(原審:東京高判昭和53年3月9日(昭和50年(行ケ)第78号))
<事案の概要>
X(原告,上告人)らは名称を「一眼レフ・カメラ」とする特許第615517号(昭和37年12月12日出願昭和46年8月14日登録)発明の特許権者である。
Y(被告,被上告人)は,昭和48年7月25日特許無効の審判を請求(昭和48年審判第5370号)したところ,特許庁は昭和50年5月12日に,同特許を無効とする旨の審決をした。
X出訴。
原審(東京高判昭和53年3月9日(昭和50年(行ケ)第78号))は,Xの請求を棄却した。
X上告。
<判決>
上告棄却。
「上告代理人篠原千廣,同松本博,同武田元敏,同芝崎政信,上告復代理人澤本幸一の上告理由(一)第一点及び上告代理人篠原千廣,同芝崎政信の上告理由(二)第一について
特許法29条1項3号にいう頒布された刊行物とは,公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体であつて,頒布されたものを指すところ,ここに公衆に対し頒布により公開することを目的として複製されたものであるということができるものは,必ずしも公衆の閲覧を期待してあらかじめ公衆の要求を満たすことができるとみられる相当程度の部数が原本から複製されて広く公衆に提供されているようなものに限られるとしなければならないものではなく,右原本自体が公開されて公衆の自由な閲覧に供され,かつ,その複写物が公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される態勢が整つているならば,公衆からの要求をまつてその都度原本から複写して交付されるものであつても差し支えないと解するのが相当である。
本件についてこれをみるに,原審が適法に確定したところによれば,所論の第1引用例(乙1号証)は,西独国実用新案登録第1859490号明細書(以下「本件明細書」という。)の複写物として同国における著名なカメラないしフイルムメーカーであるD社,E社,F社,G社等が本件特許出願前の1962年10月15日から同年11月14日までの間に相次いで同国特許庁から又は私的サービス会社であるHサービス社を介して配布を受けたもの(以下「本件複写物」という。)と体裁内容を全く同一にするものであるから,本件複写物同様本件明細書の複写物であつて,本件特許出願前同国特許庁又は右Hサービス社の配布したものであると推認することができるものであるところ,本件明細書は,本件特許出願前の前同年10月4日に登録された前記実用新案の出願書類として同日以降同国特許庁において公衆の閲覧に供されていたものであり,しかも,本件明細書のような登録実用新案の出願書類原本の複写物を望む者は,誰でも同国特許庁から又は私的サービス会社,例えば,前記Hサービス社を介して通例注文書発信後約二週間で入手することができるものであつたことも原審の確定するところである。そうすると,本件複写物ないし第1引用例は,公衆に対し頒布により公開することを目的として本件明細書から複製された文書であつて,本件特許出願前に頒布されていたものであるということができるから,特許法29条1項3号に掲げる頒布された刊行物に該当するものであると認めて差し支えないものである。これと同趣旨の原審の認定判断は,正当であつて,原判決に所論の違法はない。論旨は,独自の見解ないし原審の認定とは異なる事実に基づき原判決を論難するものにすぎず,いずれも採用することができない。
その余の上告理由(前記上告理由(一)第二点ないし第四点,上告理由(二)第二,上告代理人篠原千廣,同松本博,上告復代理人澤本幸一の上告理由(三))について
所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠及びその説示に照らし,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はなく,また,原判決は,所論引用の当裁判所判例に反するものでもない。論旨は,いずれも採用することができない。
よつて,行政事件訴訟法7条,民訴法401条,95条,89条,93条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。