諏訪の森法律事務所 Lawyer SHIGENORI NAKAGAWA

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勝利した同性愛者たち

自由法曹団通信777号(1994/8/11)より

去る3月30日、東京地方裁判所で、同性愛者に対する差別的取扱を違法として東京都に損害賠償を命ずる判決が下された。


1.経過

裁判の原告は「動くゲイとレズビアンの会」(アカー)。アカーは同性愛に関する正確な知識の普及や差別・偏見の解消を目的として活動する20代中心の同性愛者のグループである。

90年2月、アカーが東京都の「青年の家」を利用して勉強会合宿を行った際、他の利用者からいやがらせを受け、「青年の家」側に善処を求めたところ逆に爾後の利用を拒絶され、都教育委員会も次回の利用を認めないとの決定をしてしまった。91年2月、アカーはこの決定を違憲・違法として国賠訴訟を提起した。


2.争点〜「正当な理由」が存在するか

都側は、当初、「青年の家は青少年の健全育成を目的としており男女同室宿泊を認めていない。複数の同性愛者の同室宿泊も同じこと。」なるコメントを発表し、裁判になってもこれを援用した。原告側の求釈明の結果、都側は、「同性愛者を同室に宿泊させると性行為を行う可能性があり、これは「青年の家の健全育成」とおいう設置目的に反する」等と主張した。原告側は、差別され孤立した同性愛者にとって公共施設で学習・交流を行うことは極めて重要であり、1室に5〜8二人が宿泊する「青年の家」で「衆人環視」のもと性行為が行われることなど考えられない等の反論を行った。


3.判決

判決は、「青年の家で性行為が行われることは設立趣旨に反するから承認不承認に際してその可能性の有無を考慮してもよく、同性愛者が同室に宿泊した場合、異性愛者の男女が同室に宿泊した場合と同じ意味で、性的行為の一般的可能性は存在する。」としつつ、「同性愛者の場合には同室での宿泊を禁止すると事実上宿泊利用が不可能となり、男女の場合に比べて著しく不利益で青年の家の利用権が奪われるに等しい。施設利用権の背景には憲法21条(集会の自由)、26条(学習権)等の規定があるから、同性愛者の宿泊を禁止するためには性行為の具体的可能性が認められる必要がある。本件では、この有無が検討されておらずそれだけでも処分は違法だが、当時この具体的可能性があったとも認められない。」と述べ、他の論拠も斥けて処分を違法と断じた。


4.同性愛・同性愛者について

注目すべきは、判決が「同性愛・同性愛者について」という項目を特に設けた点である。まず、「同性愛は人間が有する性的指向(sexual orientation)のひとつであって、性的意識が同性に向かうものであり、異性愛とは性的意識が異性に向かうもの」と述べ、同性愛と異性愛を全く優劣の無い存在として定義した。続いて、世界保健機構の文献等で同性愛は病気や倒錯として扱われていないことを具体的に指摘し、さらに「広辞苑」、文部省の指導書の記述の変化から、社会一般としても「同性愛を異常視する傾向の見直しが行われている」と認定した。さらに、これまで同性愛者は社会の偏見の中で孤立を強いられてきたが、サンフランシスコ等ではこれを改善すべく同性愛者の生徒に対する様々なサポートが行われていることまで言及した。現在の日本ではマスコミや一部の専門家の間でも、同性愛を異常、変態とする固定観念が根強いことを考えると、このような事実認定の意味は極めて大きい。


5.勝訴をもたらしたもの

1、法廷内で東京都を終始圧倒した。当初、「男女別室」の理屈は大きく立ちはだかる壁のように思えた。東京都はこの理屈だけで逃げ切る作戦。私たちは、同性愛者が宿泊した場合の不都合を具体的に述べろと食い下がった。最終盤、全国の多数の「青年の家」で男女を同室に宿泊させている資料を発見し提出。自身同性愛者であるサンフランシスコの教育委員長は、「サ市でも学校の旅行等で性行為は厳禁だが、同性愛者を同室に宿泊させて何の問題も生じていない。」「どうしても心配ならば、性行為は禁止するというルールを周知し、違反者だけにペナルティーを課せば十分」「同性愛者の青少年も等しく教育の機会を保障されるべき対象だということを忘れてはいけない」等と力強く証言してくれた。

2、裁判官の同性愛者に対する固定観念を払拭すべく、本人たちの意見陳述や裁判官面接を積極的に活用した。

3、そして、毎回法廷を満員にした若い同性愛者たち。今まで同性愛者の多くは、自らの性的指向を隠して生きるしかなかった。裁判にやって来る若者たちには、これとは違った生き方をしたい。そのためには社会を変えて行きたいという熱い思いが漲っていた。彼らは、自分の家族を裁判に引っ張ってきて「同性愛者の子を持つ親の会」まで作った。

東京都は控訴したが、異性愛中心主義の社会に対する異議申立は加速度的に広がるだろう。法律家の果たすべき役割は大きく、私は団員の皆さんと力を合わせることができたらと願っている。



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