加えた。
 今回の首脳会談で自分の"存在感"を確実にアピールした金委員長に対する関心も高まった。職業軍人として働いて除隊したというキム・ダビンさん(28)は「軍出身だからか『北朝鮮政権は敵』という認識が強かったが、首脳会談以降、すべてあいまいになった。晩餐の後、別れるようすや、李雪主氏が(金委員長を)夫と呼ぶ場面がそうだった。非常に堅苦しい(独裁者の)イメージだったが、今回見ると正常な国家の元首に見せようと努力していたようだ。統一までは分からないが、開放して往来だけしてもお互いにいいのではないかと思う」と話した。仁川に住むオム・ユジュンさん(37)は「金委員長はスイス留学派なので、かつての北朝鮮指導者と違うだろうと予想はしていたが、南北問題に対する態度をこんなに早く変えるとは思わなかった。北朝鮮がパートナーになったように感じられる」と話した。
 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)とインターネットコミュニティでも、朝鮮半島の平和の気流に刺激された20・30世代らの意見が多様にあふれた。文大統領と金委員長、ドナルド・トランプ米大統領などが、明るい表情で祝杯をあげる「イメージ画像」や、文大統領のノーベル平和賞受賞を予測する文章などが代表的だ。南北統一の「経済的効果」に期待を寄せている会社員らも現れている。ある公共機関に勤めるPさん(38)は「開城(ケソン)工業団地に関連する株と建設業に投資をしておいたが、成功的な南北首脳会談による経済協力の期待感が株価にも反映されそうだ。文大統領と金委員長が手を握って軍事境界線を行き来する姿に胸がじんとなりもしたが、平和がお金になるという事実もはっきりとわかった」と話した。