戸惑う中国の対米(オバマ政権)認識

2014.11.17.

1.中米首脳会談とオバマのクイーンズランド大学での演説

APECサミット非公式会合に出席するために訪中したアメリカのオバマ大統領は、サミット終了後に習近平主席と長時間の会談を行いました。11月12日付の中国外交部WSは、習近平とオバマが次のように発言したことを明らかにしています。

  習近平:今日の中国を理解し、明日の中国を予想するためには、中国の過去を理解し、中国の文化を理解しなければならない。現代中国人の思考、中国政府の国家を治める方策には中国伝統文化の遺伝子が浸透している。中国人民は古から国家の独立、統一及び尊厳を大切にしてきた。中国政府は、民意に従い、国家の主権、安全及び領土保全を確固として守り、民族の団結と社会の安定を守り、平和と発展の道を確固として歩まなければならない。中米の国情はそれぞれ異なり、歴史文化、発展の道筋、発展段階は異なっており、相互理解、相互尊重、聚同化異、和而不同を旨とするべきだ。両国に違いが存在することは免れないことだが、それは両国における主流ではない。両国政府はバランサーの役割を果たし、関連する違いを妥当に解決するべきだ。
  オバマ:今晩の我々の話し合いは非常に突っ込んだものであり、中国の状況並びに中国政府及び指導者の執政理念に対する私の理解はさらに深まった。中国人民がなぜ国家の統一と安定を大切に思うのかについてもさらに理解した。アメリカは中国の改革開放を支持しており、中国を抑止しあるいは包囲する気持ちはない。なぜならば、そのようにすることはアメリカの利益に合致しないからだ。アメリカは、中国との率直な意思疎通と対話、相互理解の増進、互いの経験を学び合うこと、違いを効果的にコントロールすること、誤解と誤った判断を避けることを希望している。中国はアメリカの協力パートナーだ。多極化した時代において、アメリカは中国が国際問題で建設的な役割を発揮することを歓迎し、中国との交流協力を強化し、手を携えて様々なグローバル規模の挑戦に対処し、共同してアジア太平洋及び世界の平和と安全を促進することを願っている。
  習近平:中米国交樹立から35年の歴史が十分に証明するように、良好な中米関係は両国人民の根本的利益に合致するし、アジア太平洋及び世界にとっても有利である。これは中米両国指導者が共同で堅持するべき戦略的共通認識だ。現在における中米新型大国関係の戦略目標は明確であり、我々はそれが概念上だけにとどまることを許すべきではないし、短期的成果に満足することもできず、さらに前に向かって歩み続けるべきである。我々は戦略的高みと長期的角度から出発し、水をためて淵となし、土をためて山となすという精神で中米新型大国関係の建設を不断に推進するべきだ。
  オバマ:アメリカは、中国と共同してそのために努力したいと思う。

また、11月12日の中米首脳会談の後に両首脳は共同記者会見を行いましたが、中国外交部WSは、そこでの習近平の発言を次のように紹介しました。習近平が打ち出している「アジア安全観」、「アジアインフラ投資銀行」、「シルクロード基金」などは、アメリカの覇権に対する中国の正面からの挑戦と受けとめる向きもあります(西側だけではなく、中国国内にもそういう捉え方をしているものがあります。例えば、11月13日付の中国網所掲の譚浩俊署名文章「中国は米ドルを動かしてアメリカに挑戦する」は露骨です)が、習近平は、オバマを前にしてそのような見方を打ち消し、アメリカにも同調と参加を呼びかけていることを紹介する内容です。習近平の下記発言にある「現行国際システム」とはアメリカ主導の国際システムにほかならず、習近平の発言はアメリカの覇権システムに挑戦する意図はないことを強調しているのです。

  中国が提起しているアジア安全観とは、アジア各国が包容と協力の精神で共同の安全保障を構築することを希望するというものだ。中米はアジア太平洋の問題について引き続き対話と協調を強め、それぞれがこの地域において持つ利益と関心とを尊重し考慮し、手を携えてアジアの安全保障に貢献を行うべきであり、これは相互に補完し合うものであって、相互に排斥しあうものではない。
  中国が提案しているアジアインフラ投資銀行及びシルクロード基金の設立は、アジアのインフラ建設をサポートし、便宜を与えようというものだ。これらの主張・提案は開放包容という原則を堅持しており、排他的なものではなく、アメリカを含む関係国の積極的参与を歓迎し、共同でアジア太平洋の平和及び繁栄を分かち合おうというものだ。
  (中国の国際的役割に関して)中国は現行国際システムにおける参与者、建設者、貢献者である。中国が不断に発展するに伴い、国力と地位に見合った、ますます多くの国際的責任を担っていくだろう。

このように中国側報道による限り、今回の中米首脳会談は円満な形で終わったのですが、その後にブリスベーンで開催されたG20サミット会合に出席したオバマ大統領は、11月15日にクイーンズランド大学で行った講演で、従前どおりの対中認識・政策を繰り返しました。つまり、米中関係のプラス面・建設的要素を指摘しつつ、重点は警戒的に中国を見ているということを強調する内容です。そのくだりは大要次のとおりです。

  アメリカは中国との建設的関係を引き続き追求していくだろう。その規模と刮目すべき成長とにより、中国は間違いなくこの地域の将来において枢要な役割を担うこととなるだろう。問題は中国がどのような役割を担うかということだ。アメリカは、平和で、繁栄する、安定したかつ世界の出来事に責任ある役割を演じる中国の持続的台頭を歓迎する。中国において何百万もの人々が貧困から解放されたのは特筆すべき成果だ。
  また、事実において、中国は平和的で安定した責任ある役割を演じている。それは地域にとっても世界にとってもアメリカにとっても良いことだ。だからアメリカは、米中の利益が重なりあるいは一致する場合には、中国と協力していく。そして利益が重なる領域はかなりのものがある。
  しかし、我々はまた、貿易その他の分野において、中国が他の国々と同じルールに従うことをも慫慂している。その際、我々は違いがある場合には率直であり続ける。なぜならば、アメリカは、すべての人々の基本的人権に対する揺るぎない支持を含め、我々の利益と原則を擁護していくからだ。中国及び他のいかなる国家との関係においても、我々の価値観及び理想を脇におくことはない。

2.オバマ政権に対する中国側の当惑

オバマ政権のアメリカをどのように評価するかについては、中国国内で様々な議論があります。今回の米中首脳会談を受けてもいくつかの興味深い文章に接しました。特に私にとって興味深く思われたことは、1980年代から90年代にかけて、私が中国の対日関係者・学者とまだ直接接触していた時期に、彼らが口々に「日本の考えていることの底が分からない」と述べていたことと同じ現象が、今やアメリカに関して起こっているということです。
  往時の中国人の日本政治に対する戸惑いは、歴史的・戦略的に物事を考える彼らとしては、日本の政治家にもそうした思考が働いているに違いないという思い込みに基づくものでした。言うならば、他者感覚が空回りしていたのです。私はそうした問いに接する度に、「日本の政治の最大かつもっとも深刻な問題は歴史的・戦略的発想が欠落しているということだ。そういう発想がないのに、あなたたちは「あるに違いない」と思い込んでいるから、日本の政治が理解できないのだ」と答えるのを常にしていました。
最近久しぶりに会った当時の中国人学者の一人が、「近年の出来事を通じて、浅井が当時言っていたことがそのとおりであることを実感している」と述懐したのには複雑な気持ちを味わいましたが、それはともかくとして、中国は日本政治の貧弱なまでの本質を見極め、今やその認識に基づいて対日政策を営んでいることは確かです。
そうした中国のアメリカに対する当惑感を正直に吐露したのが11月12日付の環球時報社説「アメリカは繰り返し中国を抑止しないと言うが、信じるべきかどうか」です。この社説は米中首脳会談前に書かれたものですが、そのことは本筋に影響ないと思います。
私たち日本人がこの文章から読みとるべきもっとも重要なポイントは、中国がここでも他者感覚をフルに働かせてアメリカを理解し、認識しようとしていることであり、日本の政治に顕著な自己中心主義とは無縁なことです。

APECはアジア太平洋地域(APR)の経済協力に力を向けているが、この目標がおおむね順調にいくかどうかは中米両大国がどのように彼我の関係に対処するかにますますかかっていくだろう。西側世論は中米がAPRの経済協力の方向性にかかわる「主動権」を激しく争っていると書き立ててきた。
過去6年の間(浅井注:オバマ政権の6年)において中米関係には緊張感が増してきたが、中国人がオバマを思い出すときになれば、おそらく彼を「温和な大統領」の一人に入れることになるだろう。大国間の相互疑惑というものは人類のこれまでの経験においては解消しようのないものであり、多くの人々にとって、その世界観及び認識の中に浸透していて、繰り返し姿を現すものなのだ。
予見しうる将来において、中米関係がいかなる関係であるかについて本当にはっきりと説明できるものは恐らくないだろう。双方はあらゆる手だてで相手を解読しようとし、協力を通じ及びセンシティヴな摩擦の処理を通じて相手に対する認識を蓄積している。両国はハプニングが起こることを望んでいないし、自国の利益を擁護する既往の方式を堅持する傾向があり、長期にわたって「闘っても破れず」という歩留まりを我がものにしているかどうかについては自信を持ち得ていない。両国にはそれぞれの「ボトムライン思考(譲れない一線)」があり、公然とあるいはコソコソと「最悪の事態」に備えると見なされる準備を行っている。
しかし、両国の「共通の言語」はやはりますます増えてきている。オバマは(11月)10日に行った演説の中で、習近平の「宏大な太平洋両岸は中米両大国を受け入れる十分なスペースがある」という名言を繰り返した。中米が同じ話をするとしてもその意味は必ずしも同じではないが、双方の言語がこのように接近してきていることはやはり力づけられることだ。
しかし、我々はやはりアメリカがよく分からないということを認めなければならない。オバマは、アメリカはいかなる方式によってでも中国を抑止しようとはしないと繰り返し言うが、これは誠実なものだろうか。オバマ個人はそう考えているとしても、それはアメリカを代表しているだろうか。アメリカの軍事力の60%はAPRに配置され、「チベット独立派」、「新疆独立派」、法輪功、「民主運動分子」はすべてアメリカの庇護を得ており、現在の香港の「センター占拠」の連中もアメリカ国内の支持を得ているが、これらすべてが互いに孤立した関係のないものだろうか。さらにアメリカの「APRリバランス」戦略は中国周辺の反中衝動の動きを明確に激励しているが、これまたどのように解釈するべきなのか。
面白いことに、アメリカ人も中国に対して「よく分からない」とこぼしていることを耳にする。彼らの言い分によると、中国には対米問題について「内部文献」もあれば「公開レポート」もあり、官製メディアの抑制された報道もあればネット上の激越な発言もあり、これらの中でどれが中国の「本当の対米態度」を代表しているのだろうというのだ。
実事求是で言うが、中国社会が様々な方向で不断に拡大しており、中国の対米政策について述べることは我々自身にとってもそれほど簡単なことではない。中国からすれば、アメリカ自身が矛盾に充ち満ちた複雑な存在であり、中国の対外開放の主要な対象であるとともに、多くの面で警戒する必要がある相手でもある。
以上から推察すれば、アメリカのメインストリーム社会の中国に対する基本的な態度も矛盾しているのかもしれず、この種の矛盾を整理し明らかにすることはなおさら手のつけられないことかもしれない。中米相互の態度には安定性もあれば動態的に変化する要素もあり、中米の実際のやりとりの方式及びそのプロセスはそれぞれの時期における相互の態度に対しても重要な影響を及ぼしている。
中米関係の重要性は、それが一種の「関係」であるというだけには留まらない。中国からすれば、アメリカをどう認識するかということは西側世界を認識する上での基礎であり、中国が国家戦略全体を制定する際のもっとも重要な参照系の一つである。アメリカからすれば、中国を本当に分かり、見極めることができるかどうかは、21世紀におけるアメリカの国家戦略が重大な誤りを犯さないためのカギとなっている。
 かくも重大なことが極めて困難なことであるのであって、今もっとも重要なことはこの困難を認め、辛抱強く徐々に克服するための条件をつくり出すことである。その際にもっとも防ぐべきはボトムライン思考を常態化し、どんなことについても最悪な角度で相手を推し測るということだ。太平洋は宏大だが、人心はさらに宏大である必要がある。