THAAD問題と安保理大国協調体制

2016.08.13.

8月3日に朝鮮が日本海に向けてミサイル発射実験を行ったことに関し、米日韓はいつもどおりに安保理による非難声明発出に向けて動きました。しかし、今回は声明の内容をめぐって米中間の調整がつかず、結局発出は不発に終わりました。8月11日付環球時報社説「THAADは安保理の朝鮮核問題にかかわる団結を崩壊させた」は、声明未発出の顛末について明らかにしています。
 率直な感想として、韓国・朴槿恵政権は実に高い、愚かな買い物をしたというほかありません。朝鮮の対韓ミサイル攻撃力にはなんのデタランスにもならず、アメリカの対中露核戦略に身を投じることによって中露との間で培ってきた関係をご破算にした(韓露関係に関しては9月の朴槿恵・プーチン首脳会談の様子を見る必要はありますが)だけでなく、朝鮮の核ミサイル開発に対する国連安保理での大国協調体制という、韓国の朝鮮に対する最高の戦略的カードに深刻な裂傷痕を持ち込んでしまうという不始末は、朴槿恵大統領の想定をはるかに超える事態でしょう。
 しかも、社説が「極めて皮肉なことは、中米が仮にTHAAD問題で不断にやり合ったとしても、米中両大国の関係が深刻に破裂することはあり得ないということだ。中米関係がグローバルな規模と性格を持っているということは、大きな闘争のスペースを持つとともに、尋常ならざる受容力を持っているということだ。しかし、仮に韓国がアメリカのTHAADの代理人として中国と衝突するのであれば、自らを地域の危機の新たな台風の目にさせてしまうことになるだろう」といみじくも指摘するように、この不始末の尻ぬぐいをさせられるのはもっぱら韓国であって、アメリカは馬耳東風なのです。朴槿恵政権も安倍政権の轍を踏んでいるとしか思えません。

 THAADシステム建設反対と朝鮮のミサイル発射非難とを結びつけるか否かをめぐる中米の深刻な意見対立により、9日の国連安保理は声明を発出することができなかった。
 朝鮮は、8月3日に日本海方面に向けて2発の弾道ミサイルを発射し、1発は空中で爆発、他の1発は約1000キロ飛んで日本の排他的経済水域に落下した。アメリカは直ちに安保理が朝鮮のこの行為を非難する声明を出すことを要求した。中国は、以下の内容を加えることを提案した。すなわち、各国は、互いに挑発し、緊張をエスカレートさせる可能性がある行動を取ることを避けるべきであり、朝鮮の核の脅威及びミサイル計画に対処することを口実として東北アジアにミサイル防衛拠点を配備してはならない。
 中国の以上の主張は米韓が計画しているTHAADシステム配備に向けたものであり、安保理における議論は膠着状態に陥った。これは、韓米がTHAAD計画を発表して以来、この2ヶ月間で中米の対立によって朝鮮のミサイル発射に関して一致した意見が達成できない2度目のケースである。
 明らかに、米韓が行ったTHAAD配備の決定は東北アジア情勢に新たなチャレンジを注入し、朝鮮の核保有に対する反対で形成されてきた国際協力の局面が攪乱され、東北アジア情勢の性格に変化が生まれている。米韓及び米日同盟に備わっている冷戦のかび臭い臭いがさらに広がりつつあるのだ。
 中国には朝鮮が核武装及び弾道ミサイルを開発するのを激励する動機は存在しない。というのは、北京は安保理が朝鮮を制裁するのを支持しており、それによって中朝関係は一定の損失を被っているからだ。そして今、米韓はまたもや朝鮮の核の脅威を理由としてTHAADシステムを配備しようとし、中国の安全上の利益を直接損なおうとしている。これは背後から切りつけることにほかならない。
 朝鮮が核を保有する根源的理由は米韓が朝鮮に対して長期にわたって加えてきた軍事的圧力であるが、米韓はそれに報いるにさらに深刻な軍事的威嚇で以てしてきており、両者の間には「卵が先か、鶏が先か」という、答のないパラドックスを生み出してきた。中国は本来、双方の矛盾を解消することを手助けする第三者であったのに、THAADシステム配備は、米韓がしたことは「恩に報いるに仇を以てする」行動と言うべきである。
 韓国・朝鮮日報WSの文章は、中国はTHAAD問題で韓国に対して高圧的に臨んでおり、これは北京の「中華秩序に固執する一種の時代錯誤」であると言い放っている。この文章は、中国は自らを「宇宙の中心」であると見なしていると非難するのみならず、全世界が非難する朝鮮を中国が抱擁しているとも非難し、THAADを口実にして韓国を脅迫する理由は中華秩序によって世界を構築することへの執着以外にないとも非難している。
 韓国メディアのこのような言いぐさは、中国人にとってはほとんど理解不能である。韓国のエリート層が外の世界にとって理解不能な偏執的思考でTHAAD問題に対処するというのであれば、彼らとしてはそのことによって導かれる不断なエスカレーションを受け入れる必要がある。
 現在、米韓は半島及び東北アジアの問題においては彼らが「全面的に正しい」のであり、彼らと態度が異なる者はすべて「全面的に間違っている」と考えている。このようなことでは、問題の解決はあり得ない。
 半島問題は錯綜して複雑であり、各国の思惑は互いに根が絡まりあっている。しかし、THAAD配備は一方の利益を追求するものであり、軽率に局面を打ち壊す無鉄砲な行動だ。それは中韓関係の大幅な後退をもたらし、中米の東北アジアにおける協力をも瓦解させる可能性があるし、半島及び東北アジア問題に関して各国が新たに仕切り直しに直面するということだ。
 中米日朝韓及び東南アジアの国々はどこも戦争に向かう気持ちはなく、経済発展をさらに重視し、国内の安定を維持するときであるのに、最近数年間、東アジアの様々なレベルにおける戦略的な相互疑惑と緊張は上昇傾向にあり、各国が警戒を強めることを余儀なくされている。東アジアの国々すべてが反省する必要があり、そうしないと、すべての国々が錯乱した戦略的関係の中でますます深みにはまっていくことになりかねない。
 東アジアにおける戦略的最高レベルでの変化とは、一つは中国の台頭及び軍事力の不断の強化であり、今一つはアメリカがアジア太平洋リバランス戦略を推進し、その60%の軍事力をこの地域に移動し、中国周辺における同盟関係を強化していることである。
 東アジアにおける多くのレベルでの摩擦は、すべからく中米の戦略的駆け引きの影響を受けている。中米は、歴史上の大国間の闘争方式とは異なるやり方で両国関係を処理する意図と願望をともに明らかにしており、「闘って破れず」は両国共通のボトムラインになっている。ところが域内の国々の中には、大波が引き起こす個々の波濤の本質を見て取ることができず、アメリカに不用意に利用され、特定の問題において中国と対決しようとするものがいる。
 THHAD問題に関して言えば、韓国は今に至るも自らが置かれた地位が分かっておらず、実際に獲得しようとしているものが本来獲得しようとしたものであるかどうかについてもハッキリしていないように見える。
 しかし、極めて皮肉なことは、中米が仮にTHAAD問題で不断にやり合ったとしても、米中両大国の関係が深刻に破裂することはあり得ないということだ。中米関係がグローバルな規模と性格を持っているということは、大きな闘争のスペースを持つとともに、尋常ならざる受容力を持っているということだ。しかし、仮に韓国がアメリカのTHAADの代理人として中国と衝突するのであれば、自らを地域の危機の新たな台風の目にさせてしまうことになるだろう。
 中国は「誤って韓国を傷つける」ということを望んでいないし、韓国も中米駆け引きの膠着地帯から身を遠ざけるべく努力するべきである。中韓は友好国家であり、ソウルは北京を脅迫することなかれ。

(参考)
 8月10日付の韓国・ハンギョレ新聞WS(日本語版)は、安保理声明が未発出で終わった経緯を詳しく紹介する記事を掲載しています。参考までに紹介しておきます。

中国、THAADを理由に対北朝鮮安保理声明に反対
登録 : 2016.08.10 23:32 修正 : 2016.08.11 07:13 ハンギョレ
 米国と中国が国連でも高高度防衛ミサイル(THAAD)配備をめぐり対立し、北朝鮮のノドンミサイルと推定される弾道ミサイル発射に対する安保理声明が 採択されなかった。中国が国際舞台の国連で北朝鮮に対する声明採択に反対する論理としてTHAAD配備を取り上げたのは異例だ。
 複数の国連消息筋は9日(現地時間)、「国連安全保障理事会(安保理)が今月3日に行われた北朝鮮の弾道ミサイルの発射に対する糾弾声明を採択する過程 で、中国が『THAAD反対』を盛り込むことを求めた」として、「これにより、米政府が同日、これ以上声明採択を進めることを諦めた」と明らかにした。
 中国は、北朝鮮のミサイル発射直後の3日に開かれた安保理の緊急会議では、THAAD問題を取り上げかったという。ところが、米国が以前の報道声明とほぼ同じレベルで北朝鮮の弾道ミサイル発射が安保理決議を違反したと非難する内容の草案を公開してから、状況が変わったと消息筋は伝えた。
 外交部当局者は10日、「中国が(安保理の報道声明にTHAAD反対盛り込んだ)修正案を配ったのは、現地時間の月曜日(8日)」だと話した。「本国からの訓令がない」としながら採択の留保を求めていた中国が「THAAD反対」を盛り込んだ自国の修正案を提示したのは、大統領府のキム・ソンウ広報首席が THAAD配備と関連した中国側の反応を「本末転倒」と正面から批判した翌日のことだ。
 これと関連し、米国メディアは、中国が米国の草案に対抗して「すべての関係国が緊張を高め、互いを挑発的行動に誘導するような、いかなる処置も控なければならない。北朝鮮の核とミサイルプログラムの脅威に対処することを口実に、北東アジアに新たな迎撃ミサイル基地を配備してはならない」との内容を盛り込んだ草案を提案したと伝えた。「北東アジアの新たな迎撃ミサイル基地」とはTHAADを指すものだ。THAAD配備が北東アジアの緊張を高める可能性があるという中国側の認識が窺える。
 米国側はこれに対し、「北朝鮮の明白かつ繰り返される弾道ミサイルの脅威から関連国家を保護するための純粋に防衛的な措置を非難することは、明らかに不適切であるだけでなく、北朝鮮に完全に誤ったメッセージを送ることになる」と反発する内容の電子メールを(安保理理事国に)送ってから、声明の採択を放棄した。安保理が議長声明や報道声明を採択するためには、15カ国の理事国の同意が必要だが、中国の反発が激しく、採択が難しいと判断したからだ。
 外交部当局者は「中国は、米国の草案の最も重要な部分である北朝鮮の弾道ミサイルに対する強い糾弾と深刻な憂慮の表明、国連安保理決議2270号などの関連決議の重大な違反行為であるとの認識や決議の完全かつ徹底した順守の要求などの文言には反対しなかった」と付け加えた。
 中国が国連でもTHAAD配備を問題視して北朝鮮に対する糾弾声明の採択に反対したことからして、中国が今後、安保理の対北朝鮮制裁の履行を戦略的に緩和し、朝中関係の改善を積極的に試みる可能性が高いものと見られる。また、韓国および米国との二国間外交だけでなく、国連のような多国間国際舞台でも THAAD配備が北東アジアの緊張を高めるという点を積極的に知らせる世論戦を展開するものと予想される。
ワシントン/イ・ヨンイン特派員、イ・ジェフン記者
韓国語原文入力: 2016-08-10 17:24