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レズビアン/ゲイの人権・法律問題

「府中青年の家」裁判

日本の同性愛者に対する差別や偏見
社会の状況を象徴した裁判だと思います。


発端

1990年2月、動くゲイとレズビアンの会(アカー)が東京都府中青年の家で合宿利用中に、他団体による差別・嫌がらせを受けました。「青年の家」所長は、嫌がらせに対処するよう要請したアカー側に対して、「都民のコンセンサスを得られていない同性愛者の施設利用は今後お断りする」と発言しました。さらに東京都教育委員会(石川忠雄委員長)は同年4月、「男女は別室に泊まらなければならない」という慣例(男女別室ルール)をたてに同性愛者の宿泊利用を拒否しました。


教育長コメント

「施設にはそれぞれ設置目的があり、また使用上のルールがある。青年の家は、「青少年の健全な育成を図る」目的で設置されている施設であることから、男女間の規律は厳格に守られるべきである。この点から青年の家では、いかなる場合でも男女が同室で宿泊することを認めていない。このルールは異性愛に基づく性意識を前提としたものであるが、同性愛の場合異性愛者が異性に対して抱く感情・感覚が同性に向けられるのであるから異性愛の場合と同様、複数の同性愛者が同室に宿泊することを認めるわけにいかない。浴室についても同様である。」


東京都を提訴

アカーは翌年2月に、この都教委決定を不服として東京都を提訴
原告:動くゲイとレズビアンの会(旧称アカー)
原告代理人弁護士:中川重徳・森野嘉郎・大野裕
被告:東京都

東京都は「男女別室ルール」を楯に反論してきました。


壁が崩れる

当初は「男女別室ルール」をどう切り崩してよいかわかりませんでしたが、全国の青年の家に向けて「男女で泊まれますか」と全部電話して調べてみると、実は男女でも泊めている施設がけっこう出てきたり、行政の施設であっても「男女の部屋割りはグループの責任に任せる」とちゃんと規則に書いてある所があることがわかり、大きな壁が崩れました。
また、サンフランシスコ教育委員会委員長トム・アミアーノさん(自身がゲイであるとカミングアウトした上で教育委員にトップ当選した人物)は、説得力ある陳述を裁判所においてしてくれました。


第1審判決

約3年間の法廷闘争の末、94年3月にアカー側が完全勝訴。

損害賠償事件 東京地裁平成3年(ワ)1557号
平成6年3月30日民事17部判決
(判例時報1509号P80)

→判決抜粋

2つの面で画期的な判決でした。
1つは、同性愛者について「男女別室ルール」を理由に拒絶する、そういう単純な考え方自体が違法なのだと、はっきり認めたこと。
もう1つは、「同性愛・同性愛者について」という項目を8ページも設け、同性愛も異性愛も人間の性的指向のひとつとして双方を同列に置いた定義を述べたことです。その上で「従来同性愛者は社会の偏見の中で孤立を強いられ、自分の性的指向について悩んだり、苦しんだりしてきた」ことまで認定してきたことです。


○この時期の関連記事

→同性愛者の権利裁判報告
→勝利した同性愛者たち


東京都控訴

同年4月東京都は東京高裁に控訴

控訴人:東京都
被控訴人:動くゲイとレズビアンの会(旧名称アカー)
右代表者 関谷真美子・永田雅司・風間孝・稲場雅紀・柳橋晃俊
被控訴人代理人弁護士:中川重徳・森野嘉郎・伊東大祐

高等裁判所になって東京都の主張は劇的な展開をしました。今までは「同性愛とか同性愛者ということが問題でなく、性的に引かれるもの同士が、同じ部屋に泊まるのが問題なのです。」と言っていたのですが、高裁にきて、「同性愛という性的指向を、性的自己決定能力を十分にもたない小学生や青少年に知らせ混乱をもたらすこと自体が問題である」と変わったのです。

それに対しアカー側は「その混乱とはどういう混乱なのか? 混乱すると主張する研究やデータがあるのか?」「アメリカではレズビアンのカップルと暮らしている子どもたちと、異性愛者の親と暮らしている子どもたちの知的な発達・性的指向の形成・自尊心・自分を肯定的に考える姿勢などを比較して、まったく違いがない、という実証的な研究がたくさんある」と、反論。東京都は有効な反論を出さないまま、この件については実質的に主張をしなくなりました。

また96年11月に山本直英氏(”人間と性”教育研究所所長)がアカー側証人として採用されました。裁判は「宿泊利用の拒否」という問題を超え同性愛性悪説を主張する東京都側に対し、同性愛者の人権について主張し、彼らが自らの性的指向を受け入れアイデンティティを築いていく空間を確保するという側面をも主張するものになってきました。


高裁判決

97年9月 アカー側勝訴。

損害賠償請求控訴事件 東京高裁平成6年(ネ)1580号
平成9年9月16日第4民事部判決
(判例タイムズ986号P206)

高裁判決
判決は
「平成二年当時は、一般国民も行政当局も、同性愛ないし同性愛者については無関心であって、正確な知識もなかったものと考えられる。しかし、一般国民はともかくとして、都教育委員会を含む行政当局としては、その職務を行うについて、少数者である同性愛者をも視野に入れた、肌理の細かな配慮が必要であり、同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されているものというべきであって、無関心であったり知識がないということは公権力の行使に当たる者として許されないことである。このことは、現在ではもちろん、平成二年当時においても同様である。」 と述べて
「都教育委員会にも、その職務を行うにつき過失があったというべきである」と結論付けました。


最後に

6年を経た裁判はアカー側の勝訴で終わりました。
しかしこれで同性愛をとりまく状況が全て解決したわけではありません。
高裁での勝訴をステップに、同性愛者の人権を社会や政治の中に定着させるべく、皆さんと力を合わせてゆけたらと思っています。

またこの場を借りて、この裁判を続けてゆくにあたって様々な支援を与えてくださった皆様にお礼の言葉を述べさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

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