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中朝関係と中国の対朝鮮半島政策(中国論調)

2017.3.6.

2月23日付(24日補筆)のコラムで、2月23日付の朝鮮中央通信の「汚らわしい処置、幼稚な計算法」と題する.文章を紹介しました。その後、朝鮮外務省の李吉成次官が訪中し、3月1日に王毅外交部長が同次官と会見したほか、劉振民副部長及び孔鉉佑部長助理と個別に会談を行いました(3月1日付中国外交部WS)。以上を受けて、3月2日付環球時報は、「中国の対朝政策 情緒化を避け、確固たるものであるべし」と題する社説を掲載しました。
 その内容は、現在の半島情勢について、「朝鮮戦争終結以来で、多分もっとも危険で、もっとも制御不能に近づいている段階」という切迫した認識を示すとともに、「金正男のマレーシアでの暗殺」に関する報道に刺激されたネット上の対朝鮮過激発言に言及しつつ、中国としては冷静沈着に対応するべきであること(外交はプロに委ねるべきだとする指摘を含む)を強調するものです。その内容を以下に紹介します。  また、この社説は、「どのようにして朝鮮に核放棄を促すかについて、中国国内でも見方が統一されていない」と指摘しています。そういう例として環球時報は、2月23日付で閻学通署名文章、及びこれに対する異論として、2月27日付で曹世功署名文章を掲載しました。中国における問題意識の所在を窺う上で参考になると思いますので、両文章(要旨)も併せて以下に紹介します。
 「なお書き」で記すことではないのですが、私は近頃ますます、敗戦後の日本が正に国を挙げた総力で、核兵器廃絶の声を上げて取り組んできたのであれば、朝鮮半島の核危機も、トランプ政権による核戦力強化計画も起こるはずはなかっただろうという思いを強くしています。政府・自民党の不誠実な核政策(その集中的表れが非核3原則を言いながらアメリカの「核の傘」を必要だとする二重基準の極めつきであり、また、「原子力の平和利用」という美辞麗句のもとでの原発推進政策でした)のゆえに、アメリカの核戦略に対してもっとも正面から異議申し立てを行うことができたはずの、否、異議申し立てを行わなければならない責任があったはずの日本が「お茶を濁す」姿勢を貫いてきたために、世界の反核・非核化運動は民・官を挙げた力を生み出すことができなかったのではないでしょうか。広島・長崎という原爆体験を経験した日本による「不作為」は、今日実に深刻な国際的核危機という形を取って私たちたちに、日本の政治を根本から変えられないでいる日本人の人類史的責任を厳しく問いただしていると思います。

<環球時報社説「中国の対朝政策 情緒化を避け、確固たるものであるべし」>

 王毅外交部長は(3月)1日、訪中した朝鮮の李吉成次官と会見した。李吉成は、昨年5月末以後の約9ヶ月間で訪中を目的として訪れた最初の朝鮮のハイ・レベルの政府関係者である。会談後に中国側が発表した情報によれば、王毅と李吉成はともに中朝友好を擁護する積極的姿勢を表明し、李吉成は朝鮮が半島情勢について中国と突っ込んだ意思疎通を行うことを希望する旨述べた。
 中国は先月、本年末まで朝鮮産石炭の輸入を暫定停止することを発表し、その後朝鮮中央通信は名指しをしない形で中国を激しく批判した。李吉成はこういう背景のもとで訪中したものであり、多くの推測を招いた。
 朝鮮半島情勢はますます緊張の度を増しており、米韓と朝鮮はそれぞれが徹底的に戦う方向でまっしぐらに突き進んでおり、現在は、朝鮮戦争終結以来で、多分もっとも危険で、もっとも制御不能に近づいている段階になっている。
 誰もが朝鮮核問題にかかわるもつれをきれいに整頓することができず、どのようにして朝鮮に核放棄を促すかについて、中国国内でも見方が統一されていない。しかし、朝鮮に対して核放棄を要求するという最終目標については、中国社会の立場には高度の一致がある。
 「金正男がマレーシアで暗殺された」という外部の報道があふれるに伴い、一般の中国人の間では、平壌のイメージが新たなダメージを受けている。今は恐らく、朝鮮の核保有に対する中国民衆の忍耐心がもっとも失われたときであり、人々の韓国THAAD配備に対する激しい怒りの一部分は朝鮮に対する強烈な不満へと転化している。中国のネット上では、北京はさらに厳しく平壌を罰するべきであり、さらにはこれと決別するべきだとする声が充満している。
 我々が思うに、北京が安保理の対朝鮮制裁決議の執行を強化し、朝鮮産石炭購入を暫定的に停止したことは正しいし、しかもきわめて強力なものである。しかし、ネット上で流布される「朝鮮との決別」感情は絶対に国家としての政策とするべきではない。仮に中国がそのようにすれば、韓米が拍手喝采するだけである。それは「ボケ外交」であり、きわめて幼稚であって、大国たるものがするべきことではない。
 中国の朝鮮に対する制裁は全面的に安保理決議に即したものであり、一方で我々は断固とした態度を取るとともに、他方では朝鮮政権に難癖をつけるわけではないし、対朝友好政策を放棄するということでもない。この姿勢を堅持していけば必ずや力を生み出し、半島情勢に対してプラスの影響を作り出すだろう。
 北京が発する、朝鮮の核保有に反対し、朝鮮が核放棄交渉に復帰することを要求するシグナルはきわめて明確であって、これは我が対朝政策の一つの基点であり、いかなる力も中国をしてこの基点から離脱させることはできず、平壌はこのリアルな外交条件と向かいあわなければならない。それと同時に、我々は中朝関係の変化について下限を設定している。それはすなわち、中国は米韓のように平壌の政治的安全を脅かすことはあり得ないということだ。平壌が希望する限り、中朝友好は一貫して両国関係の共通の基点であり続ける。
 朝鮮核問題が極端に複雑であるため、いずれかの一方をして「うまいとこ取り」することを可能にさせる政策はないが、中国の現在の対朝政策の選択は比較的に無難かつ効率的と言うべきだろう。
 最近の論争においては、一部のものはソウル及びワシントンに偏りすぎており、あるいは平壌に肩入れしすぎており、「他者感覚」がきわめて徹底している。しかし我々が言いたいのは、北京としては中国の利益を擁護することを半島政策制定における第一基準にしなければならないということだ。我々は絶対に朝鮮の核保有を受け入れず、しかも同時に、朝鮮核危機は米韓の極端な対朝政策が引き起こしたものであることをハッキリ認識し、中国としては両国に代わってこの東北アジア最大の難問を丸抱えして、米韓のために命がけで最前面に躍り出るということはすべきではない。
 朝鮮中央通信社は数日前、名指しはしなかったけれども、一見するだけで中国と分かる隣国を「卑劣」と形容したが、北京はシカトするだけで、怒ることもなく、妥協することもしない。これこそが大国の定力及び自信である。そして今、李吉成が訪中し、中朝関係には新たなニュースが添えられることとなった。
 朝鮮はこれまで、核兵器が国家の安全を守る「切り札」と固く信じているが、それとは反する証拠はますます増えており、核保有が朝鮮にとってますます多くの安全を損なう現実がさらに深刻になっている。我々が望むのは、これらすべてのことが平壌に明らかとなることであり、核兵器は朝鮮の制御力を超越したリスクをもたらすだけであり、想像するような安全ではないということである。
 朝鮮核問題は様々な糸が錯綜し、入り交じっているので、単純にして明快な半島政策が中国にとっての最善な選択となる可能性はほぼない。中国社会としては、半島問題の処理に関してはエクスパートである外交集団に高度な権限を与えるべきだ。彼らは広汎な民衆の切実な利益を真剣に守るだろう。我々が時として行うアドバイスを彼らは聞き入れなくてもよく、こうするああするのはなぜかということについても、我々に対して一々説明する必要もない。

<対朝鮮半島政策をめぐる論争>

(閻学通「外部の脅威は中国の台頭をひっくり返すにたらず」)

 この文章は朝鮮半島問題だけを取り上げたものではなく、中国の台頭に対しては国際的挑戦(脅威)と国内的挑戦とがあると問題提起した上で、国際的脅威は中国の台頭をひっくり返す力はないと論じるものです。そして、国際的脅威として、「台湾独立」問題、南シナ海問題に続けて朝鮮核問題を取り上げているわけです。以下においては、朝鮮核問題の部分を紹介します。
なお、閻学通は清華大学当代国際関係研究院院長です。

 朝鮮核問題に関しては、中国は2つの異なる利益を有している。一つは朝鮮半島の平和を維持し、戦争を防止することである。もう一つは半島の非核化を実現することだ。この二つが衝突する場合には、中国としては2つの利益の優先順位問題を解決する必要がある。現在中国が直面している客観的状況は、短期的には、半島で戦争が発生することを防止する能力はあるが、朝鮮の核兵器を除去する能力はないということだ。半島の平和を維持するという条件の下、中国の対朝関係に関しては4とおりの選択肢がある。第一、中国に対して友好的な核保有の朝鮮。第二、中国に対して非友好的な核保有の朝鮮。第三、中国に対して友好的な非核の朝鮮。第四、中国に対して非友好的な非核の朝鮮。
 朝鮮政府はすでに、経済と核戦力を同時に発展させる戦略方針を定めているので、上記4つの選択肢のうち、第三及び第四の実現可能性はない。したがって、中国としては、自らの現有の実力に基づき、第一及び第二の選択肢のいずれかを選択することになる。中朝関係はすべての国家関係の性格と同様、安全保障関係が二国間関係の基本であり、経済協力は二国間関係の基礎とはなり得ない。

(曹世功「非核化は半島の平和と安定の前提及び保障 閻学通教授との議論」)

 曹世功は、中国アジア太平洋学会朝鮮半島研究会委員という肩書きで紹介されています。

 閻学通文章は、半島の非核化の重要性、緊迫性という観点を曖昧にし、中国に対して「友好的」または「非友好的」な朝鮮の間で選択する以外にないとし、非核化の朝鮮は選択肢になり得ないと見なしている。この観点については議論する価値がある。
(「平和維持」は「非核化」に優先するとするのは誤りだ)
 筆者が思うに、中国が堅持する「半島の非核化実現、半島の平和と安定の維持、対話と協議を通じた問題解決」という3つの原則は有機的統一である。すなわち、「半島の非核化」は「半島の平和と安定の維持」のための道筋であり条件である。「半島の平和と安定の維持」は最終目的であるとともに、実行原則でもある。この原則の基本的役割は、様々な「勝手な行動」を制約することによって「戦争及び混乱の発生」を防止することであり、リスクを回避するためには「非核化」に関して「不作為」を認める、ということを絶対に意味するものではない。閻学通文章は「平和維持」と半島「非核化」とを対立させ、両者が対立する場合には「平和維持」を優先させるべきだとし、半島「非核化」をあってもなくても良いと位置づけるが、これは間違いである。
 半島非核化は半島の「平和維持・戦争防止」にとっての前提かつ保障であり、「非核化」なしには半島の平和と安定を論じる余地もなくなる。朝鮮の「核保有」が半島の平和と安定に対する重大かつ現実の脅威となっていることは紛れもない事実だ。昨年12月27日、閻学通教授は環球時報の単独インタビューに応じた際、トランプ政権期間中に「朝鮮の核施設を爆撃する可能性」を排除しないと予想した。かかる情勢のもとで、非核化を迂回して「平和維持・戦争防止」が実現可能か。答えは明らかに否である。
 そのもっとも根本的な原因は、朝鮮の核武装がアメリカの武力行使に対して口実と言い訳を提供することにある。アメリカからすれば、朝鮮が核ミサイル・ゲームで遊びすぎてアメリカの安全に対して脅威となるならば、アメリカとしては武力を行使することによってそれを制止するということなのだ。こういう状況のもとにおいては、半島の「平和維持」のためには、先手を打って根本的に問題を解決することを追求すべきである。すなわち、断固とした果断な措置を講じて、「朝鮮の核」という時限爆弾の雷管を引き抜き、アメリカの武力行使の口実を封じ、戦争の危険を除去しなければならない。したがって、現在、半島非核化はもはやあってもなくても良いことではなく、最重要かつ急務である。
(半島非核化メカニズムは依然として存在し、運用している)
 閻学通文章は「中国には朝鮮の核兵器を除去する能力はない」と指摘する。確かに間違いではないが、必ずしも全面的にそうだということではない。中国一国だけでは半島非核化実現は不可能だが、朝鮮の核武装問題は関係多方面の関心を呼び起こしており、国際社会は共通認識を有しているのであって、歩調を一致させかつ戦略が正しければ、半島非核化という目標は視野に収めることが可能である。中国は半島非核化という戦線において主動的地位を占めておらず、中国が負担する力のない責任を強制されるべきではないが、中国の地位に見合った役割を担うことは当然である。
 最近、中国が朝鮮産石炭の輸入を暫定的に停止したのは重要な行動である。中国が現在なすべき、また、なすことができることは、微動だにせずに半島非核化の方針を堅持することであり、安保理決議を断固として厳格に履行し、朝鮮をして「痛みに耐えがたい」と感じる制裁と国際的非核化戦線の行動とがあいまって、朝鮮の幻想を打ち壊し、核放棄を選択し、対話による解決に回帰するという正しい途を選択することを迫ることである。中国が中朝友好の方針を堅持することは、半島非核化を堅持することと抵触するものではない。
 閻学通文章はまた、朝鮮の「核保有」の大方針がすでに決まっているので、「非核化の朝鮮」(という可能性)はもはや存在しないと認識している。同文章は「非核化失敗論」の響きがあり、中国が「核保有の朝鮮」を認めることを主張している印象を与える。現在は半島非核化を推進すべきカギとなるときであり、こういった論調は時宜にかなっていないし、マイナスの影響を及ぼす。
 朝鮮は確かに強烈な核保有の意志と決意を持っているが、その目標を実現できるか否かは、それだけで決めることはできないのであり、内部の資源及び外部の環境による深刻な制約をも見なければならない。換言すれば、半島非核化が失敗するか否かの判断を行うに際しては、朝鮮当局の決意だけを見るのではなく、より主要な指標は国際社会の態度である。現在、国際社会の朝鮮の核保有に対する反対の立場は確固としており、半島非核化メカニズムも依然として存在し、運行しており、朝鮮の核武装プロセスに対して巨大な牽制力となっている。こうした状況のもとで、どうして非核化は失敗だと断定できようか。ましてや、朝鮮の核ミサイル能力は急速に進展しているとは言え、「さなぎが蝶になる」までにはなお距離があるのであって、朝鮮に「核保有国」という桂冠を与えるのは早すぎるのではないだろうか。