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 朝起きたら左目がウルウルしている。ティッシュで押さえてもじわっと潤んでくる。起き上がって瞼を抑えると痛い。これはどうしたことかと洗面所に立ち、見れば、瞼も少し腫れて開きにくく、充血している。
 思えば、我が母方は眼疾が出る家系で、若かった頃親戚が一堂に会した際、一座の主だった人がほとんど分厚い眼鏡をかけるか、手をひかれねば歩けないという様子だったことを覚えている。私の妹も小さい頃から眼鏡が必要だった。
 その中で、なぜか私一人だけはいたって視力がよく、年を取るまで眼鏡のお世話になることもなかった。自然、眼をいたわる気持ちもなおざりになってしまっていた。
 退職間際に「緑内障」の診断を受けてからは、定期的に眼科に通っている。
 いまさらながら、眼を大事にしなくてはと気にかけて生活しているけれど、どうやら怠慢の付けが回ってきたらしく、痒かったり痛かったりはたまた腫れたり……このところ憂鬱なことが続いている。
 三年ほど前、目の周りが赤く腫れて、眼球が痛痒かったとき、まず皮膚科に行ってみた。すると、見せられた写真と症状がそっくりだったので、
「これです、朝、こういう状態でした」と訴えたら、「花粉症ですね」と診断され飲み薬と塗り薬を処方された。そして、念のために眼科で目薬の影響はないか聞いてみてくれと言われた。
 翌日、眼科を受診して皮膚科の診断について話すと、「緑内障の症状は落ち着いているし、目薬は続けないといけない」とのことである。
 あの、だから、こちらに来る前、大きい病院にかかっていた時に使っていた目薬も症状は落ち着いていたし、痛い痒いとなったこともなかったから、そちらに変えてもらうことはできませんか、と言ってみたら、「うちはその目薬使っていない」と一言で却下された。薬の業界との取引は、患者の「お願い」よりも優先される世界なのだとその時知った。
 眼科医(新規患者の受付は順番待ちと言われる、近隣で評判の高い眼科である。私は知らなかったけど、この眼科に行っていると言ったら、隣の奥さんが、羨ましそうに教えてくれた。)は、「皮膚科で花粉症と言われたのなら、そちらで薬を出してもらうといいですね」と言う。
 「花粉症」か、とうとう私も文明人になったな~。ありがたくないけれど、一応、何でアレルギーがでるのだろうか、知っておかなければいけない。
 そう思った私は、次に皮膚科に行ったとき医師にアレルゲンの検査をお願いしてみた。その時の先生の返事はこうである。
「そんなの調べてみても症状出ることは変わらないし、いらないと思う、検査高いし」
 というわけで、世の中、スギとかヒノキとかイネとか、はたまたハウスダストとか言っている話の輪にも加われない。
 皮膚科の先生の言いようも私は理解する。症状が出ている。それに対する薬は一定の効果を出している。高額な費用を出して調べても結果が疾患を抑えるわけではない。
 でも、原因物質に興味津々の私は別の機会に行った耳鼻科で検査をしてもらうことにした。7000円くらいかかった。出た結果は、びっくり仰天だった。
「検査した13項目のアレルゲン、どれも全く検知しませんでしたよ」 きれいに0.10未満の文字が並んだ紙をもらって、私は帰ってきた。
 私の眼の周りのコレは一体何なのだ? コレには誰も何も答えてくれない。
そして、今、私は眼が痛い。また件の眼科で調べてもらったら、なんと、黒目の部分がえぐれている、とか。
そんなわけで、今は炎症に対応する目薬を数種類差して養生している。
いやはや……。  (さ)