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アンサンブル・アメデオ 第22回定期演奏会
パンフレットより

Ensemble Amedeo The 22nd Regular Concert

2006年1月21日(土)17時30分開演
於:文京シビックホール 大ホール
 


編曲ノート

「ボレロ」のこと
「ボレロ」の話をしましょう。この衝撃的な作品を耳にしたのは確か中学2年生の頃です。音楽の先生が教科書とはまったくかけ離れたことをやる人で、音楽が大好きになったのもこの先生のおかげかもしれません。最近では中学から音楽の授業がなくなるかもしれないという不穏な動きもあるようですが、いったいどうなってしまうのでしょう?

その北島先生は当時ずいぶんやせていて、ベルトがぐるりと2回転してしまうくらいでした。とても気さくな先生で、音楽の授業は待ち遠しくてなりませんでした。

当時、公立の学校としては画期的な「視聴覚教室」という特別教室があって、その穴倉のようなところで、サンサーンスの「動物の謝肉祭」やラフマニノフの「ピアノ協奏曲」を聴かされました。その一連の鑑賞シリーズのなかに「ボレロ」がありました。剣道部の先輩の鬼のような形相を防具越しに見た瞬間に「こりゃだめだ」とただちに退部を決意、その足で音楽室をうろうろしていたらブラスバンド部にひきずりこまれてしまった、そのころのことです。第3コルネットというパート譜と、なぜか黒光りする年代ものの冷たいトランペットを渡されたのを覚えています。しかし、「ボレロ」は衝撃的でした。なんだか頭のなかを稲妻が駆け抜けたような気がしたくらいです。

 今回のアメデオの選曲で真っ先に決まったのは「マ・メール・ロワ」の再演でしたが、「全部ラヴェルにしよう!」ということになったら、この「ボレロ」は何も考えずに決めてしまったのでした。「ボレロ」はそれだけでインパクトのあるものにちがいない!モチベーション的にもいい目標になるような気がしていました。「え? マンドリンでボレロをやるの?」っていう意外性、話題性からみても企画としては魅力的に思えたのでした。

 しかし、それは曲を深く知っていなかったからのこと。ラヴェルがフルオーケストラのありとあらゆる可能性の限りを尽くして挑んだ「実験的」な作品で、同じ旋律を楽器の組み合わせを変えながら呪文のように執拗に繰り返すというものです。単調な「ボレロ」のリズムは繰り返しを重ねる度に少しずつテンションを上げていきます。楽器の組み合わせが魔法みたいなもので、単調なはずなのに飽きさせないように設計されているのです。そもそも「楽器の数がぜんぜん足りない!」当たり前ですが、まずこれが最初の壁となってど−んと難攻不落の要塞のように行く手にはだかるのでした。さあ、どうしよう。どこから手をつければよいのやら。しばらくは遠方にくれる白々がつづくばかりでした。

 とりあえずイメージトレーニングから始めようということで、往復の通勤時間を利用して、ありとあらゆる「ボレロ」を聴いてみました。注意して聴くと演奏によって微妙に聴こえてくる音が違います。リズムが強調されているものもあれば、ソリストによって節回しにもいろいろな個性が出ています。テンポもさまざま。せわしいのもあれば、ゆったりしたものもある。

いろいろ聴いたなかで一番気に入ったのはやはりラヴェルの愛弟子だったロザンタール指揮フランス国立放送管弦楽団の演奏。ゆったりとしたテンポでおもむろに始まります。ロザンタールの言によれば「ボレロ」はあくまでも優しい音楽とのこと!そのテンポは頑固一徹最後まで貫かれていて圧倒的です。

最後の転調のところで大見得を切るあたりでテンポをぐっと落とすのが印象的だったのはマルチィノン指揮パリ管弦楽団の演奏。そのスネヤドラムのけたたましいこと!あのあたりは太鼓は2台になっていますから、2台がお互いに見合って気迫のこもった熱い演奏。これも凄まじい迫力を出していました。

映像で感銘を受けたのはバレンポイム指揮のパリ管の演奏。指揮者は指揮棒を前に突き出したまま、まったく動かなくなりました。きっと最適なテンポに定まったので、あとはすペてをオケに託したという感じです。畳み掛けるようなクライマックスのところでも指揮棒はほんの少し動いただけ!あれは素晴らしいものでした。

 そういえば、今年正月にサイモン・ラトル指揮のベルリンフィルハーモニー公演模様をテレビで再放送していましたが、アンコールでやったドポルザークのスラブ舞曲も、ラトルは勢いをつけるだけで、あとはオケにおまかせ!みたいな感じで、かっこいいですね!もうしびれてしまいます!一度でいいからああいうのをやってみたいですね。最近は振らない指揮が流行っているのでしょうか?

 でも、ラトルは実にチャーミングでしたね。演奏者に100%デレゲーションして、それで最大の力が発揮されているっていう感じでした。

 いろいろな「ボレロ」を聴いていくうちに、なかには「ピアノの合奏版」というのもありました。ラヴェル自身のアレンジによるもので、これには勇気づけられました。そうか、ピアノ2台でできるのだったら、きっとマンドリンオーケストラでやってもいいのでは?

聴いたのは最近気に入っている「デュエットゥ」という女性2人のアンサンブル。今回はこのボレロの他にミヨーやカルメンまでやっているという実にはちゃめちゃなもの!最近ピアノの連弾や2台ピアノっていうのはちょっとしたブームのようです。結構新譜が出ています。昨年は慶應のマンドリンクラフの依頼で無謀にもドボルザークの「新世界より」全曲をマンドリンオーケストラのために編曲しましたが、あのときも同じように、ピアノの連弾のバージョンを聴きました。そうしたら、すらすらっと編曲できてしまいました。しかし凄まじい演奏ですよ、ピアノの「ボレロ」っていうのも!オーケストラがゴージャスな油絵だとしたら、ピアノ版は水墨画っていう感じです。でも、その筆遣いには結構勢いがあって、カルシウムたっぷりの骨太な音が鳴っていました。最後にはハンマーを叩くような鈍い音になって迫力満点!(是非、ご一聴をお勧めします)

ようし、それなら「水彩画のボレロ」でいこう!ほんとうはマンドリンでは「水墨画」でというプランもあったのですが、ピアノにやられてしまいましたから、あとはエッチングか水彩画くらいしか残っていません。そもそもこの「ボレロ」っていう曲は、どこかの工場の生産ラインがイメージにあったようです。ディズニーのファンタジア「魔法使いの弟子」のように、箒が魔法に掛けられて、次から次へと水を運ぶあのシーンのように、淡々と物を組み立てる工場の機械的な風景を風刺して、過剰生産でだんだん統制がとれなくなって膨張、オーバーヒート、ついに破綻して木っ端微塵に崩れてしまう。そんな風に聞こえなくもありません。それなら、1台1台の楽器はまるで工場の部品や精巧な歯車みたいになるっていうのはどうでしょう? それで部品をサンプルで取り上げてみて、からくりを紹介していくというストーリーでいこうと決めました!

 初稿は、管楽器は後半だけにして、最初からマンドリンの旋律で出る!っていうのが新鮮でいいだろうということで一旦仕上がりました。ところが、初回の練習を聴いていたら、「こりゃだめだ!」なんだか延々と「お経みたい」になってしまい、これだと単調すぎて演奏者も観客も全員寝てしまうかもしれない!ということで、やり直すことに。

やはり、始まりはラヴェルが書いたように、フルートではじまることにしました。ああ、「普通のボレロだ!」とひとしきり木管楽器のソロが終わったところで、「マンドリン風の仕掛け」を挟み込むことに。ご存知のようにマンドリンにはトレモロ奏法とピッキング奏法があります。それらをいろいろ変化させてマンドリン合奏のさまざまな側面をご紹介してみようと思いたちました。

 最初に登場するのはマンドリン2本を小鳥にみたてて、2羽の小鳥がさえずりあうようなシーンです。マンドリンでなければ表現できない世界に違いありません。ビーバーという古い作曲家が書いたあの技巧的なヴァイオリンの曲のように!

中音域のマンドラがソロを受け持つときは、一人がトレモロで弾く、その周りを囲むように数名の奏者が取り囲んで「指でなぞる」というようなことも検討してみました。(指定では1人がトレモロで、数名が指ではじくように、としましたが、これはドラのメンバーのアイデアで実現したものです。とても不思議な響きになっています。例の有名なトロンボーンのグリッサンドのところはマンドチェロの登場!(エコーの効果を狙ったつもりではありますが・・それが何かということはなかなか説明しづらいところです。要は、水滴が湖面におちたとき、波紋がサーっと広がっていくようなイメージです。音楽的にいうと、カノンっていうんでしょうか? ただ、これも演奏者の叡智によってどのように進化したかは編曲者の知るところではありません。)

最近2ndパートは30名近い規模に膨れ上がっていますから、もちろん2ndにも華を持たせてあげたい!いつも1stが颯爽とメロディを奏でるということが多く、どちらかというと2ndは味付けパート。つまり悲しいのか、楽しいのか、そうした喜怒哀楽をかもし出す重要な役割を担っているパートです。それだけで何かをやるという仕掛けもご用意しました。2ndだけで5パートに分かれて、そのうちの1パートはリコーダーを吹くという離れ技も仕込んであります。原曲ではピッコロが調子はずれな音を重ねるところで、きらきらしたチェレスタも入ってなんともメカニックなシーンになっているところです!

もちろんギターの出番もあります。ギターはただ旋律を弾くと単調になりがちなので、オクターブ下でなぞるようにすることと、やはりアルペジオの和音も重ねて、あたかもシェイクスピアの時代の大道芸人たちがリュートを掻き鳴らすというような世界も醸し出します。(和音を重ねるというアイデアは今年になってから思いついたことなので、果たして採択されることになるかどうかはいまのところ不確実ですが‥) 

もっと時間をかければ、いろいろな工夫が施されてしかるペきでしたが、このあたりは時間切れの感も否めません。しかし、「構想」としては、「ボレロという素材を使って、マンドリン合奏のいろいろなかたちを演出してみたい」、ということです。音が伸びない! という、マイナーな側面も、かえって隙間ができることで間合いの面白さが表現できるということもあります。その間合いにこそ、音楽のエッセンスがあるというような気もしてきます。

編曲というものは、単なるきっかけ、材料の提供に過ぎないというふうに思います。つまり、ラヴェルが書いた「ボレロ」があって、それをやりたいというメンバーの気持ちがある。全ては演奏家のイマジネーションにかかっているっていうことに違いありません!亨君のリードのもと、いったいどんなふうに仕上がっていることでしょう? 演奏者の一人に進捗状況について尋ねてみたら、こんな答えが返ってきました。

亨君はあまり「ボレロ」を練習しないらしい!?「ボレロ」はそれぞれのソリストがどのように表現するかにかかっているから!」う−ん、これは凄いことになりそう!

「ボレロ」にはA,B2つの旋律が登場します。Aはどことなくのんびりとしていて穏やかな調べ、Bはややエキゾチックでなまめかしい性格をたたえているものです。AABBが4回繰り返されますが、ご参考までに、原曲の楽器構成と今回のアレンジを対比しておこうと思います。アンサンブル・アメデオは個性的なメンバーが揃っています!各パートのアイデンティティに期待したいと思います。成功しますように!
小穴 雄一


別表
番号旋律原曲アメデオ版
 Aフルート ソロフルート ソロ
1Aクラリネット ソロクラリネット ソロ
2Bファゴット ソロファゴット ソロ
3Bソプラリーノクラリネット ソロクラリネット ソロ
4Aオーボエダモーレ ソロ2つのマンドリンによるナイチンゲールとひばりのダイヤログ
5Aフルートとトランペットフルート、マリンバとリユート風のギター、そうシエクスピアの頃の大道芸人風に
6Bテナーサックス ソロマンドラ、ここではじめてトレモロが遠くの方から聴こえてくる
7Bソプラノサックス ソロマンドリンのトレモロ、トレモロはたった一人で、その他の人はギリシャのブズキかロシアのドゥムラの張りの強い音ではじくように!
8Aピッコロ、ホルン、チェレスタ2ndマンドリンの領分! 5つに分かれて不思議な音をリコーダーも重ねましょう!
9Aオーボエ、イングリッシュホルン、クラリネットオーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット
10Bトロンボーン ソロマンドリュートとマンドセロによる輪唱風の演出で、遠くの山にこだまするようなエコー風に
11B木管とサキソフォン木管楽器全員で!
12A木管。1stヴァイオリンAを木管と1stマンドリン全員のトレモロで。ここではあくまでも単旋律
13A木管、テナーサックス、1stヴァイオン、2ndヴァイオリン2ndマンドリンが加勢して旋律は和声的に
14B木管、トランペット、1stヴァイオン、2ndヴァイオリンピッコロ、フルート、オーボエ、マンドリン
15B木管とヴァイオリン全員で今度はBを単旋律でクラリネットも加わって今度は和声的に
16Aフルート、ピッコロ、トランペット、サキソフォン、1stヴァイオリン ここで小太鼓は2台に!マリンバが加勢。いっそう晴れがましい気分で
17〜18Bフルート、ピッコロ、トランペット、トロンボーン、サキソフォン、1stヴァイオリン全員で!マリンバは独自な動きで荒れ狂う!あとは転調して最後は奈落の底へと一気になだれ込む!
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