歯周補綴の考え方

長期的な臨床観察1

成功症例の報告

 1970年代に、NymanやLindheは進行した歯周疾患の治療後に、Anteの法則には従っていない広範囲なブリッジを評価しました。その一覧を下記に示します。

研究者 被験者数 観察期間 内容
Nymanら
(1975)
20名
(27-69歳)
2-6年 歯周組織が著しく減少し、過度の動揺を示す支台歯であったとしても、適切な歯周治療が行なわれ、咬頭嵌合位での安定した咬合が確立されているならば、ブリッジの安定は得られる。
ブリッジが動揺するリスクとしては、不安定な下顎運動、バランシング・コンタクト、傾斜、増加しつつある動揺(increasing tooth mobility)が挙げられる。
Lundgrenら
(1975)
18名
(28-71歳)
2-5年 アンケート調査から、ほとんどの患者がブリッジの機能に満足していた。
歯周組織の喪失がみられたとしても、天然歯と相当する咬合力が得られた。
NymanとLindhe
(1976)
1名
(64歳)
6年 臼歯部にブリッジを行なうも、クロスアーチでスプリントせずに評価。
増加した(increased)動揺が認められたとしても、安定した状態を維持していた。
動揺が進行しているのか(increasing)、停止したのか(increased)をすぐに判断することは難しいため、少なくとも6ヵ月はプロビジョナルで経過観察することを提唱している。
NymanとLindhe
(1976)
1名
(44歳)
5年 上顎に残存した8単根歯(臼歯部はトリセクション)を支台とするクロスアーチ・ブリッジを評価。
安定した状態を維持していた。increasingとincreasedの違いを強調。
NymanとLindhe
(1977)
1名
(55歳)
5年 下顎に残存した5歯を支台とするクロスアーチ・ブリッジを評価。
遠心の支台歯が不足することによるブリッジの過度な動揺(前方への傾斜)を防ぐ方法として、カンチレバー(延長)ポンティックを臼歯部に配置し、咬合のバランスをとることを提唱している。

 これらの観察から以下の概念が得られました。

1. Anteの法則には従っていなくても、適切な歯周治療を行い、良好な口腔清掃が確立されていれば、ブリッジは有効な処置法である。
2. Increased tooth mobilityは歯周組織を破壊しない。Increasing tooth mobilityは歯周組織を破壊する。 6ヵ月間プロビジョナル・レストレーションで観察を行い、動揺が増加していかないことを確認してから、ブリッジを装着する。
3. 動揺歯をスプリントする意味は、単独で機能できない歯を咬合に参加させるためであり、炎症を除去するためではない。

 この時代には、現在行なわれているタイプのインプラントはまだ登場しておらず、いかに歯周病を治療した歯を機能させるかに焦点が当てられていました。

 

失敗したブリッジの評価

 全てのブリッジが成功したわけではなく、中には失敗であったものもありました。

 NymanとLindhe(1979)は歯周病治療後にブリッジ治療を行なった群と行なわなかった群を比較し、5-8年でPlIGIプロービングデプスやアタッチメントレベル、歯槽骨の高さに統計学的な差は認められないことを報告しました。追加の研究として、ブリッジの技術的な失敗についても評価しています。

支台歯からのクラウン
の維持喪失
ブリッジの破折 支台歯の破折
3.3% 2.1% 2.4%

 ブリッジを行なった群はサブグループに分けられ、クロスアーチブリッジでカンチレバーポンティックのないもの(n=139)、クロスアーチブリッ ジで片側あるいは両側のカンチレバーポンティックのあるもの(n=159)、片側(右側ないしは左側のみ)のカンチレバーブリッジ(n=34)に分けられ ました。失敗をサブグループでみていきます。


(NymanとLindhe 1979より改変)

 失敗数は少ないものの、カンチレバーを有するクロスアーチブリッジで支台歯の破折が多くみられます。破折した全8歯のうち、6歯が失活歯でした。

 

 Randowら(1986)は112 名の歯科医師が行なった316ブリッジについてアンケート方式で6-7年後の状態を調査しました。非カンチレバーブリッジ(n=98)、1歯分のカンチレ バー(n=93)、2歯分のカンチレバー(n=83)での比較です。除外されたデータがあるため、足しても316にはなりません。Nymanらの研究と比 較して、技術的な失敗が多く認められ、う蝕(虫歯)や歯内(根の病気)の問題も多いことがわかります。


(Randowら1986より改変)

 最後方の支台歯にみられたブリッジの破折や維持の喪失といった技術的な失敗を生活歯(神経が生きている歯)と失活歯(神経が死んでいる歯)にわけてみると、失活歯かつカンチレバーのユニット数が多いことが関係していることがわかります。


(Randowら1986より改変)

 また、技術的な失敗は経年的に増加し、カンチレバーのユニット数が多いほど失敗率が高くなっていきます。


(Randowら1986より改変)

 

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最終更新2013.1.10