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遠征を終えて |
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登山活動を終えて、フレンチパスを越える仕隊員
今回の遠征に関して山田さんからの遠征の誘いはあったものの、
経験、技術等まだまだ未熟なわたしが本当にいけるのだろうか?という不安があった。
しかしそんなことを言っていてはいつまでたっても何もできない。
かねてより行きたかったヒマラヤ登山にいけるのだ。
こんないい話はない。
折しも退職の意向を表明したばかりであり、なにか神様のお導きのような気もした。
まあ、経験豊富な人が回りについていてくれているのでその点は非常に心強かった。
また同時期に入山していた石井隊の方々、群馬の方々も経験豊富な方ばかりであったので、
いろいろ高所順応についてアドバイスをいただいた。
とにかくいろんな場面でいろんな人に助けていただいたので、
遠征初体験の私は大いに助けられた。この場を借りてお礼申し上げます。
さて、そんな「遠征初心者」の私だが、今回の遠征を終えて、感じたことをつらつらと書き述べてみたいと思う。
まず、遠征は長期間テントで寝食をともにするのでメンバー同士、
お互い気持ちよくすごせるか?といったことが重要になってくる。
その点については今回のメンバーは3人が3人とも、アバウト(いいかげん?)なタイプであったため、
ちらかっていることにイライラしたり、言いあいになるといったことはなく、
遠征期間中気まずい思いをすることはなかったと思う。
(少なくとも私は・・)なのでテント生活ではとてもリラックスできた。
そしてヒマラヤ登山といえばきってもきれないシェルパの活躍。
今回のネパール人スタッフであったサーダーのプリ、コックのダワ、
キッチンボーイのニマはみんな非常にまじめであり、スタッフには恵まれたと思う。
プリは山学同士会のジャヌー北壁で第2登を果たすなどで活躍したシェルパで、
技術、体力、マネージメントともに申し分なく、ユーモアもあり遠征中何度も笑わせてくれた。
コックのダワは日本語が堪能で、つくる料理はどれも丁寧につくられていてこれが山で食べる料理なんか?と思うほどであった。
ニマはくそがつくほどのマジメさでいつも笑顔を絶やさずに我々の個人テントまでお茶をもってきてくれた。
こうしたネパール人スタッフとの交流も今回の遠征で得た大きな楽しみであった。
彼らの協力がなければこの登山は成り立たないものだった。
遠征のスタイルとしては、今回の遠征は決してほめられるようなスタイルでは無い、
ということは言えるかもしれない。
というのも、他人の張ったフィックスを使い、シェルパの力を借りていたからだ。
自分たちでルート工作をし、自分たちのものは自分たちだけで荷上げする、
そういうことは登山の基本であるし、実際私もそういう登山がしたい、と思っていた。
しかしそんなことにこだわっていてはとても登頂はできない、
というのが8000mのノーマルルートの現実であった。
それを拒否しようとしても、否が応でもフィックスはどんどん伸びていく。
人気のノーマルルートを登るのならばしょうがないことなのだろうと思う。
そしてシェルパの力が想像以上だったということ。
彼らは我々の倍の荷物を持ち、なおかつ、倍の速度で登る。
そんな彼らのパワーを見せ付けられ,あまりにも無力な自分に気がついた。
なにかしようとしても、「サーブ、そんなことをする必要はない、我々がやる。」
といった具合で自分はまるで面倒をみてもらっているお子様のような気分にもなった。
彼らはプロとして何年も山に登り続けているわけだから、かなわないのは当たり前といえば当たり前なのだが。
そしてそれがダメだというわけではなく、それが今の自分の身の丈にあった登山であると思った。
すでにそういった登山を経験して、それとは違う登山をしたいと思っている
山田さんには私に合わせてもらって申し訳なく思ったが・・。
しかしそんなことをいってもやはり8000m峰というのは死と隣り合わせの世界なのだということも実感した。
実際、アタックの時には恐怖こそ感じなかったが、死神はすぐとなりにいたと思う。
体はおもうように動かず、食欲もない。眠れない。
このようにスケールの大きな山はもてる力(シェルパの力、他隊の力も含めて)を総動員しないと登れないということを感じた。
そしてこのような高所になるとやはり体調を維持するのが困難であるということ。
すこしでも無理をしたりするとたちまち体はなんらかの警告サインを出してきた。
今回私は遠征中に腰痛が一回、ジンマシンがでること一回、下痢と嘔吐で苦しむこと一回。
そんな中で高所順応をしながら体調を万全にもっていく、というのが非常に困難であると感じた。
それに荷上げやらルート工作やらが加わればさらに困難になることは容易に想像できる。
今回の遠征では「メンバー3人がダウラギリに登る」といういわば道楽の領域である目標のために、
そのように本当にたくさんの人の力が働いていた。
ヒマラヤ登山の醍醐味のようなものをそこに感じた。
そういったすべての人の意志が集約され、私を登頂に導いてくれたこと、
頂上から無事キャンプに戻ってきたときに感じたそれは今までに感じたことのない気持ちであった。
そしてなにより事故やケガもなく、全員無事に帰って来れたことを思うと本当に感謝しきれないほどの感謝である。
この一回の遠征で「高所登山とは」、といったことはいえない。
これをステップにしてまた新たな目標に挑戦していきたいと思う。