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没後250年特集 ***  タルティーニをクレモナの名器で聴く

 コロナ渦に苦しむイタリアのクレモナで、箕面市出身のヴァイオリニスト 横山令奈さんが大聖堂の鐘楼や病院の屋上から祈りのヴァイオリン演奏をした映像がテレビやネットで世界中に配信されて、大きな感動を呼びました。
 クレモナは、ストラディヴァリウスやグァルネリ
デルジェスなどの名器を生んだ街です。 横山さんは、同市のヴァイオリン博物館で、展示品の名器を公開演奏する仕事も手がけており、今回の演奏もクレモナの名器が使用され、その音色が市民や医療関係者を大いに癒し、勇気づけました。(⇒YouTube

 昔から、クレモナの名器には神秘的な力があって、神に捧げるべき楽器とも言われました。グァルネリのデル・ジェスという名称は、“イエスの(del Ges)”という意味ですし、楽器の f 字孔から内部を覗くと、サインとともに、十字架を描いたラベルが貼られています。いかにも祈りに相応しく、その音色は心を癒やす力がある楽器なのです。
 そこで今回は、今年が没後250年の記念年になるジュゼッペ・タルティーニ(1692-1770)を、クレモナの名器による演奏で鑑賞します。ヴァイオリンという時代の寵児を自在に駆使して、様々な演奏技法を確立し、高度な演奏楽器に育て上げた功労者がタルティーニです。一時代を画する演奏家 & 作曲家 & 18世紀最大の音楽理論家 として名を残しましたが、ヴァイオリン音楽の故郷であるイタリアで、ヴァイオリン一筋に生きた音楽家でした。
 では、生涯、聖アントニア教会の首席奏者を務めたタルティニらしい“
祈り”の旋律、この曲から始めましょう。


トリオレコード PAC-2023
(1963年頃の録音)
@ タルティーニ:ヴァイオリン協奏曲 ヘ単調 D64 から 第2楽章

 タルティーニは、この曲を作曲した頃、まさに油の乗り切っていた時期ですが、この第2楽章は、とくにヴァイオリンの音色の美しさを堪能させる名旋律です。
 イタリアの名手フランコ・グッリが奏でるクレモナの名器、ストラディバリウスの美音でお聴きください。
(上の曲名をクリックすると曲目のページが開いて、自動的に演奏再生されます)

 今年は、タルティーニの名曲をクレモナの名器で演奏するリサイタルが、日本でもいくつか予定されました。6月には、兵庫県芸術文化センターでも、実力派の米元響子さんが、タルティニの《悪魔のトリル》などを、1727年製のストラディバリウス(サントリー芸術財団より貸与)を駆使して演奏する予定でしたが、コロナ渦により、こちらは中止になってしまいました。
 ぜひ鑑賞したい人気曲ですので、ここでは、ヘンリク・シェリングのグァルネリ・デル・ジェスによる名演をアップします。


RCA BVCC-37334
(1959年1月録音)
A タルティーニ:ヴァイオリン・ソナタ 《悪魔のトリル》 から 第3楽章

 タルティニがまだ20歳の頃、夢の中に悪魔が現れてヴァイオリンを弾き、その美しさに目が覚めて、すぐに譜面に書き取ったという有名な伝説がある曲です。
 この難曲を名手シェリングが、1743年製ガルネリ(「ル・デューク」の愛称)で演奏します。
楽器の魅力について、「ストラディヴァリは美しいがまだ若い女性の魅力、グァルネリは成熟した女性の艶やかさ」といった演奏家がいます。
(ヤッシャ・ハイフェッツの言葉)


OPUS111 MOPS30-95
(1993年12月録音)
B タルティーニ:無伴奏ヴァイオリンソナタ ト長調 BG5 から 第1,2楽章

 最後に、タルティーニ晩年の作品を古楽器で鑑賞します。モダン楽器とは一味違います。
ストラディバリ、グァルネリ等の歴史的名器のほとんどは、現代の演奏用に改造されています。一方、製作された時代の姿で、改造なしの楽器を古楽器(ピリオド楽器)と呼びます。
 ここでは、作品の時代に合わせた楽器にこだわるファビオ・ビオンディが、1740年製のイタリアの古楽器、ガリアーニのコピー楽器を、当時のガット弦とバロック弓を使用して演奏します。いずれにしろ、「作曲当時の本当の響きで聴く」というのは、じつに面白いことです。


*タルティーニの作曲年代には諸説ありますが、ここではジャケット記載どおりとしました。(選曲&文責:中野 哲男)