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シリア問題に関するアスタナ会議

2017.2.02

1月1日のコラムでシリア情勢を取り上げた中で、昨年12月23日に行った記者会見においてプーチン大統領が、「我々が直面している次のステップは、シリア全土の停戦に関する合意であり、それに続く政治的和解に関する現実的話し合いである。我々は政治的に中立なカザフスタンのアスタナを提案し、トルコ大統領は合意した。イラン大統領も、アサド大統領も合意した」と発言したことを紹介しました。
 私は、プーチンの上記発言のもとになったはずのロシア、トルコ及びイランの外相による昨年12月20日の合意について調べたところ、トルコ外務省WSに英文全文が掲載されていることを見つけることができました。この合意は、「シリア紛争を終わらせる政治プロセスを再活性化させるための合意されたステップに関するイランイスラム共和国、ロシア連邦及びトルコ共和国の外相による共同声明(2016年12月20日、モスクワ)」と題されるものでした。8項目からなる声明は、「シリアの主権、独立、一体性及び領土保全の完全な尊重」(第1項)、「シリア紛争に軍事解決はないこと」(第2項)、「東アレッポからの民間人の自発的退去及び武装反対勢力の組織的撤退に向けた共同の努力」(第3項)、「休戦拡大の重要性」(第4項)、「シリア政府と反対勢力の間で交渉される合意を段取りし、その保証者になる用意表明」(第5項)、「本合意が安保理決議2254に基づくシリア政治プロセス再開のための条件を創造するという確信」(第6項)、「カザフスタン大統領によるアスタナ会合オファへの留意」(第7項)、「ISIL/DAESH及びヌスラ戦線に対する共同戦闘並びに彼らと武装反対勢力との区別に関する決意」(第8項)からなっています。
プーチンの発言どおり、1月23日及び24日にカザフスタンの首都アスタナで、ロシア、イラン(シリア政府の仲介役)及びトルコ(反政府武装諸勢力の仲介役)が間に立って、シリア問題に関するシリア政府と反政府武装諸組織との間の交渉が行われました。ロシア外務省WS、イラン放送WS、中国メディア掲載の文章等に基づいて、アスタナ会議に関してまとめておこうと思います。

1.会議前の注目された報道

 以下の断片的な報道から判断できるように、アスタナ会議開催にこぎ着けるに当たっては、シリア政府を支持するロシアと反政府武装諸勢力を支持するトルコの双方が相当の譲歩を行ったことが窺われます。

<トルコ政府のシリア・アサド政権に対する立場の変更>

 1月20日付のイラン放送WS(英語版)は、トルコのシムセク(Mehmet Simsek)副首相が、スイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムで、シリアにおける内戦を解決するための前提条件としてアサド大統領の辞任を主張することはできない、と述べたと報じました。同WSは、シムセクが「(シリアの)地上での事実関係は激変したので、トルコとしてはもはやアサド抜きの解決は主張できない。それは非現実的だ」「我々は現実的、現実主義的でなければならない」と述べたと発言を引用する形で紹介しました。
 ネットを検索してみましたら、The New Indian Express WSが同じ日付でシムセクの発言を紹介しており、その内容はイラン放送WSと同じでした。また、シムセクの発言はパネル・ディスカッションの場であったとしています。さらに、South Front WS(浅井注:西側主要メディアのバイアスのかかった報道を批判する立場の独立系WSという自己紹介あり)は1月21日付でシムセクの発言を、「我々は現実的、現実主義的であるべきだ。地上における現実は劇的に変化した」、「トルコはもはやアサドを抜きにした解決を主張することはできない。それは非現実的だ」と引用して伝えました。
 以上から確実に判断できることは、これまでアサド政権打倒のために反政府武装諸勢力を強力に支援してきたトルコが180度の政策転換を行ったこと(シムセクの上記発言はそれを確認するものであること)、トルコの支援があったからこそシリア政府軍との軍事抗争を行ってくることができた反政府武装勢力としては、トルコの仲介する停戦合意及びアスタナ会議への出席に応じる以外の選択肢はなかっただろうということです。

<ロシア政府の反政府武装勢力に対する立場の変更>

 トルコが行った譲歩と比較するとスケールは劣りますが、ロシア政府も反武装勢力に対する立場について譲歩を行ったことは、1月18日に行われた、オーストリアのクルツ外相との会談後の共同記者会見におけるラブロフ外相の発言から窺うことができます。ロシアがこれまでテロ組織として国際的に指定することを主張してきたジャイシュ・アル・イスラムの指導者であるモハメッド・アルーシュ(Mohammed Alloush)がシリア反対派代表団を率いるというメディアの報道についてどう考えるか、という質問が提起されたのに対して、ラブロフは、「我々は、12月29日の休戦協定に署名した武装反対派グループをアスタナに招いている。…ジャイシュ・アル・イスラムはこの協定に署名した。この組織は国連安保理のテロ組織リストには載っていない。他の武装反対グループ同様、ジャイシュ・アル・イスラムは休戦協定に署名し、シリア政府と会談することに同意した。我々はこの立場を支持する。イスラム国またはヌスラ戦線と結びついていないものであれば誰でも、12月29日の協定に加わることができるし、我々はそうするように促している」と述べました。上記3国外相共同声明の第8項に対応する発言であることは明らかです。

2.会議の注目点

 会議開催に至る経緯及び会議初日の模様に関しては、1月23日にハンガリーの外交貿易相との会談後、共同記者会見に臨んだラブロフ外相が記者の質問に答える中で、かなり詳しく明らかにしました。そして、会議の結果出された「シリアに関する国際会合に関するイラン、ロシア及びトルコの共同声明」に関しては、1月24日付のアル・ジャジーラWSが全文(英語)を紹介しています。

<ラブロフ外相発言>

 以下のラブロフの発言から確認できるのは、①アスタナ会議の最重要ポイントは、12月29日の停戦協定に署名した武装反対勢力がシリア政府との交渉に応じて参加したことにあること(国連主催のジュネーヴでの会議には彼らは参加していなかった)、②開会式は双方が直接参加して行われたこと、③実質的交渉に関しては、シリア政府についてはイランが、また武装諸勢力に関してはトルコがそれぞれ仲介役を務め、デ・ミストラ(シリア問題に関する国連事務総長特別代表)がその間に立つという間接交渉のスタイルが採用されたことです。
 したがって、ラブロフがアスタナ会議は国連主催のジュネーヴ会議に取って代わるものではないと強調する意味、また、3国外相共同声明第6項の意味も理解できます。安保理決議2254は、シリア政府とすべての反対派の参加による交渉を予定しています。しかし、以前の交渉には武装勢力は参加していないという点で致命的な問題を抱えていました。アスタナ会議に武装勢力が参加することになったのはシリア問題解決にとっての大きな前進です。しかし、アスタナ会議への政治的反対派勢力の参加は限られていたようです。その点で、アスタナ会議もまたそれなりの限界を抱えていたというわけです。したがってアスタナ会議は、国連主催のジュネーヴ会議に武装諸勢力が参加するための条件整備という位置づけになるというロシア側説明になることが理解できるのです。

 我々ははじめから、アスタナ会議は、シリア政府と、ここを強調したいのだが、武装反対勢力との間の直接対話を開始することによって、シリア解決プロセスを質的に新しいレベルに引き上げるためのものであると述べてきた。シリア内部の対話を開始しようとするこれまでの試みは海外亡命者で主に構成され、外からの反対派である政治的反対勢力だけだった。しかし、アスタナで実現しようとしているのは、12月29日までは軍事的にシリア政府に抵抗していた人たちが、停戦及び話し合いのための条件作りに関する協定に署名して、シリアの将来を決定するプロセスに参加するということだ。
 我々は、トルコの同僚とともに、そしてイラン側の支持も得て、これらの合意達成のために積極的に働いた。否定的な観測とプロセスを脱線させようとする試みがあったにもかかわらず、本日(23日)話し合いが始まったのは喜ばしいことだ。話し合いは、保証国(guarantor nations)の立ち会いの下で、政府と反対派との直接会合で開始した。我々は、トランプ大統領政権の代表をこの会議に招待した(浅井注:イラン放送WSによれば、イランのザリーフ外相は、アメリカを同会議に招待することに反対を表明しましたが、ロシアが押し切ったとみられます)。トランプ政権が起動してから時間が短いため、アメリカ側はオブザーバーとしての参加を求め、カザフスタン大使を会合に派遣した。
 シリア政府が武装反対派と直接接触することを妨げようとする試みもあった。すでに述べたように、このような試みは阻止され、直接接触が実現した。開会式は、外部の代表の立ち会いの下、シリア政府と反対派の直接会合という形で行われた。シリア政府が12月29日の協定への署名者、すなわち武装反対勢力と会合するとした合意(浅井注:3国外相共同声明第5項のことか)を変えようとする試みもあった。すなわち、シリア反対派の代表として、武装勢力代表団ではなく、亡命した政治的反対派にしようとする動きだ。我々は、このプロセスから政治的反対派を排除するつもりはないが、アスタナにおいて意図したのは、このプロセスに武装勢力が全面的に参加するという前提(を確保すること)だ。現在、それは決定的に重要なことだ。ジュネーヴにおける会合を含め、今後行われるシリア人同士の話し合いは、シリア政府及び例外なしにすべての反対派を含むことになるだろう。すべてと言うのは、「リヤド派」、「モスクワ派」、「カイロ派」等々(も含むということ)だ。これからは、武装反対派の代表団が政治的な反対派に加わり、そうすることにより、すべてのシリア人の間の話し合いということをより中身のある、より希望のあるものにするだろう。国連安保理諸決議は、シリア政府とありとあらゆる反対派とを含む包摂的なシリア人同士のプロセスを呼びかけており、武装勢力が加わることは安保理諸決議に沿うものである。アスタナ以前は、この点が満たされておらず、話し合いにありとあらゆる反対派を網羅する試みは失敗していた。
 開会式後に行われる実務的接触に関しては、デ・ミストラがロシアの支持を得ながらモデレーターを勤めることになっている。シリア政府との接触はイラン代表団のサポートで、デ・ミストラの武装反対派との接触はトルコ代表団のサポートを得て行われることになっている。

<露土伊共同声明>

 1月23日及び24日に開催されたアスタナ会議の結果、「シリアに関する国際会合についてのイラン、ロシア及びトルコの共同声明」が出されました。検索してみたところ、アル・ジャジーラWSが全文(英語)を掲載していました。メディアの報道の中には、この最終文書にシリア政府及び武装勢力の署名がないことを指摘して、その実効性に疑問符をつけるものも見受けられましたが、伊露土3国の共同声明という性格であれば、シリア政府及び武装勢力の署名がないのは当然ですし、事実誤認に基づいて会議の「実効性」を云々することも的外れです。
 共同声明は実質的に11項目からなっていますが、3国外相共同声明のように項目立てをしているわけではありません。特に注目される内容としては、「3国の当事者に対する影響力を行使する」ことによって「2016年12月29日に署名された取り決め(浅井注:今の段階では特定できていません)に従い、かつ、安保理決議2336が支持した休戦レジームを強固にするために努力」、「休戦の完全遵守を監視し、確保し、挑発を防止し、休戦に関するすべての態様を決定するための三者メカニズムの設置決定」、「安保理決議2254にしたがって交渉プロセスを活性化する努力を加速する緊要性についての確信表明」、「国連主催の2月8日の会合(浅井注:国連のデ・ミストラ特別代表は2月1日、2月8日から2月20日に開催を延長する旨発表)に武装反対勢力が参加することに対する支持」、、「安保理決議2254で合意されたすべての段階を速やかに実施するための政治プロセスにすべての国が支持することを勧誘」等が指摘できます。

3.ロシア外相のシリア反対派との会合

 1月27日付のロシア外務省WSは、同日行われたラブロフ外相とシリア反対派との会合におけるラブロフ外相の冒頭発言を紹介しました。ラブロフはこの発言において、アスタナ会談の重要な成果として4つのポイントを指摘するとともに、シリア問題の解決に積極的役割を果たすべき国連のデ・ミストラ特別代表のこれまでの消極的姿勢についても公然と批判し、いわゆるリヤド・グループの態度についても興味深い発言を行っています。また、アスタナ会議において、ロシアがシリア憲法案を示したことについても言及しています。その主な発言内容は以下のとおりです。

 我々は、アスタナ会合は解決に向けての大きなそして根本的に新しいステップであると考えている。なぜならば、シリア政府との接触にも、また、シリアの将来に関する他の話し合いに関連する出来事にも参加してこなかった武装勢力が今や一緒にいるからである。第二、アスタナでは、シリア紛争には武力による解決はないという重要な結論が達成された。第三、12月29日に実現した休戦協定が再確認され、ロシア、トルコ及びイランの代表で構成される三者機関が作られ、休戦遵守を監視し、休戦違反を調査することになった。第四、政治解決に向けてアスタナで行われた努力は、国連安保理決議2254にしたがってジュネーヴで行われる、国連主催のシリア人同士の話し合いに貢献するものであることが表明された。
 アスタナで会合を持つという決定、それに向けての準備、そして会合そのものが国連の同僚の活動を鼓舞したことは喜ばしい。彼らはジュネーヴでのシリア人同士の話し合いを再開することを発表した。2016年4月以来いかなる会合をもしようとしなかった国連の同僚の消極性は受け入れることができないものだと考えている。もし彼らが、いわゆるリヤド・グループの派閥的立場で物事を見ているのであれば、シリアにおける解決は永遠の先に引き延ばされるだろう。
 ちなみに、我々はリヤド・グループの代表もモスクワに招待した。最初、彼らは来ようとしたが、次には、すべての反対派諸勢力の一部としてではなく、独立の立場で我々と取引する必要があるという議論をし始めた。リヤド・グループは、決議2254に矛盾する多くの前提条件を主張した。例えば、戦闘が続いている間は交渉の席にはつけないと言った。しかし、戦闘は止み、休戦が発表されたのだから、彼らが話し合いを拒否する理由はない。
 我々としては、国連がシリア人同士の次の話し合いのラウンドを遅らせないことを望んでいる。今は、国連安保理決議2254に示されたアジェンダ(憲法に関する作業を含む)にしたがって現実的問題に集中するときだ。アスタナ会議では、配布された憲法案に関して長々と議論があった。この問題についてはっきりとさせておきたい。我々が提起した草案は、過去数年にわたって我々が接触を保ち、シリア危機から抜け出す方途を見いだそうとする中で、シリア政府及び今日ここにいるものを含めた反対派が表明した考え方に含まれている共通の要素を一緒にし、まとめてみる試みだということだ。
 反対派代表団の中からは先日、シリア人自身が憲法を起草しなければならないと述べ、我々が出した草案を、イラク占領機関の長だったアメリカ人のポール・ブレマーがイラクに押しつけた憲法に例える者がいた。これは誤解に基づく主張だ。なぜならば、イラクの憲法は占領当局からイラク人に対して最後通牒として押しつけられたのだが、我々の場合、シリア諸勢力に対して我々の提案を示したということであり、それを採用することを押しつける意図はまったくないからだ。過去5年間の経験に基づき、我々は現実的な仕事ははっきりした提案がテーブルにある場合にのみ始めることができると確信している。私としては、すべてのシリア人が、ジュネーヴ会合を準備しつつ我々の草案を読むこと、そして、ジュネーヴ・コミュニケに沿ってシリアにおける協議達成の方途を現実的に討議する際に、一つの刺激剤になることを望んでいる。

 同日(1月27日)、ロシア外務省のザハロワ報道官は定例記者会見を行い、アスタナ会議についても詳しく解説しました。特に、ロシアが提案した憲法草案に関して、ザハロワは「シリアの交渉者たちに渡された新シリア憲法草案」と題して、ラブロフが言及した問題についても、大要以下のとおり詳しくブリーフィングを行いました。

 我々は、アスタナ会議における武装反対派のスポークスマンであり、最高交渉委員会(HNC)の顧問でもあるヤヒア・アル・アリディ(Yhya Al-Aridi)の声明に留意している。この声明では、イラク占領当局の長だったブレマーが2003-2004年当時に行ったように、ロシアはシリアに憲法を押しつけようとしていると述べている。
 我々はこの評価に断じて同意できない。それは、事実に即したものではなく、事実関係を歪曲している。解決の条件に関しても、憲法に関しても、ロシアはシリア人にいかなるものも押しつけるつもりはない。これは、シリア問題を議論するに当たっての重要な基本原則だ。我々は、シリア人自身が自国の将来を決定しなければならないと固く信じている。
 我々の仕事は、安保理決議2254に示されているように、シリア人同士の政治対話を加速することであり、その中には新シリア憲法を起草することが含まれている。ロシアはこの決定を押しつけようというのではなく、様々な反対派代表を含むシリア人がこの基本文書に関する複雑な作業と協力を早めることを促しているのだ。
 アスタナで示された草案は、シリア憲法がどのようなものとなり得るかについての「アンケート」であり、シリア国家の新基本文書を起草していくプロセスにおいて、シリア人に問われる問題の答えについて想定した一連の提案とアイディアである。同時に、ロシアの専門家は、国連安保理関連諸決議、国際シリア支援グループ(ISSG)及びモスクワ、カイロ、リヤドその他の反対派によって様々な機会に採択された文書において示された、シリア問題解決に対する国際法的アプローチに基づいて可能な選択肢を提起したものでもある。
 アスタナで示されたものに対しては同意することも同意しないこともアリだ。重要なことは、将来のシリアの憲法案を討議するプロセスが開始されたということだ。今後広範囲な議論が行われるだろう。シリアの主権問題について争おうとする者はいない。
 我々が見届けたくないのは、新シリア憲法をめぐる作業が終わりのない無責任な言い争いに成り下がること、個人的な野心をひけらかす場になること、政治プロセスそのものを遅らせる口実とするような試みである。
 ロシアは、シリアにおける長期的かつ持続的な政治解決にコミットしており、今こそシリア憲法を真剣に議論するときだと確信している。シリア人は、平和に向けた進展の可能性を持たなければならない。そうした作業に向けての条件は作り出された。仲介的な役割及び責任を引き受けたロシアの真剣さについては分かってもらえるだろう。休戦は確立され、兄弟同士の流血は終わった。シリアの双方、すなわちシリア政府と様々な反対派が、シリアには政治解決以外はないこと、言葉ではなく実際の行動において共通点を見いだすことを願っている。

4.アスタナ会議に関する中国側評価

 旧正月(春節)に入ったため、以下に紹介するものを除けば、中国の専門家による詳細な分析、評価にはまだ接していません。中国外交部の華春瑩報道官は、1月25日の定例記者会見で、アスタナ会議に関する評価を問われて、「シリア政府と反対派の双方の代表が出席して相手側の主張に耳を傾けたこと自体がシリア問題の政治解決に対して積極的な意義がある。今回の会議は、次の段階であるジュネーヴ会合にとって重要な前段階であり、貴重なプラス・エネルギーを提供するだろう」と高く評価しました。また、「シリア政府及び反対派に対し、さらに多くの政治的善意及び勇気を出し、前提を設けず、積極的に和平会談に参加し、対話を通じて問題を解消し、相互信頼を蓄積することを呼びかける」とし、「他の反対勢力もシリア問題の政治解決プロセスに参加し、積極的力を貢献することを奨励する」と述べました。
 春節に入る前の段階では、1月26日付の文匯報WSが、唐見端(上海外国語大学中東研究所シンクタンク理事会理事)署名文章「アスタナ会議の3つのシグナル アメリカの政権交代政策の失敗」が興味深い、私として首肯できる分析を加えていますので、要旨を紹介します。

 アスタナ会議は実質的な進展があったというわけではないが、以前の会議のどれにも優る意義があった。
 まず、アメリカの「政権交代」政策はもはや意味が失われた。2012年6月にシリアに関する最初の国際会議が招集されたとき、西側メディアはシリア政府を人類の公敵とし、「政権交代」を実現しようとしていた過激分子を革命分子と扱っていた。数年間にわたる鮮血によって明らかとなった真実は、シリア政府こそが広範囲の人々の支持を得ているということだ。西側メディアは、政権が倒れない主要原因はロシアの軍事介入にあるとしているが、いかなる外国勢力の強力な支持があったとしても、民意という基盤がない政権を支えることは不可能だ。今回の会議の直前、トルコのシムレク副首相は、政治解決に当たってはもはやアサド大統領を排除することは不可能だとはっきり表明した。トルコはこれまで一貫して「政権交代」の主役を演じてきたのだが、その立場を変更するという表明は、アメリカがこれまで一貫して試みてきた「政権交代」政策が、シリアではもはや意味が失われたことを表している。
 次に、ロシアとトルコの協力は、シリアにおける力関係のあり方を変えつつある。トルコは、アメリカの政策に付き従って大量の過激分子がシリアに入ることを黙認し、ロシア軍機を撃墜するという強硬手段に訴えていたのに、いまや、ロシアと手を組んでシリア北部で「イスラム国」に打撃を加えることになって、中東政治おけるもっとも劇的な一幕を演じることとなった。これは、エルドアンが冷酷な現実をついに見極めたからである。その冷酷な現実とは、シリアのクルド武装勢力とトルコ国内の分裂勢力が内外呼応する勢いを形成し、国外の(エルドアンに対する)政治的反対派をして国内政変をリモコンさせるに至っている原因は、アメリカであってシリア及びロシアではないということだ。
 トルコとイスラム国との悪魔の取引に関しては、今や自爆テロに直面することになっている。ヌスラ戦線との関係は目下のところはまだ安定しているが、トルコとロシアが接近することで仲違いになる可能性がある。トルコは、昨年、シリア軍がアレッポを包囲した際、シリア軍がアレッポを回復するのを座視した。
 トルコの譲歩は報われることとなった。すなわち、ロシアは以前、ヌスラ戦線の盟友であるイスラム軍及びジャイシュ・アル・イスラムをテロ組織と見なしていたが、今回のロシアとトルコが取り決めたアスタナ会議のプロセスにおいて、ロシアはこの2つの組織を交渉リストに加えることに同意した。これは、一方ではヌスラ戦線を分裂するためであるとともに、他方ではトルコの「反対派」支持者に政治的肩書きを与えることを通じて、政治解決への道筋においてロシアと行動を共にするようにさせるためでもある。
 第三、サウジアラビアの地位はこれまでになく弱まった。最初から、サウジアラビアはシリア反対派勢力に対する重要な支持者だった。豊かな資金と「教派対立」という影響力を利用して、サウジアラビアはシリアの「政権交代」のために大量の資源を投入してきた。オバマ政権がシリアに対する直接軍事干渉をしぶったことに業を煮やし、サウジアラビアは2015年にイエメンで第二戦線を作り、一気にイエメンを攻略することによってシリア問題における自らの比重を高めようとした。ところが、アメリカの支援はあったものの、サウジアラビアのパフォーマンスはさんざんなものだった。その空襲はしばしば民間人を犠牲にしたし、その攻撃は倍返しの反撃に遭遇してきた。さらにさんざんだったのは、アスタナ会議ではサウジアラビアの出番はなく、政敵のイラン、アメリカそして国連代表までがことごとく出席したことである。地域における盟友だったトルコがシリアに対する立場を軟化させ、ホワイトハウスの新しい主人であるトランプはイスラム国を攻撃することを最優先にし、自らはイエメンにおける戦争でがんじがらめとなって、サウジアラビアのシリア問題における地位はかつてなく弱くなっている。
 以上に述べた有利な条件はあるものの、シリアに和平が訪れるだろうとは軽々しく言える状況にはない。その根本原因は、アメリカがシリアに対していかなる手を打ってくるかが誰にも分からないからだ。目下の情勢とは、アメリカは中東において物事をなすには力不足だという点ではコンセンサスがあるが、同じく注意する必要があるのは、敗れたとは言え、アメリカはなお余力を残しているということだ。