ツールドニッポン2002実戦編

 

5月3日 清見〜高知(713.31km)

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エマージェンシー地図より

(クリックすると大きく表示されます)

 

ラリーの朝は早い。

今日は、5時に目が覚めた。

3日間も風呂に入っていなかったので、さすがに気持ちが悪い。

たまらずキャンプ場のシャワーを浴びる。あー、すっきりした。

今日は、今回のラリーで、一番の長距離を走る。

マキシマムタイムも、なんと23時間。

今日の朝7時に出発して、明日の朝6時までにゴールすればペナルティーなし。

大会開催前から、エントラント達に恐れられていた日なのだ。

シャワーを浴びた後、すぐにテントを撤収し、ダッフルに荷物をまとめる。

朝食後のブリーフィングを経て、スタート待ちに入る。

天気は、曇り空だが、カッパはいらないだろう。

昨日はSSがなかったので、順位は変わらず70番目のスタート。

写真など撮りながら、のんびりとスタートを待つ。

オフィシャルからの呼び出しがあり、バイクを押してスタート待ちの列に加わる。

緩やかな登り坂でも、重量級のGSを押して行くのは、かなり辛い。

すでに、息が上がっている。

そして、運命(?)のスタート。

走り出すと、すぐに有料道路に入る。

郡上街道(国道472号)を南下し、郡上八幡へ。

風情のある町並みだったはずだけれど、あまり印象にない。

国道158号で、福井県に入り、九頭龍湖を過ぎ、

北陸自動車道の福井ICに到着。

ここから、敦賀ICまでの50kmを一気に移動する。

国道27号を行くと、久しぶりの海が見えた。

若狭湾を右手に望みながら、気持ち良く走ると、有料道路の入り口。

三方五湖レインボーライン。通行料700円は高い!

と思っていたら、コマ図の注釈にも「高い!!」とあった。

有料道を登りきった所、展望所がCP1となっていた。

チェック後、ゆっくりと下りに入る。

あまりにも、ゆっくりと走っていたせいか、後続のエントラントに抜かれる。

付いて行こうと、スピードを上げたのが間違いだった。

下りの右コーナーに差し掛かる。

昨日までなら、難なく止まれるスピードで進入したはずだった。

が、しかし・・・

ブレーキをかけても、バイクは止まらない。

止まらないので、さらに強くブレーキをかける。

次の瞬間、フロントタイヤがロックした。

体が硬直し、バイクを傾けることを忘れている。

あっという間に、コーナーが目の前に迫る。

半ば、自ら倒れる形で転倒・・・。やってしまった。

先ほど、僕を抜いて行ったエントラントが、前方で停車し、

あわてて、僕の所に駆けつけてくれた。

「すみません・・・大丈夫ですか?」

彼も動転しているのか、何も悪くないのに、なぜか謝っている。

「大丈夫、ありがとう!」

バイクを起こすのを手伝ってもらう。

フォークか、ハンドルが、ねじれているが、バイクは無事。僕も大丈夫。

下手をすれば、ここで終っていたと思うとぞっとする。

原因は、当たりの出ていない新品のMT21のせいもあるだろうけど、

僕の自制心の無さからくるものだろう。

ここまで、無転倒で来たのに、自信のあった舗装路で転んでしまったことは、

とてもショックな出来事だった。

気を引き締めて、走り出そう。

§

海沿いの国道27号を進んでいくと、舞鶴自動車道の舞鶴西IC(?)へ。

ここから、四国までの200kmは、ずっと高速。

吉川JCTで中国道へ、神戸JCTで山陽道へ、三木JCTで徳島方面に南下。

いよいよ、本州に別れを告げ、

淡路島に渡る。

 

・・・・・5年前

尾道に行こうと思い立って、東名をひた走り、関西方面へ向かった。

西の街は、震災から復興しつつあり、活気を帯びていた。

ここで、中学時代の友人宅が、近くにあることを思い出す。

彼の家は、西宮市の門戸厄神にあり、震災の影響を、

もろに受けたようだったので、安否が気掛かりだったのだ。

訪ねてみると、懐かしいおばちゃんの顔。

僕の事を覚えていてくれて、心安らぐひと時を過ごすことが出来た。

ただ、友人は、仕事の修行のため、淡路島の洲本にいるという。

連絡先を教えてもらい、その日のうちに淡路に渡り、

友人とは、10数年ぶりの再会を果たしたのだった・・・・・

 

そんな事を思い出していた。

きっと淡路に来るたびに、その再会を思い出す事だろう。

(連絡が途絶えてしまったが、今頃どうしているのだろう?)

 

明石海峡大橋の上には、強風が吹き荒れていた。

身の危険を感じるほどだ。

その後、淡路島に入っても、強風との戦いは続く。

GSは車重があるので、まだましだけれど、

250ccクラスの軽量車にとっては、相当にきつかったはず。

鳴門海峡を渡り、ついに四国に入った!

でも、今日走るべき距離は、まだ200kmも残っている・・・

§

国道11号で、徳島市街を抜けて行くと、雨が落ちてきた。

途中のENEOSに、カッパを着込むエントラントの群れを発見。

その中には、#29八尋さん、#45鵜澤さんの姿もあった。

給油ついでに、カッパを着込んで、出発。

地元スタッフの誘導で、県道16号に入り、剣山スーパー林道を目指す。

川沿いの道を走り、タイトなコーナーの続く山間部に入る。

さっきから、バックミラーにヘッドライトが映っており、

一定の距離をおいて、ぴったりと付いてくる。

剣山スーパー林道の入り口に到着。

ダートに入ると、後方のヘッドライトは見えなくなった。

フラットダートを飛ばしていた時、調子に乗りすぎて転倒・・・

今日はよく転ぶなあ。

程なく、助けが来た。

さっきまでバックミラーに映っていた、1150GSの#94松浦さんだった。

助かりました、松浦さん。

話を聞くと、林道をまともに走るのは、今回が初めてだという。

とても、そうは思えないほどの腕前。

やはり、ダートランはセンスなのだろうか?

そこからは、つかず離れずのランデブー走行が続く。

§

雨は、相変わらず降り続いている。

日が暮れてきた。

霧も出てきた。

ペースが、急に落ちる。

事前に、#29八尋さんから聞いていた話を思い出す。

「この天気だと、剣山は霧が出て、全然ペースが上がらないかも・・・」

まさに、その通りだった。

ヘッドライトの明かりが、霧に反射して、前が全く見えないのだ。

まるで目に前に白い壁が出来たようで、視界は限りなくゼロに近い。

バイクから身を乗り出して、前方の道の情報を探す。

雨に濡れた轍のカーブが、微かに光って見える。

その弱い光の帯をたどるように、ゆっくりと進んでいく。

道が真っ直ぐになると、唯一の手掛かりである轍の反射が見えなくなるので、

自分が真っ直ぐに走っているのか、

はたまた、崖下に向かって走っているのか分からなくなる。

カーブが続いたほうが、安心なのだ。

§

ようやく、CP2に到着した。

あまりにも、神経をすり減らしてしまったので、

ここからは、#94松浦さんに先導をお願いする。

下りのダートが始まる。

程なく、後方から、#5宮田さんが、僕を抜いていく。

抜き様に、アドバイスをもらった。

「スタンディングすると、前が見やすいよー!」

そうだったのか・・・

早速試してみると、確かに見やすい!

目の前に出来た白い壁も、上から見下ろせば、前が見えるのだ。

その後は、#94松浦さん、#5宮田さんが前を行き、

僕は、テールランプの明かりを頼りに、後を付いていく。

そして、ようやく長い長い林道が終わった。

§

舗装路のリエゾンを行く。

前を行く#94松浦さんの様子がおかしい。

時々、路肩に吸い寄せられるように、近づいて行き、

ふと我に返って、道の真中に戻るということを何度も繰り返している。

睡魔に襲われているようだ。

そういう僕も、眠いのは同じ。

何度も、路肩に吸い込まれそうになってしまった。

たまらず道の駅で、小休止。

自販機で飲み物を買い、一服する。

松浦さんは、その場で横になり、寝入りそうな勢い。

しばらく、休んでいくと言う松浦さんとは、ここで別れ、先に行かせてもらう。

§

30kmほど行くと、SSの入り口に到着した。

700km以上も走り、疲労困憊した後に、やっとSSなのだ。

ただし、先に入ったエントラントが、コースに溜まっているらしく、

なかなかコースインさせてくれない。

SS内は、すごいことになっているようだ。

雨が強くなってくる中、小一時間も待たされる。

しびれも切れてきたところで、ようやくSSへの進入が許可された。

このグループの中では、3番目のスタートだ。

空気圧を落とすのも面倒で、そのままSSに入ることにした。

§

ここは、私有地を造成した2kmのステージ。

僕のSSがスタートした。

まずは、スイッチバックに近い、九十九折の急な登りが続く。

泥の中に、ゴルフボール大の石がゴロゴロしていて、トラクションは不良。

登り切ると、道幅の狭い林道が続く。

またしても、霧が出てきた。

前が見えないので、HI/LO同時点灯のスイッチを切る。

視界5mほどの中、SSは続く。

途中で、オフィシャルの制止。

「この先、急な登りになっています。ビックバイクの方は、

皆さん苦労されていて、多分登れないと思います・・・

エスケープルートを行くとペナルティーを受けますがどうされますか?」

迷ったが、エスケープすることにした。

ここまでの登りでも、結構苦労しているからだ。

§

その後、アップダウンが続いた。

下りの途中、コーションマークらしき看板が目に入る。

「この先に山がある」というような意味に思えた。

次の瞬間、急な突き上げを食らう!

バイクが飛ばされ、体がバイクから離れる・・・

ハンドルに必死につかまり、何とか着地した。

心臓がバクバクしている。深呼吸して自分を落ち着かせる。

さっきのコーションは、「盛り土がある」という意味だったのだ。

聞いてないよ。事前に説明が欲しかった・・・

その後、何箇所か、同じコーションを見かけたが、

十分に減速して通過したことは言うまでもない。

§

難関に差し掛かる。

2mほどの高さの泥のヒル(?)クライム。

ルートは2つ。

轍の深い山側のルートと、フラットな谷側のルート。

山、谷とは言っても2mほどの高さなので大した事はない(ように思えた)。

まずは、深い轍のルートに挑むが、シリンダーが引っ掛かり断念。

仕方なく、もう一方の谷側ルートに挑むが、勢いが足らず失敗。

GSは、谷側に倒れ、シリンダーが泥の地面に突き刺さって止まった。

押しても引いても、びくともしない。

完全に、はまってしまった・・・

その間に、倒れた僕のGSの横を登ろうとするのは、

同じ年式の100GSに乗る#35上田さん。

でも、途中でとまって、ずり落ちそうになる。

倒れた僕のGSと接触しそうになったので、下から必死に押し何とかクリア。

ドキドキした・・・

その後、オフィシャルの手を借り、GSを下まで引きずり下ろす。

これだけで、体力は、限界に来てしまっている。

しばらくの休憩後、轍のルートに再挑戦してみる。

さっきダメだったのは、シリンダーが引っ掛かったのではなく、

勢いが足りなかっただけで、なんとか登り切った!

たった2mのヒルクライムで、この充実感はなんだろう?

§

最後の難関。

20m級の泥のヒルクライム。

他のエントラントが、挑戦しているのを見ると、

途中でグリップを失って失敗しているケースが多いようだった。

そこに、#71赤木さんが到着。

「ふんふん、あれね♪」(なんだか楽しそうに見えた)

と一瞥し、躊躇することなく、ヒルクライムに向かい、1発クリア!

素直に、かっこいいと思ってしまった。

その後、チャレンジする勇気もなく、他のエントラントのトライを

見ていると、コース脇から一人のエントラントが歩いてやって来た。

「すみません、バイクが崖から落ちてしまって・・・」

という訳で、その場に居合わせた数名で救出に向かうことに。

長い下り坂を下って行くと、そこには、

崖の斜面に引っ掛かって、今にも谷に落ちて行きそうなXR。

ロープを掛けて引っ張るものの、上がってくる気配はない。

何度か試したが、やっぱりダメ。

その後、たまたま通りがかったオフィシャルらしき男性に、

救援を呼んでもらうように頼むと、現場を後にする面々。

がけ落ちの彼を、一人にするのも忍びないので、

しばらくは、一緒に救援を待つが、

待ちきれずに、僕もその場を離れた。

後ほど、彼が救出され、自力で走って帰って来たという知らせを聞く。

§

さっき下って来た道を、息を切らせながら登って行く。

ヒルクライムの場所に戻ると、僕のGSが、ポツンとたたずんでいた。

他のエントラント達は、さっさと行ってしまったようだ。

もはや、このヒルクライムに挑む気力が残っていなかった僕は、

エスケープルートを行き、ゴールチェックを受けた。

長く辛い1日が終った。

#55福薗さんに会う。

福薗さんは、ダメ元でヒルクライムに挑戦し、

1100GSで1発クリアしたとのこと。やはり猛者だ。

成功の秘訣は、躊躇せずに、スピードを乗せて、高めのギア(3速)で行くことらしい。

こういう話を聞くと、自分が挑戦しなかったことが、急に悔しくなってくる。

でも、もう終った事だし仕方がない。

これから、雨中のテント設営が待っているはずだったけれど、

地主さんの好意で、ニワトリ小屋が寝床として提供された。

これで、雨に濡れずに眠ることが出来る。

疲れ果てているので、テントを張るのが面倒だ。

マットだけを敷き、シュラフを広げ、

横になると、そのまま深い眠りに落ちてゆく。

この時、時計は3時を回っていた・・・

 

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