朝鮮の人工衛星打ち上げをめぐる中露の動き

2016.02.07.

7日、以下に紹介する中露両国の働きかけを振り切る形で、朝鮮の人工衛星打ち上げが行われましたが、朝鮮の人工衛星打ち上げの対IMO通報以後に慌ただしくなっている中米露のこの数日間の動きをまとめて紹介しておきます。米日韓が安保理で強硬な朝鮮制裁決議を採択しようとしているのに対して、中露両国は、朝鮮が第4回核実験に続けて人工衛星打ち上げをも進めていることに対して苛立ちを募らせながらも、朝鮮半島情勢がコントロール不能になることを回避することを最重視して、米韓日と渡り合っている構図は基本的に変わっていません。

1.中国

2月5日付朝鮮・労働新聞WS(中国語版)は、中国政府の朝鮮半島問題特別代表である武大偉が前日(4日)に訪朝を終えて帰国したことを報じるとともに、訪問期間中、朝鮮の李洙墉外相及び李容浩次官(金桂冠ではない)と会談したことを伝えました。
 2月5日には、習近平が韓国の朴槿恵大統領と電話で会談したことが同日付の中国外交部WS及び新華社電で伝えられました。これによると、朴槿恵が朝鮮の第4回核実験及び打ち上げに対して深刻な懸念を表明し、国際社会が緊密に協調して、安保理が速やかに対応し、朝鮮半島情勢に効果的に対処することを希望すると述べたと紹介されています。これに対して習近平は、「中国はいかなる状況の下においても半島の非核化及び半島の平和と安定の実現に確固として力を尽くすと述べ、対話と協議を通じて問題を解決することを堅持する」と強調し、「そうすることが中韓を含む東北アジア各国の共通の利益に合致する」と述べました。習近平はさらに、「半島には核はあってはならないし、戦争及び混乱が起こってもならない」とし、「関係諸国が半島の平和と安定を維持するという大局から出発して、現在の情勢に冷静に対応し、対話と協議という正確な方向を一貫して堅持することを希望する」と述べ、「半島問題では引き続き韓国と意思疎通及び協調していきたい」と表明しました。
 ちなみにですが、2月3日付の中国網は、2月1日付韓国連合通信社の報道として、2月2日の朴槿恵の誕生日に当たり、前日(1日)に習近平が直筆署名の祝賀メッセージを送ったこと(3年連続)を報じるとともに、「友好国指導者の誕生日をかくも重視し、祝福することは世界外交史上あまり例がないことであり、周辺諸国の指導者との交流においてもまれに見ることである」(中国網時事評論員の薛宝生)と紹介しています。私は、1月15日付等コラムで、朝鮮の核実験に反発した朴槿恵が、中国が警戒するTHAAD導入の可能性にまで言及するなど、アメリカ寄りの姿勢を強める発言を行ったことに対して中国が猛反発していることを紹介しましたが、習近平は「大人の態度」を維持していることが分かります。しかし、朴槿恵が習近平に対して安保理での対朝強硬対応を訴えたのに対しては、慎重対応の姿勢を崩さないことを明確にしたことが以上のやりとりから理解されます。
 習近平は翌6日には、求めに応じてオバマ大統領とも電話会談を行いましたが、ここでも慎重姿勢が明確です。すなわち同日付中国外交部WSによりますと、オバマが、朝鮮の核実験と打ち上げに深刻な懸念を持っており、「国際社会が協調を強めて国連安保理が措置を取ることを推進することでこの局面に有効に対応したい」と述べたのに対し、習近平は、「現在の半島情勢は複雑かつ微妙である」と指摘し、朴槿恵に対して表明した認識(「対話と協議を通じて問題を解決することを堅持することが東北アジア各国の共通の利益に合致する」)をオバマに対しても表明しました。
さらに習近平は、「中国は国連安保理の関係決議及び核不拡散体制を維持することに賛成」であり、アメリカを含む関係諸国とこの問題について意思疎通と協調を保っていきたいと述べました。「国連安保理の関係決議及び核不拡散体制を維持することに賛成」という表現は微妙です。読み方によっては、今ある安保理決議を維持することに賛成するのであり、「これまでどおりの対応ではもうダメだ」としたケリー発言に対する牽制とも受け取れるニュアンスとも受けとめることが可能です。
 また王毅外交部長は2月5日にロシアのラブロフ外相と電話会談を行い、朝鮮半島核問題に関しては、「双方は、現在の情勢の下においては、各国は情勢の緊張を激化させる新たな行動を取るべきではなく、安保理決議及び各国の努力を通じて半島核問題を交渉による解決の軌道に戻すべきであると一致して考える」としました(2月6日付中国外交部WS)。「情勢の緊張を激化させる新たな行動」とあるのは、朝鮮の人工衛星打ち上げの動きを指していることは明らかですが、米日韓の安保理での強硬対応の主張をも指していることも疑問の余地がありません。
 王毅外交部長は、同じ5日に訪問先のナミビアで記者のインタビューを受けて次のように中国の立場を詳しく説明しました(6日付中国外交部WS)。

 王毅は次のように述べた。現在の半島情勢は負のスパイラルに次第に陥りつつあり、このような流れは誰の利益にもならない。朝鮮は国際社会の反対を顧みず核実験を行った以上、国連安保理は必ずやさらなる措置を講じるであろうし、現在各国はこのことについて協議し、新しい決議を作ろうとしている。仮に朝鮮が弾道ミサイル技術を使って衛星を打ち上げるのであれば、国際社会の承認を得ることは同じく不可能であり、情勢をさらに複雑にするだろう。しかし他方、制裁は絶対に目的ではない。我々の目標は、各国をして再び交渉のテーブルに戻らせることである。なぜならば、交渉だけが問題解決の唯一の正しい道筋だからだ。
 王毅は次のように述べた。交渉を通じて朝鮮核問題を解決するという考え方はもはや行きづまりだとする主張がある。このような考え方は間違いだ。というのは、正に6者協議が中断していたこの8年間に、半島情勢は不断に緊張し、朝鮮はこの間に3回の核実験を行った。交渉を拒否し、中断することこそが現在の情勢を導いた真の原因であることは明らかだ。中国が然るべき役割を発揮していないという主張もあるが、これまた事実と合致しない。中国は6者協議主催国として、一貫して和解を勧め、会談を促してきた。私自身も6者協議に自らかかわった経験者であり、当時我々のほとんどすべてのエネルギーは、米朝双方の仲を取り持ち、両者が席について交渉し、対話を通じて問題を解決することに向けられてきた。今後の情勢発展のカギは、引き続き米朝双方がいかなる政治的決断を行うかにかかっている。
 王毅は次のように述べた。中国は戦略的忍耐を維持し、引き続き建設的役割を発揮していく。現在重要なことは、各国が情勢の緊張を刺激する行動をさらに取らず、情勢の悪化ひいてはコントロール不能になることを防止することである。各国は、如何にして交渉を回復させるために建設的役割を発揮するかを考えるべきであり、責任を逃れたり、ことにかこつけて言いたい放題したりすることで漁夫の利を得ようとすることであってはならない。

 王毅は、朝鮮の第4回核実験に対して安保理の新決議は不可避という認識を示していますし、人工衛星の打ち上げはさらに事態を複雑化するという認識を示しました。この点は、上記習近平の発言と比較するとき、「新決議ありき」とする点で踏み込んだものとなっています。ただし王毅発言の重点は、中国の基本的立場は制裁が目標ではなく、6者協議の再起動によって外交的解決を目指すことにあることも明確です。しかも興味深いことは、王毅が今後の情勢のカギは米朝双方の態度決定如何にあると強調していることです。これは正に朝鮮の主張と軌を一にするところです。

2.ロシア

 ロシア外務省も積極的に動いていることが分かります。朝鮮の人工衛星打ち上げ通報に対して、2月3日にロシア外務省が「国際法で承認されている規範を露骨に軽視する」国連安保理決議違反と非難したのに続き、翌日(4日)には、ロシア外務省のモルグロフ次官が朝鮮の金亨俊大使を召致し、「東北アジアの緊張を招く行動を抑制することを促し、朝鮮は国連安保理関連決議を厳格に遵守し、政治的外交的手段で朝鮮半島核問題その他の問題を解決するために交渉を再開するべきだ」と述べました(2月6日付環球網)。
 また、ロシア外務省のザハロヴァ報道官は、同じく2月4日に行われた対記者ブリーフィングにおいて、記者の質問(「ロシアは北朝鮮をして計画を放棄させることができるか。北朝鮮が衛星を打ち上げるとした場合のロシアの反応は如何。制裁は選択しか」)に答えて、「いま言える唯一のことは、情勢の解決に関心があるすべての当事者と協議しており、我々の評価、アイデア及び専門家の意見を共有しているということだ。我々は外交的チャンスを最大限に利用しようとしていることは確かだ」と述べました(ロシア外務省WS(英文版))。すでに紹介した2月5日のラブロフ外相と王毅外交部長との電話会談のやりとりも、そうしたロシア外交の一環です。