前著2冊『数学をいかに使うか』、 『数学の好きな人のために』の続編。このあとに、 『数学をいかに教えるか』で完結する。
「はじめに」から引用する。
本書は前著『数学をいかに使うか』と『数学の好きな人のために』と同じレベルの読者, つまり線形代数と微積分の初歩を学んだ人を主な対象としている. それ以上の人,特に高校や大学で数学を教えている人や研究者を頭において書いた部分もある.
冗談はやめてほしい。「線形代数と微積分の初歩を学んだ人」では本書を読み通すことなどできない。
まず、下記に目次があるので見てほしい。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480095343/
著者はこの章でどんな人を描写しているか。まず、p.016 から
現在大学で実数論をていねいに教えている人があるかどうか. しばらく前にある大学の一学期に実数論をやり, 二学期に一変数の微分学を教えた人がいると聞いた. その人は代数でも群や環を抽象化した代数系の算法を自己流のシステムで教えていたから Galois の理論までは二学期かけてもとどくわけもなかった.
この「教えた人」は、『数学をいかに教えるか』 で「例の教授」として再登場する。
p.029 から引用する。
当時私が提案して東大の入試問題になったのをひとつ書いておく. 一次と二次があって,一次のものであったかも知れない.
「一辺の長さ 1 の正 4 面体 `ABCD` の辺 `bar(AB)` の中点と辺 `bar(CD)` の中点との距離を計算せよ.」
普通に考えれば十分とはかからないだろう. たぶん 1960 年頃である.そんな易しくてよいのかと思う人もいるかも知れない. しかし易しすぎて失敗だったという記憶はない. 今でもこの程度で通用するだろう.ほかの問題もあるのだから.
気になって考えてみた。こんなところだ。まず、辺 `bar(AB)` の中点と辺 `bar(CD)` の中点をそれぞれ `M` 、`N` とする。三角形 `MCD` を考える。三角形 `MCD` は `MC = MD` だから二等辺三角形である。 また、三角形 `MNC` において 角 N が直角である。 以上をもとに辺を計算する。`bar(MC)^2 = bar(MD)^2 = 1^2 - (1/2)^2 = 3/4` であり、 `bar(CN)^2 = (1/2)^2 = 1/4` であるから、`bar(MN)^2 = 3/4 - 1/4 = 2/4` 。 よって求める距離は `bar(MN) = sqrt(2)/2 `。
では具体的に、「5. Galois を超えて」では、どう書かれているか。 定義が p.033 に書かれている。 なお、Galois はガロアと読む。
体 `K` が体 `F` を含む時,`K` を `F` の拡大体, `F` を `K` の部分体と呼ぶ.(中略)`K` から `K` の上への自己同型写像 `sigma` を考える. つまり `sigma` は `K` から `K` の上への 1 対 1 写像で, `(x + y) ^ sigma = x^sigma + y^sigma`, `(xy)^sigma = x^sigma y^sigma` がすべての `x, y in K` に対して成り立つものである. `x` の `sigma` による像を `sigma(x)` と書くやり方もあるが, 本書では `x^sigma` と書く.その方が式が短かくなるからである.
写像を右肩に小さくする記法は初めて見た。これをやられると、ただでさえ文庫本は老眼でつらいのに、
ますます字が小さくなって大変になるではないか。
さて、少しおいてp.034 の下段から引きうつす。
`K` の自己同型写像全体を Aut`(K)` と書く。
さて Aut`(K)` の有限部分群 `G` と `K` の部分体 `F` について
(5.1) `F = {x in K| "すべての" sigma in G "に対して" x^alpha = x}`
である時 `K` は `F` の Galois 拡大であると言い,`G = `Gal`(K//F)` と書いてこれを `K` の `F` 上のGalois 群と呼ぶ.
見事にわからない。p.036 の下段に進もう
Galois 拡大に戻って,Gal`(K//F)` が Abel 群であるとき `K` を `F` の Abel 拡大と呼び, 巡回群であるとき巡回拡大と呼ぶ. 一般に `K` が `F` の有限次の拡大体である時, 通常 `N_(K//F)` で表す `K` から `F` への写像が定義されて, `N_(K//F)(xy) = N_(K//F)(x)N_(K//F)(y)` という性質がある. `K` が `F` の Galois 拡大で `G=`Gal`(K//F)` ならば
(5.3) `N_(K//F)(x) = prod_(sigma in G) x^sigma (x in K)`
である.特に `[K : F] = 2` で `G = {1, sigma}` ならば `N_(K//F)(x) = x x^sigma` となる.
定理 5.1. `K` が `F` の巡回拡大体で `sigma` が Gal`(K//F)` の生成元ならば
`{x in K | N_(K//F)(x) = 1} = { y // y^sigma | y in K^xx}`.
この `K^xx` を見て、私は萎えた。記号がわからないからだ。後で調べて、 環 `R` に対して、`R` の可逆元全体の集合を `R^xx` と書き表すことがわかった。 ここで `R` の元 `a` が `R` の可逆元であるとは、`ay = 1` を満たす `y in R` が存在することをいう。 いや、「線形代数と微積分の初歩を学んだ人」はわかるでしょう、と言われたら返す言葉がない。
さらに調べると、 「数学の好きな人のために」 「4. 初等整数論のやり方と多元環」で既に出ている記法だった。 恥ずかしい。
p.047 で著者は何がよい問題であるかということの判断は簡単でない
という.
なんだ、それでは話が進まないじゃないか。
ある教科書について、著者はこう書いている:
初等整数論から初めて Gauss の 2 次形式論の一部と 2 次体論の入り口を書いた日本語の古い教科書がある. 読者がそこに書いてある理論と定理を学ぶのはよい. しかし Gauss の 2 次形式論がそれだけであるなどと思ってはならない. 上記の類の対応などは重要であるが,それについては一言もないし,3 平方の和もない. また歴史的コメントもあるが,まったくでたらめである. 「Legendre の本の価値がなくなった」などという言うが, (中略)Gauss も Lagrange や Legendre の仕事に多くを追っているのであり, しかも Gauss の記述は必らずしも最終的とは言えないところがある.(後略)
ひょっとして、私が古書店で買った、ある本のことだろうか。おそるおそるその本を見てみると、 Legendre に関して、そのように取れる記述がある。うーむ。困った。 せいぜい、その本の理論と定理を学ぶことにしよう。
この章を拾い読みした結果、著者の主張は次のとおりと認識した。
結局、「何が重要か」という主張はわからずじまいだった。これは、私の数学的素養の不足から来るのか、 それとも文章読解の力が足りないのか、あるいはその両方なのか、それすらわからない。
この章になると、第1行めから理解ができなくなる。
この章は最初のページを除き英語の論文である。タイトルからしてわからない。 「二次不定方程式と類数、質量公式」と訳すのだろうか。本論文は全部で6章からなり、 1章が"The basic setting and two ternary cases" とある。これがまたわからない。
この章は数式が出てこないので気楽に読める。pp.142-143 で著者が“会わなかった”数学者として、 J. A. Alexander (1888-1971) が出てくる。本書で、 アレクサンダーが McCarthy に敵視されていたということが書かれている。 マッカーシーはまさか計算機科学の人ではないだろう、と思って調べたらやはり違っていて、 「赤狩り」で有名なジョゼフ・マッカーシーのことだった。 アレクサンダーは社会主義者だったのだ。
p.143 ではもう一人、著者が“会わなかった”数学者である Kurt Goedel (1906-1978) についても述べている。 著者はゲーデルの仕事について次のように評している:
私にとっては彼は「そんなことを考えても無駄だからもう考えるのはおよしなさい」と言って, 人々の重荷を取り除いてくれた大恩人である. だから彼の仕事についての通俗書なども「読むのはおよしなさい」 ということにもなるのだと思うが中々そうはならないらしい.
私は岩波文庫のゲーデル「不完全性定理」を買って読んだがわからないまま放っている。これは通俗書ではないと思うが、 「読むのはおよしなさい」という著者の勧めに従って読まないことに決めた。
数式はMathJax を用いている。
書 名 | 数学で何が重要か |
著 者 | 志村 五郎 |
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発行元 | 筑摩書房 |
定 価 | 950 円 |
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その他 | ちくま学芸文庫、越谷市立図書館にて借りて読む。 |
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