著者の書下ろし数学四部作の幕開けの本。 残る本は、『数学の好きな人のために』、 『数学で何が重要か』、 『数学をいかに教えるか』である。
「はじめに」から引用する。
まず期待される読者の数学知識のレベルを書く. 本書では線形代数と微積分の初歩を学んだ人を主な対象とする. だから大学の理工系に進んだ人,経済学で数学を使う人, 中学,高校などで数学を教えている人が入るであろう. 今学びつつある人ももちろん入る.研究者は主な対象ではないが, 案外よい読者になってくれるかも知れない.
騙されてはいけない。下記の筑摩書房のページに、本書の目次がある。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480093257/
この目次を見れば、線形代数と微積分の初歩を学んだ
だけの人では到底読み通せないだろう。
私も線形代数と微積分の初歩を学んだ人
ではあるが、それを超えた数学の勉強はしていない。
だから、挫折した。
p.053 からは 4. 四元数環の重要性 と題して、ハミルトンの四元数環 `bbH`について述べられている。
`bbH` には特別な元 `bbi, bbj, bbk` があり、次の関係を満たすことが p.054 で述べられている:
`bbi^2 = bbj^2 = bbk^2 = -1`
`bbi bbj = -bbj bbi = bbk, bbj bbk = - bbk bbj = bbi, bbk bbi = - bbi bbk = bbj`
ここから始まってどんどん高級な数学の定理が出てくるのだが、
証明がそれほど簡単でない事実を示し、「……初等的な証明があるかも知れないが,強いて証明にこだわる必要はなかろう.
小学生が半径 `r` の円の面積は `pi r^2` とおぼえてすましているのと同じ態度でいた方が気が楽で,
それで一向差しつかえない」と述べる。これに安心する。
本書 p.113 から始まる「9. Lebesgue 積分と Fourier 変換」では、 Lebesgue 積分を論ずる三通りのやり方を示している。なお、`bbR` は実数全体の集合を表す。
- 実直線 `bbR` だけでやる.
- 一般の測度空間(measure space)で始めるが, それは `bbR^n` での積分をやるための手段で結局それだけになる.
- 一般の測度空間で,`bbR^n` ももちろんやるが,最後まで定理をできるだけ一般の場合に証明する.
著者は 3. が一番よいと言い、そして、Fubini-Tonelli の名で呼ばれる次の定理が成り立ち,
たいていの(よい)教科書にある.
としている。その後を引きうつしているときりがないのでここでやめるが、
ルベーグ積分を一般の測度空間で始められると初学者には荷が重いのではないだろうか。
なお、私は初学者である。
著者の送り仮名は独特である。「はじめに」では新らしい
という表記がある。そのほかにも、
難かしい
、珍らしい
、導びく
などの表記が散見される。
数式はMathJax を用いている。
誤植は下記のページを参照。なお、下記のページを登録したのは、私ではない。
http://public-errata.appspot.com/errata/book/9784480093257/
書 名 | 数学をいかに使うか |
著 者 | 志村 五郎 |
発行日 | |
発行元 | 筑摩書房 |
定 価 | 950 円 |
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その他 | ちくま学芸文庫、越谷市立図書館にて借りて読む |
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