東京高判平成13年3月12日(平成12年(行ケ)第470号)

1.判決
 訴え却下。

2.判断
「第4 当裁判所の判断
  1 共有に係る特許権につき特許異議の申立てに基づいてされた特許取消決定の取消しを求める訴えにおいて,その取消決定を取り消すか否かは,間接的にではあれ,共有者全員の有する一個の権利の存否を決めるものとして,共有者全員につき合一に確定する必要があり,共有者それぞれについて異なった内容で確定され得ると解する余地はないから,上記訴えは,共有者が全員で提起することを要する固有必要的共同訴訟と解すべきである。
  2 X1の主張について
    (1)X1は,これに反して,まず,特許権の共有の法的性質が民法上の共有であり,特許異議の申立てに基づく取消決定の取消しを求める訴えの提起は保存行為に属するものであるから,各共有者が単独ですることができるとした上,上記合一確定の必要があるからといって,当然に固有必要的共同訴訟でなければならないと解する必要はない旨主張する。
      しかしながら,本件のように共有者の一部の者のみが取消決定の取消しの訴えを提起した場合に,X1主張のように,審決を取り消す旨の確定判決の効力が,行政事件訴訟法32条1項により,訴えを提起しなかった他の共有者にも及ぶと解することは,同一特許権の共有者のように利害関係を共通にする者が同項にいう「第三者」に当たるとする点で必ずしも正当とは解されない。それのみならず,X1の主張によれば,当該訴えについて請求棄却の判決が確定したときには,審決の結論には瑕疵がないことが確定するというが,それだけでは,当該判決の効力が訴えを提起しなかった他の共有者にも及び,当該他の共有者が改めて提起する取消決定の取消しの訴えにおいて,異なった内容の判決がされることはあり得ないとする論拠が明らかではない。この場合に,請求棄却の判決が確定する時点では,当該他の共有者は,出訴期間が経過していることにより,取消決定の取消しの訴えを改めて提起することはできないことが通常ではあるが,そのこと自体は当該判決の効力が及ぶゆえの効果であるということはできない。また,X1主張のように,共有者の一部の者の訴えの提起により他の共有者との関係でも審決の確定が遮断されると解するのであれば,この点も明確であるとはいえない。
      したがって,合一確定の必要があるからといって,当然に固有必要的共同訴訟でなければならないと解する必要はない旨のX1の主張は採用することができない。また,仮に,特許権の共有の法的性質が民法上の通常の共有と解されるとしても,そのことから,共有者のうちの一部の者のみが,保存行為として上記取消決定の取消しの訴えを適法に提起できるものと解することはできない。
    (2)X1は,次に,特許法178条2項が,行政事件訴訟法9条所定の原告適格を有する者の範囲を更に限定した例外規定であるから,原告適格を有する者であるかどうかを判断するに当たって,特許法178条2項所定の範囲を更に限定して解釈することは許されず,同項が参加人について原告適格を認めたにもかかわらず,当事者である共有者の一部の者の原告適格を排除するものと解することはできない旨主張する。
      しかしながら,共有に係る特許権についてされた特許取消決定の取消しを求める訴えを固有必要的共同訴訟と解することが,共有者全員が共同してのみ原告適格が認められるという意味で原告適格の制限に当たるとしても,そのように解することは,上記のとおり,取消決定を取り消すか否かを,共有者全員の有する一個の権利の存否を決めるものとして,共有者全員につき合一に確定する必要があることに基づくものであって,特許法178条2項が,それを許容しない旨定めたものとは到底解し得ない。また,同項が「参加人又は当該特許異議の申立てについての審理・・・に参加を申請してその申請を拒否された者」につき,取消決定取消しの訴えを提起することができるものに含めたのは,特許異議の申立てについての審理におけるそれらの者の地位にかんがみ,当事者とは別に当該訴えを提起する権能を付与することを適当と認めたことによるものと解され,存否が争われている特許権の権利者に当該訴えの原告適格を認めたこととは異なる配慮に基づくものであるから,上記参加人等が提起することができるからといって,共有に係る特許権の共有者が単独で当該訴えを提起することができるということにはならない。
    (3)X1は,さらに,共有者の一部の者の不在,異論などによって,共有に係る特許権について,特許の取消処分を阻止して権利を維持保存する方途を失わせることは不合理である旨主張する。
      しかしながら,特許法は,特許を受ける権利の共有者が,その共有に係る権利につき特許出願を拒絶した査定に対し不服の審判(同法121条)を請求する場合や,特許権の共有者が,当該特許権につき存続期間の延長登録の出願を拒絶した査定に対し不服の審判(同条)を請求する場合などに,共有者の全員が共同して請求しなければならないとしている(同法132条3項)。このことにかんがみると,特許法は,特許を受ける権利又は特許権の共有者中に権利の取得又は存続の意欲を失った者がいる場合には,一個の特許権全体について,その取得又は存続ができなくともやむを得ないとしていることがうかがえるのであるから,特許異議の申立てに基づく特許取消決定に対する取消しの訴えの提起の場合に同様の扱いをすることが,格別不合理であるとすることはできない。
  3 したがって,本件決定取消しの訴えは,本件特許権の共有者であるX1及びX2の両名で提起すべきものであって,X1のみの提起に係る本件訴えは,不適法であるといわなければならない。そして,X2につき本件決定の取消しの訴えの出訴期間が経過したことはX1が自認するところであるから,不適法である本件訴えは,その不備を補正する余地はない。
  4 よって,本件訴えを却下することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。」