The Nation 2018年8月15日
鉛より悪い? 特別調査:化学産業は、 鉛から、同様に病気と死をもたらす 難燃剤に変えて、また襲いかかる ジャミー・リンカーン・キットマン 情報源:The Nation, Aug 15, 2018 Worse Than Lead? Special Investigation: The chemical industry strikes again, shifting from lead to flame retardants that also sicken and kill. By Jamie Lincoln Kitman https://www.thenation.com/article/worse-than-lead/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2018年8月24日 更新日:2018年8月30日 更新日:2018年9月12日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_18/ 180815_Nation_Worse_than_lead.html" This article was reported in partnership with the Investigative Fund at the Nation Institute, with support from the Puffin Foundation. Emily Biuso and Darren Ankrom provided research assistance.
難燃剤ビジネスは、爆発的に成長し、そして悲劇的な結果をもたらしているが、世界は、40年以上前から始まった道徳的にみて問題があるこの産業をまだ当てにしなくてはならない。アメリカ政府は、ガソリンに鉛を添加した極めて危険なビジネスと同様に、難燃剤の拡散を生み出した悪の根源である製造者に責任を負わせていない。今、ネーション(The Nation)が実施した新たな調査が、公衆の健康と環境に対するこれら二つの惨劇の間の衝撃的な関係を明らかにする。 アメリカで上位100人に入る富豪であり、ノースカロライナ州シャーロットに拠点を置くアルベマール化学会社の最も有力な株主であるバージニア州のゴットワルト一族を紹介しよう。2016年9月、フロイド・ゴットワルト Jr. はドナルド・トランプの大統領選挙戦のための共同資金調達委員会”トランプ勝利(Trump Victory)”に5万ドル(約550万円)献金した。それは数十年前から続く共和党への金銭支援という一族の伝統である。一般には、彼らのことはあまり知られてない。ゴットワルト一族は、地球を鉛と難燃剤で覆うことにより彼らの富を築き上げたとすれば、当然のことながら目立たないようにしてるからである。 決して分解しない致命的な神経毒素である鉛は、主にガソリン添加剤(訳注1)としての役割を通じて、20世紀の間ずっと、公衆の健康を損なってきた。アメリカが 1970年代に加鉛ガソリンを廃止し始めたときに、ゴットワルト一族は難燃剤に向きを変えた。難燃剤はしばしば化学元素である臭素で作られているので、難燃剤もまた極めて有害な製品である。しかし、鉛は最終的には禁止されたのに、難燃剤は決して効果的に規制されたことも、いわんや禁止されたこともなかった。もっとも、鉛添加剤製造者らは数十年間、(私が2000年にネーション(The Nation)のための調査の中で報告したように)真っ赤な嘘、人を欺く広告、そして選挙で選ばれた議員への金銭的潤滑油を用いて規制を回避したので、鉛の禁止はあきれるほど遅れた。 難燃剤は発がん性物質としてだけでなく、変異原性物質(すなわち、遺伝子物質を変異させる物質)として特定されている。難燃剤の多くは現在、第一級の内分泌かく乱物質であると理解されており、特に若い人の間で、増大する様々な学習障害、低知能指数、並びに多動症及び自閉症と一致する行動を含む行動障害、そして成人の間で、不妊、流産、早産、肥満、早熟、閉経後の女性の甲状腺ホルモン障害、そして筋萎縮性側索硬化症(ALS)のリスク増大など、多くの病気に関係していると理解されている。 難燃剤の痕跡は現在、水中及び家庭内のダスト中を含んで、事実上地球上のあらゆる場所で発見されている。シカゴトリビューン紙(訳注2)によれば、1970年から2004年の間、2年から5年毎に成人の血液中のある難燃剤のレベルは倍増している。カリフォルニア・デイ・ケア・センターの 2004年の研究で研究者らはダスト試料の100%に難燃剤を発見した。最近の中国の研究は電子タバコ中にそれらが存在することを明らかにした。遠隔の地も安全ではない。その化学物質は一貫して北極の海洋哺乳類の脂肪中に見いだされる。 それは驚くべきことではない。難燃化学物質の世界の消費量は 2020年までに最大 70億ポンド(約 320万トン)に達することが予想される。特にそれらが炎の広がりを遅らせることに大して役に立たないのに、それだけの量の難燃剤が採用されていることに唖然とする。 これらの化合物は、1970年代からあらゆるところに拡散され始めた。それは世界中の政府が、難燃剤は火災安全のツールとして本質的に重要であるという企業のキャンペーンに説得されたからである。このキャンペーンの多くは感情的でごまかしであった。ほとんどその全ては、ゴットワルトのアルベマール社及び同社がその一部である化学産業を含んで、難燃剤製造者らによって支援された。タバコ産業と協力して、これらの製造者らは、彼らの製品の必要性を認識させるために、怖がらせるよう積極的に仕組んだキャンペーンを開始した。彼らは規制を巧妙に作って立法機関にそれらを採択するよう働きかけ、彼らが気に入らない科学的発見を攻撃し、公衆健康唱道者らを冷笑し、ジャーナリストを情報操作し、数百万ドル(数億円)の選挙献金で政治家に近づいた。この公衆健康に対する攻撃は、なぜ難燃剤が現在、家具、寝具、電気製品、そして最も見下げはてたことには子どもの衣料やカーシートを含んで驚くべき多数の消費者製品中に埋め込まれているのかを説明している。 難燃剤と加鉛ガソリンは50年以上、別々に市場に出されているが、それらは共通の企業系譜を持っている。そもそも話は、ゼネラルモーターズ、デュポン、スタンダードオイル・ニュージャージー(エクソン・モービルとして知られる)、そして後にダウケミカルという一流企業 4社側の息をのむような貪欲と策略の行為であるガソリンへの鉛の添加で始まる。その後、加鉛ガソリンの大量生産が難燃剤の大量生産に移行したので、その物語はほとんど一世紀の間続く。 ある難燃剤は時間とともに廃止されたが、他の難燃剤が段階的に導入された。ゴットワルト一族と他の製造者らは静かに闇に消え去りはしない。彼らの製品がもたらす健康と環境への害が証明されたにもかかわらず、難燃剤の供給者らは、その後何年間もこの有害製品をますます大量に売ろうとしている。ゴットワルト一族は、彼らのアルベマール社がその臭素製造能力と世界中でのパートナーシップを拡大し、最近ではイスラエル化学社との2014年の提携で、そのことを明確にした。 他の有害化学物質メーカーのようにアルベマール社は、古典的なおとり商法を完全なものにすることにより法と公衆の怒りに一歩先んじた。規制当局が、否定できない健康影響に基づき、ひとつの難燃剤を禁止すると、メーカーらは、類似しているが、法的に異なる製品を作り出そうと、分子をあちこち、ひとひねりしている。そしてその製品に新たな名前をつけて市場に押し戻した。 アルベマール社はこの記事のためのインタビューの申し込みを断り、同社の活動についての疑問に関する詳細リストに応答しなかった。 ■今日の不祥事の発端は、世界最大の 3会社が、自動車関連で最も急速に成長しているアメリカの加鉛ガソリン市場に参入した 1923年にまでさかのぼる。ゼネラルモーターズ(GM)がそのアイディアを持ち出し、スタンダードオイル・ニュージャージーが世界中で巨大な数の顧客を得るための市場占有と流通のための筋肉になるととともに、加鉛ガソリンの大量生産に移行するための技術的知恵袋となり、化学産業界の巨人デュポンは工場、追加資金、及び科学的専門性で貢献した。 これら 3つの会社のビジネスチャンスは、その時代の自動車燃料はひどいものであり、ますますひどくなったという事実から生じた。ゼネラルモーターズ(GM)は、鉛を添加すると燃料のオクタン価が増し、エンジンを加速させるといやな金属性打撃音を発生させるノッキングのノックが低減することを発見していた。スタンダードオイル・ニュージャージーとともに GM は、この新たなガソリン添加剤の大量生産、流通、販売、及び市場戦略を運営するジョイントベンチャーであるエチル・ガソリン社(後に短縮してエチル」社)を設立した。 その後 50年間、加鉛ガソリンは、数億人に、心臓発作、卒中、がん、腎不全、学習障害、行動障害、その他をもたらすという形で、公衆の健康を非常にひどく蝕むことになったので、1980年代に始まったほとんどのガソリンからの鉛の除去は、前世紀の最大の公衆健康の勝利のひとつとして歓迎された。 加鉛ガソリンの健康影響は、もし企業の貪欲さが人の品位を打ち負かすことがなければ、回避することができたであろう。鉛の危険性の多くはすでに知られており、あるものは数千年も前から疑われていた。(古代ギリシャの医者ペダニウス・ディオスコリデスは、”鉛は精神に障害をもたらす”と警告した。)エタノールの添加のようなより安全にオクタン価を上げる方法もまた1920年代に知られており、それらはコスト競争力もあった。しかし、その当時は”農場アルコール”として知られていたエタノールの特許を取ることができなかった。たとえ致命的な製品であっても所有権がある方が好ましいと考えるエチル社の社主の目から見れば、それは重大な欠陥であった。 GM、デュポン及びスタンダードオイル・ニュージャージーは直ぐに新たな問題に直面した。鉛は、車のエンジンを破壊することが分かった。GM の上席重役アルフレッド・スローンとチャールス・ケタリングは同社の内外の仲間から鉛の付着物がエンジン、スパークプラグ、及びその他の重要な部品の寿命を劇的に縮めるという報告を受けた。”加鉛ガソリンで数千マイル(数千キロメートル)走行する間にスパークプラグを交換する必要が生じる”と、GM の首席科学者トマス・ミジリー Jr. は1922年11月のメモの中で同社の研究部門重役ケタリングに伝えた。現在、ミシガン州フリントにあるケタリング大学(前ゼネラルモーターズ研究所)のリチャード・P・シャーウバーグ アーカイブに所蔵されているミジリーの報告書は、”排気バルブステムとシートは一酸化鉛[鉛]を溶かすのに十分な高温になると、わずかに異なるやり方で損傷を受けた”と付け加えた。他の内部文書は、GM のビュイック (Buick) 部門の技師らが 1,500マイル(約 2,400キロメートル)以内の走行でエンジンが故障するのを観察していることを示唆している。 しかし撤退するどころかスローンとケタリングは、”計画的陳腐化”戦略を採用して加鉛ガソリン部品を改良することにより、このビジネス上の問題であるレモン(出来損ない)をもっと大きな利益の出るレモネードに変えた。それまでの数年間、 GM と残りの米国自動車産業は構造的な問題に直面していた。すなわち、彼らの生産能力は、彼らの製品に対する消費者の需要を上回っていた。アメリカ人は、自動車産業が製造できるほど多量の車を必要としていないか、又は必要としているとは考えなかった。GM の将来の社長であり、 CEO であり、計画的陳腐化の概念を推進したスローンは、消費者らの思考を変えることに着手した。 人々をそそのかしてもっと多くの車を買わせるために、 GM は車のデザイン、色、そして性能を毎年のように変え始めた。挑発的な宣伝が導入され、顧客は分割で支払うことが許された。車は輸送機械であるが、ステータスシンボルとなった。 意図していたわけではないが、エンジンと関連部品を損傷するという加鉛ガソリンの性質は計画的陳腐化の極端な形をもたらした。そのビジネス論理は冷徹で計算高く、単純であった。GM は販売する車から直接的に利益を上げた。さらに同社は、エチル社における合弁事業を通じて、販売する加鉛ガソリンのガロン毎に追加的な特許権使用料で稼ぎ、加鉛ガソリンがエンジンと関連部品に損傷を与えると GM は代替部品を供給し、又はもっと都合がよければ新車を供給して、次々と追加の稼ぎを生み出した。GM の指導者らにとって、それは win-win-win で三方よしと呼ばれるものであった。 しかし GM にとって都合の良いことでも顧客にとって良いことではなく、それらのあるものは顧客の不興を買うのに十分に強力であった。間もなく、米国の陸軍及び海軍、英国及びカナダの空軍の代表は GM とエチル社の重役らに、加鉛ガソリンは彼らの航空機のエンジンに大被害を与えていると伝えた。”なんらかの措置がエチル社側でとられなくてはならず、さもなければ彼らが現在米国海軍から得ようとしている足場を失うことになるであろうということについて、あなたの注意を喚起したい”と、1927年11月11日に航空機エンジンメーカーのプラット・アンド・ホイットニー社のある上級重役がケタリングに書いた。 加鉛ガソリンによる企業リスクには非常に懸念があったので、GM 上層部内で意見が割れたことを同社の内部文書が明らかにしている。GM の高級車であるビュイックとキャデラックの各部門は、加鉛ガソリンの破壊的な特性のために、当初は彼らの顧客にそれを推奨することに消極的であった。二つの部門の首脳らは懸念の手紙を CEO スローンに出した。これに対して1924年5月2日に彼はビュイックのゼネラルマネージャ H. H. バセットに、”[もし現状が続けば]我社の車種部門が競い合い、ほとんど資本を投入することなく、[加鉛ガソリンは我社にとって]大きな収益力となる”と簡潔な返書を書いた。解釈:あなた方は理解していない。我々は車を売るより、この物質を売ってもっと多くの金を稼ごうとしている。遠からずビュイックとキャデラックの両部門は同意するであろう。 それでもたった 1,500マイル(約2,400キロメートル)の走行で新しいエンジンが故障するということは、スローンとケタリングのような人殺しビジネスが、いかにひどいものであるかを証明していた。彼らはエンジンからもっと多くの鉛を排出する方法を見つける必要があった。 間に合わせの方法として二臭化エチレンの発見があった。EDB という略語で知られる二臭化エチレンは、炭化水素であるエチレンを臭素と反応させることにより生成される。ダウケミカルの技師によって製造された EDB は、化学的”ごみ回収者”として機能する。それは鉛を臭化鉛に変えて、エンジン中に鉛が蓄積する傾向を弱め、大気中への排出によってエンジンから放逐しやすくする。 臭素元素には問題があるので、その空気を吸う人々以外にとってだけ、問題は解決された。古代ギリシャの”悪臭”を意味する bromos という言葉に由来する臭素(bromin)は、液体である唯一の非金属元素である。それはハロゲン化鉱物塩、あるいは塩湖や塩水溜まり(brine pool)(訳注:ウィキペディア)中の溶液中で容易に見いだされる。そして以下に詳述されるように、それは間違いなく人の健康のために良くない。 もし加鉛ガソリンが広範に使用されるようになれば、莫大な追加的な臭素が見いだされることになったであろう。いくつかの出だしの失敗の後、エチル社の科学者らは、”海”という答えを思いついた。海水は約 100万分の67の臭素を含む。1934年、巨大なプラントがノースカロライナ州のクレビーチにオープンした。そのプラントは毎日、数百万ガロン(訳注:1ガロン=4.546リットル)の海水を取り込み、その海水から臭素を抽出後、その廃水を海に放出した。 追加の抽出プラントが建設され、臭素の世界の生産は 1941年には 40,00トンに達し、その 90%は加鉛ガソリンに使用された。1970年までに世界の総生産は増大し、8倍の320,000トンに達した。しかし、そのツケは直ぐに回ってきた。 ■1960年代、大気浮遊の鉛は、科学的確実性が、数十年にわたり会社が金を出しているもっともらしい研究を覆したので、ますます緊急の公衆健康問題として見なされるようになった。1974年に米政府は、触媒コンバータ(訳注3)の使用を可能とするために、無鉛ガソリンを市場に出すことを求めた。これらは、大気浄化法 1970 の条件を満たすために本質的であり、車の排気系統に設置される触媒コンバータは、米環境保護庁によれば、窒素酸化物の排出を98%削減して、劇的に大気汚染を低減した。しかし落とし穴があった。触媒コンバータは、鉛が触媒を汚染するので、加鉛ガソリンの使用とは相いれなかった。その結果、加鉛ガソリンは立ち去らなければならなかった。 加鉛ガソリンは米国で販売されるガソリンの中で徐々に廃止され、最終的には1986年に禁止された。欧州連合も同様であったが、もっとゆっくりであり、禁止は 2000年に公式となり、同年にはインドとカナダでも禁止が発効した。他の諸国も追従したが、もっとゆっくりであった。2017年3月現在、国連環境計画は、3か国(アルジェリア、イエメン及びイラク)だけが、いまだに加鉛ガソリンの販売を許していると報告している。 加鉛ガソリンの廃止は加鉛ガソリンのメーカーに明白な問題をもたらした。彼らはどのようにして、うなるほどの利益を維持することができるのか? しかし GM は、そのような問題を何年も前から見越しており、その利益を守るための措置をとっていた。提携各社とともに、GM はエチル社との合弁事業を解消した。そのことでゴットワルト一族がこの物語に参入することとなる。 ![]() アメリカにおける企業の歴史の中で最も奇妙な経済界の動きのひとつとして、1962年にエチル社がその創業者である GM とスタンダードオイル・ニュージャージーによりアルベマール社に売却されたことが挙げられる。当時、エチル社はアルベマール社より 13倍大きい会社であり、2億ドル(約220億円)というその買収価格は、アルベマール社の年間利益より 100倍高かった。”それは、スパーマーケット・チェーンである A&P を買収する夫婦経営の雑貨店のようなものだ”と、スタンダードオイル・ニュージャージーの社長モンロウ・ジャクソン・ラスボーンは当時、驚きの声を上げた。その取引は、全くありそうにないことであったので、その記事がニューヨークタイムズの一面を飾り、ウォールストリートジャーナルに「ヨナが鯨を飲み込む」という見出しの記事(訳注:旧約聖書のひとつヨナ書/ウィキペディア:予言者ヨナが大きな魚に飲まれる話が有名)が掲載された。 この取引の内幕話は、エチル社の公式社史が数十年後に発表されるまで明らかにされず、その社史はゴットワルト一族が知らなかったかもしれない核心の詳細は省略していた。当時、エチル社の買収はウォールストリートがかつて見たことのない最大規模の企業買収(leveraged buyout)として位置づけられた。そして、エチル社の創業者側の並外れた密室のごり押しがあって、そのことは起きた。同社の公式社史は、GM とスタンダードオイル・ニュージャージーが、チェース銀行と一握りの主要保険会社に、ゴットワルト一族がエチル社を買収するために必要とした 2億ドル(約220億円)を同一族に貸し付けるよう強く圧力をかけたことを詳述している。公式社史によれば、ラスボーンは、彼の会社と GM が、”もし貸し付けがアルベマール社に対して行われれば、銀行は何も失わないであろうと実際に保証した”ことを認めた。 GM とそのパートナーは、なぜ、そのように急いでエチル社を激安特価で売り払うことを望んだのか? その答えは、公衆が知らなかった何らかの事情の中にあるのかもしれない。GM は自動車の大気汚染を緩和するための解決に向けて静かに活動していた。しかしそのことは、エチル社の売却 8年後の 1970年まで、すなわち GM 社長エド・コールが自動車産業は触媒コンバーターを導入することにより大気浄化法の基準を満たすことができると発表して、自動車産業界を驚かせた時まで、発表されなかった。要するに 1960年代中、すなわち 改正前の1963年の大気浄化法から1970年の改正法(マスキー法)まで、GM とその他の会社はこれらの基準を満たすであろう新たな技術に向けて積極的に活動していたが、厳しい汚染基準には声高に反対した。 GM が答えることを決して強制されることのなかった質問。なぜ排出規制と戦ったのか、そして秘密のこれらの年月の間、汚染基準の遅れの結果、どのくらい多くの人々が病気になり、又は殺されたのか。ネーション(The Nation)による質問に対して、GM、デュポン、エクソンモービル、ダウケミカル、及びアルベマール社の代理人は全て、コメントすることを拒否した。 いかなる場合でも、続いて起きる加鉛ガソリンの廃止はゴットワルト一族の問題−リスクとなった。彼らは GM とエチル社のその他の販売者がこのことを公にしなかったとして非難した。それでもエチル社の新しい社主らは、明白な道徳基準を持たず、如才ない一団であり、したがって彼らは、この苦境を彼らに有利な状況に変えるよう何とか処理した。最初に、エチル社は、土壌及び収穫後の作物に散布するための即効性農薬である燻蒸剤として二臭化エチレン(EDB)の販売を試みた。EDB は、菌類、げっ歯類、昆虫、及びその他の害虫を殺したが、それが市場に出されると直ぐに、その残留部物が朝食用シリアルとケーキの素の中で検出された。1981年までに EPA は、 EDB は”潜在的な変異原性物質であり、食物連鎖中から除去されるべき”と結論付けた。 EPA はまた EDB を、肝臓、胃、副腎、及び生殖系、特に精巣へのダメージに結びつけた。そして焼却されると EDB は地球のオゾン層破壊の主要な原因物質である臭化メチルを生成し、それはまた皮膚がんと呼吸器系障害を増大させる。 ゴットワルト一族は、時間がかかり、行き詰まりもあったが、最終的には利益を上げる解決を発見した。すなわち臭素系難燃剤である。これらの難燃剤は1950年代から使用されていたが、1970年代までは巨大な売れ筋製品にはならなかった。何が変わったのか? ■1970年代になると、増大しているといわれる住宅火災がアメリカでは注目を浴び始めた。そしてタバコが10分以上消えないようにするために化学物質を添加していたタバコ産業が指弾された。ベッドでタバコを吸っていて眠りこけ、気が付く前に、寝室は炎に包まれていたということがあった。そこで政府の規制官や議員らはタバコ製造者に火災を起こしにくいタバコを開発することを求め始めた。 タバコ産業は、より安全なタバコという考えを違う方向にそらせるのに時間をかけなかった。彼らは、シカゴトリビューン紙が2012年に受賞した調査報道(訳注2)の中で明らかにしたように、タバコ大手は公衆の関心をその製品(タバコ)から、発泡材含有の布[皮]張りの家具を含んで、燃焼するかもしれない家財のリスクにそらした。 注目すべきことには、カリフォルニア州がそれに同意したように見えた。1975年、州当局はある規則を制定したが、それは難燃剤製造者らにとっては思いがけな幸運であることが分かった。カリフォルニア家具燃焼性基準技術告示117(California Furniture Flammability Standard Technical Bulletin 117)として知られるその規則は、同州内で販売のために提供される全ての家具は裸火テストを通過しなくてはならない。すなわち布[皮]張り製品内部の発泡材はろうそく裸火に12秒以上耐えることが求められる。 エチル社はカリフォルニア州の規則に基づいて制定された難燃剤のための要求を満たすよう急いだ。前の10年間に車のシートべルトや大気汚染基準がそうであったように、他の州や諸外国もカリフォルニア州のアプローチを採用するであろうから、潜在的な市場は膨大である。難燃剤は、驚くほど多くの家庭用品中で使用されることとなり、それは家具だけでなく、じゅうたん、床材、寝具、赤ちゃん用品、コンピュータ、テレビ、そしてその他の電子機器、さらには車、船舶、及び航空機でも使用されるようになった。ガソリン中の鉛のように、難燃剤は、ずる賢い市場、戦略的な半真理(half-truths)、そして嘘の海を広がりつつ、広く普及するようになった。 しかし、善意に基づく遠大なカリフォルニア州の規制も科学的な根拠がないことが証明された。科学者らが米・消費者製品安全委員会とともに、一方は発泡材中に難燃剤を施し、他方は難燃剤の処理なしの二つの布張り椅子を炎にさらしたところ、両方の椅子は 4分以内に丸焼けになった。”我々は発泡材中の難燃剤がどのような顕著な保護をももたらさないことを発見した”とそのテストに立ち会った同委員会の担当官デール・レイは述べた。 しかし、そのような調査はカリフォルニア州の規制が発効して数十年後に実施された。一方、アルベマール社とその関連製造会社は、難燃剤は火災に関連する全てのことを除去するために必要であると公衆、言論界、そして政府当局を説得するために、タバコ産業と結託した。この宣伝キャンペーンは、不名誉殿堂(Hall of Shame)顧客リストを誇る広告代理店の巨人、バーソン・マーステラ社によって支援された。同社の顧客リストの中には、タバコ仕切り人(tobacco barons)のみならず、ユニオンカーバイド(15,000人が殺されたインドのボパールのガス漏洩事故の後);スリーマイル島原子力発電所事故に責任ある会社;そして1970年代後半のアルゼンチンの”汚い戦争(Dirty War)”を行った軍事政権が含まれる。バーソン・マーステラ社の創業者ハロルド・バーソンは 2008年に、”我々は困難な状況から会社を救うビジネスをしている”と述べた。 1997年、難燃剤製造者らによって雇われて、バーソン・マーステラ社は、科学と環境よりアメリカの臭化メチルの禁止を弱めることに関心のあるひとつのグループ、臭素科学・環境フォーラム(BSEF)の設立を推進した。臭化メチル作業グループや臭化メチル世界連盟のような産業団体とともに、同フォーラムは州および連邦の議員に働きかけ、オゾン層を修復するための国際社会の取り組みであるモントリオール議定書と戦った。 ”バーソン・マーステラ社は、難燃剤は製造者らが自動車分野を含む広い範囲の応用分野で使用されている物質の耐着火性を高めることを可能にすると臭素産業が主張するのを支援してきた”とバーソン・マーステラ社の代理人がネーション(The Nation)に伝えた。 元タバコ産業の重役ピーター・ スパーバーは、難燃剤の家具への適用を義務化する連邦規則を提案するために、全50州の首席消防官を代表する国家州消防保安官協会から人を採用した。スパーバーは、消防保安官の代理人として、米・消費者製品安全委員会との会議に長年にわたって参加し、時には、家具の内部の発泡剤は難燃処理をすべき”個体ガソリン”であるという、科学的にいんちきな主張を提案した。消防保安官らは、スパーバーがタバコ産業により設立されたタバコ研究所に会議参加の対価として時間当たり 200ドル(約22,000円)を請求していたことは知らなかったと主張した。 バーソン・マーステラ社は、同様に難燃剤製造者らから資金を得ている欧州消費者火災安全連盟の運営を支援した。同連盟の表看板は、ロバート・グラハムという名前のイギリス人消防士であり、ひどく神経質な人間で、彼の戦術には主張を通すために欧州議会の外で家具に火をつけることも含まれていた。現在は削除されているが、同連盟のウェブサイトは、国を選択してソファーが燃えているのを見られることを含んで、可燃性の消費者製品の恐ろしい物語を使って会員の勧誘をしていた。 加鉛ガソリンと同じように、難燃剤の製造者らは彼らの製品が安全ではないということを早くから知っていた。1977年、カリフォルニア大学バークレー校の二人の化学者、アーレン・ブルムとブルース・アメスは、サイエンス(Science)誌に彼らの呪いを次のように簡潔に述べた副題を付けて、ひとつの報告書を発表した。”子どものパジャマに含まれる主な難燃剤には変異原性があり、したがって使うべきではない”。著者らは、今日第一線の難燃剤であるりん酸トリス(2,3-ジブロモプロピル)、別名トリス-BP は、動物テストで不妊を引き起こす発がん性物質らしいと説明した。化学的”鉛回収者”である EDB と驚くほど似ている化学的組成をもつトリス-BP は不穏な健康影響を及ぼすことは疑いの余地がない。 ブルムとアメスは、さらにトリス-BP は洗濯排水から必然的に生態系に入り込むことを観察した。トリス-BP で処理され、30ガロンの水で洗濯された 6枚の敷布は洗濯水中にその有毒物質を 6ppm 出したが、金魚を殺すのにはたったの 1ppm で十分であった。他の全ての難燃剤と同様にトリス-BP は、同剤で処理された繊維を身に着ける人の体に容易にしみ込むことがわかった。”我々は、トリス-BP 処理されたパジャマを着たことがない子どもは一人もいなかったことを発見した”とブルムはインタビューの中で回想した。”我々は子どもに一晩、トリス-BP 処理されたパジャマを着てもらったところ、我々は、トリス-BP の分解物質を彼女の尿中に発見した”。それは容易に検出され、”極めて変異原性である”と、ブルムは付け加えた。 ブルムとアメスの論文が発表されてから 3か月後、米・消費者製品安全委員会は、子どもの衣類中の臭素化トリスを禁止した。しかし、その後の40年間のお膳立てに対応して、難燃剤製造者らは簡単に関連製品を市場に出した。塩素化トリスである。たとえ、塩素化トリスもまた発がん性物質であると知られていようと。 ![]() 化学物質のさらなるモグラたたきで、 EDB が1984年に禁止されたときに、世界のフッ素メーカーはテトラブロモビスフェノール A (TBBPA)として知られる代替物質のまわりに駆け寄った。 TBBPA が最も広く使用された応用分野は、アジア経済の成長と電子製品の急速な陳腐化のおかげで、劇的に市場が拡大した電子機器の難燃剤であった。 現在、TBBPA は世界で最も製造されているフッ素系難燃剤であり、毎年数百万ポンド(数百トン)が販売されている。全ての難燃剤と同様に TBBPA はいずれ、それが使用されるどこからでも漏洩して、ペット、家畜、野生生物、植物、水路、そして川はもちろん、家庭、事務所、そして人々の体に入り込むであろう。いったん人間の体内に入り込むと、それは、がん、突然変異、学習障害、行動障害、不妊問題、そして低知能指数を引き起こす可能性がある。国家毒性計画による2014年のある研究は、 TBBPA メスラットに子宮がんを、オスマウスに肝臓がんを引き起こすことを発見した。 この不快な健康ニュースのどれもゴットワルト一族を悩ませているようには見えなかった。汚染を厭わない固い意志は当初からアルベマール社の戦略の中核をなすものであった。一族支配によるアルベマール社の経営は、同社が生息している化学物質ビジネスの汚い面を見てあとずさりするであろう外部の人々からの非難から彼らを保護しつつ、実際にゴットワルト一族の財政的成功の秘訣であるように見える。 フォーブス誌は最近、ゴットワルト一族の純資産を 31億ドル(約3,400億円)と見積もったが、彼らの富の繁栄も最初は全く質素なものであった。1918年に若いフロイド D. ゴットワルトは、バージニア州リッチモンドにある小さなアルベマール製紙会社で事務員の職を得た。フロイドは昇進して1941年には社長になり、第二次世界大戦後その事業を買収した。 ゴットワルトはエチル社の社長(CEO)を1968年まで務め、1982年に死去するまで役員会のメンバーにとどまった。彼の息子フロイド Jr.は1968年後にエチル社を運営し、同社の持ち株が増え、認知されるようになるとともに、しばしば、CEO、議長、社長などの肩書を一族の親類縁者と交換した。フロイド Jr.の兄弟ブルースもまた CEO を務めた。現在ブルースの個人資産は 5億8,000万ドル(約640億円)と見積もられており、ロイド Jr.の資産もそれに近い。 ゴットワルト一族は州および全米の共和党への献金常連者である。ゴットワルト一族は、ドナルド・トランプの大統領選キャンペーンのための募金委員会に対するものを含めて、過去10年間に、合わせて 100万ドル以上を共和党(GOP)に献金した。このことの全てが、2017年にトランプ支配下の EPA が TBBPA の更なるテストの実施をなぜ拒否したかを説明するのに役立つかもしれない。 ゴットワルト一族への質問に対するアルベマール社報道室による回答はなかった。 ■そのうちに、科学的研究が次々と難燃化学物質は発がん性と変異原性があることを発見したので、カリフォルニア州当局はそのやり方の間違いに気づき、それらの使用を制限することを模索し始めた。難燃剤の拡散を引き起こした TB 117 を更新するために 2007年から2012年の間に 4つの法案がカリフォルニア州議会に出された。 4つの法案全ては、厳しい規制に抵抗するためにロビーイングとキャンペーンのための資金として2,300万ドル(約25億円)を使った化学産業界の圧力もあり、否決された。「火災安全のための市民(Citizens for Fire Safety)」 のような人を欺く偽装団体が加わったが、そのことはシカゴトリビューン紙による2012年の調査で明らかにされた。アルベマール社及びその他の難燃剤製造者らにより設立された同グループは、”我が国が最高の火災安全基準により保護されることを確実にするために結集された、火災専門家、教育者、地域活動家、火傷センター、医師、消防局、及び産業指導者の連合体”であると自身のことを述べた。しかし同グループの資金は3つの異なる化学会社により拠出されていた。 カリフォルニア州法案をつぶすために、「火災安全のための市民」 は様々な不正な戦術のために数千万ドル(数十億円)を費やした。例えば同グループは、火傷患者について嘘の証言をし、難燃剤の効果について議員に誤解を与えた火傷外科医に金を払っていた。(彼は後に医師免許を没収された。)同グループはまた、連邦機関、国際消防士協会、及びアメリカ火傷協会と活動を共にしていると偽って主張したが、それらの全ては 「火災安全のための市民」 との関係を否定した。そして最後の逃げ場を求めて同グループは、もし難燃剤が家財から除去されるようなことになれば、貧しい子どもたちが最も被害を受けるというインチキの社会正義の主張を展開した。同グループは、”子どもの命を救うことに投票しなければならなかったのに、しなかった人がいるという状況の中で、炎上している建物の中で助けを求めて泣き叫び、死んでいく子どものことを想像してほしい”と、カリフォルニア州議会議員らに訴える 10歳の少年を含んで、公聴会で偽りの主張を繰り返すための証人を喚問した。 しかし、シカゴトリビューン紙による産業側のごまかしの暴露は影響力があった。その発表の後すぐに、アルベマール社とその他の難燃剤製造者らは、「火災安全のための市民」 への資金援助をやめると発表した。産業側のためのロビーイング活動は現在、アメリカ化学工業協会が新たに設立した北アメリカ難燃剤連盟によって引き継がれた。難燃剤産業は禁止された製品を、新たな名前とわずかに異なる化学的特性をもつ化学物質で模様替えをし、そのロビーイング活動に新たな塗料を塗りたくり、規制に抵抗する活動を復活した。 それにもかかわらず、カリフォルニア州議会は2013年に TB 117 を微妙に、しかし重要な点を変更して採択した。今回、内部の発泡材よりも、むしろ家具の表面を覆う材料により、火災を防ぐことを求められた。産業側を残念がらせたことには、この新たな基準は、難燃剤よりむしろ、皮革、羊毛、又は合成織物などのくすぶり耐性材料(smolder-resistant materials)の方に適している。そして2015年に、難燃剤を含む家具はそのように表示することを求める新たなラベル表示法がカリフォルニア州で発効した。 しかし悲しいかな、これらの変更のどれも難燃剤使用の終わりを意味しなかった。他の州が難燃剤によって引き起こされる危険性に気づき始めたので、アメリカ化学工業協会は再び、州議会へ戦いをしかけつつ、介入を始めた。2010年の税金還付で同協会はアメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)に、”同協会は 44州で化学物質及びプラスチックを扱う300以上の欠陥法案、その多くは難燃剤に関連する法案、の成立を阻止し、修正し、又は延期させるのに尽力した”と述べた。 ピュー慈善信託によれば、産業側の最善の努力にもかかわらず、今年の3月現在、16の州がある種の難燃剤を禁止するための立法を積極的に検討している。しばしば州政府は、連邦政府レベルの規制が欠如していることによって動機づけられてきた。衝撃的な事実:EPA はアメリカで製造又は処理されてきた概略 85,000 の化学物質のデータベースを保持しているが、そのうち 300以下の化学物質しか有害物質規制法(TSCA)の下における厳格なテスト対象になっておらず、(PCB類を含んで)わずか5物質しか禁止されていない。重要なことに、まだ決定していない州法案のあるものは、法律が制限している難燃剤の代わりに製造者が他の有害化学物質で代替することを禁止するであろう。”あなたはその難燃剤が好きでない? それならこれを試しなさい!” というような、産業側の手口の真髄を叩くこのような法案は、これらの会社によって特にののしられた。 実際に、州の強い規制が、2016年に議会によって採択された連邦化学物質規制の主要な見直しを、化学産業が支持するという結果をもたらした可能性があった。 21世紀に向けた化学物質安全フランク R. ローテンバーグ法 (訳注5)は、一般的に産業側と環境・公衆健康側との間の妥協であると考えられている。後者(環境・公衆健康側)は、その法が初めて EPA に、経済的コストと便益を考慮することなく、健康影響だけに基づいて化学物質を規制する権限を与えたという事実を評価した。(EPA の以前の アスベスト禁止は、EPA が禁止により産業に発生するコストを比較検討しなかったという理由で、裁判所により否決されており、効果が弱められた。)健康及び環境活動家らはまた、同法が今までにテストが実施されていない多くの化学物質の安全性の見直しを義務付け、新規及び既存の化学物質のテストを求める EPA の能力を拡大したという事実を評価した。 それにもかかわらず、アメリカ化学工業協会はその法案成立のために精力的にロビー活動を行ったが、その理由は多分、その法案は州政府が化学物質を規制する彼ら自身の法律を制定する能力を制限するからであろう。もし EPA がある化学物質が安全であると決定すれば、その決定は、そうではないと主張する州政府の能力を無効にする。たとえある州がある化学物質は州の住民又は州の水路を害するという明確な証拠を集めても、州は EPA 又は議会が行動を起こすのを待たなくてはならないであろう。化学産業の商行為に対するそのような連邦政府の干渉の可能性は、ほんのわずかであることを歴史が教えている。教訓:企業と金持ちが無制限に追跡不能な金を選挙キャンペーンに使うことができるシチズンズ・ユナイテッド裁判(訳注6)後の環境下では、50の州議会を買収するよりひとつの米国議会を買収する方が容易である。 ■産業側は、彼らの製品の全ては安全で効果的であると欺瞞し続けているので、2018年には難燃剤はかつてなくまん延している。そのウェブサイトでアメリカ化学工業協会は、 EPA は 48 種以上の安全な難燃剤を特定していると自慢しているが、現在広範囲に使用されているものの多くは EPAのリスト上で特集されていないということには言及していない。古めかしい脅し作戦もまた拡散し続けている。”アメリカでは消防局が 23秒毎に1件の火災に対応している”と同協会は不気味に警告している。しかしこの事実は、皮肉にも難燃剤には効果がないことを示している。実際に消防局が対応する火災のほとんどは、当然のこととして難燃剤で防止できなかった火災である。 ”臭素系難燃剤の誤解の背景にある事実” の中で産業側はその fog machine(煙霧機)の回転数をもう一度上げた。臭素科学環境フォーラム( Bromine Science and Environmental Forum)のウェブサイト上で特集されたこのあいまいな文書は、全ての難燃剤が人々に良かったわけではないことを礼儀正しく渋々認め、しかし、”ひとつの難燃剤が同族全体を代表するわけではなく、物質のひとつの小さなグループ又はサブグループから化学物質の同族全体を特徴付けることは非常に難しいことを読者に納得させようとしている”。 産業側は新しいより安全な材料を探し続けていると思われ、嫌われている製品に環境的な響きのある名前を付け直すことにより、環境意識を取り入れているふりをして、彼らの詐欺商法に磨きをかけている。かくして2016年に、アルベマール社は HBCD 難燃剤の使用をやめ、もっと持続可能性のあるといわれるグリーン・クレスト(緑のたてがみ? 峰?)と名付けられた製品を選択した。因みにゴットワルト一族が支配するもう一つの会社であるアフトンケミカルは彼らのガソリン添加剤のひとつを”グリーン・バーン(緑の燃焼?)”と呼んでいる。 アルベマール社はまた、輸出を促進している。同社は昨年の四半期報告書の中で熱狂的に、”我々は、生活の世界標準の改善、広範なディジタル化、データ管理能力の需要増大、及び途上国市場における増大する厳しい火災安全規制の可能性は、火災安全製品の継続する需要を活発にするであろうと信じ続ける”と述べている。難燃剤に対する世界の需要は、1983年の5億2,600万ポンド(約24万トン)から2009年の34億ポンド(約154万トン)、そして 2022年までに最大70億ポンド(約318万トン)の予想と、うなぎ上りに上昇している。市場分析家は世界の販売額は2015年には約60億ドル(約6,600億円)、2020年までに100億ドル(約1兆1,000億円」に達するであろうと予測している。 魅惑的な名前を付けられたグリーン・クレストやセイテックスのような製品が市場に出現して、難燃剤の製造者らは、病気と死をあらゆる段階で広げながら前進している。それはゴットワルト一族からあなたへの、あなた方全てへの、贈り物である。 訳注1:加鉛ガソリン 訳注2:シカゴ・トリビューン報道
訳注4:TBBPA
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