諏訪の森法律事務所 Lawyer SHIGENORI NAKAGAWA

住所:〒169-0075 東京都新宿区高田馬場1-16-8 アライヒルズグレース2A

電話:03-5287-3750



HOME > 論稿集 > エイズ予防法を読む[補足資料]


エイズ予防法を読む[補足資料]

エイズ予防法

後天性免疫不全症候群の予防に関する法律抄
1989年1月17日公布 同年2月17日施行
1999年3月感染症新法施行の為廃止

医師の指示及び報告

第5条
医師は、エイズの病原体に感染している者(以下「感染者」という。)であると診断したときは、当該感染者又はその保護者(親権を行う者又は後見人をいう。以下同じ。)に対し、エイズの伝染の防止に関し必要な指示を行い、7日以内に、文書をもって、当該感染者の年齢及び性別、当該感染者がエイズの病原体に感染したと認められる原因その他厚生省令で定める事項を当該感染者の居住地(居住地がないか、または明らかでないときは、現在地。以下同じ。)を管轄する都道府県知事に報告しなければならない。ただし、当該感染者が血液凝固因子製剤の投与により感染したと認められる場合には、当該感染者について報告することを要しない。 (中略)

感染者の遵守事項

第6条
1 感染者は、人にエイズの病原体を感染させるおそれが著しい行為をしてはならない。
2 感染者は、前項に定めるもののほか、前条の医師の指示を遵守するように努めなければならない。

医師の通報

第7条
1 医師は、その診断に係る感染者が第5条の規定による指示に従わず、かつ、多数の者にエイズの病原体を感染させるおそれがあると認めるときは、その旨ならびに当該感染者の氏名及び居住地その他厚生省令で定める事項をその居住地を管轄する都道府県知事に通報するものとする。
2 医師は、その診断に係る感染者にエイズの病原体を感染させたと認められる者がさらに多数の者にエイズの病原体を感染させるおそれがあることを知り得たときは、その旨並びにその者の氏名及び居住地その他厚生省令で定める事項をその居住地を管轄する都道府県知事に通報することができる。

都道府県知事の健康診断の勧告等

第8条
1 都道府県知事は、前条第2項の通報があったときは、当該通報に係る者に対して、期限を定めて、感染者であるかどうかに関する医師の健康診断を受けるべきことを勧告することができる。
2 都道府県知事は、前項の勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、その者に対して、期限を定めて、感染者であるかどうかに関する当該都道府県知事の指定する医師の健康診断を受けるべきことを命ずることができる。

都道府県知事の指示等

第9条
都道府県知事は、第7条第1項の通報に係る感染者もしくは前条第2項に規定する健康診断により感染者であると確認された者又はその保護者に対して、エイズの伝染の防止に関し必要な指示を行うことができる。

第10条
都道府県知事は、第8条第1項の規定による勧告、同上第2項の規定による命令または前条の規定による指示を行おうとするときは、当該職員に、第7条第1項の通報に係る感染者若しくは同条第2項の通報に係る者又はその保護者に対し、必要な質問をさせることができる。

罰則

第16条
次の各号の1に該当する者は、10万円以下の罰金に処する。
1 第8条第2項の規定による命令に違反した者
2 第10条の規定による質問に対して虚偽の答弁をした者

<< 前のページへ戻る


補足・エイズパニックと予防法

エイズ予防法・付則7項が制定された時代背景
日本のエイズ政策を振り返るうえで、エイズ予防法が提案され成立したのがどういう時代であったのかを押さえることが決定的な意味を持っている。

アメリカのCDC(保健・福祉省疾病対策防止センター)が男性同性愛者5人のカリニ肺炎を報告したのが1981年6月。日本では、1985年3月、厚生省エイズ・サーベイランス委員会が、ある男性同性愛者を、日本のエイズ患者第一号として認定して発表した。実は、安部英帝京大教授のところでは、汚染された血液製剤のために感染した患者・感染者がいることがこれよりずっと以前にわかっていた。日本では、加熱した血液製剤への切替えが遅れたために血友病患者の四割が感染するという薬害が発生しつつあった。にもかかわらず、第一号患者として発表されたのは同性愛者だった。社会の同性愛者に対する無知と偏見が災いして、日本社会に奇妙な安心と患者・感染者に対する嫌悪感が植えつけられた。
その直後、一連のエイズ・パニックがおこる。まず松本事件。86年10月、「フィリピンから出稼ぎに来ていた女性が帰国後の検査で陽性と出た」という報道を発端に、その女性の働いていた店や「客」を探し出そうとマスコミが殺到。翌87年には「神戸事件」。これは、エイズ・サーベイランス委員会が「わが国初の女性患者認定」と発表。これにマスコミが飛びつき、この女性を捜し出した。病院、実家へ殺到し、実名と顔写真まで報道した。パニックはこうして、HIV に感染しているとかAIDS患者であるということが世に知られたらどういう目にあうか、ということを誰の目にもわかる形で印象づけた。

注目すべきは、個人のプライバシーを暴く報道や、行政による情報のリークが、「2次感染を防止するため」という口実で行われたことである。このことからもわかるように、エイズパニックとは、要するに、一部マスコミと行政の手による「北風方式〜患者感染者をあぶり出し社会から排除するという手法」の先取りだったのである。

何がされるべきだったか
問題は、ここで、行政が何をすべきであったのかという点である。
前述のように、感染症対策には、大きく二つの考え方がある。一つは、個々の患者・感染者を徹底的に管理し、その人権を犠牲にしてでも社会防衛を行うという考え方(「北風方式」)。もう一つは、患者・感染者の人権を尊重してはじめて感染症対策としても成功するという考え、患者・感染者の主体的・自発的協力を基礎にする考えである(「太陽方式」)。
HIV は感染力が弱い。感染経路はハイリスク・ビヘイビアに限られ、日常生活では感染しない。論理的には、行動の変容を促す教育の結果として感染者と未感染者のどちらかがセーファーセックスを実行すれば感染を防ぐことができる。HIV については後者のアプローチが可能なのである。逆に、人権を犠牲にしてでも管理しようというやり方では病気の実態把握さえ困難になるというのが歴史の教訓である。特に、社会的に差別の対象となりやすい性行為感染症の場合、絶対に管理・隔離という方法をとってはならないのである。
87年の時点で政府がなすべきだったのは、社会のヒステリーをたしなめ、パニックによって広まった誤った知識や偏見を一掃するための取り組みであり、患者・感染者を手厚くサポートする施策の実施だったはずである。

予防法の考え方
ところが、政府によって提案された予防法は「北風方式」に立つものだった。

エイズ予防法を、上記のような時代背景の中において振り返ってみれば、日本の初期エイズ政策の根本的な問題が明らかになる。

<< 前のページへ戻る


入管法附則第7項

 1999年3月廃止

後天性免疫不全症候群の病原体に感染している者であって、多数の者にその病原体を感染させる恐れがあるものは、当分の間、第5条第1項第1号に掲げる患者とみなす。

<< 前のページへ戻る


動くゲイとレズビアンの会(アカー)

レズビアン、ゲイは、社会の偏見や偏った情報の中で、孤立したり自分のことを否定的に考えてしまうことがあります。アカーは、同性愛者どうしがネットワークを作ることで孤立や自己否定を克服し、社会の偏見や差別をただしていくための活動をしています。ゲイ・レズビアンのための電話相談、調査研究事業、人権擁護活動等多彩な活動を行っています。

ホームページ

<< 前のページへ戻る



Copyright (C) Suwanomori Law Office All Rights Reserved.