最判昭和61年7月17日(民集40巻5号961頁(昭和61年(行ツ)第18号))

(原審:東京高判昭和60年10月23日(昭和59年(行ケ)第211号)

<事案の概要>
 X(原告)は,昭和46年11月2日,名称を「箱尺」とする考案(以下,「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をした(同年実用新案登録願第102305号)。
 以降の経緯は,以下のとおりである。

昭和52年8月2日 出願公告(昭和52年実用新案登録出願公告第33871号)
昭和52年から53年 登録異議の申立
昭和53年12月13日 拒絶査定
昭和54年4月5日 審判請求(昭和54年年審判第3571号)
昭和55年6月30日 「本件審判の請求は成り立たない。」との審決
昭和55年 X出訴(昭和55年(行ケ)第256号)
昭和58年7月21日 昭和55年(行ケ)第256号について,審決を取消す旨の判決(東京高判昭和58年7月21日(昭和55年(行ケ)第256号))。同判決確定。
昭和59年7月9日 昭和54年審判第3571号についてさらに審理した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決

 X出訴。
 原審(東京高判昭和60年10月23日(昭和59年(行ケ)第211号))は,Xの請求を棄却した。
 X上告。

<判決>
 上告棄却。
「上告代理人岡田英彦,同大儀武夫,同小玉秀男の上告理由について
 実用新案法3条1項3号にいう頒布された刊行物とは,公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体であつて,頒布されたものを意味するところ(最高裁昭和53年(行ツ)第69号同55年7月4日第二小法廷判決・民集34巻4号570頁参照),原審の適法に確定した事実関係によれば,所論のマイクロフイルムは,オーストラリア国特許第408539号にかかる特許出願の明細書の原本を複製したマイクロフイルムであつて,おそくとも本願考案の実用新案登録出願がされた昭和46年11月2日より前の1970年(昭和45年)12月10日までに,同国特許庁の本庁及び五か所の支所に備え付けられ,同日以降はいつでも,公衆がデイスプレイスクリーンを使用してその内容を閲覧し,普通紙に複写してその複写物の交付を受けることができる状態になつたというのであるから,本願考案の実用新案登録出願前に外国において頒布された刊行物に該当するものと解するのが相当である。
 けだし,右の事実関係によれば,右マイクロフイルムは,それ自体公衆に交付されるものではないが,前記オーストラリア国特許明細書に記載された情報を広く公衆に伝達することを目的として複製された明細書原本の複製物であつて,この点明細書の内容を印刷した複製物となんら変わるところはなく,また,本願考案の実用新案登録出願前に,同国特許庁本庁及び支所において一般公衆による閲覧,複写の可能な状態におかれたものであつて,頒布されたものということができるからである。右マイクロフイルムの部数が一般の印刷物と比較して少数にとどまることは,これをもつて頒布された刊行物という妨げとなるものではないというべきである。
 したがつて,これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,また,所論引用の前示判例に違背する点も存しない。論旨は,右と異なる見解に立つて原判決を論難するものであつて,採用することができない。
 よつて,行政事件訴訟法7条,民訴法401条95条89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」