落ち葉があふれだす
夕景の片隅で
やせた猫がうずくまってる
差し出したミルクも
飲めないほどに弱っている
実験用の二十日鼠を
ひねり殺した
腹を割って
内臓を取り出した指で
猫を抱いた

英雄ではないから
夕景の片隅で
可哀想にと呟いて過ぎる
他人達の一群に紛れ込むこともできる
死んだ猫は
臭いだろうな
死んだ人は
腐る前に焼いてしまう
社会である
その症候群である
日常生活のさりげない殺意を自覚する
つまり
屍肉をあさるハイエナの実直さで
嗅覚へ傾斜する
漂ってくる肉の焼けるにおいに
空腹を刺激されながら
焦げてゆく肉の痛みを
絶えて
想像することができない

地図帳を開けば
アフリカの草原では
たてがみも抜け落ちた
老いたライオンが
のっそりと立ち上がる
愛撫にも似た文明の風の果ての
血痕のような落日である

 


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市島 睦子さん 宇宿 一成さん 白石 かずこさん
上手 宰さん 小日向みちぞうさん

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