広島市国民保護計画素案への意見・質問

2007.12.03

*広島市は、11月1日に市の国民保護計画素案を発表し、12月7日までの期限で市民の意見を求めている。私も一市民として、この素案に対して以下の意見・質問を寄せる。(12月3日記)。

1.核攻撃対処について

(1)記述に即しての質問

素案は、「核兵器攻撃に関しては、それに対する有効な対処手段はなく、核兵器攻撃による被害を避けるためには唯一、核兵器の廃絶しかないという認識の下、この計画を策定します」(2ページ)といいながら、15~17ページ、55ページ、66ページ、72ページ、77~78ページの計5カ所で核攻撃にかかわる記述を載せている。弾道ミサイル攻撃について扱った箇所(15ページ)で、「弾頭の種類(通常弾頭、核兵器弾頭、生物兵器弾頭、化学兵器弾頭等)を着弾前に特定することは困難」とあり、また、「核兵器弾頭の場合は、核爆発に伴う放射線、衝撃波・爆風及び熱線によって甚大な被害が発生します」と述べていることからして、弾道ミサイル攻撃にかかわる記述のある35ページ及び60ページも核攻撃対処に関わるものとして理解する必要がある。それぞれのページにおける記述に即して質問を提起する。

〇35ページ
「武力攻撃事態等において住民がとるべき行動等に関する啓発 本市は、武力攻撃災害の兆候を発見した場合の市長等への通報、不審物等を発見した場合の管理者への通報等が適切に行われるよう、住民に対する啓発を行います。また、弾道ミサイルが飛来する場合やテロが発生した場合に住民がとるべき行動について、国が作成する各種資料等に基づき、住民への周知を図ります。さらに、県、日本赤十字社等と連携し、傷病者に対する応急手当の方法等の普及に努めます。」
<質問>15ページで弾頭の種類の特定は困難と認めているのに、如何なる内容での「住民への周知」が可能であるのか。その内容をさらに具体的に例示してほしい。 また、下記66ページ及び77~78ページの記述からも明らかなように、核攻撃の場合には甚大な被害が出ることが確実な状況のもとで、「県、日本赤十字社等と連携し、傷病者に対する応急手当の方法等の普及」をまともに考え得るのか。どのような「応急手当の方法」があると考えるか。

〇55ページ
「避難住民の携行品、服装
避難住民の誘導を円滑に実施できるよう、必要最低限の携行品、服装について記載します。
(例:…核兵器、生物兵器、化学兵器攻撃等が行われた場合には、放射性物質、生物剤、化学剤の吸引やそれらへの接触を避けるために専門的な資機材が必要となるが、その確保は困難であることが想定される。このため、限定的な対処方法であるが、マスク、手袋及びハンカチを持参し、皮膚の露出を避ける服装を用いる。)」
<質問>専門部会の検討結果は、「マスク、手袋及びハンカチを持参し、皮膚の露出を避ける服装を用いる」などの対応が如何にナンセンスの極みであるかを明らかにしているのではないか。専門部会の検討結果が示しているのは、核攻撃に対する対応策などありえない、ということではないのか。以上の記述を行った本意を問う。

〇60ページ
「弾道ミサイル攻撃において、実際に弾道ミサイルが発射されたとの警報が発令されたときは、屋内に避難することが基本です。この際、可能な限り、近傍のコンクリート造り等の堅ろうな建物の地階や地下街、地下駅舎等の地下施設に避難することが必要となります。」
<質問>核兵器搭載の場合には、地下への避難など何の役にも立たないことは、広島の過去の事実が何よりも雄弁に証明していると思うが、このような記述を行うことが役に立つと本気で考えているのか。

〇66ページ
 「核兵器による攻撃の場合の医療活動
  ア 国から本市に対し、医療救護班を編成し、被曝線量計による管理を行うなど所要の防護措置を実施した上で、緊急被爆医療活動を行うよう協力要請があった場合には、医療救護班を編成し、医療活動を行います。さらに、国から、緊急被爆医療派遣チームが派遣された場合、その指導の下、必要に応じトリアージ(治療の優先順位による患者の振り分け)を行った上で、汚染や被曝の程度に応じた医療活動を行います。
  イ しかしながら、核兵器攻撃が行われた場合には、爆心地及びその周辺地域の医療機関は、ほとんど崩壊するか又は機能停止状態となり、医師、看護師等の医療関係者の多くは死亡し、又は負傷し、被曝します。そのため、機能が維持されている医療機関や被害を受けなかった医療機関が、医療関係者の安全の確保に十分配慮しながら、可能な範囲で医療活動を行うことになります。」
<質問>「ア」のような核攻撃があった場合を前提にしたトリアージなどの対応を考えるということは、「核兵器攻撃に関しては、それに対する有効な対処手段はなく」(2ページ)とする認識からして自己矛盾を極めているのではないか。また「イ」に関していえば、「機能が維持されている医療機関や被害を受けなかった医療機関が、医療関係者の安全の確保に十分配慮しながら、可能な範囲で医療活動を行うことになります」とあるが、残留放射線が充満している環境の下で医療活動をすることは、医療関係者の被曝を意味することは明らかで、医療関係者の安全を確保するとすれば、医療活動などありえないのではないか。そうである以上、「イ」の記述はきわめて非現実的であり、あたかもまともな医療活動があり得るかの如き印象を与えるものであり、市民に対してきわめて不誠実ではないか。

〇72ページ
 「ウ 屋内への避難の指示
  市長は、住民に避難の指示をする場合において、屋外を移動するよりも、屋内に逃れる方が危険が少ないと考えられるときは、屋内への避難を指示します。屋内への避難の指示は、次のような場合に行います。
(ア) 核兵器、生物兵器、化学兵器攻撃等と判断される場合において、住民がなんら防護手段を持たずに移動するよりも、外気との接触が少ない屋内に逃れる方が危険が少ないと考えられる場合」
<質問>60ページの箇所における質問と同じ質問をくり返したい。

〇77~78ページ
 「2 核兵器攻撃による災害への対処
  市長は、核兵器攻撃が行われた場合には、国及び県その他関係機関と連携し、退避の指示等の必要な措置を実施します。しかし、核兵器攻撃が行われた場合には、多くの職員が死亡し、又は負傷し、被曝することが避けられないこと、また、必要な情報を適時適切に入手することは困難であると考えられることなどから、職員の安全の確保に十分配慮しながら、可能な範囲内で必要な措置を実施します。」
<質問>1945年に起こったことは、現職の市長をはじめ、多くの職員が死亡したということであった。現在の核兵器の威力は、広島原爆をはるかに凌ぐものであり、そういう被害に遭遇したときには、市の機能が完全に壊滅することを考えるのが当然であり、あたかもそうではないかの如き印象を与える以上の記述もきわめて非現実的かつ市民に対して不誠実ではないか。「核兵器攻撃に関しては、それに対する有効な対処手段はなく」(2ページ)という素案の出発点の認識に鑑みても、「可能な範囲内で必要な措置」とは具体的に如何なるものがあり得るのかについて誠実に答えられるのか。

(2)核攻撃事態に関する素案の立場に対する根本的疑義

以上に見たように、素案は、「核兵器攻撃に関しては、それに対する有効な対処手段はなく」(2ページ)と一応断っておきながら、核攻撃があることを前提にして、それへの「対応」を何カ所かにおいて記している。しかし、専門部会が出した結論は、核攻撃に対する対応策などあり得ないということであり、そこから引き出されることは、核攻撃を回避するためには、その元になる戦争を招致しないこと以外の手だてはない、ということである。

その点に関し、「核兵器攻撃に関しては、それに対する有効な対処手段はなく、核兵器攻撃による被害を避けるためには唯一、核兵器の廃絶しかないという認識の下、この計画を策定します」(2ページ)とする素案の立場は正確ではない。核兵器攻撃による被害を避けるために必要なことは、戦争を起こさせないことであり、「核兵器の廃絶」というのは飛躍である。

ちなみに、素案の総論にある「戦争は最大の人権侵害であり、それを守ることが、国民の保護につながり、戦争のない世界、そして核兵器のない世界の実現につながるという認識の下、この計画を策定します」(1~2ページ)の文意は不明である。「それを守る」の「それ」は何を指すかを明らかにされたい。

本論に戻る。確かに素案は、総論において、「市国民保護計画で想定されるような事態は起こってはならないものであり、世界の恒久平和を希求する本市としては、今後とも国に対し、有事を起こさせないための最大限の外交努力を求めていきます」(1ページ)と述べてはいる。

しかし、今後日本について想定されうる「有事」とは、朝鮮半島有事、台湾海峡有事という周辺事態が対日攻撃事態に発展する可能性(及び核テロリズムの可能性)以外に考えられない。朝鮮半島有事にしても、台湾海峡有事にしても、日本を発進基地としてアメリカが仕掛ける戦争である。日本がアメリカに対して協力することを拒否することのみが、両有事を未然に防ぎ、対日攻撃事態に発展することを回避する唯一の道である。また、核テロリズムが日本を標的にする可能性を回避する唯一の有効な道は、日本がアメリカの矛盾に満ちた中東政策に追随せず、そして、アメリカの危険な戦争政策に対する協力をきっぱり止めることである。テロリストは、アメリカに全面協力する日本であればこそ、攻撃の対象とするわけであり、日本が日本国憲法に忠実な平和国家に徹すれば、テロリストの憎悪を招くはずはない。

広島市が国民保護計画を作るということは、以上の形でのみ起こり得る有事に市をあげて協力することに他ならない。これは正に、広島市にとって自殺行為である。有事を引き起こさせないためには、日本における平和の拠点である広島市が、国民保護計画の作成という戦争協力を行わないという決断を行うことによって、日本全国に範を示すことでなければならないのではないか。

そうすることは、「ノーモア・ヒロシマ ノーモア・ウオー」を真に実践する所以に他ならないと確信する。逆にいえば、素案を作成することそのものが、「ノーモア・ヒロシマ ノーモア・ウオー」を根本から否定する以外の何ものでもない。私は一広島市民として、広島市がまなじりを決して市の国民保護計画作成を止め、日本政府が進める戦争政策に対して正面から異議申し立てを行うことを強く求める。

2.その他の問題点

(1)保護計画実施に要する財政負担

素案に盛り込まれた「施策」を実施するとすれば、ただでさえ財政難の広島市にとっての財政負担は非常に大きな規模のものとなると判断されるが、素案にはその点についての見積もりが一切示されていない。私は、その財政負担がどの程度の規模・金額になるかについて、市としての責任ある判断・数字の開示を求める。

(2)基本的人権が脅かされる危険性

素案は、基本的人権の尊重を謳っている(4ページ)が、その点に関して次の疑問がある。 〇国民の権利利益の迅速な救済(22ページ)については、有事における自衛隊や米軍のための土地、家屋等の収用、取り上げを前提としているわけだが、そのような前提をおくこと自体が平和都市・広島の自己否定になると考えないか。
〇国民保護措置についての訓練に関し、住民に対して訓練への呼びかけを行っている(28ページ)が、「住民の訓練への参加は、その自発的な意思によるものとし、強制することがあってはならないことに十分留意します」(29ページ)ということをどのように保障するのか、まったく明らかではない。「町内会、自治会、自主防災組織等と連携」した市の働きかけに対して、反戦平和の立場をつらぬく市民の立場・権利がどのようにして侵害されないようにするのか、具体的に市としての施策を示してほしい。
〇学校、病院、大規模集客施設等との連携(30ページ)において、「施設の管理者に対し、警報の内容の伝達や避難誘導等を適切に行うための訓練を実施するよう要請するとともに、必要に応じて指導、助言を行います」とあり、あたかも学校、病院、大規模集客施設が訓練に応じることを前提とした書き方になっているが、これもこれら施設の思想、良心の自由を侵す可能性が高く、きわめて不適切ではないか。
〇学校における教育(35ページ)においては、「市立学校において、安全教育や自他の生命を尊重する精神、基本的人権を守るという精神、ボランティア精神の養成等のための教育を行います」とあるが、この項目は、「国民保護措置に関する啓発」の一環という位置づけであり、それとの関連で一体どういう内容の教育を行うかがまったく明らかにされていない。また、その教育内容如何によっては、重大な問題を内包する可能性もある。この点についてさらに詳細な説明を求める。

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