エンバイロンメンタル・ディフェンス・ファンド(EDF) 2013年6月5日
TSCA 改革法案の現実性をチェック
リチャード・デニソン(EDF 上席科学者)


情報源:Environmental Defense Fund, June 5, 2013
Reality check on TSCA reform legislation
By Richard Denison
http://blogs.edf.org/health/2013/06/05/reality-check-on-tsca-reform-legislation/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年12月27日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/ed/130605_edf_reality_check_TSCA_reform.html

[注:この記事の原稿は、上院議員ローテンバーグの逝去という月曜日(2013年6月3日)の悲しいニュースの前に大部分が書かれていた。私は、それを今投稿することを決心した。その理由は、たとえ難しい政治的状況にあっても有害物質規制法の意味のある改革を推進しようという彼の不動の決心に敬意を表するためであり、またこの新たな法案の導入を支持するというEDFの立場を明確にし、さらに精査するためである。]

 故ローテンバーグ上院議員(民主/ニュージャージー州)と、ビター上院議員(共和党/ルイジアナ州)及び19人の上院議員により共同提案された民主・共和両党連携による2013年化学物質安全改善法(S. 1009)の5月22日の上院への上程以来、利害関係者らは、強い支持から正当性がないとする非難まで様々な反応を示した。

 後者には、上院議員ローテンバーグの以前の提案である安全化学物質法(SCA)にあった条項が”消えてしまった”又は”どこかに行ってしまった”ことについて嘆き悲しみ、それらを全てリストするも者いる。それらの提案は、過去に5回、2005年までさかのぼってずっと議会に様々な形で導入されてきた(訳注1)。EDFと個人的に私は、それらの法案に密接に関与し、それらが議会を通過するよう努力した。

 しかし2013年の現在、我々はいくつかの厳しい事実を直視する必要がある。最大限の努力にもかかわらずいままでは、その立法には議会の共和党議員のひとりからの支持も得ることはできなかった。党の方針に沿った厳格な投票に基づく上院委員会の承認以上のものを得ることはできなかった。そのことは、決して持つことがなかったものを失うことはできないという単純な理由のために、現在の二党派立法から”失われているもの”について話をするベースはないことを意味する。

 この新しい法案をすぐに咎め(”化学産業界が支持するなら、それは悪法に違いない”)、以前の安全化学物質物質法(SCA)に努力を向けていないという理由で、すぐに非難するこれらの利害関係者はまた、何が立法の真の試金石であるべきかを問わずに急いで通りすぎていく。どのようにしてそれを現状の1976年有害物質規制法(TSCA)と比較するのか?

 New Jersey Star-Ledger は先週末の社説で次のように述べている:
 
 過去17年間で初めて、議会は重要な環境法を通過させる真のチャンスを得た。・・・これは我々が支持する価値のある画期的な法案である。その欠陥は修正され、以前には決して存在しなかった改革への道を開いた。前述のとおり、この妥協は現状を越える実体のある改善である(強調は筆者)。

 妥協に失敗すれば、EPAはその仕事をするための権限を得ることができず、一握りの州だけが重大な国家の問題を解決しようと試みるだけということになる。

 この法案は明らかに妥協であり、TSCAの核となる条項の修正に焦点を合わせることにより部分的に一撃を加えるものである。そのことは、私が強く支持した、現行法の範囲とアプローチを拡大することになるであろう多くの条項を含めていないことを意味する。例えば、住民が不公平に高い化学物質曝露に直面している”ホットスポット”に対応する、また我々がすでに有害であると知っているいわゆるPBTs(残留性・生物蓄積性・有毒性化学物質)のような化学物質への暴露を速やかに低減することを求めることに対応する権限をEPAに与えることである。もしこれらが法案に含まれないなら、これらの重要な目的を達成する他の方法を見つける必要がある。

 そしてその狭い範囲の中にも、この法案は立法プロセスの過程で対応する必要があり、またそれが可能であるような欠陥がある。化学物質リスクのレビューとそれへの行動のための、もっと予測可能で説明可能なプロセスが必要であり、州の権限のどのような先取りも、かなり、そしてEPAが化学物質に対して最終措置をとらなければ州が行動する権利を有するするというような方法で、州の権限が狭められるべきである。

 しかし、新たな法案について注目すべきこと、そして中傷する人々に無視されることは、繰り返し専門家により指摘されてきたTSCAの主要な欠陥にどのようにして直接的に対応するかということである。私は、これらの問題点(TSCA 法)/変更点(CSIA 法案)及びそのトレードオフを特定するside-by-side リストを添付する。主要な点を以下に示す。

■既に市場にある全ての化学物質についての安全性のレビューを義務付けること
 TSCAが1976年に通過したときに、既に市場に出ていた約62,000種の化学物質について適用を免除(grandfathered)し、EPAに対してはその安全性のレビューを義務付けることをしなかった。当然の結果として、それらの化学物質の大部分に関して安全データがないことは、それらの化学物質にリスクがないことと同等であるとした。

 化学物質安全改善法(CSIA)はまず最初にEPAに対して実際に市場に出ている全ての化学物質の安全性をレビューすることを求めるであろう。そして、安全データの欠如を優先度の高い化学物質として指定し、そのことがその化学物質のテストの実施と公式の安全評価の実施を求めるEPAの権限のきっかけとなる。

■TSCAの”不合理なリスク”基準を修正すること
 TSCAの”不合理なリスク(unreasonable risk)”(訳注2)コスト・ベネフィット基準は二つの主要理由により失敗している。第一に、二つの別の決定であるべきものが不明確である。すなわち、ある化学物質が著しいリスクを持つかどうかに関する科学に基づく決定;そのようなリスクが見つかった時にそれらにどのように対応するかに関するリスク管理の決定。第二に、TSCAは、提案するどのような行動も全ての可能性ある選択肢の中で”最小の負担”であることを証明することをEPAに要求するので、EPAは分析麻痺症候群(paralysis-by-analysis)に陥っている。

 化学物質安全改善法(CSIA)は、この二つの問題を解決するであろう。CSIA は”不合理なリスク”基準を”人の健康と環境に対するリスクの考慮だけに基づく”と表現を修正する。コストとベネフィットの考慮は別のリスク管理の段階に格下げする。そしてそれは”最小の負担”条項による分析麻痺症候群に一撃を加える。

■新規化学物質については、上市される前に断定的な安全決定を求めること
 TSCAの下では、新規化学物質は簡単な上市前レビューを受けるだけであり、上市前に断定的な安全決定は求められない。そしてそのレビューで、懸念を見つける義務はEPAにあり、安全データが求められていないときに、上市を止める、遅らせる、又は制限するために、懸念を見つけることは難しい。

 化学物質安全改善法(CSIA)は初めて、新規化学物質の上市のための条件としてEPAに安全であるらしいという断定的な発見をすることを求めるであろう。EPAは新規化学物質の安全テストの実施を会社に直接的に求めることはできないが、必要とするデータが提出されるまでそのレビューを延期する、又はそのようなデータがない場合には安全らしいという必須の保証を提供することを求める条件を課すことができる。

■指令を発行することにより、EPAがテストの実施を求めることを許すこと
 TSCAの下では、EPAは会社に対して製造する又は使用する化学物質の安全テスト実施することを求めるために、規則を公布しなくてはならない。このプロセスは、手間かかり(資源集約的で)長い年月を要する。さらに、テストの実施を求めるために、EPAは潜在的なリスク又は高曝露を示さなくてはならない。EPAはそのような発見をするために必要なデータを得るために、テストが必要となるだろう。これは Catch-22(ジレンマ)である(訳注3)。

 化学物質安全改善法(CSIA)は、EPAがテスト獅子の指令を発行する権限を与える。指令を用いることは厄介な規則作成プロセスとそれに引き続く訴訟を回避する。さらに、EPAはなぜ規則(rule)や同意協定(consent agreement)ではなく、指令(order)を使用するのかについての正当性を説明しなくてはならない。

 妥協法案に予期されるように、これらの条項のそれぞれはまた、欠点を持っている(それらのあるものはもっと詳細な side-by-side リスト">の中で言及されている)。しかし、TSCAの下におけるEPAの活動と権限のそれぞれの領域で、この新たな法案は現在のものよりはるかに良いということは疑いない。

 そのことがEDFがこの法案の導入を支持する理由であり、その改善と議会通過に向けて取り組むであろう。そのことが私を原点に連れ戻す。すなわち、以前の安全化学物質法(SCA)とは対照的に、この法案への二党派の強い支持は、この方眼が実際に法として制定され得ることを意味する。

 そのことが、40年近くの間にTSCAの下における不作為がもたらしたダメージを元に戻すという巨大な仕事にEPAを着手させるであろう。


訳注1
S. 1391 (109th): Child, Worker, and Consumer-Safe Chemicals Act of 2005
2005年7月13日米上院提出 米子ども安全化学物質法案 子ども、労働者、及び消費者の有害物質への曝露を低減するための有害物質規制法(TSCA)を修正する法案

S. 3040 (110th): Kid-Safe Chemicals Act of 2008

S. 3209: Safe Chemicals Act of 2010

S. 847 (112th): Safe Chemicals Act of 2011

S. 696: Safe Chemicals Act of 2013

訳注2:不合理なリスク
米会計検査院(GAO)報告書 2005年6月 化学物質規制 健康リスクを評価し、化学物質検証プログラムを管理するためのEPAの能力を改善する選択肢がある

EPAは日常的には全ての既存化学物質のリスクを評価しておらず、EPAは評価するために必要な情報を入手することの困難さに直面している。これに関し、化学物質が、(1) 健康又は環境に損傷を及ぼす不合理なリスクを有することを示す、又は (2) 大量に製造されて、かつ (a) その化学物質への著しい又は重大な人間の暴露がある、又は (b) 大量に環境中に排出される−場合にのみ、TSCAはEPAが化学会社にテストデータを要求する権限を与えている。
EPAはTSCAの下で製造又は使用を規制するためには当該化学物質が不合理なリスクを及ぼすということを立証しなくてはならない。一方、EPA担当官によれば、TSCAはどのようなリスクが不合理(unreasonable)なのかということについて定義しておらず、その基準を設定すること困難である。法的精査に耐えるためには、確固とした証拠によって支えられなくてはならない。

訳注3:catch-22
 ジョーゼフ・ヘラーが1961年に発表した小説。原題は "CATCH-22"。堂々巡りの状況での戦争を、混乱した時間軸のなか幻想ともユーモアともつかない独特の筆致で描いた戦記風の物語。狂気の戦争、戦争の狂気を描いた、現代文学の代表的な作品のひとつである。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%83%E3%83%81=22

訳注:関連記事
公共の健全性センター(CPI)2013年6月7日 ローテンバーグ化学物質法案  懐疑を呼び起こす

Law360 2012年1月19日 2012年 TSCA改訂とEPAの取り組みの予測





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