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米中首脳会談を受けた朝鮮半島情勢(その七)

2017.4.24.

4月23日付の韓国・中央日報WS(日本語)の以下の記事(「米国の北朝鮮関連発言がトーンダウン…「中国はしっかりやっている」」)を読んで、改めて米中首脳会談を受けた中国の対朝鮮政策の変化の振幅の大きさを実感させられ、複雑な感慨に襲われました。

オーストラリアを訪問している米国のペンス副大統領は22日、シドニーで同国のターンブル首相との会談後の共同記者会見で、「韓半島(朝鮮半島)でまだ平和な結果を得られるものと期待する」と話した。「最近のワシントン(米国)と北京(中国)の友好的関係のおかげ」としながらだ。
「北朝鮮問題にレッドラインはない」(スパイサー米ホワイトハウス報道官、17日の定例会見)として北朝鮮に対する強硬発言をし続けてきた米国が最近になり発言の水準が和らいでいる。トランプ大統領も20日のホワイトハウスでの記者会見で「中国が北朝鮮の挑発(the menace of North Korea)をしっかり抑制している」と称賛した。
ペンス副大統領は引き続き「米国はトランプ政権が中国と新たにした約束(engagement)のために韓半島非核化が平和に達成されると信じている」と述べた。彼は「中国がいままでしてきた措置に鼓舞された」と付け加えた。

 同じ日(23日)、王毅外交部長は、アテネにおけるギリシャ外相との共同記者会見で、記者の質問に答えて、朝鮮半島情勢について次のように発言したと、同日付中国外交部WSが紹介しました。米中会談を受けた対朝鮮政策の明らかな変更については言及せず、もっぱら中国の対朝鮮半島政策における不変性を強調したもので、率直に言って強い違和感を覚えます。

 朝鮮半島問題に関する中国の立場は一貫しており、明確であり、変更はあり得ない。それはすなわち、半島の非核化を実現することを堅持し、半島の平和と安定を擁護することを堅持することであり、そのためには、平和的手段で半島核問題を解決しなければならない。
 中国は現在の矛盾の焦点ではないとはいえ、また、半島核問題解決のカギは中国の手中にはないとはいえ、半島の平和及び地域の安定に責任を負うという態度に基づき、中国は一貫して平和的会談を回復するために努力しており、最近は情理にあった提案も行い、この提案はますます多くの国々の理解と支持を得ている。他の国々が平和の誠意があるのであれば、各自の解決案を提出していただきたい。
 近時、威嚇対抗の言動が目に余るまでになっており、我々は平和的理性的な声を出す必要がある。中国はあれこれの言説に動揺することはあり得ないし、我々が尽くすべき責任を放棄することもあり得ない。中国は今後も、各国と対話及び協議を保ち、半島核問題の解決のために引き続き建設的な役割を発揮していく。

 以上の王毅の発言と比べると、4月23日付の環球時報社説「朝鮮中央通信社文章 中国当局は引き続き無視すべし」は、中国の政策変更に対する朝鮮側の批判(23日付のコラムで紹介した2つの「正筆」署名文章)に対する正面からの受け答であり、それなりに読み応えがあります。蛇足ながら、この社説が2つの「正筆」署名文章に正面から反応したという事実は、中国においても、他の文章と比較した「正筆」署名文章の持つ格別な重みが認識されていることを反映しています。「正筆」の「正」は金正恩の「正」であり、いい加減な気持ちでペンネームとして採用しうる類のものではないでしょう。
 今回の社説に関しては、対朝鮮政策のあり方をめぐる中国国内の論争に終止符を打つものでもあります。すなわち社説は、私が1月21日付のコラムで紹介した朝鮮半島問題専門家の李敦球文章や、3月6日付のコラムで紹介した清華大学当代国際関係研究院院長の閻学通の所説を念頭におきつつ、「中国国内には確かに、朝鮮核問題について朝鮮に与し、中朝友好維持を朝鮮核保有反対の上に置くものがいるが、そういう意見が中国の半島政策に対して実際に影響力を及ぼすことはあり得ない」と断定して、中米首脳会談を受けた習近平指導部が今や、「朝鮮核保有反対」に明確に軸足を置いたことを明確にしました。
 もう一点、この社説で注目すべきは、「平壌が核ミサイル活動を停止さえすれば、中朝関係は正常状態を回復することができる」と指摘していることです。「核ミサイル活動の放棄」とは言わず、「核ミサイル活動の停止」としていることは、中国の「双方暫定停止」「ダブルトラック同時並行」の提案と整合するものであり、中国の立場が米日韓とは一線を画したものであることは明らかです。

 朝鮮中央通信社は21日に再び署名論評を出し、中国がアメリカの対朝政策に「調子を合わせて」いることを、名指ししないで批判した。この文章は感情的表現により、平壌が引き続き核保有の道を進む決心を堅持することを表明した。この文章の中でもっとも刺激的で、世界世論の最大の関心を集めたのは、中国が朝鮮に対する経済制裁に固執するのであれば、「われわれとの関係に及ぼす破局的結果も覚悟すべきであろう」と述べたくだりである。
 この文章は、朝鮮の当局メディアが最近行った2回目の名指ししない中国批判である。朝鮮中央通信社は2月23日、署名文章を発表して、中国が「汚らわしい処置、幼稚な計算法」で朝鮮に対処しており、「人民の生活向上に関連する対外貿易も完全に遮断」したと批判し、これは「事実上、わが制度を崩壊させようとする敵の策動にほかならない」と述べた。
 朝鮮中央通信社の新しい文章は、2ヶ月前の対中恨み言と軌を一にしており、中国が安保理決議を厳格に執行して制裁を強化した行動に不満を述べ、核ミサイル実験において我が道を行く意思を表明することに加え、そういうやり方を通じて中国に圧力を加え、朝鮮の次なる核ミサイル活動に対する中国の態度に影響を及ぼそうとしている。
 しかし、朝鮮中央通信社がそのようなことをしても、平壌の孤立を強めるだけで、朝鮮にとって有利な効果を生み出すことはあり得ない。中国としては、引き続き自らの原則的立場を堅持し、安保理決議に基づいて朝鮮に対する経済制裁を行う一方、平壌が名指ししないで中国側の見識を攻撃する姿勢に対しては、朝鮮に好き勝手に言わせておいて、中国はやることをやるだけである。
 中国の対朝鮮政策はすでに非常に明確かつ予見可能であり、平壌が敢えて第6回核実験を行うならば、安保理が朝鮮石油貿易の制限を含むさらに厳しい制裁決議を採択することを北京が支持することはほぼ疑いのないところだ。しかし、この制裁はあくまでも朝鮮の核ミサイル活動に対するものであり、朝鮮人民及び平壌政権に対するものではなく、中国の対朝友好の基本的態度に変更はあり得ない。平壌が核ミサイル活動を停止さえすれば、中朝関係は正常状態を回復することができる。
 北京は長期にわたって対朝鮮関係に関する以上の立場を維持する十分な能力があり、朝鮮中央通信社がどれだけの数の文章を発表しようと、また、平壌が他のどのような動きを示そうとも、北京に影響を及ぼすことはあり得ない。
 平壌としては、次の点について認識を改める必要があるだろう。すなわち、中国の学界には、朝鮮は自らが「中国のための見張り台になっている」と考え、したがって、朝鮮が何をしようと、北京としては戦略的に朝鮮と妥協し、無条件に保証人になる以外の選択はないと考えている、という言説がある。平壌が仮にそう考えているとするならば、それは明らかに誤りだ。朝鮮の核保有は東北アジアの平和と安定を深刻に脅かし、中国の重要な国家的利益を損なっているのであり、朝鮮の核保有を阻止することは、中国が複雑な東北アジアの問題を処理する上での優先課題となっている。
 平壌はまた、中国民間における半島問題に対する多元的見方について読み誤ることがあってはならない。中国国内には確かに、朝鮮核問題について朝鮮に与し、中朝友好維持を朝鮮核保有反対の上に置くものがいるが、そういう意見が中国の半島政策に対して実際に影響力を及ぼすことはあり得ない。朝鮮に対する安保理制裁決議を厳格に履行することに対しては、中国国内の広汎な民意の支持がある。
 北京としては、原則的な違いについて平壌と論戦を行う必要はなく、仮に平壌がそれを仕掛けてきても、北京当局はそれに反応する必要もない。時代は変化しており、イデオロギーも調整する必要があり、中国のもっとも直接かつ有効な反応は行動であるべきだ。
 朝鮮核問題は、本質としては米朝の深刻な矛盾の表れであり、中国の手中にはこの問題解決のカギはなく、北京としてはこの点についてワシントンにくり返し明らかにする必要がある。北京は安保理決議を厳格に履行し、問題解決に自らの貢献を行うが、ワシントンとソウルも北京と歩調を合わせ、自らの貢献を行い、平壌をして、核兵器を持たなくても国家及び政権の安全を保証する希望があることを見届けさせる必要がある。
 国際制裁は平壌に対して向けられているが、平壌は半島情勢の緊張をもたらした唯一の責任者ではなく、ワシントンは自分がいかなる間違いを犯したかを反省するべきである。トランプ政権は、アメリカの以前の対朝鮮政策が間違っていたとはしきりに言うが、ワシントンの現在のやり方と方向性はオバマ政権と別に変わったところがない。新しい靴を履いても今までどおりの道を歩むのであれば、正確な地点にたどり着きたいと考えても、その可能性はきわめて乏しいだろう。