命に関わる頭痛(3)脳静脈・静脈洞血栓症(こばやし小児科・脳神経外科クリニック)

脳神経外科パンフ集

命に関わる頭痛(3)脳静脈・静脈洞血栓症

静脈洞血栓症とは

 脳には静脈洞という特殊な構造をした静脈系があります。静脈洞は脳の中を灌流してきた血液が、頭蓋から出ていく前に、最後に集まってくるところです。別の言い方をすれば、頭蓋外へ出ていく血液の主な通り道(出口)とも言えます。静脈洞血栓症では、静脈洞が血栓で閉塞することにより、血液が頭蓋外に出て行きにくくなります。その結果、頭蓋内圧亢進、静脈性脳梗塞、脳出血、けいれんなどを起こしてくるのです。頭蓋内にはいくつかの静脈洞がありますが、大脳表面を灌流した血液の主な戻り道になる上矢状静脈洞の血栓症が最も多く、次いで横静脈洞、海綿静脈洞の血栓症の頻度が多いと言われています。

原因とリスクファクター

 原因として、経口避妊薬やホルモン剤(乳癌の治療に使われるプロゲステロンなど)、妊娠・出産に伴う凝固能亢進、ベーチェット病や凝固異常症等が注目されています。副鼻腔炎や中耳炎、乳突蜂巣炎などの炎症性疾患が静脈洞に波及して、血栓を形成する場合もありますが、その頻度は少なく全体の5%以下といわれています。また喫煙は有力なリスクファクターといわれますが、結局20~30%は原因不明と言われています。

症状

 発症は急激な経過をとるもの(突発性や24時間以内の急性発症)と、頭痛が数週間先行するもの(慢性型)とがあります。最も多い症状は頭痛で(初発症状としても最も多い)70~90%に見られます。その他けいれん、悪心嘔吐、意識障害、うっ血乳頭といった症状が見られます。頭痛は通常頭部全体(時に片側性)の重度の痛みで、進行性であるといわれ、特異的な特徴に乏しいため、頭痛だけで本疾患を疑うのは容易ではありません。局所神経症候として、片麻痺(下肢優位であったり、時に対麻痺を呈する)、耳痛(同側の横静脈洞血栓症)、眼部痛や眼球運動障害(海綿静脈洞血栓症)などが見られることもあります。

診断

 既に述べたリスクファクターや経口避妊薬の内服等、凝固亢進状態を伴った症例の頭痛では、本疾患を特に疑って画像診断を行うことになりますが、CTでは単純撮影で約半数、造影検査を加えても、4分の1の例で何も異常が見られないといわれています。局所の脳腫脹や浮腫、静脈性梗塞像、皮質下出血などの所見が見られれば、臨床症状と合わせて、本疾患を強く疑う根拠になりますが、診断の決め手はMRI・MRA・MRVで、静脈洞内の血栓を直接描出できることもあります。以前は臨床診断が困難で、死亡例も多かったことから、予後不良で稀な重症疾患と思われていましたが、近年のMR画像診断の普及によって、予後良好な軽症例も少なくないことが分かってきて、今後注目される疾患と思われます。