最判昭和59年4月24日(民集38巻6号653頁(昭和57年(行ツ)第27号))

(原審:昭和56年11月5日(昭和55年(行ケ)第136号)

<事案の概要>
 X(原告,上告人)は,名称を「耕耘機に連結するトレラーの駆動装置」とする登録第731971号実用新案(昭和36年4月13日出願,昭和39年2月17日登録)の実用新案権者である。Xは,昭和45年9月16日,該実用新案の願書に添付した明細書を訂正することについて審判を請求し,昭和45年第9403号事件として審理された結果,昭和48年8月23日,「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり,その謄本は,同年11月1日原告に送達された。
 X出訴。
 原審(東京高判昭和56年11月5日(昭和55年(行ケ)第136号))は,Xの請求を棄却した。
 X上告。
 なお,該実用新案の登録を無効とする旨の審決(昭和43年審判第317号)が,上告棄却により確定している(最判昭和55年5月1日(民集34巻3号431頁(昭和53年(行ツ)第27号))。)。

<判決>
 破棄自判。
「職権をもつて,Xに本件審決の取消を求める法律上の利益があるか否かについて判断する。
 実用新案権者が実用新案法39条1項の規定に基づいて請求した訂正審判すなわち実用新案登録出願の願書に添附した明細書又は図面を訂正することについての審判の係属中に,当該実用新案登録を無効にする審決が確定した場合は,同法41条によつて準用される特許法125条の規定により,同条ただし書にあたるときでない限り,実用新案権は初めから存在しなかつたものとみなされ,もはや願書に添附した明細書又は図面を訂正する余地はないものとなるというほかはないのであつて,訂正審判の請求はその目的を失い不適法になると解するのが相当である。実用新案法39条4項の規定は,その本文において,実用新案権の消滅後における訂正審判の請求を許し,ただし書において,審判により実用新案登録が無効にされた後は,訂正審判の請求を許さないものとしているのであるが,その趣旨とするところは,同法37条2項の規定が,過去において有効に存在するものとされていた実用新案権が存続期間の満了等によつて消滅し現在においては権利として存続していない状態となつていても無効審判の請求を許すこととしているので,これに対応して,実用新案権者に対し,右のように実用新案権が消滅した場合にも無効審判の請求に対する対抗手段としての機能を有する訂正審判の請求をすることができるものとしたことにあるのであつて,実用新案登録を無効にする審決の確定により実用新案権が初めから存在しなかつたものとみなされる場合については,訂正審判の請求はその目的を失うので,右ただし書は,このような場合について訂正審判の請求を許さないことを明らかにしたものと解されるのである。してみれば,右ただし書の規定は,無効審決が確定した後に新たに訂正審判の請求をする場合にその適用があるのはもとより,実用新案権者の請求した訂正審判の係属中に無効審決が確定した場合であつてもその適用が排除されるものではないというべきである。
 したがつて,訂正審判の請求について,請求が成り立たない旨の審決があり,これに対し実用新案権者が提起した取消訴訟の係属中に,当該実用新案登録を無効にする解決が確定した場合には,実用新案権者は,右取消訴訟において勝訴判決を得たとしても訂正審判の請求が認容されることはありえないのであるから,右審決の取消を求めるにつき法律上の利益を失うに至つたものというべきである。
 これを本件についてみると,Xは,本件実用新案権者としてその出願の願書に添附した明細書の訂正の審判を請求したが,その請求が成り立たないとする本件審決を受け,本訴によりその取消を求めているものであるところ,記録によれば,本件実用新案登録については,実用新案法3条の規定に違反してされたものであり,同法37条1項1号の規定に該当するとしてその登録を無効にする審決が昭和55年5月1日に確定したことが明らかであるから,これによつて,Xは,本件審決の取消を求めるにつき法律上の利益を失うに至つたものというべきである。そうすると,本件訴えは,不適法として却下すべきであり,これを適法として本案につき判断をした原判決は,破棄を免れない。
 よつて,行政事件訴訟法7条,民訴法408条96条89条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」